プレスリリース

長期資金の逼迫により途上国の進捗が鈍化

2015年9月14日


長期資金は家計や企業、持続可能な開発に不可欠

ワシントン、2015年9月14日—2008年の金融危機以降、長期借入資金の逼迫が続いてきたため、途上国では、投資による企業の成長が抑えられ、信用力の高い世帯であっても、教育費や住宅購入用の資金を借り入れる事ができず貧困から抜け出せずにいる、と本日発表された世界銀行の報告書は警鐘を発している。

こうした長期資金の逼迫は、世界的にも影響を及ぼしている。途上国・地域の経済成長に不可欠なインフラ整備には数十億ドルの資金が必要とされているが、最近の20カ国財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)をはじめとする主要国際会議における呼びかけにもかかわらず、こうした資金の動員が困難になっている。

世界金融開発報告書2015~2016:長期資金の確保(仮題)」は、融資の償還期間の延長が持続可能な資金調達の主軸になる、と指摘している。

長期資金(償還期間が1年以上の投資資金)確保の鍵は、世界の資本市場を揺るがしている昨今のボラティリティへの対応同様、ファンダメンタルズ(経済の基本要件)の達成が握っている。そのために政策担当者は、マクロ経済安定性の促進、債権者と借入者を守るための銀行・投資システムの法規制・法的拘束力の確立、資本市場と機関投資家向けの枠組み設定など、各種の制度改革に力を注がなければならない。

世界銀行グループのジム・ヨン・キム総裁は、「各国が、学校や、道路、発電所、送電、鉄道などの輸送手段、通信への投資を怠れば、高い経済成長率を持続的に達成する事は困難になるだろう。また、民間セクターによる工場建設や設備・機械への投資が重要だ。さらに家計は、長期資金を確保できなければ、住宅や教育などに資金を向ける事が難しくなり、ひいては生涯所得が増えず、貯蓄から利益を得る事もできない。」 と述べている。

商業銀行は、世界の企業や家計にとって引き続き主たる借入先となっているが、特に中国やインドなどの新興国では、資本市場もまた急速に発展している。1991~2013年、途上国の企業が、株式、債券、シンジケートローンの各市場において調達した資金の総額は実に15倍に増えている。こうした資金の大半は高所得国で組成されたものだが、例えばインドのシンジケートローン市場における起債総額の7割以上は、国内で組成されている。

「長期資金は、インフラ、耐久財、教育や技能への投資を促進するなど、持続的な成長の根幹である。しかし同時に、金融には、機構や制度の十分な整備、そして契約の効果的な実行が求められる。幸いにも、大いに希望が持てる兆候が見られる。例えば、1980年代には金融システム全体の半分以下しか占めていなかった株式・債券市場は、2005~2010年には、中国では53%、インドでは65%を占めるまでに発展した。ケニアでは、携帯電話を用いた国債販売システムの導入により、個人投資家による金融アクセスが拡大している。情報や分析を豊富に盛り込んだ今回の報告書は、金融セクターという非常に重要な分野への理解を大いに深めるものだ。」と、世界銀行のカウシク・バス上級副総裁兼チーフエコノミストは述べている。

長期の住宅ローンが、住宅購入のために一番重要な要素である事は間違いないだろう。しかし、各国間のばらつきは著しい。高所得国では国民の平均21%が住宅ローンを借り入れているが、低・中所得ではわずか2.4%に過ぎない。インドはその典型的なケースで、住宅ローンを借り入れている国民は2.3%にすぎない。

また、途上国では企業向け融資についても深刻な格差が見られる。低所得国での企業向け融資の償還期間は平均23.3カ月であり、高所得国での企業向け平均(58.7カ月)の半分以下となっている。シエラレオネとリベリアでは、企業向け融資の償還期間は特に短く、平均でそれぞれ8カ月と4.4カ月となっている。

「その場しのぎの対応をしがちだが、金融システムの基盤である制度改革に注力しなければ問題は解決しない。本報告書は、持続可能で公正な成長を支える長期資金を確保するため、各国が従うべき道筋を示している。」と、世界銀行のアスリ・デミルギュ‐クント調査局長は述べている。

本報告書は、長期資金へのアクセスを確保した国の例や革新的なアプローチを挙げている。

·    信用情報がほとんどない場合、金融機関は、確実なリスク評価が難しくなり、より短期の償還期間を求めるようになる。ブルガリアとニカラグアでは、民間の与信審査機関を設立した結果、融資の平均償還期間が大幅に伸びた。

·    投資家の権利が限定的にしか保護されていない場合、金融機関は、契約解除を持ち出して借入者に返済を迫るよりも、短期の融資契約を選択する。インドでは、債務回収訴訟の加速化のために債権回収裁判所(DRT)を設置した結果、企業が短期借入から長期借入へと移行する動きが多く見られた。

·    コーポレート・ガバナンスが脆弱であると、契約にも不備が残る事になる。22カ国で7,000社以上を対象に実施された調査の結果、強固なコーポレート・ガバナンスを備えた企業は、短期借入の利用が少ない傾向が見られた。

·    金融に関する知識が不十分である場合、人は高利の短期借入を選択する事が多い。金融に関する適切な教育を受けた人は、消費者保護規定や金融情報公開に関する規則を踏まえたより良い決断を下す事ができる。

·    現地で債券・株式市場や機関投資家の育成を図れば、長期資金が確保し易くなり、万一銀行システムが何らかの打撃を受けた場合も、「スペアタイヤ」として予備的機能を発揮できる可能性がある。

·    南アフリカでは、年金の整備により、子供の教育期間を伸ばし、児童の労働時間を短縮するなど、子供への投資拡大が可能になった。

本報告書は、長期資金の規模について解説する一方で、長期資金が必須であるわけでも、あらゆる状況に最適であるわけでもないと警告している。企業は、自社の資産構成に見合った負債の返済期間を選択し、通常、給与支払いや在庫管理のための借入には返済期間が短い融資を、また固定資産のための借入には返済期間の長い融資を得る傾向がある。例えば、米国では、信用力が極端に低い債務者向けの過剰融資が、サブプライム・ローン危機を引き起こす要因となった。

報告書の全文と関連データは以下のウェブサイトにてご覧いただけます。

www.worldbank.org/financialdevelopment.

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プレスリリース番号:
2016/077/DEC

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