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スピーチ&筆記録

「包括的で持続可能なグローバリゼーション」

2007年10月10日


ロバート・B・ゼーリック 世界銀行グループ総裁 ナショナル・プレス・クラブ、ワシントンDC

スピーチ原稿

世界銀行総裁に着任してから100日が経過しました。本日は、世銀の戦略的方向性について私が最初に受けた印象と考えを述べさせていただきます。

まず各方面からたまわったご支援と励ましのお言葉に対し心から感謝の意を表します。その中で私が実感したのは、世銀という独自の機関が不可欠の存在であり、大きな潜在能力を秘めていることを、途上国か先進国かを問わず、世界中の人々が認識しているという点です。世界銀行グループは、第二次大戦直後に設立された重要な国際機関の一つです。設立から60年を経た今、世銀はグローバリゼーションという新時代における大きく異なった環境に適応する必要性に迫られています。

世銀グループの職員には、私が学ぶ過程で手をさしのべてもらったほか、現地での活発な業務を紹介してもらい、今後の進路の設定に際しては斬新なアイデアを投げかけてもらいました。また、理事会は、世銀の崇高な意図と分析を生産的な行動に結びつける過程で、豊かな経験に根ざした指針を提供してくださいました。

世界銀行グループの素顔

しかし、世界銀行グループの素顔は、首都ワシントンDCで通常見受けられるイメージや、主な出資国の官庁に飾られているイメージとはほど遠いものです。

今年8月にベトナム北部の山岳地帯にあるイエンバイ省を訪れたときのことです。私が会った一人の女性は、世銀のベトナム電化プロジェクトのおかげで、今では家に電気が引かれ、米粉を挽き、給水ポンプや扇風機を使い、一部屋しかない家に電灯をともして夜間、子供たちが勉強できるようになったと話してくれました。電気が通じたおかげで、いまやベトナムの農村世帯では家事の90%以上を楽にさばけるようになったのです。そして何よりも、農村の電化は、他の社会においてと同様、毎日過酷な労働をこなす農家の女性に大きな力を与えています。

世銀はホンジュラスで、バイオ炭素基金を通じてピコ・ボニト国立公園の保護に努めています。この基金は、農夫がレドンドと呼ばれる自生の木を伐採するのではなく、その種を売ったり苗木を再植林したりする暮らしに転換するのを支援するものです。ある農夫はこう話してくれました。「こうすれば木を切らなくても収入が得られます。しかも、これまでよりたくさんの収入が。野生の苗にも手をかけているんです」

ナイジェリアのオボコという村では、世銀グループで民間セクターとの窓口である国際金融公社(IFC)が、未婚の母親が小口融資を受けて村の電話交換手となるのを支援しました。以前この村では誰でも電話をかけるのにまる一日離れた場所まで行かなければなりませんでしたが、今では村人たちもこの女性のおかげで、より幅広く外の世界と連絡をとれるようになりました。そしてこの女性は、その収入で子供の教育費や、自らのHIV/エイズの治療費を賄えるようになったのです。

機会さえあれば、世界中の誰もが自分と子供たちの生活向上を願うものです。こうした願望は、チャンスに恵まれれば、健全で豊かなグローバル社会の実現に貢献する可能性があります。

包括的で持続可能なグローバリゼーション: ニーズを満たすために

われわれはグローバリゼーションの時代に生きています。しかしそこには不透明さがつきまとっています。冷戦の終結以後、世界の市場経済国の人口はおよそ10億人から40~50億人へと増大し、生産性の高い労働力を豊富に生み出し、途上世界全体に新しい生産拠点やサービス・センターを作り出したほか、エネルギー需要や商品需要を高め、消費拡大の可能性を大きく広げました。新たな貯蓄が世界の資本フローに加わり、新興市場と変容を続ける先進国の両方がもたらす投資機会に集まって来ています。技能や技術、情報の移動や、実務知識の活用も急速に進んでいます。

世界の貿易フローは1990年以降、2倍以上に膨れ上がり、経済の開放が進んだ結果、財とサービスのコストが低下しています。さらに、輸出主導型成長に依存する国々が増えています。先進経済国からの輸入はなおも重要ですが、その一方で、域内サプライチェーンや国際サプライチェーン、さらには「南・南」貿易の増大という新しい貿易パターンが生まれています。これにより3億人近い人々が極度の貧困から脱け出しました。

その一方で、取り残された人々やさらに貧しい生活に陥る人々も依然として数多く存在します。国や地域全体が貧しい場合や、ある国の中でも一部が、あるいは個人として貧しい場合もあります。その原因は、紛争、粗悪なガバナンス、不正、差別、人間としての基本的ニーズを満たすサービスの欠如、疾病、インフラの不備、経済管理や奨励策の不備、財産権や法秩序の欠如に加え、地理的条件や気候が関係する場合もあります。

そして、この目覚しい成長ぶりに伴い、河川や大気の汚染という環境問題、さらには健康と気候への脅威も発生しています。

グローバリゼーションは計り知れない機会をもたらしますが、その反面、そこから取り残される人々、極度の貧困、環境破壊は危険な問題も生み出します。その一番の被害者は、先住民や途上国の女性、貧しい農民、アフリカの人々、そしてその子供たちなど、そもそもほとんど何も持っていない貧しい人たちです。

世界銀行グループは、包括的で持続可能なグローバリゼーションへの貢献というビジョンを掲げて、貧困からの脱却、環境に留意した成長促進に取り組み、個人に機会と希望を与えようとしています。

2000年に国連加盟国は、貧困層の半減、飢餓と疾病との闘い、貧しい人々への基礎サービスの提供を2015年までに実現するなど、意欲的な8項目にわたるミレニアム開発目標を設定しました。これらの目標は、われわれの目標として世銀本部の玄関に掲げられ、出勤のたびに何を達成すべきかを毎日思い出させてくれます。

こうした健全な社会開発のための目標を達成するには、公共政策という支援的枠組みの中で、民間セクター主導の成長を持続的に促すための要件と合わせて取り組む必要があります。

例を挙げてみましょう。

マラリアにかかる人の数は世界で年間およそ5億人に達しています。ところが、アフリカの子供たちの死亡原因のトップであるこの疾病も克服まであと一歩のところまで来ています。今後数年にわたって年間およそ30億ドルの資金を注入すれば、マラリアにかかりやすい環境にあるすべての家庭に処理済みの蚊帳や医薬品、適量の室内用殺虫剤を支給することができるのです。

国際エネルギー機関(IEA)の推定では、途上国の現在の電力需要を支えるだけで、今後10年間に電力セクターには年間およそ1700億ドルの投資が必要な上、炭素含有率の低いエネルギー源との混合発電への移行には300億ドルの追加資金が必要になるとされています。

また、15億人に安全な水を支給し、最低限必要な基礎サービスすら受けていない20億もの人々に下水道を整備するというミレニアム開発目標を達成するには、さらに300億ドルの資金が必要となります。

成長を続ける途上国で輸送面のインフラを整備しようとするなら、貿易拡大に備えた港湾コンテナ・ターミナルの建設資金100億ドルも含めて、年間1300億ドルの追加資金が必要です。

さらに、現在学校に通っていないおよそ8千万人の子供たちに初等教育を受けさせるという、もう一つのミレニアム開発目標を実現するのに、低所得国は年間およそ70億ドルが必要です。

世界銀行グループの援助方法

こうしたニーズを満たせるかどうかは、当然ながら、お金の問題だけにとどまりません。また、その投資資金の調達という役割は世界銀行グループだけが担うものでもありません。

世銀グループが目指すのは、途上国のために資金を動員し、さまざまな経験とアイデアを盛り込んだ政策を提案し、さらに民間市場での機会を開拓したり、適切なガバナンスの構築と不正対策に支援を行ったりすることで、途上国が自助活動を展開する助力となることです。

さらに世銀グループでは、貿易、金融、保健、貧困、教育、気候変動などの課題に取り組む国際的プロジェクトや国際条約のあり方についての考えを提示し、新たなチャンスを求める貧しい人々を中心に、世界中の人々がその恩恵にあずかれるようにすることも目指しています。

また、政策や市場に関する思考の幅を広げて、平凡な財務利益しか生み出さない活動を単に繰り返すのではなく、新たな可能性を開拓していく必要があります。

私は、世銀グループが一体となって方向性を見定めるべきだと強く主張してきました。多くの大手金融機関と同様に、世銀もさまざまな専門部門によって運営される単一の機関です。ですから、グループ内の連携を強め、グループとして有効に機能できるよう努めなければなりません。

世界銀行グループは大きく4つの機関に分かれています。国際復興開発銀行(IBRD)は、公共の融資機関として、市場金利に基づく貸付、リスク管理、その他の金融サービスを、開発分野での豊かな経験と併せて、提供しています。国際開発公社(IDA)は、世界の最貧困国81カ国に無利子の融資や贈与を行い、多額の債務削減を行うなど、援助を注ぐパイプ役ともいうべき存在です。国際金融公社(IFC)は、民間セクターを対象に、出資、融資、保証を行うほか、各種のアドバイザリー・サービスを途上国に提供しています。多数国間投資保証機関(MIGA)は、ポリティカル・リスク保険を提供しています。これらの機関が一丸となることで、各機関のツールを活用して、全体として個々の力の合計よりも大きな力を発揮することができます。

開発のさまざまな分野で学んだ専門知識と経験がこれらの機関で共有されています。この知識を、融資と並行して、あるいは融資とは別途に提供・拡充・試行することこそ、われわれの業務の最も重要な側面だといえます。

第一のステップ

過去2カ月にわたり、世界銀行グループの執行部は、理事会と密接に連携して、将来に向けて前進するための行動に着手しました。また同時に、グループ機関の間の相乗効果を高める作業も進めています。

本年度は、アフリカを中心とする最貧困国を援助する世銀グループの主要機関、IDAの増資を行う年です。今回は第15次増資で、新規の増資はいずれもその後3年間の活動に充てられます。

私どもは、借入国をはじめ、およそ40のドナー国と、優先項目の設定方法、政策強化、IDA適格国の有効性向上について協議してきました。ドナー諸国の寛大な出資が今回の増資を成功させるために不可欠であり、意欲的な結果に向けた各国のご支援に力づけられています。

世銀グループは、IDAの増資に当たって、必ずや公約を果たす覚悟であることを、すべてのドナーの皆様にここではっきりとお伝えしたいと思います。

ですから、理事会が、今回の増資で先頭を切って、世銀グループの自己資金からの35億ドルの拠出を承認したとここで発表できますことは喜ばしい限りです。2005年の第14次増資の際の世銀の拠出誓約額は15億ドルでしたから、その2倍以上に当たるわけです。このようにわれわれも努力を重ねております。つきましては、アフリカと東アジア、南アジアなどの最貧困国への援助の大幅増額を是非ともご承諾いただくようドナー国の皆様にお願いする次第です。南アフリカはすでにIDA拠出額の30%増額を承認することで、よき規範を示してくださいました。次は、G8諸国など先進国がサミットでの公約を本格的な支援実行へと移してくださるようお願いいたします。

IDAへの拠出額は、当然のことながら、IBRDとIFCの各理事会が毎年発表する年間収益に左右されますが、私どもは、この意欲的な目標も達成可能であると確信しております。ですから、他のドナー国の皆様にも是非意欲的に動いていただくようお願いする次第であります。

第2に、IFCの成長戦略をさらに強化していく所存です。十分な資金を有するIFCは、IDA適格国、低中所得国、さらに中所得国で援助を必要としている地域や部門に対する民間セクター投資を強化しています。

第3に、こうした国々で民間セクターを活性化させるため、IDAとIFCの連携を深めてまいります。昨年は、IFCの投資全体の37%がIDA適格国に向けられましたが、この割合を今後も増やしていく予定です。IFCはまた、IDA適格国を対象に、新たにインフラ用資金と小口出資を提供しはじめました。さらに、IDAとIFCが共同投資を行って、エネルギー、運輸、水、農業、マイクロファイナンスなどの分野を中心に、インフラ・プロジェクトでの官民パートナーシップを支援することも可能です。これらのプロジェクトは、アフリカの小国や内陸国にとって特に重要である地域市場の統合も支援することができます。

第4に、IBRDは自己資本がきわめて充実しているにもかかわらず、貸付業務が縮小しています。今日、貧困層のおよそ70%はインド、中国、IBRDの支援対象である中所得国に暮らしています。これらの国々はその多様なニーズにどうすれば最善の方法で応えられるかを模索しており、われわれにもこれを引き続き支援してほしいとしています。それならば、IBRDの業務は縮小するどころか拡張すべきです。後でも述べるように、中所得国に対するわれわれのサービスはもちろん、今後も融資を越えて拡大していかなければなりません。ところが、世銀の価格設定が1998年に行われた調整で「はぎ合わされた」ようなものであるため、支援対象国を混乱させてしまいました。IBRDの融資は、カスタマイズされた最新の政策知識と共に、引き続き重要です。融資と知識を組み合わせた世銀のサービスは、途上国の社会開発をはじめ、環境に優しい形でエネルギー源やインフラの拡大を図る上で特に重要です。

そこで、新興市場国の膨大なニーズにより適切に対応するため、私は、世銀の価格設定構造の簡素化と価格低減を理事会に申し出て、開発と成長を支援するための世銀融資を拡大したいと伝えました。この申し出に対し理事会の同意を得られたことは喜ばしい限りです。これにより、世銀の手数料が明確化され、利率もアジア金融危機発生以前の水準に戻されることになります。この措置は、われわれのサービス拡充の一助となるはずです。ただし、なすべきことはまだたくさんあります。事業環境の整備に必要な金銭以外のコストにも取り組まなければなりません。われわれが目指すのは、より早く、効率的に、しかも低コストで動くことです。

以上のようなステップはまだほんの始まりにすぎません。これらのステップは、大きく広がる未来に向けた具体的な道しるべとして、進むべき道を指してくれているのです。

包括的で持続可能なグローバリゼーション:多国間アプローチ

グローバリゼーションは、社会の底辺で貧困にあえぐ何十億という人々を置き去りにするものであってはなりません。この考えは、人間の価値に対する尊敬の念を超えた確信に基づくものであり、誰もが同じような環境に生まれたかもしれないという認識をも越えるものです。包括的なグローバリゼーションは自己利益の追求でもあります。貧困は、社会不安、疾病、そして共有資産である自然資源と環境の破壊を引き起こします。貧困はまた、社会を破壊して、暴力の温床としたり、命をかけてでも移住しようという動機を与えたりする原因となる可能性があります。

グローバリゼーションは、冷戦の終結後に開発の道を歩み始めた中所得国の何十億という国民に恩恵をもたらしましたが、そこから取り残された人々もまた数多く存在します。多くの場所で、社会の緊張が政治的結束を弱めています。中所得国には世界の森林の60%が存在すると共に、化石燃料による二酸化炭素の世界排出量の40%が発生してもいます。これらの国々は、温室効果ガスの大半を排出する先進国と共に、気候変動への世界的なアプローチ策定において重要なカギとなります。こうした中所得国は、成長を続行させ、包括的な開発を進め、持続可能な形で繁栄してゆくための環境政策を採択しなければなりません。

途上国の影響力が増すと、もう一つの疑問が浮上します。変化を続けるこのグローバル体制の中で途上国はどのような地位を占めるようになるのかという疑問です。これは、大国である途上国が先進国にどのように対応するかだけでなく、これらの途上大国が世界の最貧困国や小国にどのように対応するかという疑問なのです。外交と政治的安全保障機構を通して、各国政府が中所得国とより効果的に一体化する必要性を認識しつつある中で、世銀グループがこうした中所得国での業務から手を引くのは実に皮肉なことです。多国間の経済機構の中で、こうした中所得国とパートナーとして一体化してもいいのではないでしょうか。

2年前に私は、中国が国際体系の中で「責任感のあるステークホールダー」として、これまでの成功を足場としていくべきだと提唱しました。私たちが包括的で持続可能なグローバリゼーションを達成しようというのであれば、これは当然、他の国々についても同じことが言えます。さらに責任が増すのに伴い、発言力と代表権も強める必要があります。われわれは、世銀グループの業務と職員を通じて、途上国の参加強化という課題を推し進める必要があります。

先進国もまた、グローバリゼーションがもたらす好機と重圧の両方に直面しています。若者の世代の多くが驚くほどの柔軟性をもって適応してはいますが、人々は変化のスピードに不安を感じているのです。

先進国の一般国民はその常識から、孤立によって成功した例は一つもないことを認識しています。一般良識、そして自己利益があれば、最善の形で追求する方法に違いはあっても、人は相互に依存しているという事実を認識するものです。

こうした地球規模の問題の大きさと比較すると、世銀グループは小さな存在です。それでも、国連とその専門機関、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)、各地域の開発銀行といった国際機関とともに、世界銀行グループは、包括的で持続可能なグローバリゼーションを進める上で重要な役割を果たす必要があります。国際機関は苦悶してきました。国際機関は、慎重でありながらも有益な結果を出さなければなりませんし、内部の欠陥を克服して、自らの強みを基に前進していく必要があります。われわれは協力して、多国間協調主義がもっと有効に働き得ることを、単に会議や共同コミュニケで発表するのではなく、援助を最も必要としている人々のために、村落や人であふれる都市で、示さなければなりません。

包括的で持続可能なグローバリゼーションは、国際機関によって促進していかなければなりません。世界銀行グループは多額の資金、豊かな経験と知識を備えた献身的な職員、他国や他機関を招集する力、100カ国を超える人々、そして加盟国185カ国を擁しています。世銀グループが最高の状態にあれば、官民を問わず、資金や人材といった資源を動員して、デモンストレーション効果や乗数効果を生み出すことができます。そして世界銀行グループの業務が成功すれば、グローバリゼーションがもたらす好機を誰もが持続可能な形で掴むことのできるダイナミックな市場の触媒として機能します。

6つの戦略的課題

それでは、世界銀行グループはどういった戦略的方向性を追及すべきなのでしょうか。

本日、包括的で持続可能なグローバリゼーションという目標を支える6つの戦略的課題を簡単にご説明させていただきます。1週間後には、世界銀行グループとIMFの年次総会が開かれます。その機会に、これら6つの課題を、世銀の総務のみならず、シビルソサイエティ組織や企業、財団など、幅広い関係者と、さらに掘り下げて議論できるよう願っています。

第1の課題は、世界銀行グループは、アフリカをはじめとする最貧困国を貧困から脱却させ、持続可能な成長を促進するための支援を行う上でさまざまな問題に直面している点です。IDAは、最貧困国81カ国を支援する中心的な財務支援手段です。

こうした最貧困国ではミレニアム開発目標の達成に向けてパートナーと密に協力必要があります。こうした基礎的ニーズを満たすことが将来のための基礎となります。

ところが、私が6月に訪問したアフリカや8月に訪問したアジアでは、社会開発の目標を達成する必要はあるものの、まだ不十分であることがわかりました。世界人口の36%が住むアフリカの17カ国で、1995~2005年にかけて5.5%の年間平均成長率を達成できましたことは実に喜ばしいニュースです。これらの国々は、地域的統合に役立ち得るエネルギーや建造物を中心とするインフラ整備のための援助を受けて、さらなる成長を目指しています。さらに、マイクロファイナンスをはじめとする現地の金融市場の開拓についても支援を望んでいます。金融市場が整備されれば、アフリカの貯蓄をアフリカの成長のために動員することが可能となります。

アフリカの指導者たちは、生産性改善を通じた農業拡大に大きな可能性を見出だしています。世銀グループがこのたび発表する世界開発報告には、農業によるGDPの成長は、他のセクターでの成長よりと比べ、最貧困層に4倍の恩恵をもたらす点を強調しています。われわれには、アフリカ諸国の独特かつ多様なニーズに応える「21世紀の緑の改革」が必要です。その起爆剤となるのが、技術の研究・普及、持続可能な土地管理、農業のサプライチェーン、灌漑、農村での小口融資、そして市場機会を高めながら農村の脆弱性や不安定な状況に取り組む政策などへの投資を加速させることです。また、もっと多くの国々が、農産物に対し市場を開放する必要があります。

それ以外の8つのアフリカ諸国には世界人口のおよそ29%が暮らしており、石油資源のおかげで1995~2005年に平均7.4%の成長率を遂げました。これらの国々や他の地域のIDA適格国の一部では、石油資源からの収益がすべての人々のために持続可能な未来を構築するのに、現地の公共セクターの能力拡大と並行して、よいガバナンスと不正防止の政策を奨励することが、開発の第一の優先課題となっています。

第二に、紛争後の国々や国家の崩壊を回避しようとする諸国の特異な問題にも取り組む必要があります。

60年以上前、ブレトンウッズでIBRDの構想を打ち出した人々は、略称の「R」とはヨーロッパと日本の復興を指すと考えていましたが、今や「R」は、現代の紛争によって荒廃した国家の復興問題に取り組むことを意味するようになっています。

「底辺の10億人(The Bottom Billion)」の著者ポール・コリアーは、この10億人のうち73%が内戦のあった国々に住んでいると述べています。悲しいことにこうした紛争は、直接巻き込まれた国民に計り知れない苦しみを与えるだけでなく、その余波で近隣諸国も弱らせています。

率直に言うと、こうした悲惨な例への対処の方法についてのわれわれの理解はささやかにものに過ぎません。安全保障や政治的枠組みの構築、早期支援による現地能力の再構築、難民の地元帰還、柔軟な開発援助といったより統合的なアプローチが必要になるのではないでしょうか。ボスニア、ルワンダ、モザンビークでの世銀グループの建設的な作業は、何が可能かを実証するものです。IDAの優れた適応力と素早い資金拠出は、紛争後の環境に不可欠であることが裏付けられており、われわれはドナーと共に、業務の有効性拡大に努めています。

今日、われわれは、スーダン南部、リベリア、シエラレオネ、コンゴ民主共和国(DRC)、ブルンディ、コートジボワール、アンゴラ、東ティモール、パプア・ニューギジア、太平洋の小島嶼国、アフガニスタン、ハイチなどの国々で活動を展開しています。その多くは、ドナーによって、または国連との連携によって設立された信託資金が充てられています。国連とアフリカ連合の派遣部隊の支援によりダルフール紛争が和平協定にこぎつけることができれば、世銀グループも援助の手をさしのべたいと考えています。

第3に、世銀グループは、中所得国を対象とするビジネスモデルをもっと差別化させる必要があります。中所得国の開発はなおも大きな開発課題に直面しています。社会サービスやインフラといった重要分野で資金が不足しており、急速な経済成長も、多くの場合、貧困層に機会を与えるに至っておらず、環境問題は深刻です。さらに、中所得国への資金フローも、80年代と90年代同様、引き続き変動する可能性があります。

こうした問題を認識した中所得加盟国は、世銀グループにさまざまな形で競争力のある「開発ソリューション」を提案することで、今後も関わり続けるよう求めています。しかしこうした支援には、過去10年間にわたって途上国が進めてきた財務状況の大幅改善と、制度能力の大きな進歩が反映されていなければなりません。これら国々は、例えば、官僚的な形式主義を減らし、対応時間を短縮した、より柔軟性に富み、低価格の銀行業務を提供するようIBRDに求めています。さらにIFCに対しては、未開拓の市場や、さらに社会問題に対するニーズについえも、民間セクター主導の解決策を策定するのを支援するよう求めています。さらに、アドバイザリー・サービスにおいては、品質、一貫性、コスト効果に関してこれまで以上に高い基準を求めています。すなわち、中所得国は具体的な成果を求めているのであり、世銀はその実現に向けて全力を注ぐ所存です。

一部の中所得国においては、世銀のサービスが今後、リスク管理や、世界的なノウハウを現地のニーズに応用する業務にしだいに移行していくことになるでしょう。われわれは、信用力の強化、ヘッジング、資産管理の能力構築に役立つ中立的な専門知識を提供することができます。現地通貨建ての債券ファンドや指標の設定を支援することで、現地の証券市場を促進することも可能です。さらに、現地通貨建ての融資を行い、融資と通貨リスク管理を組み合わせることもできます。国内で包括的な成長を促進するため、準国家機関と作業することも可能です。現在われわれは、金融危機の際に緊急な流動性供給のための偶発型金融商品の開発も進めているほか、ハリケーンや地震などの自然災害を対象とする保険の種類拡大と費用低減に向けた保険市場ファシリティーの育成にも努めています。こうした活動の中には、サービスと知識を有料で提供するための最善の方法開発につながるものもあるかもしれません。そうなれば、融資を伴うサービスか、伴わないサービスかを各国が選択できるようになります。
 
第四に、世界銀行グループは、国境を越えて複数の国々やその国民に恩恵をもたらす、域内と世界の公共財の育成においても、より積極的な役割を果たす必要があるでしょう。われわれは、これを開発の目標に結びつけるよう呼びかけています。

世界銀行グループは、HIV/エイズ、マラリア、鳥インフルエンザなどの感染性疾患への対応やワクチン開発を支援できることをすでに実証しています。さらに、援助と貿易の結びつきを強める方法についても再検討しているところです。そのひとつで、IFCが主にアフリカを対象とした斬新な貿易金融プロジェクトは、2年に満たない間に20億ドル近い貿易を支援しました。

気候変動については、国際的な取り組みへの援助の大幅拡大すべく、理事会と検討を重ねているところです。間もなく開かれる世銀年次総会と、今年の12月にバリ島で開催される国連気候変動会議では、開発のニーズと二酸化炭素の排出削減をにらんだ成長を組み合わせるのを世銀グループがいかに支援できるかについて、さまざまな施策の概要をご説明したいと思っています。われわれは、特に途上国の利益を重視する必要があります。そうすることで、貧困削減に役立つ成長を鈍化させることなく、気候変動の問題に取り組むことが可能となります。

域内と世界の公共財に関するわれわれの業務は、世界保健機構(WHO)、国連環境計画(UNEP)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)、世界貿易機関(WTO)といった専門知識を有する他の機関と密接に連携していく必要があるでしょう。また、厳選され差別化されたアプローチにより世銀の資源をどこに向けるのが最善かを知るためには、世銀グループがどの点で他の機関より優位に立っているかをみきわめる必要があります。国家レベルの開発を専門とする世銀にとって、業務上最も重要な課題は、途上国が公共財に関する政策や、域内と世界に存在するさまざまな機会を国家プログラムに組み入れる最善の方法を見出す過程を支援することです。こうした機会は民間の起業家とその熱意を惹きつけるはずです。

第5に、現代の最も難しい問題の一つとして、アラブ諸国で開発を推進し、機会を求める人々をいかに支援するかがあります。アラブ諸国がこれまで貿易と教育の中心的存在だったことを踏まえると、紛争と障壁を超えて成長と社会の発展にまい進できるようになれば、大きな可能性を秘めていると考えられます。これらの国々は、広範な成長なくして、社会の緊張や仕事につけない多数の若者の問題を解消することはできません。アラブの人材育成に関する国連の報告書は、強力な自己評価を提供するものです。

私は米国通商代表部時代に、経済と社会の開放を進めていたアラブ・マグレブ連合から湾岸諸国にいたる各国の指導者と密接に協力して業務を進めました。エネルギー源と資金を豊富に供えた国々もありましたが、経済の多様化は進んでおらず、雇用を創出する能力は皆無に近い状態でした。そのほか、学校の改善、技術の導入強化、事業規制の緩和と貿易による雇用拡大に力を入れる国もありました。クロスボーダーの投資や貿易、サービス・センターの増大によって、アジアと生産的なつながりを深めた国々も多くありました。

世銀が最近発表した「ビジネス環境の現状2008」からは、進歩があったことがわかります。事業を容易にするために規制改革を実施した国としてエジプトが第1位にランクされています。サウジアラビアは、これまで事業環境の厳しさで最高水準にランクされる原因だった何層もの完了制度を撤廃すると共に、最低自己資本比率規定も撤廃しました。

いずれも希望のもてる展開ですが、できることはまだたくさんあります。包括的なグローバリゼーションはこうした国々に暮らすすべての人々に恩恵をもたらすものでなければなりません。アラブ諸国の政府は社会サービスを国民全体に効果的に提供しようとしており、われわれは比較面の経験を提供することができます。世銀は、現地企業と外国企業のどちらにとっても、事業をしやすい環境を構築するのを支援できます。一部の国に対しては、開発プロジェクトへの融資、ドナーが設立した信託基金の運用、さらにはIFCを通じた民間セクター向けサービスの拡充も実施可能です。今日、世銀はパレスチナ地区において、基本的な社会サービスの提供、よいガバナンスと民間セクター成長を支援しており、和平の道が開かれた際に、こうした支援が経済基盤の確立に寄与する可能性もあります。

最後に、世界銀行グループは金融機関としての性格や開発事業の担い手という特徴を備えてはいますが、その使命はより広域なものです。すなわち、われわれは、知識と学習のためのほかに例を見ない特殊な存在であり、貴重なデータを収集し配布する組織でもあります。といっても、大学のようなものではなく、むしろ、他の5つの戦略的課題に取り組む際に経験を活用する「頭脳の信託基金」といえるでしょう。

こうした機能を発揮するには、特別の認識とそれを支える手段が必要となります。ですがまた、包括的で持続的な開発と成長を達成するためには自分が何をすべきかを自問し、自分自身に挑戦し続けなければなりません。

このような挑戦には、謙虚さと知的な誠意が求められます。失敗に終わった開発のテーマや夢は数多くあります。だからといって努力を止めてしまう理由にはなりません。それどころか、結果と効果の測定に継続的かつ厳密に努力していく根拠となっているのです。こうした挑戦こそ、われわれの株主やステークホールダーの皆様、支援対象国、そして開発パートナーの信任を勝ち取り、支持を獲得するための最善の方法だといえるでしょう。

これら6つの戦略的テーマは一つの方向を示唆していますが、それは今後も、検討し、洗練し、改善していく必要があります。以上のようなアイデアが実を結ぶためには、われわれの支援対象国の特別のニーズを理解しなければなりません。われわれは、株主の皆様からの助言や指導を歓迎いたします。世界銀行グループには、その歴史を通じ、今こそ、多大なニーズがあり、見逃すことのできない機会が待ち受けているのです。

組織内部の問題: よいガバナンスと不正対策

世界銀行グループが成果を上げるためには、組織内部の問題にも真っ向から立ち向かわなければなりません。われわれは、資金をより有効に活用し、支援対象国へのサービスにさらに集中する必要があります。シビルソサイエティ組織や非政府組織(NGO)から学べるよう、こうした組織との関係を深めるべきです。新たな「援助構造」にのっとり、国家の援助プログラム、疾病などの特殊プロジェクトに的を絞った基金、財団、現地のNGO、そして開発問題に関心を寄せる民間企業とも、さらに効果的に業務を進めていく必要があります。

われわれは、キャリアの育成にも力を入れ、組織内で異動しやすくすることにより、職員を支援していく必要があります。さらに、さらなる分権化を奨励する上でも、現地スタッフを支援する人材政策を強化していく必要があります。そして理事会での発言力を拡大すると共に、職員の多様性を促進する必要があります。

かつて連邦準備制度の議長を務めたポール・ボルカー氏を筆頭とする経験豊かな委員会が作成した報告書でも強調されているとおり、ガバナンスと不正対策の強化においては、なすべきことがまだ残されています。内部検査官の作業を支援し、作成された報告書が最も有効に活用されるよう、同委員会は、われわれが考慮すべき一連の勧告を提示してくれました。そのフォローアップを速やかに進める中で、われわれは、他者の意見を歓迎し、理事会とアイデアを検討し、業務の改善に向けて成果を上げつつあります。

ガバナンスと不正防止という課題がいかに重要かは、ここ世銀グループの職員の認識するところです。世銀職員は、自らの携わる開発任務の遂行に誇りをもち、自らの組織の完全性を掲げることを希望し、さらに不正が貧しい人々や無力の人々に最も大きな打撃を与えることを承知しています。ですから、一丸となってさらなる向上に励もうではありませんか。

世界銀行グループは、よいガバナンスや法的政策を開発アジェンダに組み入れることで、リーダーシップを発揮することもできます。先月、われわれは、国連と共同で、不正資産回収(StAR)イニシアティブを立ち上げました。このイニシアティブは、途上国と先進国が協力して、不正によって搾取された金融資産を回収しようというものです。高い評価を得ている世銀の報告書「ビジネス環境の現状」には、規制や業務許可に関する政策が粗悪であれば、起業家を抑えつけるだけでなく、不正行為を横行させる温床を作り出すことになると明言しています。

終わりに:2つの声

本日、私は、世界銀行グループの進むべき進路を提示しました。世銀グループの素顔を正しく理解するため、次の2人の声をご紹介して、本日のスピーチの締めくくりとさせていただきます。

デランマは、インドのアンドラ・プラデシュ州にある村の自助グループに所属しています。彼女は、世銀の支援を受けて、資源を共有する自助グループを設立した800万人を超える女性の一人です。この最も基礎的な仲介業務やサポート・サービスのおかげで、農村に住むおよそ4000万人のうち90%近くが収入を増大させました。デランマはこう語ってくれました。「これまでは毎日食べるのがやっとでした。それが今では、自分の収入で自活し、子供の教育費も賄えます。貧困から抜け出せるという自信もわいてきました」

3人の子供を抱えるディナルバ・ムーラは、子供を通学させ、定期健康診断を受けさせているブラジルの1100万家庭に少額額の家族手当を支払う「ボルサ・ファミリア」というプログラムの援助を受けてきました。世銀グループは、大きな成功を収めた、ブラジル政府のこのイニシアティブに対して、財務支援と技術協力を行いました。ディナルバはこう語ってくれました。「ボルサ・ファミリアのおかげで、食料を買えるし、子供たちにときどき果物も買ってやることができます。学校に行かなくなったら援助が途絶えることを子供たちはよく知っているので、さぼったりすることはありません」

こうした声は、貧しい人々のために新しい機会を作り出そうというわれわれの日々の試みを物語るものです。そして、これらの声こそ、貧しい人々を他の人々や、アイデア、機会へとつなぐためダイナミックに躍動する世界銀行グループが必要とされていることを物語るものでもあります。包括的で持続可能なグローバリゼーションのまさにあるべき姿なのです。

 

 

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