特集

世界銀行が調達制度を改革(国際開発ジャーナル2016年5月号掲載)

2016年5月19日

(記事転載)

最低価格落札方式からの脱却なるか

世界銀行の新しい調達制度の概要が、このほど明らかになった。これは、2012年より同行が見直しを進めてきたもので、1960年代に現行の制度が整備されて以来、初めての改革となる。今年7月から運用開始される新制度は、日本企業の参画機会の拡大につながるか。改革の背景とポイントを整理する。


事業の大型化と複雑化に対応

172の国々に対し、1,800件以上の融資を実施している世界銀行。投資プロジェクトの年平均調達額は、約150億~200億ドルに上り、言うまでもなく世界最大の開発金融機関だ。
しかし、現行の調達枠組を見てみると、1960年代に導入されて以来、価格競争の原則は一度も見直されてこなかったことから、次第にその弊害が指摘されるようになった。近年は、インフラプロジェクトが大型化・複雑化するとともに、他の開発パートナーとの協調融資や民間セクターによる投資、あるいは運営ノウハウの導入が必要となるような多角的なアプローチが求められるようになってきた。
こうした問題意識から、2012年に調達制度の見直し作業がスタートした。「世銀がプロジェクト活動を通じて借入国やNGO 、民間企業とより近代的で効率的な関係を構築すること」、「事業の大きさや価値、リスクに応じて柔軟な調達を可能にすること」、そして「調達情報を公開し、透明性を高めること」の3点を目標に掲げ進められた今回の改訂作業は、4年以上かけて慎重に検討が進められた。この間、東京をはじめ 、世界100以上の都市で、民間企業の実務者や研究者、メディアなど、さまざまな立場の関係者5,000人以上と面会し、意見聴取も行われたという。昨年7月に理事会で承認され、今年7月より施行 される予定だ。これまで分かれていた機材・機器の調達や施工工事とコンサルティングサービスの調達ガイドラインも、一本化されるという。
世銀本部の業務政策・国別サビス総局(OPCS)から3月上旬に来日したディオメデス・ベロア主任調達専門官は、「他の国際機関もこれに追随し、グローパルスタンダードになるだろう」と自信を見せるが、具体的に何が変わるのか。

パブリックコメントを反映

同氏によると、関係者から寄せられた意見の中で最も多かったのが、「異議申し立て制度に実体的な実行力がない」ことへの指摘だったという。これを受け、世銀は希望する入札者に対して入札の評価結果について説明を行う「借入者によるデブリーフィング」を拡大。さらに、契約の締結前に少なくとも10営業日は応札者が借入者に対して異議を申し立てることができる「停止期間制度」を導入することを決定 した。
また、「いったん落札者が決定した後は、世銀はその契約に対して積極的に介入しないケースが多い」という指摘も寄せられた。これは、従来、プロジェクトを実施する責任は融資の受け手である開発途上国の政府にあるとされていたためである。これを踏まえ、新たな制度では、契約管理面が強化された。すべての関係者がそれぞれ負うべき責任を確実に果たせるようにすることが、その目的だ。さらに、調達方法をより柔軟なものにするため、借入者が求める場合は 他の国際開発金融機関(MDBs)や二国間開発機関で用いられている調達制度を活用することが認められることになった点も注目される。

VfMを導入

しかし、今回の改革の最大のポイントは、「支払額に対して最も高い価値を選ぶ」(Value for Money : VfM)」という概念が 導入されたことだと言えよう。ベロア氏は、「今回の意見聴取では、世銀が最も安い入札価格を提示してきたところに落札させる昔ながらの最低価格入札者を選定する方式を続けていることに対し、非常に多くの批判が寄せられた」と明かす。
「各国の市場調査の結果やビジネス慣習、市場競争の現状を鑑み、より実態に即した戦略的な制度にしてほしい」との要望を受けて導入されることになったVfM。この概念は、環境・社会的な配慮のように、単純に価格に転嫁できない労力や廃棄コスト、さらにライフサイクルコストなど、長期的な視点に立った将来のメリットと現在のコストを冷静に換算して評価しようという点で、従来の最低価格落札方式とは一線を画すものだと言えよう。
また、どの調達方法を活用するかは、調達するものの内容によって変わってくる。「例えば、パーソナルコンピューター100台の調達と、大型インフラ施設の建設工事の発注が同じ選定基準で行われて良いはずがない」とベロア氏。これを受け、世銀は現在、スタンダード・ビッディング・ドキュメントの整備を進めており、標準調達書類や評価の基準、合意文書の締結方法など、25の文書が7月1日から運用されるという。
VfMの導入に必要な基準や停止期間制度なども定められるほか、スタッフや借入者の訓練も行われるという。
もっとも、日本企業からは「理念は分かるが実際にガイドラインを見ないと何とも言えない」との声もある。実際、説明会でも、ライフサイクルコスト以外にどのような要素が「VfM」として評価されるのかといった具体的な内容を問う質問が相次いだ。また、実行にあたっては 、借り入れ金額が膨らむことを避けたい借入者側にVfMの概念をどう理解させるか、価値観のすり合わせと共有も課題となるだろう。

民間企業の参画に期待

それでも、従来、コンサルティングサービスの選定時にのみ採用されていた「質」に関する規準を施工案件にも適用することになった背景には、一時点における入札価格、すなわち初期投資額の多寡による評価をなくそうとの狙いがある。いわゆる「安かろう、悪かろう」の横行にNOを突きつける改革だといえるという意味で、「質の高いインフラパートナーシップ」を打ち出す日本にとっても追い風となるのではないか。
実際、日本企業による世銀案件の受注額はこれまで決して高くなかった。例えば、2008~15年に調達された案件を契約金額が高い順に10件見てみると、11年に南アフリカの電力案件( 9億3,266 万ドル)を受注した南ア企業がトップであるほか、中国企業がパキスタンやイエメンなどで3件、また、スペイン企業がブラジルやポーランドで2件、それぞれ受注しているが、日本企業は登場しない。
「日本勢の受注は 1,000万ドル以下の小型案件がほとんど」(ベロア氏)だという。新しい調達制度が導入されることによって、こうした傾向にも変化が生まれるだろうか。
開発途上国に流れる民間資金の存在感の高まりを受け、「民間企業の参加がこれまで以上に求められている」とベロア氏は強調する。状況は、他の国際機関や援助機関にとっても同じだろう。民間企業に魅力あるプロジェクトを形成し、「質」の高い企業の参入を呼び込むための制度づくりは共通の課題だ。その先鞭となる今回の改革について、「イノベーションへの投資」「コペルニクス的転換」だと胸を張る世銀。その効果のほどが注視される。

(本誌編集長: 玉懸 光枝)


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