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特集2022年4月5日

人事が語る~グローバルキャリア構築のための処方箋~ ブログシリーズ 第14回 デジタル・ネットワーキング~英語での情報発信のすすめ (戸崎智支 HRビジネスパートナー)

すでにウェブサイトで告知されている通り、今年も日本政府が支援するジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)とミッドキャリア(MC)ポジションを募集中です。(応募締切は日本時間4月20日17時)

選考に先立ち、東京事務所主催で世界銀行グループ職員による各種セミナーが開催されており、私もいくつかのセミナーに人事コメンテーターとして参加させていただいております。その中で、みなさんから「なかなか人と会えない中、自分の経験をアピールするために、どのように世界銀行関係者とネットワーキングをしたら良いのか、」というような質問を複数いただきました。ネットワーキングは、経験をアピールする手段としてだけではなく、応募要件やその背景を詳しく把握したり、選考書類や面接の準備のための情報収集したりする上でも有益な手段です。ネットワーキングについては、2020年9月にこの人事ブログコーナーで、「ネットワーキングの妙〜ポストコロナ時代に通用するスキルとは」と題して、世界銀行で職員向けに提供されているネットワーキングスキル向上のためのトレーニングを紹介し、その上で、世界銀行への就職や転職を目指す日本人の方々向けに私なりの考察、そしてアドバイスをさせていただきました。

あれから約18カ月、現在ではコロナの感染状況に改善の兆しが見え、ワシントンDC本部をはじめ各地の世界銀行事務所で、在宅勤務からハイブリッドモデル(オフィスへの出勤と在宅勤務を組み合わせた勤務体系)へと移行しつつあります。今回のブログでは、この2年間の世界的なビジネス環境のバーチャル化・デジタル化に伴い、ネットワーキングを取り巻く環境にどのような変化があったのかを考察し、その上で環境の変化に応じたネットワーキングの具体例を紹介したいと思います。

2019年春のワシントンDCでのキャリアイベント:人事部提供
対面方式でのジョブフェアは開催数が少なくなっている。また開催されても、ブースを出展する参加企業数が以前の水準に達しない傾向が続いている。(写真は2019年春のワシントンDCでのキャリアイベント:人事部提供)


この2年間での変化

パンデミック中にほとんどの労働者が在宅勤務や遠隔地からのテレコミュート移行した中で、以前はリモートワークには向かないと言われていたような職種もテレコミュートが可能であることが実証されました。また、大規模な会合、例えば世界銀行の年次総会などもオンライン環境で実施されました。職員の出張も激減し、完全にテレビ会議方式などに代わったような会合等もあります。費用対効果を勘案し、オンラインで実施できる会議については、仮にコロナ感染へのリスクが限りなくゼロになったとしても、パンデミック以前と同水準には戻らないだろうと思われます。

世界銀行東京事務所モーニングセミナーシリーズ
以前からオンラインで開催されていた世界銀行東京事務所モーニングセミナーシリーズ

ネットワーキングに関する前回のブログでは、ポストコロナ時代はますますネットワーク構築の機会もオンラインに移行していくだろうと述べましたが、キャリア関係のイベントも、ほぼオンライン環境で提供され、インターネットさえあれば世界のどこにいようとも平等にアクセスできるようになりました。主催側としては会場のキャパシティーによる人数制限を勘案しなくても済み、また候補者側にとっては、国際機関の所在地との物理的な距離は不利ではなくなったと言えるでしょう。日本人向け各種イベントを主催する東京事務所の担当者や人事総局のアウトリーチ担当チームと今後のキャリアセミナーのあり方について議論してみると、今後はかなりの割合のイベントをオンラインで実施していくことになるだろうとの見解でした。


新しいネットワーキング手法のトレンド

情報を得る手段としてのネットワーキングについては、地理的制約によっての不利がなくなったことで、日本にいる日本人には非常に有利な状況になったと言えるでしょう。

他方で、自分の専門をアピールする機会、自分の人となりを知ってもらう機会、という点についてはバーチャル化に合わせた対応が必要です。以前は、学会やセミナー、そして共同プロジェクト等で、各専門の世界銀行職員などに候補者の側からアプローチして自らを知ってもらう機会が豊富にありました。例えば、私が日本人採用ミッション事務局を担当していた2018年までには、キャリアセミナー終了後など、ざっくばらんに情報交換する機会があり、候補者の経験を伺うことができたように思います。また、部署の採用マネージャーも、セミナーや学会などで出会った方からレジュメを受け取ることもあり、それを部内で閲覧したりしていたそうです。最近ではそういった会合がオンライン環境で実施されることが多くなったため、潜在的候補者とやり取りする場はかなり減ったとのことです。

こうした流れに対応するには、候補者の側からオンライン環境に即した自分なりの情報発信を積極的に行っていくことが必要になります。そのためには、自分の専門や経験の紹介になる媒体を確保することをお勧めいたします。


具体例1~LinkedInを活用した情報発信

ほとんどのみなさんが今すぐにでもできるであろう情報発信は、LinkedInによる各種活動です。まずは、自分が興味がある組織や専門家をフォローしたり、投稿に関してコメントを残したりすることです。例えば、これまでの採用ミッションにも何度か参画し、日本人を採用してきた実績のある都市・防災・強靭性・土地・グローバルプラクティスのサメー・ワーバ局長は、定期的にLinkedInの自身のページに活動報告や知見を共有しており、コメントには必ず目を通しているということです。もし、関連分野の皆さんから見解や質問があれば、意見の交流が生まれる可能性もあります。これは、立派なネットワーキングと言えるでしょう。

都市・防災・強靭性・土地・グローバルプラクティスのサメー・ワーバ局長のLinkedInページ
都市・防災・強靭性・土地・グローバルプラクティスのサメー・ワーバ局長のLinkedInページ(本人の許可を得て掲載)

今回の日本政府が支援する採用プログラムで、ミッドキャリア(MC)ポジション(TOR参照)を出しているガバナンス・グローバルプラクティスのエドワード・オロウォーオケレ局長もLinkedInで自らの専門性や活動を紹介しています。私は現在HRビジネスパートナーとしてガバナンス・グローバルプラクティスの人事戦略の策定に携わっていますが、同プラクティスは積極的に外部の人材を採用する方針をとっており、実際にガバナンス・グローバルプラクティスの職員とLinkedIn上で繋がった方が空席の候補者としてショートリストされた事もあります。こういった、候補者の方のオンライン上での専門知識や経験の共有が、採用側の目に留まり採用に結びつくような流れは今後もますます増えていくと思われます。

ガバナンス・グローバルプラクティスのエドワード・オロウォーオケレ局長のLinkedInページ
ガバナンス・グローバルプラクティスのエドワード・オロウォーオケレ局長のLinkedInページ(本人の許可を得て掲載)

また、さらに踏み込んで、自ら積極的な情報発信という点では、両局長のように自らが専門分野に関する知見をLinkedInのブログ機能に投稿することも有益です。ハッシュタグ機能などを有効活用し、専門家の目に留まるように工夫し拡散すれば、黙っていても記事がオンライン上で自分を宣伝してくれるような状況になります。これらの活動は、LinkedInのアカウントがあれば誰でもできます。なお、専門の情報発信は英語で行うことが重要です。


具体例2~オンラインでのテクニカルペーパー、論文等の積極的な発信

また、テクニカルペーパー等の執筆、拡散も一つの方法です。国際開発の専門誌や学会誌に積極的に投稿したりして、ご自身の専門家としてのブランド確立を図っていくことは引き続き重要です。現在は論文投稿手続きから審査選考までを全てオンラインにて実施し、掲載もオンラインのみにしていることもあります。過去10年に渡り、国連、世銀と国際機関を目指す多くの専門家の皆さんとお話しして気が付いた日本人の特徴として、しっかりした専門性そして英語力があるにも関わらず自ら情報発信をしていこうという考えを持つ方が少ない傾向があります。積極的な情報発信のアドバイスを差し上げると、「現在属している組織の名前を出していいものか」「英語に自信がない」という回答が多くなっておりますが、まず、英語の執筆で不安があればプロにお金を払って校正サービスを受けることもできます。所属組織との関係性という観点については、日本語の業界メディアや業界誌への投稿には上司は比較的寛容であるが、英語となると二の足を踏むということを聞きます。英語による情報発信は、現在の所属組織のグローバル化にとっても何らかの利点があることが多いはずですので、交渉の余地はあると思います。世界銀行では、自分のコンセプトペーパーやテクニカルペーパーを積極的に組織内で発表しプレゼンテーションを通して、フィードバックを得つつ、専門家として徐々に外に対して発信していく職員も数多く見受けられます。


具体例3~セミナー講師やパネリストとしての参画

すでに、国際開発の各分野で第一線の専門家として活躍されている方であれば、国際機関主催のイベントや、国際機関内部の講演のスピーカーとして登壇することもお勧めいたします。昨年、コロナへの支援体制を確立すべく組織が一丸となって取り組んでいる時期に、人間開発ユニットのチーフエコノミストオフィスが、外部の専門家の方々を招聘して公衆衛生関係の講演会を開催しました。その際、日本人の経済学者で東京大学の教授をされている方が基調講演者として登壇されました。こうした場での経験や知見の共有は専門家としてのキャリアにとって非常に効果的です。チーフエコノミスト室レベルでの講演は誰もができることではないかもしれませんが、世界銀行には組織の各層で様々な勉強会、知識共有セミナー等が開催されており、大学院に属する学生や若い研究者等を招聘することもあります。そういった場でネットワークをさらに広めて行くことも可能と思われます。これは、最終的に世界銀行に転職することが目的ではなくとも、国際開発各分野の専門家としての経験を深める上で有益だと思われます。対人形式で実施されていたころは、旅費の負担などの制限があり、外部講師の招聘のハードルとなっていましたが、今では、オンライン開催で敷居も低くなっています。特に、Microsoft Teams やZoom等のテクノロジーを通して、組織を越えた知の連携がしやすくなっています。

外部の専門家の方々を招聘して開催したオンライン講演会


まとめ

過去2年間で、働き方そしてコミュニケーションの在り方が大きく変化しました。キャリア構築におけるネットワーキングについては、国際機関の所在地やセミナーの実施会場への距離など、地理的な制約はほぼ取り払われたといっても過言ではないでしょう。国際機関職員からの情報収集やキャリアセミナーへの参加という目的については、ほぼオンライン環境で得られる時代へと完全に移行したといっても過言ではないと思います。一方、自らを売り込むためのネットワーキングについては、オンライン時代に即したアプローチが求められます。今回はLinkedIn等のプラットフォームを使った手法などいくつかの例を挙げてその方法論を考察しました。

最後に、キャリア構築のためのネットワーキングにおいては、交わされる情報の質や内容が重要であることに変わりはありません。ご自身の目指すキャリア実現のために、情報、アドバイス、紹介、サポートなど何を得たいかを明確にして戦略的にアプローチすることが重要です。そして、ご自身の売りである専門性を日々磨く努力は常に大前提となっています。

 

筆者略歴

The World Bank
戸崎智支 人事総局 HRビジネスパートナー
Satoshi Tozaki, HR Business Partner

早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄道会社、外資系会社勤務。その後アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)を経て、コーネル大学にて産業労働関係学修士号を取得。多国籍企業の人事マネージャーとして北アメリカ、東南アジア、日本法人等で勤務後、2014年に国連に移り、国連人口基金(UNFPA)ニューヨーク本部人事戦略および分析担当官を歴任。2016年に採用担当官として世銀に移籍。金融、保健、環境、およびインフラ関連の専門家、エコノミストの採用を担当。2018年よりHRビジネスパートナーとしてクライアントサービスチームに異動。日本人リクルートミッション事務局運営担当も歴任。世界銀行グループにおける様々なグローバル人事・ダイバーシティイニチアチブに携わる。

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