2018年12月7日

保健医療の欠如は、人的資本の損失:2030年までにユニバーサル・ヘルス・カバレッジを実現するための5つの方法

タンザニア・ダルエスサラームのマゴメニ医療センターで診察をする医師 © Arne Hoel/世界銀行



8年前、セシリア・ロドリゲスは、関節に炎症と痛みが起こる自己免疫疾患である関節リウマチと診断されました。セシリアは、チリの基礎保健ケア施設のディレクターとして自ら推進してきたことが、実は患者として彼女が必要としているものと大きく異なっていることを知り驚愕しました。

この経験をもとにセシリアは、同じく関節リウマチの患者である彼女の姉妹と共に慢性症状に苦しむ人々を支援する「Fundación Me Muevo 」という非営利団体を設立しました。同時にセシリアは、患者の支援者でもあります。チリでは患者を主体とした組織が進める運動が活発化していますが、Me Muevo もこの運動に参加しています。「保健医療制度は、急性疾患の治療を重視する傾向にあり、生涯続く病を抱える患者の支援を意図したものはほとんどありません」とセシリアは述べます。「私たちはこのNGOをMe Muevo(英語で『I move』)と名付けました。その由来は、この病の患者には運動が必要であるということが分かったこと、そして『I move』は『行動する』という意味でもあるからです。」

またセシリアは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向け活動を進める世界的な活動にも加わっています。このUHCをめぐる運動は勢いを増しています。UHCは、全ての人が必要な時に、経済的に困難な状態に陥ることなく質の高い保健サービスを受けることができるべきだというシンプルな考えに基づいています。

2030年までにすべての人に健康を

12月12日はUHCデーです。この日は、UHC達成に向けた世界的な進捗度合に目を向ける日です。国レベルでの力強いリーダーシップと積極的な改革により、世界の大半の地域で保健サービスへのアクセスが拡大し、手頃な価格でこれを利用できるようにする措置も増加しています。しかしその一方で、世界銀行グループと世界保健機関(WHO)の直近のリサーチによると、世界の人口の半数が依然として必要な医療サービスを利用することができず、毎年1億人が医療費が原因で極度の貧困状態に陥っています。



国際社会は持続可能な開発目標のもと、2030年までにUHCを達成することを誓約しています。UHCの達成は、世界銀行グループの2大目標である極度の貧困の撲滅と繁栄の共有の促進を実現するために不可欠です。しかし、何百万という人々が毎年医療費のために貧困状態に陥っている状態では、UNCを実現することは不可能です。世界銀行グループの2018年の「健康の公平性と経済的補助指標(HEFPI: Health Equity and Financial Protection Indicators (HEFPI))データベース」の183カ国のデータによると、手頃な価格での質の高いサービスの提供は所得レベルに関係なく各国の課題となっています。

医療費は家計の大きな経済的負担となっています。世界で、医療費が家計の少なくとも10%を占める人は8億人に上っています。こうした人々は、健康と、食料、学費または移動手段といった家族の他の必需品、どちらかを選択せざるを得ない状況に陥っています。仮にこの8億人がひとつの国で暮らしているとすると、その規模は世界の人口のランキングで3位に相当します。こうした経済的負担は世界の全ての地域で発生しています。

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People spending ≥10% of household budget on health expenses. To view full infographic, click here.

こうした巨大な数字は、必要な医療サービスを受けることができない人、ひとりひとりそして家族が日々直面している問題を覆い隠してしまいます。予防接種を受けることができず肺炎で命を落とす乳児がいます。発育不全で学業や学習に問題が生じる子供がいます。家族計画サービスを受けることができず学校を中退してしまう妊娠した十代の若者。そして産後、輸血を受けることができず出血に苦しんでいる母親もいます。


"「世界中で全ての人が医療を受けることができるようにする唯一の方法は、政府と人々が健康に対するより多くの投資を期待できるよう、システムを抜本的に転換することだ。」"
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ジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁

医療の欠如は人的資本の損失

医療を否定することは、不当であるばかりでなく、人々の潜在能力と国の人的資本の損失も意味します。人的資本とは、人々が生涯にわたり蓄積する知識、技術、健康であり、これにより私たちは社会の生産的な一員としてその潜在能力を発揮することができます。健康は国の人的資本の礎です。健康でなければ、子供たちは学校に行き学ぶことができず、また成人が働き家庭や経済に貢献することはできません。国が世界経済で効果的に競争するには、健康で教育を受けた力強い国民がいることが不可欠です。

「世界中で全ての人が医療を受けることができるようにする唯一の方法は、政府と人々が健康に対するより多くの投資を期待できるよう、システムを抜本的に転換することだ。」とジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁は述べます。

健康への投資が早い時期に行われ、乳児、子供、青年、成人、高齢者と生涯にわたり維持されれば、こうした投資は国の成長と競争力の頑健な基礎を築くことになります。生涯のうち健康である一年一年を経済を成長の燃料と考えるべきで、このことから、UHCは生涯を通じた投資を意味すると言えます。

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インフォグラフィック:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に焦点を当てる:

グローバル・モニタリング報告書

UHC達成への道のりは国ごとに異なっており、世界銀行グループは、資金、政策助言、技術支援を提供することで各国を支援するとともに、調査や研究を進め、共通する目標のもと一連の関係者を集め協議の場を提供しています。UHCは世界銀行グループにおいて健康、栄養分野、人々への投資の原動力であり、2018年度の投資合計額は約140億ドルとなっています。

人々へのより多くかつより適切な投資を加速させる試みである新規の人的資本プロジェクトを通じて、世界銀行グループは健康といった分野への投資の拡大にコミットしています。同プロジェクトの人的資本指標は、今日生まれた子供が18歳までに健康と教育への投資を通し得ることができる人的資本の規模を測定しこれを基に各国を評価するとともに、人的資本のギャップによる各国の収入の面の損失を示しています。政府は、健康を含めた人的資本に変化をもたらし、投資を行う最大の原動力です。



進捗を加速させる:達成のための5つの方法

2030年までにUHCを達成するための特効薬または唯一の道は存在しません。しかし、進捗を加速させる5つの主要な要素は存在します。

1.       健康のためにより多くの資金を、資金のためにより健康に

保健セクターは、投資不足という深刻な危機に直面しています。基礎的な保健医療サービスにかかるコストは世界で年間一人当たり約90ドルと言われています。2015年、自国民の健康への投資で71カ国がこれに到達せず、41カ国については(人口は合計すると26億人)、一人当たり25ドル未満でした。また、各国は、投資から最大限の効果を引き出すため保健セクターへの投資の効率性の向上に取り組む必要があります。海外からの健康分野への開発支援や他のグローバルなパートナーシップも、国内資源と相互補完的な役割を果たし、かつ国内資源の動員を促進する役割を果たします。そして国内資源は、国レベルでの健康への大半の投資を生み出します。

2.       ケアの質を重視する

手頃な価格の保健サービスへのアクセスだけでは十分ではなく、最高の質の医療が確保される必要があります。世界銀行グループ、世界保健機関(WHO)、経済協力開発機構(OECD)の合同報告書を含めた直近の3本の報告書により、質の悪い保健サービスが、国の所得レベルにかかわらず健康状態の改善の足かせとなっていることが明らかになっています。たとえば、低所得国・中所得国の入院患者の10%が入院中に感染症にかかる可能性があり、高所得国ではその数字は7%となっています。一方で、がんや心血管疾患の生存率など質の向上である程度の前進も確認されています。

3.       パンデミックからすべての人を保護する

過去30年間で、発生する病気の多様化が進みまた発生頻度は着実に上昇しています。あらゆるところで伝染病が発生する可能性があります。しかし、保健サービスが人々に届かない保健システムで最も弱いところ、また、流行を抑制しないところで発生するケースが多くなっています。UHCの基礎であるひとりひとりが保健サービスを利用することができてはじめて、病気の流行やパンデミックから全ての人々を保護することができます。このことから、世界銀行グループは地域疾病サーベイランス強化プログラム(REDISSE)を通し、動物及び人の保健システムの強化に取り組む各国への支援を重視するとともに、パンデミック緊急ファシリティ(PEF)を活用し、パンデミックへの迅速な対応に対する資金提供を他に先駆け画期的な手法で行っています。

4.       イノベーションを活用する

「従来の」アプローチでは2030年までにUHCを達成することは不可能です。これまでに成功を収めてきた国々は保健システムを転換するような手法でイノベーションを活用してきています。WBGの報告書である「ビジネス・アンユージュアル(Business Unusual)」は、進度曲線に変化をもたらした各国の取り組みを検証しています。ルワンダは、民間セクターの画期的なパートナーシップを活用しています。たとえば、ドローンを用い輸血用血液の搬送にかかる時間を短縮しました。アフガニスタンでは、基本的な保健医療サービスの提供で現地のNGOと契約することで、不安定な環境のなか母子の生存と栄養面で大きな改善が見られました。また画期的な資金調達アプローチが、トルコ政府の医療部門の変革に向けた取り組みを支えました。また、国が主体となった革新的な資金調達プラットフォームであるグローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)が27カ国で活用され、女性と子供の健康と栄養への大規模な投資を促進しています。

5.       一体となった行動を促す

2030年までにUHCを達成するためには、人々、コミュニティ、そして市民社会のエンパワメントを促し、これら関係者がUHC達成に向けた動きに積極的かつ完全に参加し、また、政府が質の高い手頃な価格の医療へのアクセスの確保について説明責任を果たすことができるようにする必要があります。人々は、保健システムにおける自らの権利について知るべきであり、また、自らのニーズに応える医療の構築に関与し、医療をモニタリングし当初の予定通りに機能しない場合に変革を求めることができるようにすべきです。UHCの実現に向けより強力な保健システムを構築するための各種機関、政府そしてCSOの世界的な運動であるUHC2030は、世界銀行グループとWHOがその実現に向け共同で立ち上げました。

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インフォグラフィック:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に焦点を当てる:

グローバル・モニタリング報告書

かつてないほど政治的なコミットメントとリーダーシップが発揮されています。しかし、2030年までにUHCを確実に実現するためには世界レベルで進捗を加速させなければなりません。そのためには、効果的なリーダーシップとともに、適切な政策と投資、そして「最も脆弱な人々を第一に考え」、こうした人々を支えることへの包括的なコミットメントが必要となります。もはや一刻の猶予も許されません。