スピーチ&筆記録

「新たな国際協調と市場の革新を」

2008年10月13日


ロバートゼーリック、世界銀行グループ総裁 世界銀行グループ年次総務会 ワシントンD.C., 米国

スピーチ原稿

議長、総務の皆様、そしてご来賓の方々

本年度の年次総会にご出席いただき、ありがとうございます。特に、ゾラン・スタブレスキ議長に、そして今年も開発委員会の議長としてリーダーシップを発揮していただいた親愛なるアグスティン・カルテンス委員長に感謝の意を表します。総裁着任からの1年間、これ以上は望めない最高の委員長と職務に当たらせていただきました。

また、良き同胞であるドミニク・ストロスカーン専務理事とはお互い緊密に協力しあってきました。このように豊かな経験と洞察力、そして上質のユーモアを持ち合わせたパートナーを得ることができ誠に幸いです。

我々は今、極めて困難な状況の下で集まっています。先行きが不透明かつ不安定な中、不安が高じ、「貧困層により配慮した持続可能なグローバリゼーション」に向かうどころか、遠ざかってしまう危険があります。

ここ数週間の出来事により2008年は不安定な年となりました。金融、与信、住宅市場のメルトダウン。食糧・燃料、そして商品価格の高騰による重圧の継続。世界経済についての不安。
 
人々は傷ついています。家庭は将来に不安を抱いています。
 
人々は、まず混乱し、次に苛立ちを感じ、そして怒り、恐れを募らせています。
 
いずれも、先進国でも見られた自然の反応です。金融・経済面の影響が広がるにつれ、心理面での打撃も世界各地に広がるでしょう。我々は、これを真剣に受け止めなければなりません。

10月は多くの途上国にとって危険な転換点となる可能性があります。輸出と資本流入の減少は、投資の縮少を誘発するでしょう。経済成長の鈍化と金融情勢の悪化により、企業破綻を招くとともに、銀行不安の危険が増すでしょう。一部の国は、国際収支の危機に陥るでしょう。いつものことなから、こうした状況に最も無防備なのは特に貧しい人々です。
 
今年起きた一連の出来事は、警鐘です。国際協調と市場をめぐって暗雲が広がってきています。
 
食糧価格の高騰を受け、農産物市場は政治的圧力の前に機能不全に陥り始めました。約40カ国が食糧輸出の規制や禁止を行いました。価格統制や取引停止を行った国もあります。国連は、最も深刻な状況にある人々のための食糧援助に向け支援を倍増するよう各国に強く働きかけています。貧困、飢餓、栄養不良が拡大しています。
 
世界の農業システムが漂流する中、世界貿易機関(WTO)も危険水域に追い込まれました。ドーハ・ラウンドが座礁したのです。
 
「気候変動に関する国連枠組条約(UNFCC)」の下で進められている気候変動交渉は、WTOが決裂した今や、さらに大きな難局に直面しています。
 
ニーズが高まっている一方で、国際的な援助体制はそれに追いついていません。
 
援助ドナーは、アイデアとエネルギーと資源を持ち込みますが、同時に、途上国のオーナーシップを押しつぶしかねず、援助効果が損なわれることになります。2006年には、全世界で7万件もの援助が行われましたが、プロジェクト1件当たりの規模は170万ドルにすぎませんでした。昨年、途上国へのドナーの訪問は、平均260回に上りました。ベトナムでは実に752回を数えました。
 
各国政府は、独自の理念によるバイの援助を提供する傾向を強めており、一貫性や現地の自主性を重視する国際協調の理念によらなくなっています。G7による援助額は全体として、グレンイーグルズ・サミットでの開発援助増額の公約をはるかに下回るものです。
 
民間の金融市場と民間企業は今後とも、世界的な成長と開発にとって最大の原動力であり続けるでしょう。しかし、先進国の金融システム、とりわけ米国のシステムは、巨額の損失を出し、はなはだしい脆弱性を露呈しました。 
 
こうした状況に対応するために作られた国際社会の仕組みも、きしみが目立っています。
 
新たな国際協調
 
米国をはじめ世界は今、現下の状況から抜け出そうと懸命ですが、そうした中でも将来を見据えることが求められています。我々は「新しいグローバル経済」のために国際協調と市場を革新しなければなりません。
 
現在の危機によって我々は、エネルギーや集中力を使い果たしてしまうと言う人もいます。しかし、1944年、ブレトンウッズ体制の創設者たちは、過去の諸問題に取り組みながらも、将来の基盤を築きました。
 
我々にとっての将来は、もう現実になっています。
 
新興経済大国が台頭しています。
 
こうした新興大国のグローバル経済への関与は、彼らを自らに恩恵をもたらしたグローバル・システムの「ステークホルダー」としました。
 
これらの新興経済大国は発言の機会を求めています。また、グローバル経済での新たなルール作りにどういった役割を果たせるか模索しています。
 
一方、先進諸国にとって新興国の台頭は、恩恵をもたらすと同時に脅威にもなっています。途上国の台頭は成長の極の分散を意味し、先進国の景気回復を助長し、新たな可能性ももたらすでしょう。しかし、彼らはまた、悪いデマを広げる人々にとって格好の材料を提供することにもなります。
 
サブサハラ・アフリカの25カ国は地域全体の3分の2近い人口を擁し、1997~2007年に平均約6.6%の成長を記録しましたが、こうした国々が今後数十年でさらにもう一つの成長の極となることも視野に入ります。これが実現すれば、貧困削減と開発という意味だけでなく、未開発の才能やエネルギーを解き放つという意味でも、めざましい成果となるでしょう。
 
しかし、これは、我々が国内で経済孤立主義に陥ることなく、実現に向けてリーダーシップを発揮するだけの勇気とビジョンを示さなければ、絵に描いた餅と化してしまうでしょう。
 
我々には新しいアプローチが必要です。
 
理想的な国際協調とは、建設的な行動を一緒に起こす意志と能力を備えた国々が話し合いのテーブルにつき、国際的な問題を解決する手段であります。国際協調が機能していないと、グローバリゼーションは、各国が国益を求めて衝突し、誰にも利益をもたらさない「バベルの塔」と化してしまいかねません。
 
ブレトンウッズ時代は2つの遺産を残してくれました。一つ目は、さまざまな形でサービスと修復を行う、個別の国際機関や国際的な体制です。そして二つ目は、一つ目よりも重要なのですが、その時代の問題を好機に転ずるために国際的な行動をとるという、知的、政策的、政治的なコミットメントです。
 
現代に即した「新しい国際協調」とは、固定的なシステムではなく、柔軟性に富んだネットワークのようなものといえるでしょう。それは、官民を問わず、また営利目的のものであれ、シビルソサエティの組織/NGOであれ、関係者が互いに結ばれることの強みを最大限に活かすものでなければなりません。
 
「新しい国際協調」は、国境を越えて相互に関連する問題を解決しつつ、国家の主権を尊重しなければなりません。
 
この「新たな国際協調ネットワーク」は実際的でなければなりません。その基本的任務は、内外の関心事に関する見通しの意見交換を助長することにより、協力を促進することにあります。単なる情報の共有であっても、出発点となることはよくあるのです。
 
また、共通の利益を見出すよう努力すべきです。ときには、インセンティブを用いることで共通の利益を促進できることもあります。その際、国際機関は触媒となって行動を促すことができます。問題を実際に解決していくことが協調の文化を築いていきます。
 
「新しい国際協調」は、世界の政治経済の健全性と効果的な機能の発揮に、全員が責任感を共有するものでなければなりません。この意味は、当該経済に大きな利害をもつ者、すなわち、その維持から恩恵を受けると同時にその責任を担う用意もある者を全て関与させる必要があるということであり、この点は極めて重要です。
 
我々は、金融と貿易という従来の焦点を越えて、経済における国際協調をあらためて定義する必要があります。今や、エネルギー、気候変動、脆弱国の安定化などはすべて経済問題です。こうした問題はすでに安全保障や環境に関する国際的な対話で取り上げられていますが、同時に経済的な国際協調の課題とすることが必要です。
 
優先課題
 
新たな運営主体となるグループ
 
「新たな国際協調」はやはり、国々のリーダーシップと協力に主として依存せざるを得ません。国家は無視できません。
 
我々に必要なのは、蔵相で構成される中核グループであり、問題を予見し、情報と知見を共有して、共通の利益を模索し、問題解決のための努力を結集し、少なくとも意見の相違が決裂に向かわないよう処理するという責任を担う主体であります。
 
金融・経済分野の協力では、ブラジル、中国、インド、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、そして現在のG7諸国で構成される新しい運営主体となるグループの形成を検討すべきです。
 
新たな運営主体となる国々は、世界のGDPの70%以上、エネルギー産出の62%を占め、主要な炭素排出国、主な開発援助国、それぞれの地域の主要国、そして国際的な資本、商品、為替市場の主要当事国です。
 
しかし、この運営主体はG14ではありません。古い世界のリメークが新しい世界を作ることにはなりません。この主体は、数を固定せず、柔軟性があり、時間と共に進化するものが考えられます。さらに今後、影響力を高めつつある国が同時に、責任も担おうという意思を持っている場合には、このグループに加えてかまわないでしょう。
 
この運営主体となるグループは連帯責任の感覚を育むために定期的に会合したり、テレビ会議を開くべきです。
 
IMFと世界銀行グループ、そしておそらくWTOも、この運営主体となるグループを支援することができます。我々は、問題の早期把握、分析の提供、解決策の提案に加え、それぞれ幅広い加盟国の意見を取り入れて、問題に共同して取り組むための提案をすることができます。
 
この運営主体となるグループの参加国はやはり、既存の国際機関や国際的な体制(他国の存在を含め)を通して作業を進めていく必要があるでしょう。しかし、中核となるこのグループの存在により、一国を超えた大きな問題の取組みに各国が結集する可能性が高まることになるでしょう。
 
このメカニズムは、各国が置き去りにされて失敗することがないよう、またその結果、各国自身とその隣国に人的、経済的、政治的な悪影響を与えないようにするためにも必要です。また、世界規模の問題が起きてから後始末をするのではなく、それを予期するためにも必要です。さらに、対話の習慣を育み、危機が発生する前に必要な信頼関係を築くためにも、このメカニズムが必要です。つまり、国際協調による問題解決のために必要なのです。
 
国際金融と開発
 
我々はグローバルな結合の影の側面を目の当たりにしました。これからは光に向かって進まなければなりません。
 
そのための最初の作業は、金融規制・監督システムの欠陥を抜本的に改革することです。
 
規制と監督が十分に行われていたはずの機関がなぜ、これほど多く問題を抱えたのかを調べる必要があります。リスク管理のモデルは、いかに洗練され、監督が行き届いていても、一定の仮定に基づいている点が決定的です。この仮定が間違っていたらどうなるのでしょう。
 
破綻を引き起こすような状況の変化は、世界経済の動向にますます左右されるでしょう。世界の相互連結が国際的な危機をもたらすとすれば、改革も国際的協調によらねばなりません。 
 
イタリア中央銀行のマリオ・ドラギ総裁が議長として活躍される「金融安定化フォーラム(FSF)」は、こうした問題への取り組みを始めました。こうした金融監督の問題は、FSFを拡大するか、FSFとIMFの関係を強化するか、あるいは新たな運営主体となるグループのいずれかを通じて、より幅広い国際的な文脈で対応する必要があります。
 
我々は、世界経済に対するIMFの早期警戒システムを強化し、単なる危機の解決ではなく、危機の未然防止を目指す必要があります。
 
米国とヨーロッパにおける金融ショックの波はグローバル経済に波及し始めています。厳しい現実ながら、途上国は、貿易、送金、国内投資の減少を見越し、それに備える必要があります。
 
財政と国際収支ポジションの健全な国は、消費と投資によって内需を刺激するよう奨励されるべきです。その一方で、予算の著しい不均衡、経常収支の大幅赤字、国際収支問題、脆弱な金融情勢、あるいはその4つすべてを抱えている国もあります。IMFと開発金融機関による支援が必要です。
 
「新たな国際協調」の下では、世界的な開発を国際金融の課題と同等に扱かわなければなりません。
 
経済の多極化は、分散された投資ポートフォリオと同様、安定性と機会を生み出します。しかし、貧困層に配慮した持続可能な成長を加速させるには、援助のあり方を異なる視点から考えなければなりません。
 
2週間前、国連において、国際的なパートナーは開発プロジェクト向けに160億ドルを調達しました。この資金は極めて重要です。しかしながら、ミレニアム開発目標(MDGs)達成にはさらに多額の資金が必要です。
 
一方、我々はアプローチの幅を広げる必要もあります。アフリカ諸国の多くは、援助に依存するのではなく市場や機会を切望しています。我々は、こうした声に耳を傾けなければなりません。民間投資と市場は今後も成長の原動力であり続けるでしょう。我々は、プロジェクトやプログラムを超えて、開発事業の新しい進め方を見出さねばなりません。

世界銀行グループは、主に貸付を行う機関という役割から、貧困克服と成長促進に向けた金融・開発分野のソリューションを各国の状況に応じて提供する機関へと変貌しつつあります。
 
また、国際金融公社(IFC)では、政府系ファンドがアフリカをはじめとする成長機会の見込まれる貧困地域に対し、援助ではなく直接投資を仲介する投資のプラットフォームを構築中です。すなわち、今年の春に提唱した「1パーセント·ソリューション」です。
 
民間資本、特に長期投資は、インフラ整備、エネルギー供給、企業活動や貿易金融、そして開かれたグローバル経済という文脈の中での域内統合の促進にとって極めて重要な要素となります。その動きはすでに始まっています。2008年度にIFCが途上国に行った投融資(シンジケートも含める)の金額は、IBRDの新規貸付金額やIDAの援助を上回りました。今年、IFCの投融資の40%以上がIDA融資対象国に対するものでした。
 
世界銀行グループの「グローバル·エマージング·マーケッツ·ローカル·カレンシー債券プログラム(GEMLOC)」は、新興経済国における現地通貨建て債券市場拡充のための触媒として、「南·南」投資の機会を促進するものです。
 
我々は、小規模農家から各国政府にいたるまで、天候・自然災害に備えた保険制度を通じ、途上国の開発リスク管理を支援しています。マラウィでは、英国国際開発省(DFID)との連携の下、マラウィの天候リスク管理のための保証を行いました。この契約は、降雨量とリンクした指標が過去の平均降雨量を大幅に下回った場合、マラウィが最高500万ドルを受け取るという仕組みです。
 
また、地域の貧困の根源にメスを入れ、ガバナンスとパフォーマンスをあらゆるレベルで改善するため、地方政府などとの事業も展開しています。 
 
さらに世銀は、健全な財政基盤と金融技術により、他の援助ドナーとも協力しながら、援助手法を拡大しています。たとえば、日本の個人投資家を対象とした「ワクチン債」の発行や、未開発の救命医薬品の購入を事前にコミットする、などの取り組みです。
 
新しい手法により新たな分野に進出するためには、より良いパートナーとなることも必要です。例えば、保健システムへの支援の拡充、成果重視の融資などの革新的手法、民間セクター、シビルソサエティとの新しい協力態勢の促進を行っています。2週間前に開かれた国連のミレニアム会合において、世銀は、国連、各国政府、新興ドナー、民間セクター、シビルソサエティと共に、マラリア対策と初等教育への支援のため、26億ドルの追加拠出を決定しました。
 
「新たな国際協調」の下では、危機の際に、特に弱い立場の人々をより迅速に助けるためのメカニズムも必要となります。食糧危機による深刻な打撃の中、世銀は、春の総会で提案した、足の速さが特徴の12億ドルの融資制度を直ちに設置しました。この制度は、食糧価格高騰で危機に陥った人々を支援するもので、栄養補給、学校給食、種子・肥料、その他のセーフティネットに資金を提供するものです。現在、この制度を拡大して、燃料価格高騰で打撃を受けた人々も支援しようとしています。最も弱い立場の人々を救うこの種のメカニズムにとって、柔軟性と迅速性、グラント資金の持続的供給が重要です。
 
世銀グループはまた、顧客の新しいニーズやステークホールダーの関心に応えるため、より迅速に対応しなければなりません。21世紀の現実に合わせたガバナンスの調整が必要です。昨日、我々は、「ボイス、参加、責任」に関する暫定改革パッケージについて合意に達しました。これは出発点ですが、さらに前進する必要があります。理事会は、世銀内部のガバナンスについても進展を図っています。
 
喜ばしいことに、エルネスト・セディージョ氏が、世銀グループのガバナンス改革を検討するハイレベル委員会を率いることに同意してくださいました。この委員会の目的は、世界の政治経済が変容した中、世銀グループがよりダイナミックで効果的・効率的に、かつ正当性を持って業務を遂行できるようにすることにあります。同氏には、IMF担当者と協力して、業務を進めていただくようお願いしました。1944年にブレトンウッズ体制を構築した人々は、将来の変化に備えるためのチャンスをつかみました。今日、我々も同様に野心的であるべきです。
 
WTOと世界貿易システム
 
WTOドーハ・ラウンドの世界貿易交渉は瀕死の状態です。ここで重要なのは、WTOと開放的な世界貿易システムまで一緒に葬り去られないようにすることです。
 
貿易交渉はほかでも続けられます。最近の調査では、自由貿易協定(FTA)の交渉によって幅広い市場開放が助長されたと示されています。しかし、限定的な分野でのFTAや特恵協定は世界の自由化を弱体化させかねません。これらはいずれもグローバルな規律と結びついていなければなりません。今でも多国間システムは、貿易を歪める農業補助金の根強い慣行を撤廃する唯一の方法です。こうした補助金はOECD諸国で今もなお年間2,600億ドルに達しています。
 
世界規模での自由化を促進し続けるための選択肢の一つとして、貿易促進を開発計画の一環として認識することがあります。関税や他の貿易障壁による負担をはるかに上回るほどのコストを削減できる可能性があります。世界銀行の「ビジネス環境の現状」の貿易の項や、「ロジスティックス」の指標は、診断の基礎作業を行っています。また、APECなどの地域機構はその方策を示しています。
 
世銀グループは、サプライチェーン全体で手続きや文書化の簡素化と調和に向け各国を支援しています。現在、我々は、技術協力や、能力構築、プロジェクト準備を支援する「貿易促進ファシリティ」を準備中です。世界銀行は、各国のニーズに即した国レベルのプロジェクトと、域内貿易統合の促進を図る多国間プロジェクトの両方を支援することができます。さらに、多国間または域内貿易協定に伴う貿易制限緩和のコミットを実行に移す支援も提供できます。    
 
貿易振興と開発という新しいアジェンダは、貿易コスト削減という自国の利益を、国際的な統合促進、効率向上、機会創出――すなわち、雇用増大、成長促進、貧困削減――という国際的利益達成に役立てようというものです。
 
これは、可能なところから進めるという実際的な前進による国際協調です。
 
エネルギーと気候変動
 
「新たな国際協調ネットワーク」においては、エネルギーと気候変動の結びつきも図らなければなりません。
 
世界のエネルギー市場は混乱を極めています。産油国は価格暴落を恐れて、新規の投資に躊躇しています。一方の石油消費国は、消費者のためには低価格を望みながらも、エネルギー節約、効率、代替エネルギー開発、新技術を促進するに足る価格水準を求めています。結果的に大きな混乱が生じ、特に弱い立場の国々とその国民が犠牲者となって、高価格、価格の乱高下、そして気候変動により打撃を受けています。
 
今や産油量の大半は国営石油企業によってコントロールされていますが、これらの石油企業は、民間生産者と同じようには市場のシグナルに反応しません。
 
主要産油国と消費国の間で「世界的な交渉」を行う必要があります。中国は数年前、産油国カルテルと効果的な交渉を進めるため主要石油消費国の組織を結成すべきであると提唱しました。このアイデアは検討の価値がありますが、もっと幅広い目的のためでなければなりません。
 
こうした交渉には少なくとも、代替エネルギーを含めた供給拡大のための分担計画、エネルギー効率の向上と需要縮減、貧困層のエネルギー・アクセスの支援、さらに、炭素排出と気候変動に関する政策にこれらの政策をどう関連付けるかの検討が含まれるべきです。世銀グループはこの分野で重要な役割を果たすことができます。昨年、途上国の再生可能エネルギーとエネルギー効率改善プロジェクトに対する資金援助は、前年比で80%以上増え、27億ドルに達しました。
 
こうした交渉の一環として、燃料価格の高騰と乱高下に対する脆弱性を縮小する長期的投資の機会を途上国に提供する一方で、貧しい人々にセーフティネットを用意することについても話し合うべきでしょう。現在、サブサハラ・アフリカでは、人口の4分の1以下しか電力を利用できておらず、最貧困層によるエネルギー・アクセスの改善は、クリーン・エネルギーへの投資と競合すべきではありません。食糧価格高騰でとくに深刻な影響を受ける可能性のある人々を支援するため農産物増産を図っているように、燃料価格の高騰と乱高下の影響を受けやすい人々に対しても、エネルギー効率改善、代替エネルギーや送電網(グリッド)を使用しない技術という選択肢の確保、域内協力促進などで支援する必要があります。世銀グループは、加盟国の要請を受け、最貧国が効率的かつ持続可能な方法でエネルギー需要を満たすことができるよう、「貧困層のためのエネルギー・イニシアティブ」を策定中です。
 
我々は、この「グローバルな交渉」をさらに進めようと考えています。低炭素成長戦略、供給源の多様化、国際的なエネルギー安全保障の強化へと移行しながら利害関係者の合意できる価格のレンジを管理することには、各国共通の利益があるかもしれません。
 
エネルギーの将来について国際協調の見地から理解することは、炭素の価格の明瞭化にもつながり、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の交渉上も重要でありましょう。
 
気候変動条約の合意は、植林支援と森林破壊の防止、新技術の開発と迅速な普及の促進、貧困国への資金援助、そして適応支援のための新しいメカニズムによる支援が必要です。また、昨日の「バリ朝食会」で話し合ったように、炭素市場の拡充も図らなければなりません。世銀グループが新設した「森林炭素パートナーシップ・ファシリティ」と「炭素パートナーシップ・ファシリティ」の2つの制度は、低炭素型開発の道を求める途上国への支援を可能にするものです。
 
2週間前、世銀は、こうした課題への追加資金として、新設の「気候投資基金」の拠出会合を開催し、10カ国から61億ドルの資金を調達しました。これは、途上国が、自国の開発・貧困削減戦略の枠内で気候変動問題に取り組むのに使われます。
 
脆弱な国家: 開発の確保
 
「新たな国際協調ネットワーク」が最も必要とされているのは、「最底辺の10億人」が暮らす脆弱な国家や紛争後の国家においてです。
 
紛争の影響を受けた脆弱な国家は、往々にして、開発コミュニティーから、単に開発が困難なケースとして扱われてきました。しかし、こうした状況に対しては、開発の分析にとどまらず、安全保障、正当性、ガバナンス、経済の枠組みを、改めて考える必要があります。これは、従来の安全保障や従来の開発ではありません。
 
ここでいう「開発の確保」とは、まず第一に安全保障と開発を同時に進めることを意味します。すなわち、紛争から平和への移行を円滑に行い、その後10年以上にわたって開発を継続できるよう安定性を確保することです。このような開発の確保によって初めて、脆弱性と暴力の悪循環を断ち切るだけの十分な土台を築くことができるのです。
 
開発の確保をどう進めるのが最善なのか、安全保障、ガバナンス、経済の課題を総合的に処理する最も効果的な方法は何か、我々の理解はまだささやかものにすぎません。国際社会としての能力が著しく欠如しているのです。
 
究極的には、脆弱な国家や紛争後の国家において一番重要な要素となるのは、その国民です。しかし、こうした国民を犠牲者の立場から、復興の主たる担い手へと変身させるには、はるかに強力で長期的な国際的支援が必要になるでしょう。
 
世界銀行は、国連等の機関との新たなパートナーシップを願わくはこれまでに勝る形で、構築しようとしています。新たな「受託政策に関する国連・世界銀行基本合意」により、危機に対する両機関合同の対応が大幅にスピードアップされるでしょう。また、急務である滞納解消業務を推進すると共に、紛争と脆弱性に対して、より戦略的かつ革新的なアプローチで対応するため1億ドルの新たな「国家・平和構築基金」を設置しようとしています。
 
6つの戦略的テーマ
 
議長、
 
昨年、私は、世銀グループ業務の指針となる6つの戦略的テーマを概説しました。アフリカを中心とする最貧国、脆弱または紛争後の国家、中所得国、世界または地域の公共財、アラブ世界の機会の拡充、知識の蓄積と学習の6つです。
 
これらの戦略的テーマは、我々の業務全般にわたるものです。本日、その例をいくつかご紹介しました。
 
これら6つのテーマ推進に当たり、我々は今後も、汚職防止とガバナンスを業務全体に組み入れていく必要があります。人々は、ガバナンスと汚職防止への取り組み強化を期待していますが、これは当然のことです。汚職は最も貧しい人々に対する過酷な税です。我々は、どんな汚職にも立ち向かわなければなりません。
 
ポール・ボルカーをはじめボルカー委員会の皆様には、優れた検討と実際的な勧告を賜り、感謝しています。我々はこのパネルの勧告を実施し、世銀の組織監察局の強化、過去の教訓を活かし実践するための汚職未然防止・アドバイザリー部門の新設、そして新任の副総裁の顧問となる国際諮問委員会の設置などを行うことで責務の拡充を図っています。
 
これらの取り組みは我々の受託責任に基づくものです。ですが、それだけでは不十分です。組織内に誠実、高潔、信頼の風土を培う必要があります。そして、最年少の調達担当者から首相や大統領にいたるまで、我々の顧客においてもこの風土が培われるよう奨励・支援しなければなりません。

終わりに:

議長、ある理事が最近述べられたとおり、世銀グループは、昨年の年次総会からの1年間で、組織的危機から触媒組織へと変わりました。
 
そして今、世界が危機に直面しています。今こそ、世銀グループが伸びる時です。
 
我々は、健全な資本基盤と強い流動性ポジション、そして世界各国での比類なき業務経験に加え、極めて有能な職員を擁しています。
 
とはいえ、さらに改善する余地はありますし、そうしなければなりません。
 
世銀グループは、不断に検証された最新の知識を備えた世界中の専門家、人材や市場、組織への投資、そして革新的な融資手段を結集することで最大限の能力を発揮します。「成長と開発に関する委員会」が本年強調したように、開発には万能のひな形などないことを常に自覚しています。どの国の状況も独特で、特殊です。我々は、何が有効かを学び、失敗すれば修正するという謙虚さと実際的姿勢、誠実さを持たなければなりません。
世銀グループの最高の資産は職員です。ここワシントンや世界各地の世銀の職員は、こうした取り組みを進めるため、今年も顧客やパートナーと粘り強く業務に励んできました。我々は、世界100カ国以上から有能な職員を採用しており、このように多様な経験と文化的背景をもつ人々が結集した場合、個人の能力の和を超えた大きな力を発揮できるかを示さんとしています。

こうした多彩な人材によって成果を上げることができ、私は誠に幸運です。職員の皆さんに心から感謝すると共に、誇りに感じていることを伝えたいと思います。

また、我々は、活発な理事会と日々仕事をしております。顧客のニーズを満たす我々の仕事に、理事会は貴重な指針を示してくれました。ここに感謝の意を表します。

議長、最後に、将来の見通しについて一言述べさせていただきます。
 
我々が、新しい世界経済における機会と責任を適切に共有できないのなら、金融救済にとどまらず人々の救済へと視点を向けることができないのなら、さらに多くの人々や国々の経済成長の均霑を可能とする国際的政策を編み出すことができないのなら、「貧困層に配慮した持続可能なグローバリゼーション」を実現することはできないでしょう。そして、たとえどれほど大規模な金融救済策をもってしても、世界を安定させることはできないでしょう。
 
運命は必要という包装紙に包まれた好機を提供してくるものです。今回は、「新たな国際協調と市場の革新」です。これをしっかりとつかまなければなりません。
 
ご清聴ありがとうございました。

Api
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