2019年3月18日

グリーンボンド、10年の軌跡:資本市場における持続可能な社会を目指す枠組みの構築

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10年前、世界銀行が発行した史上初のグリーンボンドは開発資金のあり方を劇的に変え、資本市場における持続可能性の新たな動きの火付け役となりました。写真: © Thinkstock

2007年末、スウェーデンの年金基金グループから世界銀行財務局へ1本の電話がかかってきました。その内容は、「気候変動問題に対処するプロジェクトに投資したいが、該当するプロジェクトをどうしたら見つけることができるだろうか?」というものでした。その後1年も経たないうちに、世界銀行は史上初となるグリーンボンドを発行することになります。これにより、気候変動関連のプロジェクトと投資家からの資金を結ぶ新たな道が開けたのです。

一般的に債券とは、債券発行体が投資家から資金を借り入れ、一定期間の後に合意された利率で償還するという取決めと定義されています。政府や企業は、プロジェクトの資金を借り入れるために債券を発行します。世界銀行は、開発プロジェクト融資のための資金を資本市場から調達すべく1947年から債券を発行しており、債券発行の豊富な経験があります。しかし、資金使途を特定のプロジェクトに限定した債券というコンセプトは、極めて斬新なものでした。

厳しい現実

2007年、気候変動とその政治的・経済的影響に関する科学的データを提供する国連の機関である「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、人間の行動と地球温暖化の関連性を明確に示した報告書を発表しました。自然災害が増加していく中、この分析結果は、スウェーデンの年金基金グループが、どのようにしたら自身が管理する資金をこの問題の解決に生かせるかを考える契機となりました。そして彼らは、スウェーデンの銀行であるSEB銀行に相談に訪れました。そしてSEB銀行は、投資にかかるリスクを軽減しプラスの効果をもたらすことを願う投資家と、世界の環境関連プロジェクト融資に豊富な知識と経験を有する世界銀行とを結び付けたのです。

既成概念にとらわれない

考えてみれば、解決策は明らかです。投資家は安全な投資先を探しており、自分たちがもたらす変化を知りたいと考えていました。優良な発行体としての実績を持つ世界銀行は、環境プロジェクトへの融資も行っており、プロジェクトのインパクトに関する報告書を作成するには適任でした。しかし、足りない要素が一つありました。それは、「どのようにしたら投資家が、自身が支援するプロジェクトが気候変動問題の解決に貢献しているかを確認できるか」という点です。

そこで我々は、今度はオスロ国際気候環境研究センター(CICERO)にアプローチしました。気候変動に関する学際的な研究を行う同センターは、一流の気候変動の専門家を擁しており、当該プロジェクトが環境にプラスの成果をもたらすか否かについて、信頼できる分析を提供しています。

その後、年金基金、SEB銀行、CICERO、そして世界銀行財務局との間で幾度となく話し合いがもたれましたが、各々が異なる考えに基づき、さらに資金、開発、そして科学の間に存在する距離を縮めることは容易ではありませんでした。

解決策追求への共同コミットメント

2008年11月、世界銀行によるグリーンボンドの発行という形で努力が実を結び、今日のグリーンボンド市場の基本的な枠組みが作られました。グリーンボンドの支援の対象となる適格プロジェクトの基準が定められ、また、CICEROがセカンド・オピニオン提供機関として参加し、不可欠なプロセスとしてインパクト・レポートの作成が加えられました。また、投資家、銀行、開発機関、そして科学者の間の新たな連携モデルのパイロットとなりました。関係者のコミットメント、努力、そして解決策への熱意がついに実を結んだのです。

また、国際資本市場協会(ICMA)が管轄するグリーンボンド原則の基礎も構築されると共に、債券が作り出すことができる社会的価値とともに、透明性の必要性も明確に示しました。

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世界銀行はこれまで、世界中の機関投資家と個人投資家を対象に、20通貨・150銘柄・総額130億米ドルを超えるグリーンボンドを発行しました。

2018年度末現在、適格プロジェクトの件数は91件、融資実行承認総額は154億米ドルでした。この内グリーンボンドで調達された85億米ドルが、28カ国でのプロジェクトを支えるための融資に活用されました。さらに68億米ドルが同様に活用される予定です。

を占め、合計でグリーンボンドの融資実行承認額の約69%を占めました。

世界銀行による初のグリーンボンド・インパクトレポートは、インパクトに関する報告の基準でありモデルとして、債券市場において広く認識されています。今日、世界銀行の他にも、多くの国で様々な規模の企業や銀行がグリーンボンドを発行していますが、全てのグリーンボンド発行体は、自らの投資の社会的・環境的なインパクトを継続的に調査・分析し公開しています。最大のグリーンボンド発行体(年間発行規模)は、連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)です。フィジーは昨年、新興国市場では史上初のソブリン・グリーンボンド(国債)を発行しました。国際資本市場で活躍する全ての銀行が、グリーンボンドあるいはサステナブルボンドの専門家を擁しています。環境に配慮した基準は融資業務にも導入されている他、格付け会社や投資家に情報を提供し発行体を支援する機関などが、セカンドオピニオンの提供や検証を行うビジネスも展開しています。そして、グリーンボンドのコンセプトは、ソーシャルボンドやソブリン・ブルーボンドなど他のテーマ型債券へと拡大していきました。


"我々の世代で気候変動に関する問題全てを解決することは容易なことではありません。しかし、より良い環境を次世代に残せるのです。"
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クリスタリナ ゲオルギエヴァ
世界銀行グループ暫定総裁 兼 世界銀行最高経営責任者(CEO)

気候変動問題解決に向けたグリーンボンドの貢献

同時に、債券投資の社会的価値と、透明性の向上の必要性も明確に示しています。

「これまで通りのやり方で運を天に任せるか、今すぐ行動を起こして強靭な未来を作るか、シンプルな選択です。我々の世代で気候変動に関する問題全てを解決することは容易なことではありません。しかし、より良い環境を次世代に残せるのです。」


持続可能な改革

この10年間を振り返ると、資本市場は大きく変化しました。それまで投資家は、自身の投資した資金がどのように活用されるかについて殆ど関心を示していませんでした。しかし今日では、投資の目的は重要な判断材料となっています。その結果、ソーシャルボンド、ソブリン・ブルーボンドをはじめとする、特定の開発目標のための資金を調達する債券が誕生しました。これらのすべてが、インパクト・レポートを重視するグリーンボンドを手本にしています。2008年以降、こうしたテーマ型債券の発行額は、5,000億米ドルを上回りました。

「投資家は、競争優位性のある投資を求めています。その一方で、これまで以上に多くの投資家が、自らの資金で社会にプラスでかつ測定可能なインパクトを与えることを望んでいます。」と、ハイケ・ライハルト世界銀行財務局インベスターリレーションズ&ニュープロダクツ部門ヘッドは述べています。

投資の社会的・環境的な影響に関する投資家の関心は、債券市場の根本的な変化を表しています。投資家は、金融リターンを犠牲にせず、ステークホルダーが求めるイニシアチブに取り組むことができると考えています。また投資家は、投資が環境、社会、ガバナンス要因にどのように対処しているかを示すデータを求めています。これは投資家が、こうした投資が社会的価値を生み出すだけでなく、投資リスクも緩和しているとの認識を高めているからです。持続可能性への優れた取組みを導入している発行体は概して、優良な投資先となります。発行体もこうした声に応え、彼らの発行する債券が、金融リターンだけでなく社会的貢献の機会をもたらすことに理解が得られるよう投資家と対話を進めています。

投資家は、テーマ型債券市場という限られた分野にとらわれず、発行体が自身の投資をどのように活用しているかを重視しています。こうした市場ははるかに大規模で、世界銀行だけでも開発融資のためにサステナブル・ディベロップメントボンドを毎年500億米ドル発行しています。これは、グリーンボンドが引き起こした革命です。より大局的に見れば、2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、この革命と勢いを継続することを意味します。債券投資のための枠組みと債券に関する報告は今後より洗練されたものとなり、やがて全ての投資家が、自らの投資について「どのようなインパクトをもたらすのか」と尋ねるようになり、これに対する明確かつ納得のいくデータに基づく回答を期待するようになるでしょう。