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スピーチ&筆記録 2020年10月5日

格差のパンデミックを逆転させるために

世界銀行・IMF年次総会に向けたデイビッド・マルパス世界銀行グループ総裁スピーチ

スピーチの動画はこちらから

はじめに

ありがとう、イェンス。フランクフルト金融経営大学並びにドイツ連邦銀行の皆様、本日はバーチャル会議にお招きいただきありがとうございます。皆様とこの場を共有できること、コロナ後の世界において、ビジネスリーダーとなるであろう学生の皆様から質問をお受けすることを楽しみにしています。間もなく国際通貨基金(IMF)と世界銀行グループの年次総会が開催されます。今年度の総会では、新型コロナウイルス感染症と債務が大きなテーマとなるでしょう。この他、人的資本、気候変動、デジタル化等の緊急性の高いテーマについても、パートナーの皆様と議論する予定です。

本題に入る前に、ぜひとも申し上げたいことがあります。それは、世界銀行グループの年次総会に向けた総裁スピーチが欧州大陸で発表されるのは、これが初めてだということです。ドイツは、世界銀行グループと欧州諸国にとって、「錨(いかり)」とも言うべき重要な存在です。国際復興開発銀行(IBRD)にとっては第4位の出資国であり、国際開発協会(IDA)に対する拠出額でも世界第4位につけています。また、メルケル首相は世界銀行グループの優先課題の強力な支持者として、債務や新型コロナウイルス感染症に関する取組み、地球公共財に関する活動を常に後押ししてくださいました。これらの優先課題は、ドイツが2020年末まで理事会議長国を務めている欧州連合(EU)でも議論の焦点になっていると認識しております。

先ほどイェンスからも指摘がありましたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行は過去に類を見ない危機です。すでに膨大な数の犠牲者が出ていますが、この危機の影響を最も強く、そして最も長く受ける可能性が高いのは最貧国の人々です。この感染症は世界のいたる場所で人々の命を奪い、生活を破壊しました。1870年以降、これほど多くの国が同時に不況に陥ったことはありません。この世界規模の不況は「失われた10年」の第一波となり、世界中の国々に成長の鈍化、保健・教育制度の崩壊、過剰な債務という重荷を負わせる可能性があります。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行は私たちの世界に決定的な変化をもたらし、痛みを伴う変革を迫りました。人々の働き方から移動の範囲、コミュニケーションや教育、学習の方法まで、文字通りあらゆるものが変わりました。テクノロジー分野を筆頭に、この危機によって活性化した産業もありますが、その他の産業は大きく縮小しました。

世界銀行グループは、この危機に幅広い側面から取り組んできました。例えば救命活動、貧困層・脆弱層の保護、持続可能なビジネス成長の確保、より良い形での再建等です。その中から、今日は特に緊急性の高い4つの側面を取り上げたいと思います。第一は、貧困と格差の緩和をさらに加速させる必要性、第二は、危機によって生じた人的資本の喪失とその再構築のためにすべきこと、第三は、有効な投資を呼び込む条件として、最貧国が政府債務の透明性を高め、債務負担を抜本的に削減するための緊急支援、そして最後に、包摂的で強靱な回復に必要な変化を促進するための協力です。

テーマ① 貧困と格差

最初のテーマは貧困と格差です。極度の貧困を撲滅し、平均所得を引き上げ、繁栄を共有するために世界中で推進されていた取組みは、新型コロナウイルス感染症によって過去最大の後退を強いられました。

イェンスからも言及のあった世界銀行の最新の貧困予測では、2021年までに新たに1億1,000万人から1億5,000万人が極度の貧困に陥るとみられています。極度の貧困とは、1日当たり1.90ドル未満で生活している状態のことです。これは感染症の世界的流行と世界規模の不況により、世界人口の1.4%超が極度の貧困に追いやられる可能性があることを意味します。

現在の危機は、2008年の危機とは大きく異なります。2008年の危機では、被害を被ったのは基本的には金融資産であり、途上国よりも先進国の方が深刻な影響を受けました。それに対して、今回の不況は範囲が広く、深刻度もはるかに高くなっています。その影響を特に大きく受けているのは、高所得層や資産家ではなく、インフォーマル・セクターの労働者と貧困層、特に女性と子供たちです。

この違いの一因は、先進国の政府は大規模な財政支出計画を実行できた点にあります。豊かな国には国民を守るための資金があったが、多くの途上国にはそれだけの資金はなかったということです。もう一つの理由は中央銀行による資産購入です。各国の中央銀行は前例のない規模で資産を購入し、世界の金融市場を支えました。これは富裕層や潤沢な年金を受けられる人々、特に豊かな国の人々に恩恵をもたらしています。しかし理論上も実際にも、ゼロ金利や拡大し続ける政府の資産と負債のバランスが、格差の解消に必要な新規雇用の創出、小規模事業の黒字化、平均所得の上昇につながるのかは明らかになっていません。

貧困国はマクロ経済的手段や財政の安定化機能を十分に持たず、保健医療制度や社会的セーフティネットも脆弱です。このため、先進国の消費者に対する売上が突如減少し、ほぼ一夜にして観光業や国外の親族からの送金が消滅するという事態が起きても、直ちに状況を逆転させる措置を講じることはできません。持続可能な回復を実現するためには、権力の座にある人々のみならず、全ての人に恩恵をもたらす成長が必要であることは明らかです。あらゆるものが相互につながりあい、人々がかつてないほど多くの情報を手にするようになった今日の世界では、この格差のパンデミックは貧困の増加と平均所得の減少と共に、社会秩序の維持と政治の安定、ひいては民主主義の擁護を脅かすものとなるでしょう。

テーマ② 人的資本

第二のテーマは人的資本です。新型コロナウイルス感染症の流行が始まるまで、途上国は目覚ましい進歩を遂げ、特にジェンダー格差の解消が実現されつつありました。人的資本は持続可能な経済成長と貧困削減の促進剤です。人的資本は人々が生涯を通じて獲得する知識、技能、健康状態等を指し、個人レベルでは収入、国レベルでは国民所得、社会レベルでは一体性の向上と関連付けられています。

しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行以降、途上国では16億人を超える子供たちが学校に通えなくなりました。これは子供たちが生涯に得る収入が合計10兆ドル失われる恐れがあることを示唆しています。ジェンダーに基づく暴力も増加しています。数年後には子供の死亡率も上昇するでしょう。世界銀行グループの初期の見積りでは、保健サービスが逼迫し、食料の入手が困難になることにより、子供の死亡率は最大45%上昇する可能性があることが示されています。

こうした後退は、生産性、所得成長率、社会の一体性に長期的な打撃を与える可能性があります。だからこそ、私たちはあらゆる手を尽くして、途上国における保健と教育の強化に取り組んでいるのです。保健分野では、世界銀行グループは3月の理事会で新型コロナウイルス感染症に迅速に対応するためのファストトラック・ファシリティを立ち上げ、これまでに111カ国で緊急支援を提供しました。現在ではほとんどのプロジェクトが実行段階の後半にあり、新型コロナウイルス感染症関連の保健物資、例えばマスクや救急処置室用の機器の調達に貢献しました。

世界銀行グループの目標は、流行の早い段階で広範な措置を迅速に講じること、最貧国への資金純流入を確保することでした。15カ月間で1,600億ドルを提供するという当初の目標は順調に進展しています。こうした資金のほとんどは最貧国と民間セクターに提供され、貿易金融や運転資本に活用されています。この内の500億ドル超は、保健医療制度や社会的セーフティネットの維持・拡大の資金として、グラント又は低金利の長期融資の形で提供されます。どちらも数百万世帯が目の前の危機を乗り超え、健康を維持する上で重要な役割を果たすでしょう。

世界銀行グループは、途上国が新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬を確保するための支援も提供しています。先週は、新型コロナウイルス感染症のワクチンが世界の複数の厳格な規制機関で承認された場合に備え、コロナ危機に対するファストトラック・アプローチを拡大し、最大120億ドルを投じて途上国のワクチン購入・展開を支援する計画を発表しました。この追加融資はワクチンの確保が難しい低・中所得国に提供され、各国が国内の感染状況を制御するために用いられる予定です。このアプローチは、世界銀行が公衆衛生やワクチン接種計画の分野で有している豊富な専門知識を活用したもので、途上国は承認されたワクチンを様々な方法で調達できること、大きな購買力を持つことを市場に知らせるものとなります。

世界銀行グループにおいて、民間セクターを担当する国際金融公社(IFC)も、40億ドルのグローバル・ヘルス・プラットフォーム(GHP)を通じて、ワクチンメーカーに大規模な投資を行っています。目的は、先進国と途上国の両方で新型コロナウイルス感染症のワクチンと治療薬の生産を促進し、新興国の人々がワクチンを確実に接種できるようにすることです。IFCはワクチン開発を促進するパートナーシップである感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)と協力して、特に潜在的なボトルネックに注目し、新型コロナウイルス感染症ワクチンの生産能力のマッピングに取り組んでいます。

コロナ危機が教育に与える影響を緩和するために、世界銀行は各国が小・中学校を安全かつ速やかに再開できるよう支援しています。子供の学力は学校に通わなくなると後退する傾向があります。最貧国の生徒の場合、学校は貧困から抜け出すための重要な手段である読解力や数学的知識を身につける場であるだけでなく、食事をとり、安全に生活するための重要な場にもなっています。世界銀行は65カ国で、最脆弱層を対象としたオンライン授業、ラジオ、テレビ、ソーシャルネットワーク、印刷教材を組み合わせた遠隔学習戦略を実施しているほか、国連児童基金(UNICEF)や国連教育科学文化機関(UNESCO)と協力して、学校再開のための枠組みづくりにも取り組んでいます。

例えばナイジェリアでは、女子が中等教育を受ける機会を改善するため、「青年期女子のための学習・エンパワーメント・イニシアティブ(AGILE)」に5億ドルを新規に提供しました。本プロジェクトはテレビ、ラジオ、遠隔学習ツールを駆使することで、600万人を超える女子に恩恵をもたらす予定です。

テーマ③ 債務負担

三つ目の差し迫ったテーマは債務です。様々な要因が組み合わさり、失敗する余裕を持たない国々の間で過剰債務の波が発生しました。世界の金融市場では低金利環境が続いており、利回りの追求が過剰な借入を誘発しています。その上、世界の債務システムはバランスを欠き、現在のソブリン債務は借入国の人々よりも債権者に有利に働く歪んだ性質を持っています。債務の部分払いや返済額の減額を可能にする、国家の破産手続も存在しません。そのため、債権者が返済を要求する限り、国民は自国政府の債務を支払う必要があります。世界で最も貧しく、最も困窮している人々ですら、例外ではありません。破綻した企業の債権を流通市場で買い取る、いわゆる「ハゲタカ」と呼ばれる債権者までもが、訴訟や違約金条項、裁判所の判断を利用して債権価値の上昇を狙い、資産や支払の差し押さえを利用して債権を回収しています。最悪の事例では、現代版の債務者監獄とも言うべき状況が生じているのです。

その上、政府関係者が多額の借入を行う政治上のインセンティブや機会も増えました。政府関係者にとって、返済期間の長い借入はキャリア上のメリットがあります。返済のサイクルは、政治のサイクルから遅れて始まることが少なくないからです。その結果、債務に対する説明責任が失われ、透明性の重要性がかつてないほど高まっています。

今回の債務の波では、新たに公的な貸し手の台頭という要素が加わりました。その典型が、潤沢な資本を持つ中国の債権者です。こうした貸し手はポートフォリオを飛躍的に拡大しましたが、過去に債務の波を和らげるために開発された債務繰延プロセスには必ずしも参加していません。

最貧国の債務救済を実現する最初の一歩として、私は今年3月に開催された世界銀行春季会合において、IMFのクリスタリナ・ゲオルギエヴァと共に、最貧国の債務返済猶予を提案しました。この提案は、ある面では新型コロナウイルス感染症に対応し、各国の財政余力を強化することを意図したものでしたが、最貧国で債務危機が進行しているという認識に基づくものでもありました。G20、G7、パリクラブの承認を得て、債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)が5月1日付けで発効しました。DSSIは債務の課題に迅速かつ協調的に対応することにより、世界の最貧国の財政余力を拡大しました。9月半ばの時点で、43カ国が世界銀行とIMFが提供する強力な緊急融資に加え、二国間債権国から推定50億ドルの債務返済猶予を認められました。債務の透明性も大幅に向上しました。これは借入国とその債権者がより多くの情報に基づいて借入や投資に関する決定を下す助けとなるでしょう。来週月曜日、10月12日に発表される世界銀行国際債務統計の2020年度版には、この70年近くの間で最も詳細かつ細分化されたソブリン債務データが掲載される予定です。

債務救済に関しては、まだ多くのステップが残されています。その一つは、現在の債務イニシアティブの範囲と期間を拡大し、より抜本的な解決策を導き出す時間を確保することです。世界銀行とIMFは、DSSIの救済を2021年末まで延長するようG20に呼びかけるとともに、G20諸国の政府が自国の全ての民間債権者及び二国間公的セクター債権者にDSSIへの参加を要請する必要性を強調しています。民間債権者やDSSIに参加していない二国間債権者が、他の債権者による債務救済にただ乗りし、世界の貧困層を犠牲にすることは許されません。

債務返済の猶予は暫定措置としては重要ですが、十分ではありません。第一に、DSSIに参加していない債権者が多いため、債務救済の規模に限界があり、格差のパンデミックが必要とする財政余地を確保することができません。第二に、返済は減額されたのではなく、繰り延べられたにすぎないため、債務の返済に終わりが見えないことに変わりはありません。低金利・長期返済が常態化している現在の融資環境では、なおさらです。通常の貨幣の時間的価値は通用しません。債権者が提案する複利型の債務返済繰延は多くの場合、債務負担が時と共に減るのではなく、増えることを意味します。これまで債務再編に用いられてきた正味現在価値による計算式は債務国の人々にとって公平なものかも検討する必要があります。

問題は、最貧国が債権者を説得し、成長と投資の再開に必要なだけの債務減額を勝ち取るためには、数年、場合によっては数十年を要する可能性があることです。コロナ危機の規模を考えると、深刻な債務リスクにさらされている国々の債務残高を有意に減らすためには早急な対応が必要です。しかし現在の仕組みでは、貧困の程度にかかわらず、それぞれの国が債権者と債務の減額について個別に交渉しなければなりません。一般に、債権者は潤沢な資金を持っているため、一流の弁護士を雇い、通常は米国か英国の裁判所で交渉しようとします。これが、債務再編が困難である理由です。開発の分野では、米国と英国は重要なドナー国でもありますが、最貧国向けの公共政策と、債権者が最貧国に返済を要求する権利を守る法律を両立させるために、もっと多くのことができるはずです。

必要なステップはいくつかあります。第一は、先ほど申し上げたように、全ての二国間債権者と民間債権者が返済猶予に全面的に参加することで、時間を稼ぐことです。第二は、最貧国政府の既存債務と新規債務、負債性コミットメントの条件を完全に透明化することです。こうした透明性は、債権者と債務者の両方が採用すべきものですが、この点ではどちらも十分な成果を出せていません。第三は、この強化された透明性を利用して、国家の長期的な債務持続可能性を慎重に分析し、ソブリン債務は持続可能な水準にあるか、成長と貧困削減に資するものとなっているかを明らかにする必要があります。このレベルの透明性と分析は、公的年金基金の支出予測のような先進国の公約にとっても非常に有益です。第四は、最貧国の債務残高の削減を前進させる新しいツールを導入することです。世界銀行とIMFは、持続不可能な水準の債務を抱えているIDA借入国の債務を削減するため、2020年末までに共同行動計画を開発委員会に提案します。

より広い観点から見ると、新型コロナウイルス感染症の登場以降、過剰債務問題は多くの企業の債務返済能力を危うくするまでに拡大しました。国際決済銀行の推定では、企業の半数は向こう一年間の金融コストを払うだけの現金を持っていません。

膨らみ続ける企業債務は、その他の面では成長力のある企業を破綻に追い込み、失業率を低下させ、起業意欲をそぎ、成長見通しを長期にわたって低迷させる可能性があります。世界銀行とIFCはどちらも、この問題に援助受入国と共に取り組み、各国がシステム上重要な企業の運転資本を強化する一方で、破産手続の強化・改善も進められるよう支援しています。

テーマ④ 包摂的で強靱な回復の促進

第四のテーマは包摂的かつ強靱な回復の促進です。新型コロナウイルス感染症は、一部の災厄に関する限り、国境はほとんど国を守る役に立たないことを残酷な形で証明しました。また、経済システムと人間の健康、そして世界全体の幸福の間には深いつながりがあることも明らかになりました。その結果、次の危機に備え、全ての国、特に最貧困層・最脆弱層を確実に保護するためのシステムを構築することに注目が集まっています。

国レベルでは、各国が自国の気候目標と環境目標に取り組むことが非常に重要です。一方、世界レベルでの最優先事項は、発電の過程で排出される二酸化炭素量を削減することです。これは石炭や石油に依存する発電プロジェクトを新たに立ち上げないこと、二酸化炭素排出量の大きい既存の発電所を段階的に縮小することを意味します。排出量の多い国の多くは途上国ですが、実際は先進国も含まれています。こうした国々は依然として、この分野で十分な進捗を示せていません。

世界銀行グループは新型コロナウイルス感染症の流行下でも、気候変動対策に対する世界最大の多国間資金提供機関であり続けました。この5年間に、世界銀行グループが気候関連のプロジェクトに投じた資金は830億ドルに上ります。こうした支援を通じて、50カ国超の1億2,000万人が気象データや災害時の人命保護に欠かせない早期警報システムにアクセスできるようになりました。また、コミュニティ、企業、経済を支えるために、34ギガワットの再生可能エネルギーを電力供給網に統合しました。私が1年を通じて総裁として活動した最初の年である2020年度に、世界銀行グループが過去最大の気候関連投資を達成したことをうれしく思います。

こうした活動は今後5年間をかけて、さらに強化される予定です。世界銀行グループは、各国が森林、陸地、水資源を含む生物多様性に経済的価値を置き、各国がこうした自然資源を効果的に管理し、気候リスクが女性や脆弱層に与えている影響を評価できるよう支援しています。

世界銀行グループは、環境に有害な燃料補助金の撤廃又は転換、食品や医療用品に対する貿易障壁の削減の点でも各国政府を支援しています。しかし世界的にみると、この分野では未だ大きな進展がみられていません。新型コロナウイルス感染症のための財政出動は、二酸化炭素排出量の少ない電源の普及や、強力かつ強靱な回復の促進において、極めて重要な効果を発揮する可能性があります。

経済自体について言えば、景気後退の深刻度や長期化の可能性を考えると、持続可能な回復を実現するための重要なステップの一つは、経済や人々が変化を可能にし、受け入れることです。各国は資本、労働力、スキル、イノベーションをコロナ後の新しい環境に投入する必要があります。その結果、出張や握手よりも電子的なつながりを重視する未来の商業環境では、自分のスキルやイノベーションを新しい形で活用している労働者や企業が高く評価されるようになるでしょう。

回復を加速させるためには、各国は官民セクターの基幹事業を維持しつつ、この不況を乗り切れない企業は多いことを認識して、両者のバランスを取る必要があります。多くの場合、コロナ前の事業構造を支えようとするよりも、家族を援助する方が支援活動の効果は高まります。

持続可能な回復を迅速に実現するためには、ビジネス環境を変革し、改善することが不可欠です。この変革プロセスの要は、不良資産の所有権や用途を速やかに変更できるようにすることです。そのためには、破産手続の迅速化、少額請求のための新しい法的手段、仲裁等の裁判外の手段を組み合わせることが必要になります。有効な契約や資本配分には複数の重要な条件がありますが、その全てがそろっている途上国は数えるほどしかありません。今回の景気後退の深刻度を考えると、商法の合理化と透明性の強化は、新しい負債・持分資本を利用できることと同じくらい、回復の重要な条件となります。

しかし、どのステップも十分ではありません。現実問題として、どれほど寛大なドナーであろうと、援助だけで収支を合わせることはできないからです。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年は極度の貧困が増加するとみられていますが、これを逆転するだけでも年間700億ドルが必要です(1日当たり2ドル×1億人)。これだけの金額を提供することは、世界銀行グループはもちろん、どの開発援助機関の財政基盤をもってしても不可能です。持続可能なソリューションは、変化を受け入れることによってのみ可能になるというのが私の考えです。変化を受容しながら、イノベーションを起こし、既存の資産や労働者、業務スキルを新しい形で活用し、過剰な債務負担をリセットし、安定した法の支配を実現するガバナンスシステムを整備する必要があるのです。

終わりに

最後に、強靱な回復の条件として、貧困、格差、人的資本、債務削減、気候変動、経済の適応性への対応が急務であることをお伝えしたいと思います。この100年に1度の危機は、歴史は同じようには繰り返さないという言葉の正しさを証明しました。なぜなら、人類は過去の過ちから学ぶからです。これまでのところ、新型コロナウイルス感染症の世界的流行は深刻な副作用を引き起こしていません。ハイパーインフレも、デフレも、大規模な飢饉も起こりませんでした。多くの人が収入を失い、過去のほとんどの危機と比べて、危機の影響に大きな格差が見られることも事実ですが、これまでのところ、世界規模の経済対策は初期の想定をはるかに超える大規模なものとなっています。

保健上の緊急事態という観点からも、各国の支援制度や回復計画の策定を支援するという観点からも、開発対応は期間を延長し、さらに強化していく必要があります。協力を拡大することで、これまでよりもはるかに迅速に知識を共有し、効果的な解決策を策定し、適用できるようになります。その結果、革新的な企業がワクチンを開発し、ウイルスを撃退し、人々が将来に対する信頼を取り戻すことが可能になるでしょう。あらゆるチャネルを通じて活動することで、私たちは景気後退の期間を短縮し、全ての国、全ての人を困難から救い出すことのできる、力強い繁栄モデルの強固な基礎を築くことができるのです。それが私の希望であり、確信です。

ご静聴ありがとうございました。 

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