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スピーチ&筆記録

ジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁 日本外国特派員協会におけるステートメント

2015年3月13日


ジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁 東京, 日本

スピーチ原稿

本日はお集まりいただき、ありがとうございます。世界銀行グループは、設立以来初めて、その使命に沿った2つの具体的な目標を設定致しました。一つは2030年までの極度の貧困の撲滅、もう一つは繁栄の共有の促進です。最初の目標を達成するために我々は、1日1.25ドル未満で暮らす人々の数を、向こう15年以内に世界人口の3%未満まで減少させる事を目指しています。二つ目の目標を達成するためには、途上国の所得の下位40%の人々が、国全体の平均よりも高い割合で経済成長の恩恵を享受できるようにする必要があります。この目標達成のための唯一の方法は、より包摂的で社会的に持続可能な経済成長を、環境を守りながら加速させていく事です。 これこそ、我々が描いている計画です。

この2つの目標は、いずれも野心的なものです。一世代の間に貧困という悲劇を撲滅する。これを人類史上初めて、我々の世代の間に実現できるかもしれないのです。そう考えると、身が引き締まる思いです。1973年に、ロバート・マクミラン元世界銀行総裁は貧困を、「読み書きもできず、病気や栄養不良に苦しむ悲惨な状態で、生きていくために最低限必要な物すらない」と表現しました。現在、10億近い人々が、そうした状況で暮らしています。しかし、この目標を達成できれば、そうした人々がわずか15年以内にそこから抜け出す事ができるのです。

今回私は、「第三回国連防災世界会議」に出席するために来日致しました。自然災害への備えが整わない限り、世界銀行グループの目標の達成は厳しいものになるからです。日本政府はこれまで、専門知識の蓄積という重要な取り組みを支援し、自らの持つノウハウを世界と共有するなど、世界の防災分野において際立ったリーダーシップを発揮してこられました。安倍総理をはじめとする政府の皆様は、この分野における我々の一番のパートナーです。各国が将来の自然災害に対する備えを整えるためには、これからも日本の支援が不可欠です。

我々はこの問題に、これまで真剣に取り組んできました。災害は、地質学的、気象学的、生物学的のいずれであろうと、悲劇的な結果をもたらします。人の命を奪い、経済成長を大きく減速させます。過去30年間に世界全体で、自然災害の犠牲者は250万人以上を数え、被害総額は4兆ドル近くに上りました。また、災害関連の犠牲者の内、4分の3以上を途上国が占め、半分近くを低所得国が占めています。

2010年、ハイチでは、10年以上かけて達成された経済成長が地震により失われました。2013年には、フィリピンを直撃した台風「ハイヤン」により、50万近くの世帯が貧困状態に陥り、最も被害が深刻な地域では貧困率が56%まで悪化しました。さらに、この16カ月の間には、エボラ出血熱の大流行による死亡者数が、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国で合計1万人近くに上っています。ここで改めて申し上げたいと思います。今回の大流行の封じ込めは、まだ終わっていません。そして経済への深刻な影響は、症例数がゼロになるまで今後も続いていく事でしょう。世界銀行の試算では、2015年にはエボラ危機により、これら3カ国で16億ドルもの経済成長が失われると推定されています。エボラ危機発生以前は世界でも高い水準にあった3カ国の成長率は、ゼロ成長、又はマイナス成長になると見られます。

肝心なのは、貧困の撲滅のためには、いかにして災害リスクを管理し、防災知識を積極的に発信するかについて理解を深める事です。気候変動に伴い、極端な気象現象は頻度と激しさを増し、期間も長くなるでしょう。つまり、干ばつや地震、台風のもたらす災害リスクは今後、悪化の一途をたどる事になると考えられます。

こうした展開により大きな影響を被るであろう民間セクターも、そのリスクについて十分に把握しています。2013年、保険業界の幹部を対象に行われたタワーズ・ワトソンの調査では、幹部らが最も恐れているリスクは、感染症の大流行、ハリケーン、地震でした。また、世界経済フォーラムが発表した今年の「グローバル・リスク報告書」によると、主要企業のCEOを含むビジネス界のリーダー達は、最も深刻な経済リスクとして環境面の脅威を挙げています。

こうした見方は、災害リスクに対する十分な事前準備が整っていない事が大きな要因になっています。世界経済フォーラムのリスク報告書は、企業経営者などビジネス界のリーダーがこう結論付けた理由を、「異常気象や気候変動などの課題に対処するには、現状の備えでは不十分だとする専門家の声が大きくなっている」からだとしています。我々も同じ懸念を抱いています。しかも、リスクや発生し得る損害とは、経済的に余裕がない小国でこそ拡大するという事を付け加えたいと思います。

過去20年間、国際社会が災害救助、予防、事前準備に対して誓約した拠出額は1,100億ドル弱に過ぎません。近年、災害復旧の関連コストは世界全体で今や年間平均2,000億ドル近くに上り、しかもその75%近くが気候関連の災害によるものである事を鑑みれば、1,100億ドルという額は決して多くない金額です。その上、災害援助の内、予防と事前準備に充てられた額はわずか10%強です。対照的に、日本は、防災予算の約80%を事前準備に充てています。

日本が、災害に対する事前の準備を重視するのには、もっともな理由があります。

2013年秋、インドに上陸したサイクロン・ファイリンにより不幸にも40人が犠牲になりました。しかし、1999年に発生した同規模の暴風雨では、1万人の犠牲者が出ています。この差は、インドの人々に備えがあったからです。新たな早期警報システムと、サイクロン・シェルター網の充実により、90万人が暴風雨を逃れ、安全な場所に避難できました。我々の試算では、早期警報システムに対する1ドルの投資は、資産や企業活動の損失を防ぎ、4ドル~36ドルの経済的利益をもたらす可能性があります。

世界銀行などが行った調査では、災害への備えを怠ると、貧困撲滅のための最も強力な推進力となる経済成長が鈍化する可能性が指摘されています。具体的には、予防策が不十分だと、投資の際に過度のリスク回避をしようとする行動様式につながる恐れがあります。この傾向は、過去に自然災害を経験した事のある人に特に顕著に見られます。個人投資家も機関投資家も、とにかく資金をリスクにさらさない事を優先します。これと同じ傾向は、エボラ出血熱の大流行でも見られます。感染のリスクを避けようとするあまり、人々は経済活動から遠ざかるようになります。世界銀行グループの分析によると、ギニア、リベリア、シエラレオネでの経済成長鈍化の大半は、こうしたリスク回避の行動が原因です。

この点を踏まえ、我々は、防災分野において、改めて途上国での予防と事前準備の充実を図っています。例えば、昨年7月以降、最貧国を支援する国際開発協会(IDA)の全ての開発プロジェクトにおいて、リスクのチェックを行なっています。また、各国における世界銀行の支援の指針を表した国別パートナーシップ枠組みにも、こうした情報を組み込んでいます。つまり今後、最も貧しく立場の弱い国々における世界銀行グループのプロジェクトは、取りも直さず自然災害や気候変動への備えをしっかりと整えたものとなっていくのです。

我々はまた、途上国が自然災害への脆弱性を軽減し、気候変動に適応できるよう、様々なパートナーと協力しています。日本はこの分野において特に重要なパートナーです。 2012年に開催された仙台会合の後、途上国の防災を支援するため、1億ドル規模の「日本-世界銀行防災共同プログラム」が立ち上がりました。また東京に防災ハブを設置し、各国のプログラム、投資家の投資計画、世界銀行グループのプロジェクトに役立てていきます。

自然災害に備えるための最も重要な措置のひとつは、事前準備のために迅速に資金を確保できるようにしておく事です。日本では、この考え方もまた浸透しています。例えば2008年、日本の農業機構であるJA共済は、ドイツの再保険会社であるミュンヘン再保険からキャット・ボンド(大災害債券)を購入しました。これにより、あらかじめ設定された一定の基準を満たす事態が発生した際、JA共済に最大で3億ドルが支払われます。2011年の東日本大震災では、キャット・ボンドとして初めて地質学的な災害被害に対する保険金が支払われました。

日本は、途上国政府に対する同様の革新的資金調達メカニズム提供を目指す世界銀行グループの取組みに、支援をしています。2008年以降、我々は、災害発生の際に直ぐに復旧・救援資金を確保できるよう9カ国を対象とする条件付きクレジットラインを計13億8,000万ドル承認しました。また、日本の支援により、太平洋自然災害リスク保険パイロット・プログラムにも資金を提供しています。このプログラムの下で太平洋島嶼国は、2014年、地震、津波、熱帯性低気圧のリスクに対し4,300万ドルの補償を確保する事ができました。

こうしたイニシアティブの成功を踏まえ世界銀行グループでは、例えば感染症の大流行など、十分な資金がない危機的状況での、同様のアプローチの有効性について検証しているところです。こうした手段の必要性は、エボラ危機が示す通りです。今回の危機では、その深刻さから世界銀行グループはただちに、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国の政府に対し、緊急対応資金として総額で5億ドル以上の資金提供を誓約しました。しかし、我々を含む国際社会は事態の緊急性を充分把握していなかったため、この資金が実際に支払われ始めたのは危機が始まってから8カ月も後の事でした。

エボラ危機から得られたこの重要な教訓を肝に銘じておかなければなりません。次のアウトブレイク(大流行)の際には、もっとずっと迅速に対応する必要があります。そのために、世界銀行グループは現在、感染症のパンデミック(世界的な大流行)の際の緊急融資制度の構想を練っているところです。我々が目指すのは、パートナーと協力して、一定の客観的基準を満たす感染症アウトブレイクの際、十分な資金を迅速に提供できる体制です。また、ここで言う「迅速」とは、8カ月後ではなく、8時間後です。

パンデミックの際の融資制度のもう一つの重要な目的は、事前準備に対する各国の投資拡大を促進する事です。まずは、強靭で確かな保健システムの構築からです。エボラ危機は、疾病調査から分析研究、最前線の保健医療サービス、地域医療従事者まで、公衆衛生機能が不十分だとどのような事態を引き起こすかを、まざまざと見せつけました。人命は失われ、経済成長率は低下し、当該国や周辺国ばかりか世界全体が危機に瀕する事になるのです。こういった展開を見ると、このほど日本が、エボラ危機からの復旧復興のために世銀のトラストファンドに2千万ドルを拠出された事には、極めて大きな意味がある事がわかります。

歴史上最も深刻なエボラ出血熱のアウトブレイクから、我々は多くの教訓を得ました。こうした知識をつなぎ合わせていけば、感染症のパンデミックという困難に立ち向かえるグローバルな対応能力とはどうあるべきかが、見えてくるでしょう。

それは、迅速な資金提供の仕組み、大きく機能強化された世界保健機関(WHO)主導による世界の専門家間の緊密な調整、周到に準備されよく統制された医療専門家やロジスティックスのプロ、運送・製薬・広告企業のチーム、国連機関挙げての対応、国際金融機関や民間金融機関による支援などです。

また、事前準備における最も重要な要素とは、すべての国にしっかりと機能する保健システムを確立する事でしょう。

強靭な保健システムは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を目指すものでなければなりません。つまり、誰もが基礎的保健医療にアクセスができ、貧しいからといって医療の質が落ちるなどという事があってはなりません。保健システムへの投資が、より良い健康状態の実現と経済成長加速の両方に対する投資になる事を、我々は承知しています。日本は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの分野においても世界の模範となっています。すべての人が保健医療を受けられるようにする事は、低所得国と中所得国のどちらにとっても極めて重要です。世界銀行グループは、日本との緊密なパートナーシップの下で、防災とユニバーサル・ヘルス・カバレッジという2つの分野で取り組みを進めています。これらは、感染症の次の大流行から数百万の人々を、そしてグローバル経済を守るためのカギを握る分野です。

パンデミックに対する緊急融資制度については、数カ月後には更に詳しくお知らせできる予定です。本日こうして述べた理由から、我々は、自然災害への備えとユニバーサル・ケアにおける日本の経験を参考にさせて頂きたいと思います。日本の知見は、適切な事前の備えがあれば何千人もの命を救う事ができ、何十億ドルもの経済成長を失わずにすむ事を示しています。極度の貧困の撲滅にも貢献できるのです。ご清聴ありがとうございました。それでは、ご質問をお受けいたします。


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