オピニオン

それでも自由主義経済は世界の食糧問題を解決する

2011年1月6日


ロバート・B・ゼーリック世界銀行総裁



概略

今年のG20首脳会議議長を務めるサルコジ仏大統領は、賢明にも食糧価格変動への対応を自国の優先課題としている。1月5日付けの国連食糧農業機関(FAO)の発表によると、多くの一次産品価格は2008年の最高値を更新してしまった。最貧国では食糧価格が乏しい家計の大きな部分を占め、かつときに予測以上の負担となるため、食糧価格高騰は、世界の経済成長と社会的安定に対する脅威に再びなろうとしている。

穀物価格が高騰すると貧困層が真っ先に被害を受ける。世界規模の取り組みがなければ、貧困国の人々は栄養のある食糧が不足し、個人にとっても国の将来の繁栄にとっても悲劇的な展開が待っている。G20は、食糧問題を最優先課題とすべきである。食糧はまさに命の糧であり、G20の行動は何億もの人々を救えるからだ。

最大の目標は、脆弱な立場にある人、あるいは国が、食糧へのアクセスを奪われないことである。G20は、以下に示す実際的で相互に関連した措置を講じることにより、この目標を達成できる。

穀物在庫の質と量に関する情報開示の拡大
情報開示が進めば、市場に安心感を与え、パニックによる価格高騰を抑えることができる。国際機関は透明性向上の支援が可能だ。

特にアフリカ地域における長期的な天候予報・観測の改善
精密な長期予報は先進国の農民や顧客にとっては容易に入手できる。他方、収穫高が降雨量に左右される貧困国では、収穫予想の不確実性は価格変動を加速する。天気予報の改善により、事前に計画をつくり、援助ニーズの予測も可能となる。世界気象機関と世銀は既にこうした支援を行っているが、さらなる努力が必要である。

国際価格と貧困国内現地価格との関係の理解
輸送コスト、作物の種類、為替レートなどにより、現地価格と国際価格が乖離する場合がある。例えばカンボジアでは、2009年半ば、コメの国際価格と現地価格は同水準であったが、その後現地価格は25%上昇し、国際価格は15%下落している。我々の支援は、価格変動リスクを負いやすい産品や国に的を絞ることが必要である。

災害多発、インフラ脆弱地における人道的備蓄の整備
食糧の大量の備蓄はコストがかさみ、傷みやすく、生産者の負担にもなり得る。だが、食糧危機が再燃する可能性が高く輸送網が未整備のアフリカの「角」などにおいては、少量の戦略的備蓄があらかじめ用意されていれば、飢えた人々に迅速、かつおそらくは低コストで食糧を提供できる。こうした仕組みは世界食糧計画(WFP)が管理できるだろう。

輸出禁止措置から人道的食糧援助の除外する行動指針
輸出禁止措置は食糧価格の変動を悪化させる。どの国も一切の輸出禁止措置を課さないことが理想的だが、2011年、各国は少なくとも人道目的の食糧の輸出を制限しないと合意すべきである。

実効的な社会的セーフティネット
妊婦や授乳中の母親、2歳未満の幼児など最も弱い立場の人々を守ることが重要である。農業と栄養(保健政策)を結びつけ、各国が、こうした人々を合理的なコストの下で優先的に対処することを支援すべきである。

禁輸や人為的価格政策の代替として、足の早い支援へのアクセスを
自国の農民や隣国に害となる政策が実施されないよう、現地のニーズに合わせた迅速で安定した代替策を提供する必要がある。世銀は、490億ドルの増資が合意された国際開発協会(IDA)に最貧国のための危機対応融資制度や迅速な対応を提供する食糧安全保障基金を設置したが、価格ショック時に返済猶予条項のある融資やクレジット・ラインも検討している。

その他のリスク管理商品の開発
天候保険、降雨量インデックスが最適な道具となる場合もあれば、エネルギー価格のヘッジ手段の提供により輸送・投入コストを低く抑えられる場合もあろう。

小規模農家が食糧安全保障に果たす役割の拡大
貧困地域では基礎的食糧の86%が現地で生産されているため、小規模農家強化の国家レベルの取組みが不可欠である。具体的には、WFPなどによる小規模農家からの人道目的での買い付けをG20が支援することが考えられる。そのためには調達先の選定に当たって現地の市場の発展といった開発利益を考慮するなど柔軟な対応が求められる。スーダン南部のパイロット事例が時宜を得たものとなろう。

食糧価格変動への対応策は、市場を否定したり批判したりすることではなく、むしろ活用することだ。貧困層のエンパワーメントによって、G20は食糧の確保に向けて実際的な解決の道を提供できる。サルコジ大統領はこの問題をG20のアジェンダに取り上げるというリーダーシップを発揮した。G20は今こそ食糧の問題を最優先課題としなければならない。



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