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スピーチ&筆記録 2021年3月29日

環境に配慮した強靭で包摂的な回復に向けて:デイビッド・マルパス世界銀行グループ総裁によるスピーチ

スピーチの動画はこちら

はじめに

バロネス・シャフィク学長、ありがとうございます。世界銀行グループで偉大な功績を残されたシャフィク学長や、元世界銀行チーフ・エコノミストのスターン卿をはじめ、世界銀行に貢献された方々に、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で再びお目にかかれたことを光栄に思います。そしてLSEには、オンライン上でこうしてお話しする機会をご用意くださったことに感謝申し上げます。本日は、世界銀行・IMF春季会合に先立ち、スピーチをさせていただきます。気候変動、債務、格差への取組みをはじめ、喫緊の課題についてパートナーの皆様と協力し、環境に配慮した強靭で包摂的な回復に向け前進していく機会になればと考えております。  

まず、世界銀行グループにとっての英国の重要性からお話しさせてください。英国は我々のグループ機関である国際開発協会(IDA)に対する最大の出資国であり、国際復興開発銀行 (IBRD) にとっては5番目の出資国です。私は、ジョンソン首相、ラーブ外務・英連邦大臣、スナク財務大臣、イングランド銀行のベイリー総裁、アロク・シャーマCOP26議長、国会議員の皆様、市民社会、民間セクター、学術研究機関、メディアの方々との強力な関係を結ばせていただいております。そして、世界銀行ロンドン事務所を通じ、国際開発アジェンダについて合意を推進し、共通の優先事項に関する協力に向けたプラットフォーム構築に取り組んでおります。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行から1年以上が経ちました。その間、1億2,700万人が感染し280万人が死亡、1億人以上が極度の貧困状態となり、2億5,000万人分の雇用が失われ、2億5,000万人が深刻な飢餓に陥るなど、前例のない規模の危機が続いています。新型コロナウイルスは直接的な害をもたらすだけでなく、学校閉鎖や子どもの発育阻害、事業破綻と失業、貯蓄と資産の枯渇、さらには投資を抑制し緊急の社会支出を圧迫する債務超過など、長期間の「傷跡」を残しつつあります。

新型コロナウイルス感染症は、まるで山火事のように貧困層に襲いかかりました。以前から既に、紛争と暴力の高まり、多くの難民キャンプ、平均所得の停滞、計画性に欠ける貸付と不適切な債務契約、気候変動のもたらした損害など、いくつかの危機がゆっくりと進行していたところに、今回の危機が発生した形です。これらの危機はそれぞれ異なる速度で影響したので、結果として、個別に対応していたため、連関性に十分な注意が払われず、より効果的な対応のチャンスを逃すことになりました。

世界は今、将来をさらによく見極めようと努力しています。我々が今、貧困、気候変動、格差に対し世界全体としてどういった支援を選択するかが、この先の時代を決定づけることになるでしょう。我々はただちに行動を起こし、持続可能で広範な経済成長実現のチャンスをつかむべきです。そのためのソリューションは、気候悪化や環境破壊を招いたり、新たに何億もの貧困世帯を生むものであってはなりません。我々は、これらの関連する危機に対し、「環境に配慮した強靭で包摂的な開発(GRID)」と呼ぶアプローチで取り組んでいます。

私は以前のスピーチで、各国が新型コロナウイルス感染症危機に対応し、「格差のパンデミック」を逆転させて回復を図る中、世界銀行グループがどのような支援を行っているかをご紹介しました。具体的には、112カ国を対象とする新型コロナウイルス感染症関連の新たな緊急保健プログラム、今年半ばまでに50カ国で40億ドル規模に達する予定のワクチン接種事業、金融機関への投入資金倍増による貿易金融や運転資金を通じた民間セクター支援が含まれます。感染危機により在宅勤務を余儀なくされた状況でも、世界銀行による2020年のプログラム実施件数は過去最高の65%増となりました。これは、2009年の世界金融危機の際の対応を上回る大幅な伸びであり、2021年も同様のペースが続いています。すべての取組みが、考え得る限り最大の開発効果をもたらし、確かな業務政策とレビュー・プロセスに支えられたものであることが重要です。世界銀行には、議論をいとわない文化があります。職員は極めて多様で、多くの専門分野に精通し、グローバルな経験を積んでおり、業務の質を高めるために、準備と実行の両方の段階で、お互いの視点を刺激し合うことが奨励されています。

開発の専門家や皆様のような学術研究機関を含め、外部からの意見もまた極めて重要です。世界銀行の国別パートナーシップ枠組みはいずれも、市民による参加の下で開発されています。各国が我々の支援によるプログラムを策定する際には、幅広い開発関係者と連携して国別プラットフォームを構築できるよう協力しています。世界銀行のプロジェクトやプログラムの策定には、外部の専門家が積極的に参加しています。そして昨年は、世界銀行と、国際金融公社(IFC)および多数国間投資保証機関(MIGA)の両機関について、説明責任メカニズムを強化するため、大きく踏み出しました。ここで是非ご紹介しておきたいのですが、IFCが1960~2021年にかけて誓約した長期投融資は3,300億ドルでしたが、その半分以上が過去10年間だけで提供されています。

皆様には是非、国別プログラム、プロジェクト文書、各種の報告書に目を通しいただければと思います。そうすれば、世界銀行が機能している点、また機能しない可能性はないかが見えてくるはずです。途上国で望ましい開発成果を達成することこそが、世界銀行の使命と取組みの要となっています。我々の抱える課題はすべての分野に及び、水、栄養、教育、保健、インフラ、電力アクセス、ガバナンス、規制、税、接続性、包摂性、寛容さ、その他多くの重要な問題全般において、進歩のスピードを上げることが求められています。

本日は、気候変動、債務、格差という最も差し迫った3つの課題に絞ってお話ししたいと思います。その前に、背景事情と状況について少しご説明させてください。

世界銀行は、第二次世界大戦終結に先立つ1944年にIMFと共に設立されました。当初の目標は戦後の復興開発であり、世界銀行グループの一つ目の機関である国際復興開発銀行(IBRD)がこれを担いました。IBRDは現在、189の加盟国(出資国)で構成され、非営利の金融機関のような形で運営されており、途上国政府に対し、例えば、清潔な水、気候変動対策、教育など開発を目的に変動金利および固定金利の融資を提供しています。

世界銀行の2つ目の機関として重要な役割を果たしているのが国際開発協会(IDA)で、世界の最貧国支援を明確な目標に掲げ1960年に設立されました。IDAは貧困の削減を目指し、グラントのほか、長期返済の無利子または極めて低い金利での融資を提供しています。2020年6月30日までの会計年度におけるIDAの誓約額は305件のプロジェクトに対し総額300億ドルで、その内26%はグラントとして提供されました。IDAは設立以来、約4,500億ドルを114カ国に提供してきました。ドナー国にとって、貧困国にきわめて譲許的な資金を提供する際にIDAは効果的な方法となっています。新型コロナウイルス感染症の世界的流行が深刻な状況を招く中で、IDAは2020年に承認額を飛躍的に増やすことができました。そして、最貧国に対する現在の高水準の支援を継続するため、加盟国がIDA増資交渉の早期開始で合意したことをご報告します。英国をはじめとする主要出資国の支援を得て、意欲的なIDA第20次増資について12月までの妥結を目指して取り組んでいます。

世界銀行グループは世界最大の国際開発金融機関として、昨年1年間にグラントと融資で1,000億ドル以上を提供したほか、世界の債券市場で1,000億ドル近い資金を調達しています。グループ機関には、 IBRDとIDAのほかに、民間セクター支援で重要な役割を担うIFCと、途上国への投資を保証するMIGAがあります。

私が総裁に就任して以来、世界銀行グループは、業務の有効性を最大限高めるためにいくつかの重要な変更を行いました。昨年6月に完了した組織再編により、マネジメントの説明責任が引き上げられ、職員と援助受入国や国別プログラムとの距離が縮まりました。今回の再編では、国レベルのインパクトが一段と重視されるようになり、それを支える知識プログラムと研究も、業務にとってより適切で、より政策に焦点を合わせたものとなっています。組織全体としての目標は、世界銀行のグローバルな知見を援助受入国において活用し、状況を一変させ、かつ他の状況に拡大可能な開発成果を達成することです。国レベルでは、脆弱性・紛争・暴力(FCV)の影響下にある国にこれまで以上に着目しています。世界銀行はFCV国で活動する職員を増やし取組みを強化しています。難民支援、移住者削減と暴力の抑制、国と地域の安定といった取り組みにおいて不可欠だからです。こうすることにより、今後数年間にワシントンでの業務は縮小し、世界各地で、または途上国で現地採用された職員が大半を占めるようになり、その数はさらに多くなると考えています。

トピック1:気候

では、今日の3大トピックのひとつである気候についてお話しします。気候についてはすべての人が懸念していると思いますが、おそらく今年11月にグラスゴーにて開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の議長国である英国では特に関心が高いでしょう。世界銀行は、気候関連の投資が開発にとっての機会をもたらすとの視点から、途上国が気候対策で大きく前進できるよう積極的に支援を続けています。

世界銀行グループは、途上国に対して最大規模の気候対策資金を提供しています。私が総裁に就任した昨年には、世界銀行グループ始まって以来最大の気候関連投資が行われました。そして2年目である今年は1年目を上回る予定です。我々は、今後5年間で気候関連投資を平均35%にするという意欲的な目標を新たに設定しました。つまり、我々の投資全体の内35%は途上国のコベネフィット型気候対策に充てるということです。これがいかに意欲的な目標であるかと言うと、これまでの5年間における世界銀行グループの気候対策資金は、はるかに少ない貸出額の内の26%にとどまっていました。

気候対策資金は、温室効果ガス排出とその影響を軽減する「緩和」策、そして各国が気候変動の悪影響への予防を支援する「適応」策に充てられます。また、関連してもうひとつ重要な目標を設定しました。今後5年間の気候対策資金総額のうち、少なくとも平均50%は適応に充てる予定です。適応策はIDA支援対象国における割合が特に大きくなるでしょう。こうした国々による温室効果ガス排出は現在、世界全体のわずか4%ですが、その多くが気候変動により生活を脅かされるほどの影響を受けているためです。

このように資金規模とその割合について高い目標を設定したことに加え、成果についても最大のインパクトを達成できるよう取り組んでいます。具体的には、緩和策を通じて温室効果ガス排出量を実際に削減すること、そして適応策を通じてより多くの人の生活や生計を守ることです。そのために、我々の国別診断と国別戦略のすべてに気候対策の視点を取り入れようとしています。今年は、最大25件の国別気候・開発報告書を完成させる計画です。一連の報告書では、温室効果ガス排出量が特に多い途上国と、気候変動への脆弱性が特に高い国も対象とする予定です。また、世界銀行グループの資金と戦略が明確な効果を上げるよう、成果のより正確な評価に取り組んでいます。

気候変動対策の要は、「自国が決定する貢献(NDC)」と長期的な低炭素型開発計画を実践できるよう各国を支援することです。国によってアプローチは大きく異なりますが、我々は気候と開発の融合ができる限り効果的に進むよう、財政政策や持続可能な成長に向けた計画等を通じ、各国を支援したいと考えています。一部の国では、資金の適切な流れを促し、気候変動対策による成果を分配するために、炭素税の徴収が有効な施策となるでしょう。毎年、G20参加国だけでも、温室効果ガス排出の多い産業に莫大な助成金が支払われています。想像してみてください。こうした巨額の資金が、低炭素化社会への「公正な移行」のために使われれば、低炭素型で排出量実質ゼロの世界の実現に向けた歩みをどれほど加速できることでしょう。

環境に配慮した成長には、例えば、エネルギーや食料システム、製造業、運輸、都市インフラなど、いくつかの重要なシステムの転換が伴います。転換は複雑ですが、こうしたセクターは温室効果ガス排出量の90%を占めているので、排出量削減のカギを握っています。特に困難かつ重要な転換の一つとして、各国が石炭から、安価で安定供給される持続可能なエネルギー源への公正な移行を達成することが挙げられます。世界銀行はこの取組みにおいて各国を支援することが可能ですが、いくつかの要因が状況を複雑にしています。例えば、経済が石炭に依存していること、移行に伴い失業者が発生すること、新たなインフラのコストが最近の大規模投資の多くを帳消しにしてしまうこと、エネルギー不足に直面する途上国の全国送電網において石炭の代わりに、低価格で年間を通じて安定供給が可能なエネルギーの割合を短期間に増やす方法を見出すことの重要性、といった点です。二酸化炭素排出ゼロの世界を達成するには、技術面でさらなる飛躍的進歩が必要とされているのです。

気候変動は、経済、財政、開発にいくつもの大きな課題を突き付けると同時に機会も提供しています。そのいくつかを紹介することで、公の場での討論を奨励したいと思います。第一に、貧困国が石炭の使用を減らすなどして地球公共財への投資を拡大できるよう、世界はいかに支援すればいいのでしょうか。そのコストは世界全体で分け合って負担すべきでしょうか。もしそうなら、どのようにしてでしょうか。次に、人々が環境に配慮した燃料や雇用に移行するのを支援するための各国によるインセンティブはどのように整合性を図り、どこから資金を確保すればいいのでしょうか。例えば、炭素税やガソリン税を使うという選択もあるのでしょうか。第三に、効果的な炭素クレジット市場の構築は可能でしょうか。つまり、温室効果ガス排出を一部の国には認める一方で、他の国には削減に資金を提供することで、名目上の炭素削減を証明するだけでなく、実際に測定可能で持続可能な脱炭素化を促進するような市場です。第四に、各種の気候変動政策の候補について、ライフサイクル全体のコストと便益を適切に評価するには、どうすればいいのでしょうか。第五に、貧困国の人々が、気候変動に対する必要だがコストのかかる適応を実施するには、どうするのが一番いいのでしょうか。そして、被災後の救援よりも事前準備の方がはるかに効果的であることがわかっていますが、将来のパンデミックや事前災害に備えるには、どうするのが一番いいのでしょうか。そして最後に、地球公共財を守るために必要な取組みを開発、貧困削減、繁栄の共有に組み入れるにはどうするの一番いいのでしょうか。

以上が、気候変動との戦いの中核にある主要な疑問と課題です。世界銀行は、低・中所得国における分析作業や、急拡大中の気候変動対策プロジェクトにおいて、こうした課題に取り組んでいます。  

トピック2:債務

貧困国が抱える債務の状況についてもお話ししたいと思います。まず、アフリカで最も多額の債務を抱える最貧国であるスーダン共和国でみられる進展についてご紹介させてください。スーダンは、数十年にわたる紛争により、既に大きな打撃を受けています。その上、国民は気候変動による差し迫った危険にも直面しています。具体的には、人口の65%が暮らす農村地域を中心に、降水量によっては安定した食料供給が望めないのです。スーダンは、経済再建が大きく進んでおり、特に為替レートの一本化は、国の安定化、物価の安定、生産的で公平な資源配分に向けたスーダンの計画に大きく貢献しています。こうした政策改革に加え、米国政府の支援を受け、滞納していたIDA債務を返済しました。これにより、約30年ぶりに世界銀行グループによる本格的な再支援が可能になり、貧困削減と持続可能な経済再建のために20億ドル近いIDAグラントにアクセスするための基盤が整いつつあります。

スーダンはまた、債務返済と国際通貨基金(IMF)との協力により、重債務貧困国(HIPC)イニシアティブの下で総合的な対外債務削減を認められる重要な段階を完了しました。このようにスーダンについて時間をとってお話しするのは、この国の開発進展に対して国際社会からの支援が必要とされる中、この段階が非常に大きな突破口となるからです。500億ドル以上もの対外債務で身動きが取れないスーダンのような国の場合、持続不可能な水準の債務に対応するより良い方法を世界が見つけるまでは、貧困と戦い、異常気象に対応する余裕はありません。

債務については一定の進展が見られますが、貧困国の多くは過去最大規模の債務負担を抱えています。世界銀行が過去50年間に発生した累積債務として特に大きな4つの事案についてその原因と結果を検証する報告書「増え続ける世界債務(Global Waves of Debt)」によると、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の前でも、低所得全体の半数が既に債務超過またはその危険が高かったとされています。そのため、今回の感染症流行は人々の抱える債務負担を悪化させたにすぎず、政府債務の元利返済の義務がなくても貧困に陥っていたとみられます。

保健、教育、栄養、そして気候変動対策などの喫緊のニーズへの対応に使えたはずの貴重な資金が、日々、多額の債務返済に回されています。

新型コロナウイルス感染症の流行が始まって以来、世界銀行はIDA支援対象国と後発開発途上国に対し最大規模の純資金移転を行ってきました。2020年4月から12月、我々からの純資金移転額はこうした国々向けに限っても170億ドル近くに上り、内58億ドルはグラントの形で提供され、新規承認額は約300億ドルでした。それでもまだはるかに多くの支援が必要とされています。

ちょうど1年近く前に私とIMFのクリスタリーナ・ゲオルギエバ専務理事が呼びかけたG20の債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)は大いに役立っています。DSSIにより43カ国が昨年5月から12月までの間、約57億ドルの債務返済の延期を認められました。さらに今年6月末までに最大73億ドルの返済猶予が見込まれています。

しかし、すべての債権者が参加しているわけではないので、これまでのところ、債務救済は期待を下回る水準にとどまっています。パリ・クラブのメンバーでない大手二国間債権者は一部しかDSSIに参加しておらず、何よりも気がかりなのは、公債保有者や民間債権者が今回の危機の間も100%の返済を回収し続けていることです。

今回のDSSIの経験が示す通り、民間債権者は債務救済イニシアティブの下での「任意参加」の呼びかけに応えようとしません。「共通枠組み」の実施に当たり、G20諸国は中央銀行を含め、すべての公的二国間債権者が債務救済の取組みに参加するよう指導しインセンティブを設ける必要があります。また、管轄下の民間債権者に対し低所得国の公的債務削減の取組みに全面的に参加するよう強く奨励する必要があります。

さらなる参加を奨励するためにG7諸国が検討すべきいくつかの具体的な措置があります。一例を挙げると、主権免除に関する法律を改正して、当該国政府が参加している共通枠組への参加を拒否する民間債権者からの差し押さえを免除の対象に含めることもできるでしょう。

多くの国が今なお新型コロナウイルス感染症と戦っており、流動性逼迫に直面する中、DSSIはもう一度、6カ月延長して2021年末までとすべきだと考えます。しかし、債務超過の国は適度な債務ポジションを達成できるようにする債務戦略の導入を奨励すべきときでもあります。債務の持続可能性とは、単に短期的な支払い能力を確保する、つまり債務不履行を起こさなければ、社会・経済面の優先事項には最低限の対応しかしなくていいのではありません。歴史が示す通り、差し迫る債務負担から逃れることのできない国は、成長も見込めなければ、永続的な貧困削減を達成することもありません。この意味で、G20によるDSSI後の債務措置に係る共通枠組みが大きな効果を生むことができます。

金利引き下げは、共通枠組みの下で進める債務返済に大きな役割を果たすことが考えられます。公的二国間債務に6%や7%の金利を払っている国もありますが、これは現在の状況において一切正当化の余地がありません。過去20年間に短期金利と長期金利は共に4~6%からほぼゼロへと大幅に引下げられ、高所得の先進国はその恩恵を受けてきました。最貧国もまたこの「低金利長期化」の恩恵にあずかるべきではないのでしょうか。償還年限の長期化についての交渉もまた役立つかもしれません。

我々は、共通枠組みとDSSIを通じ、持続不可能な債務の状況を見極め、適度な水準への再編を支援することができます。債務超過のリスクが高いけれども依然として持続可能な債務レベルの国については、例えば償還年限の延長など、再構築を検討すべきでしょう。ただし、いずれも、民間金融機関や一部の公的二国間債権者がこれまでより多く参加することが必要になります。

気候変動の分野と同様、債務をめぐる経済・財政上の課題は膨大であり、皆様の注目と公の場での討論に値します。第一に、流動性危機の際の短期的な債務返済の援助と、人々のために貧困削減を可能にする持続可能性への長期的支援の間のどこに妥協点を見出せるでしょうか。どの国であれば、債務ストックの削減や金利引き下げをすることなく元利返済を遅らせることが適切なのでしょうか。「低金利長期化」が予測される中で、どの国の債務負担総額を削減すべきなのでしょうか。第二に、債務・投資契約に署名する国と債務負担を抱える国の間では償還年限が異なる中、どのように説明責任を果たすことができるのでしょうか。例えば、長期的な返済が難しくても債務契約の厳しい条件を受け入れることが政府担当者にとって大いに利益となる場合、契約システムはどのように役立つことができるのでしょうか。第三に、公的債務に破産手続きがない場合、国際的な金融システムはどう機能すべきなのでしょうか。契約する力も責任もある債権者と、往々にして貧しく意見の対立を解消する能力に乏しい債務国の間の明白なアンバランスをシステムはどう解決できるのでしょうか。

明らかに、透明性はこうした問題へのソリューションで重要な要素となります。債務の透明性には大きな抵抗があります。完璧な守秘義務契約は、契約を守る一方で、契約条件や場合によっては契約の存在すら極秘扱いとすることがよくあります。契約の中には、集団行動条項とほぼ正反対の条項として、例えばパリ・クラブと債務再編が同意された場合も、債権者には同様の扱いを一切求めないよう債務国に義務付ける条項が含まれていることもあります。多くの分野同様、債務も白日の下に晒すことこそが最高の改善措置となります。世界銀行には、IMFと共に、債務の問題に取り組む途上国を支援してきた長年の実績があり、途上国が適度な債務ポジションを達成できるよう今後も引き続き支援を提供していきます。

トピック3:格差

ここまで気候変動と債務について、具体的な内容とそこから生じる経済的課題についてお話してきました。最後に格差について見ていきたいと思います。最初に申し上げた通り、我々が今、貧困、気候変動、格差に対しどういった対応を選ぶかが、この先の時代を決定づけることになるでしょう。格差は、新型コロナウイルス感染症の直接的影響として特に際立っており、インフォーマル・セクターの労働者や脆弱層に最も深刻な打撃を与えています。さらに途上国ではワクチンへのアクセスにも格差が見られます。また、フォーマル・セクターや一部の資産を支援するための財政・金融刺激策を優先するあまり、将来の世代に負債を押し付けるなど、格差は拡大しています。この問題は先進国に特に当てはまりますが、同様の影響が途上国で債務を抱えた人々にも打撃となっています。公的債務や債務のロールオーバーは契約当事者である債権者と債務国にとっては最大のプラスのインパクトとなりますが、その結果、債務負担は往々にして貧困層の負担を増大させます。

私は昨年の年次総会の前、2020年10月に「格差のパンデミックを逆転させるために」というタイトルでスピーチを行いました。新型コロナウイルス感染症関連の緊急保健プログラムや現金給付プログラムを通じた財政支援を含め、格差のもたらす難題にどのように対応しているかを説明しました。

こうした格差は3つの経済的難題をもたらしており、これについて皆様に注目していただきたいと思います。第一に、ワクチン配布のための最も迅速で最も効果的な道筋は何でしょうか。配送能力に制約があるためワクチンの配布には何カ月もかかるので、ワクチン接種プロセスをより多くの国で開始することが重要です。世界銀行は今年半ばまでに50の途上国のためにワクチン用資金を用意する予定ですが、ワクチン供給の問題は解決されていません。第二に、気候変動のセクションでもお話しした通り、世界は貧困国による地球公共財への必要な投資の資金をどのようにして用意するのでしょうか。第三に、先進国による大型の財政刺激策と膨張する公的債務は途上国にどういった影響をもたらすのでしょうか。一方では、先進国の内需拡大は市場の構築につながるでしょう。他方、感染症流行の間に投資や技能、学校教育が失われ、状況は壊滅的です。データからは、貧困国は、危機以前に期待されていた生活水準の向上を達成できておらず、これまで以上に取り残されつつあることが明確です。そして第四に、先進国による資産調達は大規模で長期的かつ選択的に進められますが、そうした調達をより公平に行き渡らせることで、世界的な資本の配分を改善し、小規模事業や新規参入者に恩恵をもたらし、必要とする借入国が短期資金へのアクセスを増やせるようにできないでょうか。

終わりに

最後にお伝えしたいことがあります。新型コロナウイルス感染症により我々は分岐点に立たされることになりましが。我々が未来に向けた政策を選定するに当たり、過去の過ちを繰り返さないようにすることは可能です。打撃を修復するために、環境に配慮した強靭で包摂的な回復を確実に実現する、総合的で長期的な戦略が必要になります。その際、各国が技能や知識を増やし、発育阻害や栄養不良を軽減し、清潔な水やエネルギーへのアクセスを確保し、よりよい保健医療を提供できるよう支援する政策の必要性と整合のとれたものにする必要があります。我々は各国が将来の感染症流行への予防を強化できるよう支援しなければなりません。また、開発とデジタル技術の導入を加速できるよう支援する必要があります。さらに、現地のサプライ・チェーンを向上させ生物多様性とエコシステムの強化も図らなければなりません。

これらすべてにおいて公共セクターと民間セクターのどちらにも、果たすべき重要な役割があります。各国政府は、保健や教育の資金確保や、主要な公共財と基幹インフラへの投資を通じて、基盤構築に貢献することができます。各国政府はまた、適切な法律を制定し、可能な限り民間セクター参入の余地を作るなど、道を開くためのさらなる貢献が可能です。外国直接投資(FDI)を含め、民間投資を促進するための政策改革を実施する必要もあります。また金融機関が可能な限り速やかに不良債権を処理できるよう支援する必要もあります。民間投資は、気候変動、債務、格差の問題に対応するに当たっての鍵となるでしょう。いずれの問題もイノベーションが求められていますが、実現させることができるのは民間セクターだからです。民間セクターはまた、環境・社会面での厳密な基準の適用、納税、債務問題の解決への貢献など、企業としての責任を担う必要があります。政府と民間セクターは、公平な責任の分担と優れたガバナンスによる官民合同のイニシアティブを検討するなど、エネルギーをはじめとする多くのセクターで協力することが求められるでしょう。

本日のスピーチで強調してきた通り、学術研究者、開発実務者、政策担当者にも協力して果たすべき重要な役割があります。世界は今、とてつもない困難に直面しています。中には答えがはっきりしているのに、それを明確に政策担当者に伝えることが難しいケースにあります。また、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの皆様を含め、学術研究者が未解決の問題に取り組むに当たって突破口を開き、そうすることで、環境に配慮した強靭で包摂的な21世紀型の繁栄モデルの構築に一役買うことができるケースもあります。世界銀行グループは、気候変動、債務、格差への対応支援に加え、官民セクターによるソリューションを提示すると共に、分析、財政支援、招集力を独自に組み合わせるなど、重要な役割を果たすことができます。

今日、我々の前には進路を変更できる歴史的な機会が開かれています。それは、途上国の開発成果を改善し、気候変動、構造的な格差、社会不安、紛争の高まる危険を乗り越えるための機会です。我々は再建を図るに当たり、社会から取り残された最貧困層を中心に広範で永続的な繁栄が高まるような回復を達成することができるはずです。決して見逃すわけにはいかないチャンスです。

ご清聴ありがとうございました。

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