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特集 2021年6月22日

人事が語る~グローバルキャリア構築のための処方箋~ ブログシリーズ 第11回 キャリア構築とメンターの重要性 (戸崎智支 HRビジネスパートナー)

このコラムを読んでいただいている方の中には、これまでにメンターという言葉を聞いたことはもちろん、信頼できるメンターがいらっしゃる方、またご自身の職場にメンター制度が存在するといった方もいらっしゃることでしょう。メンターには組織によっていろいろな定義や役割が存在しますが、日本語では「助言をする者」や「相談者」の意味になります。一方、そうした助言等を受ける側をメンティーといいます。概して、組織内の指揮命令系統とは離れたところで、メンターが中立的な立場から、メンティーに対して仕事の相談に乗ったり、キャリアアドバイスなどをしたりするような仕組みや取り組みをメンター制度と呼んでいることが多いようです。

6月は世界銀行グループ恒例のメンター月間で、年間最優秀メンター*が選出される人事部門の一大イベントが開催されます。(*世界銀行グループの年度は7月から翌年6月)世界銀行グループには職場のニーズや職員それぞれのキャリアの段階に応じて、多様なメンター制度が存在しています。このコーナーで紹介されたオンボーディング・バディ制度などはその一例で、新入職員の定着支援を目的に職場の先輩が新入職員に対して日常の仕事はもちろん、職場の決まりなどを丁寧に伝えます。また、新入職員でなくとも、メンターを持つことを推奨する組織文化が定着しており、職員はネットワーキングを通じて自らメンターを探したり、上司や同僚に適切なメンターを紹介してもらったりといった活動をしています。また職員自らメンターを見つけることが難しい場合に対応するため、人事部主導であらかじめ登録されたメンターとメンティーのマッチングイベントも開催されています。

今回は、まず前半で世界銀行グループのメンター制度を紹介し、実際に一職員として私がどのようにしてメンター制度を活用してきたかを共有します。そして、後半では、組織外のメンターも含め、キャリア構築におけるメンターの重要性を考察していきたいと思います。

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“During the Worst of Times, the Best of Mentors” 世界銀行イントラネット・メンターポータルより

 

世界銀行グループのメンター制度

世界銀行グループでは、メンター制度を上司部下の関係を補完するキャリア開発ツールとして位置付けています。公式な組織図のレポートラインからは離れたところで、メンターがメンティーの能力開発をサポートします。能力開発の事項は多岐にわたりますが、メンター制度のイントラネット内の専用ポータルでは、まず、両者が目的を明確にし、ゴールを設定することを推奨しています。具体的には、以下のような目的が定義されています。

  • Operational knowledge(日々の業務に関する知識)
  • Leadership or management skills (リーダーシップ・マネジメントスキル)
  • Technical skills(テクニカルスキル)
  • General career development(さまざまなキャリア開発)
  • Interpersonal or business skills(対人関係構築スキル、ビジネスマナー・スキル)
  • Navigating the WBG, VPU, or unit(世界銀行グループ、所属する部局の理解)

そして、メンター制度から恩恵を受けるのは、メンティーばかりではなく、メンター自身の成長、そして組織全体の知識レベルの向上や活性化にもつながるとされています。
 

職場のメンター〜世銀入行から今に至るまで

私が入行したときに、上述のオンボーディング・バディ制度の一環で所属部署が私に任命してくれたのは、私のポストの前任者でもある日本人職員でした。世界銀行以外の数々の国際機関でも勤務されていた人事分野の大先輩で、グローバル組織での日本人の活躍に関する著書もある知見の深い方です。現在私が世界銀行で生き残ることができているのも彼女のおかげです。日々の仕事の進め方はもちろん、会議等での振る舞い方や、上司や幹部との接し方なども伝授してもらいました。時には、「あの会議であなたはこう言ったけど、次回は違ったアプローチした方がより説得力が増すのでは?」といった正直なフィードバックもいただき、現在に至るまで非常に良好な関係を構築させていただいています。

また私は世界銀行入行以降3人の上司に仕えてきましたが、過去に働いた2人の元上司にも現在メンターとしてお世話になっています。上司部下の関係の時にももちろん日々の仕事やプロジェクトの進捗報告などを通して知識や経験の共有を得ていましたが、私がチームを移り、上司部下の関係ではなくなった後は、メンター・メンティーの関係へと変遷し、現在の上司に対してなかなか相談しにくいような時に意見をもらっています。特に元上司という立場から私の強みや弱みを把握した上でのアドバイスにはいつも非常に納得します。一人はロシア語圏出身の女性で、もう一人は西アフリカ出身の男性であり、こういったさまざまな背景のメンターを持つことは国際機関のダイバーシティの醍醐味です。時には日本人である私が考えもつかないような視点から事象を捉えていることや、私が何年かかっても持ち得ないような人的ネットワークを持っていることがあり、世界銀行のような多文化環境で人事担当者として組織に貢献していくために、二人から得る多様な視点は大変貴重です。
 

成功のコツ〜目的を明確に、そして相性がカギ

メンターがいない、またはメンターとの関係が深まらない、と私に相談してくる同僚もいて、信頼できるメンターがいる私は恵まれていると思いますが、メンターとの良好な関係には、いくつかコツがあるようです。まずは、目的を明確にすること。前述のように、メンターから得られるものは多岐にわたりますが、私はメンター毎に目的を明確にしています。上述のように、日本人の前任者からは、業務以外に組織内の不文律や明文化されていない慣例などの理解を最大の目的としていましたし、元上司の二人からは、組織内のさまざまな階層と仕事を進める上でのアプローチ方法や、人事ビジネスパートナーとして、クライアントをうまく巻き込むためのコミュニケーションスキルを得ようと心がけています。

メンターは安心して相談できる相手である必要があり、お互い人間ですから、初めから相性がいい人をメンターとして選ぶべきだと思います。新入時のように部署が任命してくれる場合でも、自分の性格なども伝え、できる限り相性がいい人にメンターになってもらえるように働きかけましょう。そして、メンターに頼り切るばかりではなく、常に建設的なアプローチをすることも大切です。時には弱みをさらけ出してもいいと思いますが、友達関係ではないので、一方的に感情を剥き出しにするとか、相手の時間の無駄になるような堂々巡りの議論は避けましょう。

現在メンターがいないという方でも、仕事上の目標達成やキャリア実現のためにメンターが必要になったら、組織内を見渡し、信頼できメンターになってもらいたいというような人がいれば、自らアプローチしましょう。私の場合、元上司二人がメンターになってくれていると書きましたが、そういった決まりがあるわけではなく、私の方から依頼し先方も快諾してくれました。
 

社外のメンター〜プロフェッショナルとして飛躍のために

長年同じ組織にいると特有の思考回路や意思決定の癖が身に付いてしまい、ややもすると視野が狭くなりがちです。人事部内での常識が、クライアントであるマネージャーや職員の求める感覚と乖離する恐れもあるので、私は意識して世界銀行グループという枠を超えて、グローバル人事のトレンドや動向を追っています。インターネットや書物などから情報を獲得することが基本ですが、私には人事・組織マネジメント分野にて第一線で活躍しているメンターがおり多大な恩恵を受けています。プロフェッショナルとして知識の源泉となるばかりではなく、それを自らの組織にどう落とし込むかという過程で考察の機会を与えてくれます。私にはこのような人物が二人おり、長年に渡り交流させていただいています。

一人は、私が大学院で人事管理の修士号を取得後に就職した多国籍企業の先輩社員です。15年前に私がその会社に就職した時の面接官で、当時は彼がまだマネージャーになったばかりの頃でした。一度も同じチームで働くことはなかったのですが、研修で一緒になったり、出張でお互いの勤務地を訪問したりするような機会には意識して面会依頼するようにして、いつの間にかメンター的なアドバイスをもらうような関係になりました。その会社を離れた後は、直接会う機会こそ減りましたが、現在もメールなどで定期的に連絡をとるようにしており、民間セクターの人事マネジメントの最先端の動向やベストプラクティスの吸収を心がけています。彼がその会社で昇進を重ね幹部になってからは、出版物やメディア経由でグローバル組織の管理のあり方や多文化環境でのリーダーシップを語る機会も目にするようになりました。そうした方と直接連絡を取ることができる関係にあることは国際人事専門家としてキャリアの財産となっています。

もう一人の社外メンターは日本で人事・マネジメントコンサルタントをしている方です。その方を知ったのは20年近く前、当時は外資系コンサルティングファームの日本法人トップをされており、私がその方のビジネス誌への寄稿を拝見したのが最初です。その後、そのコンサルティング会社の面接を受けた時に初めて面会しました。当時私はアメリカの大学院で組織管理を学んでおり、日本での面接には怖いものなしのような気分で臨みましたが、2時間近くに渡る押し問答のような面接で、その方の知識量と豊富な経験そして誠実な人柄に圧倒され、自分がいかに無知を悟りました。そして大学院を修了することがゴールでなく新たな学びのスタートであると認識するきっかけを作ってくれました。その後その方の著書はほぼ全て読み、人事制度改革や組織行動マネジメントなどのセミナーで講義をされる時にはできるだけ足を運びました。その方の高みに少しでも近づきたいという熱意と努力が伝わったのか、少しずつ交流が生まれ、日本への一時帰省時などに定期的に面会させていただいております。様々な業界の顧客とのお仕事の近況を伺うだけでも、目から鱗が落ちるような場面に遭遇することが多く、まさに組織内部のメンターからは得られない刺激と言えるでしょう。彼の顧客ありきという視点から、どんな文化に属していようと、自身のクライアントに最高のサービスを提供するという普遍的な心構えを得ています。人事の仕事は主に社内に顧客がいることが多いのですが、そのクライアントに対してビジネスパートナーとしてサービスを提供するにあたり常に立ち返るべき原点となっています。
 

まとめ

現在、ほとんどの組織で、指揮命令系統(レポーティング・ライン)とは別に、メンターが中立的な立場からメンティーに対して、仕事の相談に乗ったりキャリアアドバイスなどを促したりするようなメンター制度を整備しています。世界銀行グループでもさまざまな取り組みがされており、多くの職員がその利点を享受しています。私も、入行以来何人かの相性のいいメンターを得ることができ、仕事の相談はもちろん、キャリアアドバイスなどに乗ってもらっています。今後は自分もメンターとしてメンティーを持ってメンター制度を歓迎する組織文化へ貢献していきたいと考えています。また、社外のメンターを持つことは、自身の専門分野においてプロフェッショナルとして常に原点に立ち返り、そして継続的な成長、飛躍のためにとても有益です。どんな業界・組織にいようとも、できるだけ自分の属する組織の外の方とのプロフェッショナルな交流を持ちましょう。

 

筆者略歴

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戸崎智支 人事総局 HRビジネスパートナー
Satoshi Tozaki, HR Business Partner

早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄道会社、外資系会社勤務。その後アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)を経て、コーネル大学にて産業労働関係学修士号を取得。多国籍企業の人事マネージャーとして北アメリカ、東南アジア、日本法人等で勤務後、2014年に国連に移り、国連人口基金(UNFPA)ニューヨーク本部人事戦略および分析担当官を歴任。2016年に採用担当官として世銀に移籍。金融、保健、環境、およびインフラ関連の専門家、エコノミストの採用を担当。2018年よりHRビジネスパートナーとしてクライアントサービスチームに異動。日本人リクルートミッション事務局運営担当も歴任。世界銀行グループにおける様々なグローバル人事・ダイバーシティイニチアチブに携わる。

関連情報

6月15日に来年入行の世界銀行グループ・ヤング・プロフェッショナル・プログラムの公募が始まりました。

ヤング・プロフェッショナル・プログラムでもメンター制度が充実しています。
https://www.worldbank.org/ja/about/careers/programs-and-internships/young-professionals-program#CoachingMentoring



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