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プレスリリース 2021年8月23日

世界的な移住増加の10%は水不足に遠因

強制移住の問題が特に深刻な中東・北アフリカ地域において、長期的成長の鍵は水リスクへの対応が握っている。

ワシントン、2021年8月23日 – 気候変動により水をめぐる世界規模の危機が加速する中、不安定な降雨量が移住を左右する要素のひとつになると予想される、と世界銀行は本日発表した報告書「水リスクとその影響(EBB and Flow)」で指摘している。同報告書は、移民が流入した結果、現在、都市は世界人口の55%を占めているが、今後、次々と水不足が始まる ことになると指摘する。

同報告書は、水が移住に与える影響に関する初の世界的アセスメントの結果を掲載している。分析には、64カ国の5億人近くが対象の189件の国勢調査で得られた国内避難民に関する最大規模のデータセットが用いられたほか、今回初めてまとめられたいくつかの国・世界レベルのデータセットも使われた。中東・北アフリカ地域(MENA)では人口の60%が水不足の地域に暮らしており、紛争により避難を余儀なくされた人々や受入コミュニティを中心に、域内の人々にとって水は既に深刻な脆弱性の一つであると、報告書は指摘する。

また、1970年から2000年の間に、国内避難民増加の10%は水不足と関連していることが明らかになった。今世紀末までに、悪化する干ばつにより約7億人が影響を受けるとみられる。こうした異常気象の影響は途上国に偏って発生し、低・中所得国の人口の85%以上の暮らしに影を落とすことになる。ただし、貧困層の場合、影響を受けない場所へと移り住む余裕はないことが多い。貧困国の人は裕福な国の人と比べ、移住しない傾向が4倍も強いと報告書は指摘する。

世界全体で見ると、水をめぐるショックは移住者の数だけでなく、移住者のスキルにも影響を与えている。降水量が少なく干ばつが頻発する地域を離れる移住者は、それ以外の出稼ぎ労働者よりも学歴や技能が低いことが一般的であるため、移住先での賃金が大幅に低く、基礎的サービスへのアクセスも限定的となる。この点は、受け入れ先となる都市の政策にとって重要な意味合いを持つ。

「新型コロナウイルス感染症危機との戦いが続く中、気候変動は世界中の水不足を悪化させつつあり、途上国が特に大きな打撃を受けるだろう。」と、世界銀行のマリ・パンゲストゥ開発政策・パートナーシップ担当専務理事は指摘する。「不安定な降雨量を原因とする移住者を受け入れた都市では、環境に配慮した強靭で包摂的な開発に向けて、感染症危機や気候変動の影響を総合的に予防することがよい結果をもたらす。」

都市ではまた、水不足が始まる危険性も高まっている。ケープタウン(南アフリカ)、チェンナイ(インド)、サンパウロ(ブラジル)、バスラ(イラク)での近年の深刻な水不足に加え、国際社会の注目を浴びていないだけで、数十のより小規模な都市でも同様の事態が発生している。そのため、水資源を保護し、持続可能に管理することが急務となっている。

水レジリエンス構築に必要な政策とインフラには費用がかかるが、干ばつにははるかに多くのコストがかかる上、都市の成長を最大で12%押し下げる可能性もある。同報告書は、水需要の削減、豪雨の集水、水を吸収し地下で貯水するスポンジ状への都市部の再設計等、こうした課題に対する都市の対処方法を取り上げている。

水の安全保障が、紛争後のMENAの復興の鍵

MENA地域では、戦争、紛争、失業が移住の要因として、干ばつなど水関連の事態よりも大きな影響を及ぼしている。しかし、気候変動の影響が深刻化する中、このようなこれまでのパターンはもはや続かなくなるかもしれない。よいガバナンスの効いていない地域では、気候変動が脆弱性を助長し、水資源をめぐる緊張を生み出し、水不足と脆弱性の悪循環を招きかねない。

水不足を最も切実に感じているのは、移住を強いられた数百万人の人々と受け入れ先コミュニティである。MENA地域は、世界で最も多い推定760万人の強制移住者を擁し、この内270万人は域内諸国が受け入れ、1,240万人は長引く紛争を逃れ国内避難民となっている。

水は、紛争の主因というよりは、紛争の犠牲者であることの方が多い。同報告書は、デューク大学の「中東インフラ・ターゲット(TIME)」のデータベースを検証した結果、2011年以降、ガザ、イエメン、シリア、リビアでの紛争において水インフラが攻撃目標となった結果、数十万人の水アクセスが失われた事例が少なくとも180件あったことを確認している。

報告書によると、MENA地域では水の安全保障構築に向けてただちに行動を起こすことが求められている。長引く避難の危機と水不足は、人道支援の継続と、長期的な水の安全保障とショックへの強靱性の促進に向けた政策改善の必要性を浮き彫りにしている。

「世界で最も水不足が深刻なMENA地域では、最脆弱層を中心に数百万人が毎日のように水へのアクセスを求めて悪戦苦闘している。同地域はまた、気候関連の水不足により、2050年までに推定6から14%という過去最大の経済的損失を被るとみられる。」と、世界銀行のフェリード・ベルハジ中東・北アフリカ地域総局副総裁は述べた。「より広範な人間開発政策と計画の議論の一部として水の問題を取り上げることが、経済の安定化、生計の回復、全ての人のための環境に配慮した強靭で包摂的な未来の構築にとって不可欠である。」

同報告書は、政策担当者は、水をめぐる喫緊のニーズに応えるための単発の短期的措置と、構造的な水の問題に取り組むために必要な長期的措置の間で妥協点を探る必要に迫られるだろうとしている。そうした妥協点を見出し適切に対処することにより、MENA地域の持続可能な回復に向けた進展が水リスクによって阻害されないようにするために役立つだろう。

注:同報告書は、世界銀行の水グローバル・プラクティスが管理するマルチドナー信託基金である「水の安全保障と衛生のためのグローバル・パートナーシップ」から一部資金援助を受けた。


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