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特集2025年6月12日

齊藤吉洋(さいとう よしひろ) 世界銀行 ガバナンスグローバルプラクティス 公共セクター専門官~第69回 世銀スタッフの横顔インタビュー

「人との出会いが、奇跡と化学反応を起こす。」

高校時代、サッカー選手になりたくてもなれなかった経験が開発に興味を持つきっかけになり、サッカーで培った好きなことを追求する力を今は自分の強みとして生かしている。地方分権化の分野で世界一を目指すようになるまでの道のりとその考え方に迫る。

Yoshihiro Saito

齊藤吉洋(さいとう よしひろ・Yoshihiro Saito)
2021年、ミッドキャリアとして入行、ネパール事務所に所属。新卒で経験した総合商社を経て、国際NGOでエチオピア・南スーダン国境付近にて難民支援・ローカルコミュニティの開発に従事、その後、国連開発計画(UNDP)アフリカ地域事務所、本部でガバナンス関連業務に従事後、現職。現在は、ネパールの連邦制制度の普及、地方分権化、公共セクター改革等を担当。専門は、公共セクター改革、地方分権化。神戸大学法学部、英国サセックス大学国際開発学研究所、ガバナンス学修士、現在は仕事の傍ら、ロンドン大学大学院にて博士号取得中。

サッカー選手になりたかった

高校時代は、サッカー選手になりたくて、長谷部誠選手の出身校でもある静岡の藤枝東高校に通っていました。海外遠征プログラムもあったのですが、自分の学年からは2人だけが行けませんでした。私は家が貧しかったためですが、外的な要因で自分がやりたいことができないことがあると知りました。それから貧困や格差について考えるようになり、当時サッカー選手として世界で活躍していた中田英寿選手がアフリカの貧困地域を回っていたことに刺激され、日本だけでなく世界の貧困に目を向けるようになりました。そこで大学は立命館大学で国際法を2年間学び、神戸大学の法学部、国際関係・国際政治コースに編入して、さらに国際関係論、国際政治学を学びました。

大学卒業後、2011年から3年ほど商社の人事部で組織開発に関わる仕事をしました。その間ずっと開発への興味を抱き続け、長期休暇を利用してアフリカ8カ国を回り、偶然出会ったユニセフに勤務していた方の紹介でNGOの仕事を知りました。数年間、休暇ごとにボランティアをした後、「現場で働きたい」という気持ちが固まり、NGOに転職しました。NGOではエチオピアと南スーダン国境付近にある難民キャンプの運営、管理事業を担当しました。現地で銃撃戦に巻き込まれたり、平和とは何かを考えるうちに、「国家が安定しなければ開発ができない。だからまず紛争が起きないようにしなければならない」と考えるようになりました。そしてガバナンスの中でも国づくりに携わりたいと思い、英国サセックス大学開発学研究所のガバナンスと開発コースに留学しました。

「世界銀行スタッフの横顔」インタビュー記事  齊藤吉洋
南スーダン難民が一時的に定住している難民キャンプ
修士号取得後の2017年に、国づくりの仕事ができる国連開発計画(UNDP)に就職しました。UNDPは、ガバナンスの分野で、途上国の政策作りや戦略を作る支援を通して途上国の成長に貢献している組織です。私はエチオピアにあるアフリカ地域事務所でアフリカ全体のガバナンスに携わり、2019年には本部のあるニューヨークに移動しました。

世界銀行入行への経緯

ちょうど3年半ほど勤務した頃、サセックス大学開発研究所の先輩で、『世界銀行スタッフの横顔』にも登場している瀬山奏さんから、世界銀行で今の仕事の応募が出たことを教えてもらい、ミッドキャリアで挑戦して今に至ります。瀬山さんもガバナンスが専門で、いつか一緒に働きたいですね、と話していたところでした。

世界銀行のガバナンス部には700人(※2025年現在)ほどの職員が在籍しており、様々な専門家が世界中で日々働いています。ガバナンス分野は幅広い仕事がありますが、大きく、1)公共財政管理、2)政府調達、3)公共政策、4)GovTech、の4種類の仕事に分けることができます。最近では、国全体を見るだけでなく、世界銀行内の他のセクターのプロジェクトにもガバナンスチームメンバーが参加することも多いです。私の所属する部署は3つ目の公共政策で、具体的には、ネパールの地方分権化において政策的な助言を行なっています。

ネパールの地方分権化を支える

2005年まで約10年にわたる内戦をしていたネパールでは、2015年に憲法改正が行われ、地方に自治権を移譲することが決まり、日本と同じ中央政府が唯一の権限を持つ単一国家から、州などに権限を分担させる連邦制に移行することになりました。具体的には中央政府と3,157の地方政府という体制から、中央政府と7つの州と753の地方自治体という形になりました。

「世界銀行スタッフの横顔」インタビュー  齊藤吉洋
ネパールの山奥の地方自治体を訪問
ネパールには約140の民族がいますが、改正前までは首都カトマンズでカーストの上位にいるエリートたちによって政治が行われていました。憲法改正により、地方に権限が委譲されたため、権限、予算、人材をどう配分するか、何が不足していて、他の国ではどのように対応しているのかなど、地方分権化の専門家として助言するのが今の仕事です。世界銀行は、新しい憲法に則って地方政府が権限を持つことになった教育分野などに融資をしますが、地方政府側も知識や経験がないので、その能力を高める支援をしています。まさに国づくりをライブでできる感覚で、とてもやりがいがあります。

すべての経験がつながって今の自分がいる

今の仕事では、入行までのすべての経験がつながっていて、何も無駄なことはなかったと感じます。

まず、UNDPでの仕事があります。ネパールの地方分権化について、UNDPと世界銀行が一緒に調査報告書を出していて、UNDPでの勤務中に少し関わったこともあり、ネパールの事情についてもすでにある程度は知っていました。現地に根ざしたネットワークはUNDPの強みであり、それを世界銀行でも活かせる点を応募時の説得材料にしました。UNDPはガバナンス面でも活躍する組織で、そこで得た経験が今の仕事に生きています。

2つ目は、南スーダンのNGOでプロジェクトマネージャーとして数十人の職員を束ねた経験で、アフリカにはアフリカの進め方があることを学びました。今もネパールでコンサルタント数名と仕事をする際に役立っています。開発の現場では、打ち出した政策が結果につながることが大事で、政策が具体的にどのように実を結ぶのか、ある程度体感で理解できていることも強みです。

「世界銀行スタッフの横顔」インタビュー  齊藤吉洋
南スーダン難民たちと道端でサッカー
3つ目に、商社で勤務した経験も大きいです。海外で仕事をしたかったのですが、配属は人事でした。それが嫌で入社2日で辞めそうになったくらいだったのですが、人事部では、どのように人にやる気を出してもらうかなど、組織論、つまり人について学ぶ経験ができました。そこで得た知識が、今は公共政策の中でも人材に関する分野で生きていると思います。

好きなことを追求する力では負けない

自分の強みは、3つの掛け算で言えると思います。1つ目はやると決めたらそれをやりぬき、達成させる力があります。2つ目はソフトスキルです。私は、誰からも話しかけやすいと現地職員からも言われることが多いです。いつでも「飲みに行こうよ!」という雰囲気を保つようにしていますが、様々な分野に関係してくるガバナンスでは、他の分野も含めた様々なチームに声をかけてもらうことが仕事をする上でも大切です。「お前と仕事がしたい」と指名してもらうこともあって嬉しいのですが、人に楽しんでもらう力は商社での経験が生きているかもしれません。そして最後は、物事を深掘りして可視化する力です。今、世界銀行と並行して地方分権化をテーマに博士号を取得中なのですが、問題をマッピングして根本的な課題を追求するのが好きです。

「世界銀行スタッフの横顔」インタビュー  齊藤吉洋
UNDP時代のサッカーチーム
中でも、1つ目はサッカーで培った、好きなことを追求する力が原動力になっています。サッカーは下手で、高校時代は全学年を合わせると90人程いるような部でボールも蹴らせてもらえない4軍からのスタートでした。それでもどうしたら上手くなれるか考えて練習し、今できることをやり、上手い先輩を観察してノートに書いたりしました。自分のやりたいことへの追求力では負けない自信があります。

自分の提案が国家の政策になる

今の仕事で難しいことはたくさんあります。世界銀行は大きい組織なので、質の高いプロジェクトを保証するためのプロセスにも時間をかけます。でも、その分野の知識がある人たちからレビューを受けて赤字を入れられる経験は、とても成長できる機会になります。この成長が、世界銀行に入行して一番良かったことでもあります。その世界でトップになりたければ、世界銀行は素晴らしい職場です。

「世界銀行スタッフの横顔」インタビュー  齊藤吉洋
世界銀行による「ネパール財政連邦制アップデート』報告書の発表
ネパールは大きな国ではないので、世界銀行の影響力は大きく、自分の提案が国の政策になることもあり、それが醍醐味です。例えば、ネパールの地方分権化を誰もモニタリングしていなかったため、財政面からモニタリングする報告書を出すことになりました。私はその中で、「国家としてロードマップを作る」ことを提案したのですが、これが実際に作られることになり、予算も割り当てられました。ロードマップを作れば、状況が可視化されるだけでなく、説明責任も生まれます。そこから他の国での知識や状況をとりまとめてほしいとネパールから依頼を受け、世界銀行でプロジェクト化しました。

地方分権化の分野で世界一に

私は開発の中でもガバナンスに興味があり、地方分権化の分野において世界で一番になることが今の夢です。

今はリモートで、英国のキングス・カレッジ・ロンドンで博士課程に在籍しながら仕事をしています。週末は二人の子どもが起きている時間は家族と過ごすことに決めているため、実際かなり大変ではあります。

行動して心に火をつける

好きなことを追求することが大事だと思います。世界銀行は好きなことを追求している人が多く、逆にそうでないとやりきれない仕事も多いし、生き残れないです。

また、大学生から「開発に漠然とした興味があるが、専門性をどう絞れば良いか?」という質問をよくいただきます。実際、専門性を絞るのは難しく時間がかかるのですが、時間を決めて、目の前にあることを一生懸命やってみることをお勧めします。やってみて、行動して心に火をつけてください。僕は、商社から現場が見たくてNGOに就職し、行動している間に、ガバナンスという分野が自分に刺さり、火がつきました。

自分の目で見て、五感で感じて実行することを大事にしているのは、自分の心が動かないと続かないからです。本を読んで興味を持ったら、「本当に自分が好きなことなのか」を知るために、実際に現地に行って目で見て匂いを嗅ぎ、肌で感じてみてください。ただ読むのとは情報量が違うし、実際に見て自分が受ける感覚は違うからです。それでもまだやりたくて、それが自分の興味だと確信できれば、あとはやるだけです。

商社勤務時代、開発に興味はあるものの、何がやりたいのかはっきりしなかった時も、アフリカ各国を巡り、直接現地で働いているNGOの職員に連絡して人に会いました。どなたも会ってくれましたし、その人たちとは今もつながっています。ユニセフの南アフリカ事務所で勤務していた方のご主人が世界銀行職員だったことで世界銀行を知るきっかけにもなり、出会った人たちが導いてくれています。人に実際に会うと、奇跡と化学反応が起きます。そうやって道を切り拓いてきたように思います。

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