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プレスリリース 2021年6月4日

ヒマラヤ氷河の融解抑制には大気汚染の削減が鍵


氷河融解と降雪量減少が南アジアの水源にとってのリスクに

ワシントン、2021年6月3日 – 工場、調理、車両から排出されるブラック・カーボンが、気候変動の影響を助長し、ヒマラヤ氷河の融解を加速させている。ブラック・カーボンの排出量をさらに厳しく抑制すれば、氷河融解を減速させ、同地域の水源からの安定供給を向上させることが可能だと、世界銀行の新報告書「ヒマラヤ氷河:気候変動、ブラック・カーボン、地域レジリエンス」は指摘する。 

同報告書によると、ブラック・カーボンの排出抑制のために現在進められている政策には、エネルギー効率基準の引き上げ、ディーゼル車の段階的廃止、電気自動車の普及促進があり、いずれも価値があるが、これだけではブラック・カーボン排出の削減はわずか23%しか進まず、域内の氷河融解水の流出加速を防ぐには十分ではない。ただし、氷河融解を現在のレベルにとどめるための、経済・技術的に実行可能な新政策は手が届くところまで来ている。

例えば、ブラック・カーボン排出のほぼ半分を占める煉瓦窯の効率性を高めれば、氷河融解を加速させる排出を削減可能であり、短期間で成果の上がるわずかな先行投資も準備が整っている。クリーンな調理用レンジとクリーンな燃料も、ブラック・カーボン排出削減の鍵となる。一般世帯にバイオマスや石炭から液化石油ガス(LPG)、長期的には太陽光発電に切り換えるよう奨励することも果があるだろう。

「近年、ヒマラヤ氷河崩壊により壊滅的被害をもたらした鉄砲水は、気候変動が破滅的な悪影響をもたらすという厳然な事実と、そうした危険に備えることの必要性を改めて突き付けた。」と、ハートウィグ・シェイファー世界銀行南アジア地域総局副総裁は述べた。「氷河縮小に伴い、水の供給に変化が生じるため、下流に暮らす多くの人々の命と生活に影響が及ぶ。氷河縮小を加速させているブラック・カーボンの排出を抑制するため共同で行動を起こすことにより、融解を減速させることができる。こうした資源を保護するための地域レベルの協力が、域内の人々の健康と幸福にとって重要な見返りをもたらすだろう。」

ヒマラヤ山脈、ヒンズークッシュ山脈、カラコルム山脈は、6カ国2,400キロメートルに広がり、6万平方キロメートルの氷河を抱え、北極と南極とともに最も多くの水を蓄えている。氷河融解と降雪量減少は、下流に暮らす人々だけでなく、より広範に南アジア地域の安定した水資源にとっても深刻なリスクとなっている。融解を加速させているブラック・カーボンの排出削減に向けて取り組みを強化しない限り、影響は悪化する一方だ。

氷河と降雪からの水が流入するインダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川は、7億5,000万人以上が淡水を得るための不可欠な水源であり、水量や流出の時期に変化があると、経済・社会面で深刻な影響が及ぶ。南アジア地域では、2050年までに15億人から17億人が水不足に陥る危険があると予測されている。

ヒマラヤ山脈については、温度や降雪パターンの変化に加え、ブラック・カーボンの排出が氷河や降雪の融解を加速させていることがわかっている。ブラック・カーボンとは、大気中を浮遊する微小粒子で、煉瓦釜の不完全燃焼、ディーゼル排気ガス、バイオマスの燃焼から発生する。これまで通りのやり方を続けていれば、氷河の融解が一層加速し、域内に暮らす人々の健康と幸福に悪影響を及ぼすことになる。

最後に、南アジア諸国は、水力発電資源を管理するため協力しなければならない。同地域のクリーン・エネルギーの需要を満たす重要な資源であり、エネルギー貿易とエネルギー安全保障の源だからだ。氷河融解により水流が不安定になり降水パターンの変動が大きくなっているため、長期的に安定的に水を確保する必要性が浮き彫りとなり、水力発電の実用性が高まっている。

ヒマラヤ氷河融解に伴う数々の課題への本格的な対応は、ひとつの国の政策担当者の枠を超え、国境を越えた協力が求められる。共同での適応戦略の策定には域内協力が必要となるだろう。そのための第1歩として、刻々と変わる氷河の状態と、融解に伴うリスクについて情報を共有することが考えられる。

「現在の傾向は、現在とは違い、より困難な将来を示唆しているので、水資源管理のための政策は進化させていく必要がある。」と、同報告書の首席執筆者であるムスクマラ・マニ世界銀行南アジア地域担当リード・エコノミストは述べた。「成果を上げるためには、研究者と政策担当者の双方が目の前にある問題について学び続けることができるよう積極的かつ機動的に協力することが求められる。」

同報告書の研究は、英国外務国際開発省、オーストラリア外務省、ノルウェーによる信託基金である南アジア水イニシアティブの支援を受けて実施された。


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