割安かつ簡単な取組みで、脆弱・貧困層を中心に食料供給の安定化・強靭化を実現
ワシントン、2024年5月6日 –世界銀行の新報告書「住みやすい地球の実現に向けて:食農システムにおけるネットゼロ・エミッションの達成」によると、世界の食農システムには、増加する人口への食料供給を続けながらも、割安かつ簡単な取組みを通じて、世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を削減できる大きな可能性がある。
報告書は、食料供給の安定化、気候変動に対応可能な食料システムの実現、移行期間中の脆弱層保護に向けて、すべての国が講じることのできる措置を説明している。
「食卓に並ぶ食べ物はおいしいかもしれないが、気候変動を招く温室効果ガス排出に大きな役割を果たしてもいる」と、アクセル・ヴァン・トロッツェンバーグ世界銀行上級専務理事は述べた。「ただし、希望はある。世界の食料システムが地球を救う可能性があるのだ。炭素を地中深くに封じ込め、土壌、生態系、人々の健康をとり戻そうというのである。 その実現は、我々が生きている間にも可能だが、そのためには、各国がただちに行動を起こさなければならない:中所得国において食料生産のために森林や生態系などの土地利用の方法を変えるだけで、2030年までに食農システムからの排出量を3分の1削減することが可能である」
報告書は、食農システムでは、低コストでの気候変動対策が可能だが、その大きな潜在性は未だ活用されていないと指摘する。他のセクターと異なり、排出量を削減し、大気中の炭素を自然に除去することで、気候変動にとてつもない影響を与える可能性を見込めるのである。
報告書は、気候目標の達成は国によって方法が異なることから、選択肢としていくつものソリューションを提示している。
- 高所得国:質の高い炭素クレジットを生み出す森林保全プログラムへの技術協力など、低・中所得国が低排出の農法や技術を導入できるよう支援を強化することで、取組みを先導することができる。高所得国はまた、排出量の多い食料源への補助金をやめることもできる。これによって本来の価格が明らかになり、低排出食品を選択した方が安くなることも考えられる。
- 中所得国:各国は、家畜や米からの排出量削減、健全な土壌への投資、食品ロスや廃棄物の削減といった、より環境にやさしい取り組みや、土地のより効率的な利用を通じて、世界の食農システムからの排出量の最大4分の3を抑制するという、極めて大きな役割を担っている。世界の食農システムからの排出量削減の機会は、その3分の1が、中所得国における持続可能な土地利用に関連している。
- 低所得国:富裕国が陥った失敗を繰り返すことなく、より環境に優しく、より競争力のある国となるために気候変動への強靱性強化の機会をつかむことで、独自の道筋を描くことができる。低所得国では食農システムからの排出量の半分以上が食料生産のための森林伐採によるものであることから、森林の保全と回復が低所得国の持続可能な経済開発を促進するであろう。
肥料やエネルギー、農作物や家畜の生産、農場から食卓までのバリューチェーン全体における包装や流通など、食料システムにおける排出量削減に向けた包括的アプローチを通じて、ネットゼロ達成のための行動をすべての国で実施すべきである。
報告書は、食農システムからの排出量削減への投資による見返りはコストをはるかに上回るとしている。2030年までに食農システムからの排出量を半減させ、2050年までにネットゼロ・エミッションを達成するには、年間投資額を毎年2,600億ドルまで増やす必要がある。毎年、その2倍の金額が農業補助金として費やされており、多くは環境を損ねている。破滅をもたらす補助金を削減すれば、投資の一部に充てることができるが、ネットゼロ達成のためには追加の資金調達が不可欠である。
こうした投資により、人の健康や食料と栄養の安全保障の改善から、農民のための質の高い雇用と利益の確保、森林や土壌に貯留される炭素量の増加に至るまで、4兆ドル以上の恩恵が期待できる。