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特集2022年4月1日

途上国での防災強化:世界銀行と日本のパートナーシップ 日本の知見と世界銀行のネットワークによる協働

東京防災ハブ 国際開発ジャーナル2022年4月号掲載

(上)世界銀行の協力で設立されたSEADRIF(東南アジア災害リスク保険ファシリティ)の署名式(2018年12月)

(左下)都市洪水リスクに関するワークショップ(2021年6月)/(右下)世界銀行が作成した東日本大震災からの教訓をまとめた報告書

 

* この記事は、国際開発ジャーナル2022年4月号に最初に掲載されたものです。PDFはこちらをご覧ください。


「貧困撲滅」と「繁栄の共存」を二大目標に掲げ、開発途上国へ融資や無償支援、政策への助言などを行う世界銀行。気候変動の影響もあって災害が頻発化する中、世銀支援によるプロジェクトはもとより、途上国の国家レベルでの防災強化にも力を入れている。その一環として、2014年に立ち上げられたのが「日本-世界銀行防災共同プログラム」だ。東京防災ハブが運営・実施を担う同プログラムの活動実績は、2022年2月時点で97カ国211件に上っている。

 

日本と連携した技術協力

2011年3月の東日本大震災から3年後、世銀は日本の知見と世銀グループのネットワークを結びつけるため、「東京防災ハブ」を設置した。同ハブが運営・実施する「日本-世界銀行防災共同プログラム」が目指しているのは、二点。一つは、世銀が支援する全てのプロジェクトに防災の視点を取り入れる、「防災の主流化」の後押しだ。もう一つは、そうした「防災の主流化」を推進するにあたっての、日本の経験・技術・知見の活用だ。

この二つの目標を達成するため、同プログラムでは「強靭なインフラ」「リスクの特定、削減と備え」「災害リスクファイナンスと保険」という3つの重点分野で、日本と連携しながら途上国に技術協力を行っており、2022年2月までに97カ国で211件実施され、多くの日本人専門家が協力した。

事例の一つには、2018年にブルキナファソで実施された事業がある。大雨で大規模な洪水が発生し、首都の交通網が途絶した同国において、都市の交通システムの強靭性を改善するための支援を実施した。洪水やその他のハザードリスクを空間計画に取り入れ、都市交通計画や管理において洪水リスクを体系的に考慮できるようにして、国と市の対応能力の向上を目指した。技術支援にあたっては、日本の兵庫県豊岡市の事前防災行動計画策定の経験が共有された。

このほか、サイクロンや洪水、地滑り、猛暑などの度重なる災害によって交通網の混乱が起きていたエジプトでも、2021年から道路交通を強靭化するための技術協力を続けている。日本の建設コンサルタントや大学と連携し、長崎県と岐阜県の道路資産管理の事例の紹介等を行っている。中でも、両県が持つ人材育成の取り組みや安全な道路を維持するための制度作りに関する経験は、エジプトの行政が道路を安全に管理していく上で大きなヒントになると期待されている。

日本は、世銀内に設置された「防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)」創設以来のメンバーだ。技術協力に加え、東日本大震災の経験を世界に発信する取り組みにも注力している。2012年には災害リスク管理に焦点を当てた「仙台レポート」の作成にも協力した。

防災ハブ職員

防災ハブ職員

世銀支援も柔軟・迅速化

途上国の防災強化のため、世銀は技術協力のほかに、支援ツールの改革も進めてきた。従来、世銀の支援は、災害発生後の復興に重点を置いていた。だが昨今は、平時から災害発生時に備えた仕組みの導入を図ることで、災害への強靭性を高めることに注力している。そうして新たに導入されたのが、「災害リスク繰延引出オプション(Cat-DDO)」と「成果連動型プログラム融資制度(PforR)」、「緊急事態対応コンポーネント(CERCs)」だ。  

Cat-DDOは、災害が発生する前から、災害発生時にただちに可能なクレジットライン(融資またはグラントによる資金支援枠)を設定しておくことで、災害発災時における迅速な資金確保を可能にする。国際開発協会(IDA:アイダ)の支援の対象となる低所得国の場合、資金支援枠の上限は国内総生産(GDP)の0.5%又は2.5億ドル(いずれか低い方)。災害発生から数日以内に、まとまった資金を確保できる画期的な手法だ。

PforRは、あらかじめ定めた成果目標が達成された場合に資金引き出しを認める仕組みだ。例えば、防災計画の策定を資金引き出しの条件とすることで、着実な政策実施を促す効果を持つ。厳しい説明責任と透明性を求めることで、不正・腐敗撲滅のためのシステム強化にも役立つ。

CERCsは、災害発生時に、既往プロジェクト向け資金のうち未使用の部分について、災害復旧向けに流用することを可能にする仕組みで、災害時の迅速な資金確保を可能とするための手法の一つだ。

このほか、IDAには、大規模災害発生時の資金ニーズの急増に対応する「危機対応枠(CRW)」が設けられている。昨年12月に合意されたIDA第20次増資では33億ドルの資金が確保された。また、世銀では、「太平洋自然災害リスク保険パイロットプログラム(PCRAFI)」や「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」など、複数の国が災害リスク保険に加入し、国家レベルで危機に備える災害リスクプールの仕組みの創設にも協力している。

防災への配慮が世銀が支援するプロジェクトの当然の前提となった今、途上国で求められているのは、プロジェクト・レベルにとどまらない、国家レベルでの防災能力の構築である。世銀は途上国と協力し、災害リスクを織り込んだ財政運営枠組みの構築や、国家防災計画の策定といった政策面からの改革にも力を入れている。

 

保健危機への備えの強化でも、防災で培った知見を活用

コロナ危機からの早期回復の実現に向け、世界銀行は足元の喫緊の課題である景気回復と、気候変動など中長期の課題に同時並行的に取り組むため、環境に配慮した強靭で包摂的な開発(GRID)アプローチを打ち出している。

気候変動による自然災害が頻発化する中、途上国では、洪水や干ばつへの備えを高めることで、防災強化を図ることが喫緊の課題だ。経済規模が小さい島国では、ハリケーンによる暴風雨の影響で、経済全体が壊滅的な影響を被ることもある。気候変動対策と経済開発は不可分一体のものとして、包括的な取り組みが必要だ。気候変動に晒される途上国の東京防災ハブへの期待は高まっている。

そして今、自然災害だけでなく、様々な危機の発生に備え、強靭性(レジリエンス)を高めていくことの重要性が改めて認識されている。国際社会は、防災強化を通じ、危機発生時への備えの強化に取り組んできた。防災分野で培われてきた危機への備えや危機発生時の対応に関する経験は、保健危機など災害以外の分野における危機に際しても活用できるはずだ。こうした観点から、東京防災ハブでは、現在、保健分野の専門家と手を携え、保健システムのレジリエンス強化に取り組んでいるところだ。

 

トンガ大規模噴火・津波で迅速な緊急支援を可能にした世界銀行の防災ファイナンス

1月15日、大洋州の島国・トンガ王国の海底火山が噴火し、甚大な被害を引き起こした。災害発生から5日後の1月20日、世銀は緊急支援として800万ドルを供与。迅速な対応が可能となった背景には、災害発生時に備えたクレジットライン(資金支援枠)としての「災害リスク繰延引出オプション(Cat-DDO)」の存在がある。

また、噴火から1カ月もたたない2月10日には、世界銀行の調査により、災害からの復旧・復興計画を策定するに当たり大前提となる被災額(GDP比18.5%に相当する9,000万ドル(約100億円))が明らかになった。ここで活躍したのが世銀内に設置された「防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)」が開発したグローバル災害被害迅速判定(GRADE手法)だ。机上分析を行うGRADE手法は、災害発生直後の混乱する現地に調査団を派遣せずとも迅速な被害評定を可能とする革新的な自然災害リスクモデル技術だ。

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