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特集2022年3月1日

コロナ禍での貧困撲滅を目指す 西尾副総裁が語る世界銀行の開発戦略

The World Bank

(左上)中央アジア:畜産業の生産性向上を通じた農村部の振興 (右上)東部アフリカ:灌漑整備などを通じた気候変動に強い村づくり (左下)中部アフリカ:マスク生産の拡大を通じたコロナ対策と雇用創出 (右下)南太平洋:増大する暴風雨によるリスクを踏まえた学校施設の整備(防風・浸水対策など)

(いずれも、IDA 支援によるプロジェクト)

* この記事は、国際開発ジャーナル2022年3月号に最初に掲載されたものです。PDFはこちらをご覧ください。


最貧国74カ国への資金援助を行う世界銀行グループの国際開発協会(IDA:アイダ)。コロナ禍からの回復、そして気候変動に対応した社会づくりを後押しするべく、1年間前倒しされた第20次増資交渉(IDA20)の最終会合が2021年12月に開催され、過去最大規模となる930億ドルの増資が合意された。今後、IDAを含め世界銀行グループはどのような支援を展開していくのか。IDA20の増資交渉を担当した西尾昭彦副総裁に話を聞いた。

(聞き手:本誌主幹・荒木 光弥)

 

「人的資本」などを重点課題に

――西尾副総裁のこれまでの経歴を教えてください。

1988 年に海外経済協力基金(OECF)からヤング・プロフェッショナル・プログラムを通じて世界銀行に入行した。さまざまな職を経験し、2007年のIDA15の増資交渉を担当したほか、公正成長・金融・制度(EFI)戦略業務局長として数千人の職員をまとめる経験もした。そして19年、従来は欧州出身者が担ってきた開発金融政策担当の副総裁に着任。IDA19とIDA20を合わせて、日本円で20兆円近くの増資合意に携わった。

――世界銀行の今後の支援方針は。

環境に配慮した強靭で包摂的な開発(GRID)という方針を立てている。これは、コロナ禍で疲弊し経済も停滞する中、貧困撲滅などの達成率が、持続的開発目標(SDGs)などに掲げられている目標を大幅に下回りそうな途上国に対する支援方針である。環境に配慮し、将来の危機に対して強靭な対応力を持ち、エリート層だけでなく国民全体に裨益するような回復の迅速な実現を目指す。IDA20の増資も同方針に基づく。IDA20は特別重点課題(special themes)として、「気候変動」「脆弱性・紛争・暴力(FCV)」「ジェンダー」「雇用と経済改革(JET)」「人的資本」を設けた。人的資本ではコロナワクチン投与や、保健衛生システム強化もカバーする。
 

ドナーとしての存在感増すアジア

――地域展望として、アジアはどのように見ていますか。

東アジアは中長期でみると順調な経済発展を遂げており、開発途上国の中では非常にパフォーマンスの良い国が多い。特にフィリピン、タイ、マレーシアなどは順調に成長しており、IDAドナー国ともなっている。中でもタイは今回、拠出額を大幅に増やした。

南アジア諸国でも、インドが数年前にIDAの支援対象国から卒業し、IDAドナー国となった。パキスタンは今もIDAから借り入れを受けているが、数年前からはIDAに貢献したいという意向からIDAドナー国にもなっている。

依然、IDAドナー国の中では欧米諸国の存在感は大きいが、アジア諸国の勢いも増している。日本は1960年にIDA創設以来の主要ドナーであり、当初借入国だった中国と韓国も今や大口ドナー国だ。

他方、懸念もある。東アジア地域では中国への経済的依存度が高い国が多く、中国経済の減速に大きな影響を受けることや、コロナ禍によるサプライチェーンの分断が成長の足枷となっていることだ。

南アジア地域については、各国間の分断が大きな経済的課題だ。政治・歴史的な背景で、国同士の経済・人的交流が少ない。本来、同地域は一つの市場としてまとまれば大きな力を発揮できる。例えばインド、パキスタン、ネパールの3国が協力すれば水力発電で膨大な電力を生み出すポテンシャルがある。これを利用すれば国境を跨ぐ地域電力網の構築も可能だが、各国の関係が分断されている中ではそうした地域内協力の支援もなかなか実現できないでいる。

――ミャンマーについては。

ミャンマーへの新規貸付は、現在、控えている。だが担当局長は引き続きヤンゴンに滞在しており、最貧層の人達をどう支援すべきか、他の援助機関やドナー各国と協議している。
 

アフリカの課題は人材と連結性

――今年は第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)の開催も予定されています。アフリカ地域にはどのような支援に注力していきますか。

The World Bank
世界銀行グループ 開発金融総局(DFi)担当副総裁 西尾 昭彦氏

アフリカは他の地域に比べて、人的資本の薄さが顕著だ。人的資本指標を見るとアフリカの水準が低いのが目立つ。このため世界銀行としては教育、保健衛生、栄養などの支援に注力したい。

このほか、世界銀行が10年以上前から力を入れているのが、複数の国をつなぐ地域対象プロジェクトだ。数カ国に跨る道路の建設、数カ国に送電線で配電する電力プロジェクトなど、国と国をつなげるプロジェクトを多く手がけている。アフリカは内陸国や小国が多く、一つの市場として十分まとまっていない。2021年1月にアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が始動するなど、法整備も進んでいるが、依然として経済が細分化されており、連結性の強化は不可欠だ。

ワクチン投与率の向上も、喫緊の課題だ。アフリカのワクチン接種率は全人口の4%未満。世界銀行、世界保健機関(WHO)、COVAXなど関係組織が協力し取り組みを推進する必要がある。

また、アフリカ地域に限った話ではないが、農業支援などで気候変動への適応を重視している。
 

戦略作りで日本の参加に期待

――日本の政府開発援助(ODA)への期待、提言はありますか。

日本のODA は各国から非常に好意的に受け止められている。途上国と持続的に向き合い、長期間援助を行っていることや日本の経験・知見を生かした支援を行っていることが、その要因だと思う。中でも日本の防災に関する知見は、各国で大いに参考にされている。

また、栄養の分野でも日本はリーダーシップをとっている。新型コロナウイルスの流行でフードサプライチェーンが分断され、食料不足が大きな問題となっている。だが、多くの低所得国では子供の栄養不足は数十年前からの課題だ。2021年12月に東京栄養サミットを開催するなど、積極的に発信をしてきた日本の役割は大きい。

また、全ての人が基礎的な保健医療サービスを支払い可能な費用で受けられるようにする「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)の推進は、日本が力を入れてきた分野だ。コロナ禍でその必要性が広く痛感され、かねてから問題に取り組んできたことが高く評価されているように思う。

IDA20の増資交渉においても、日本政府はリーダーシップを発揮してくれた。ほとんどのドナー国が厳しい財政事情のため前倒し増資に難色を示した中で、今だからこそやるべきだと呼びかけリーダーシップを取ってくれた日本に対し、途上国は大変感謝している。

日本のODAに対する提言としては、強いて言えば、各国への開発協力の戦略作りにもっと参加してもらえると心強い。例えば、世界銀行は気候変動への対応と経済開発の支援に同時に取り組んでいくため、国別気候・開発報告書(CCDR)の作成を開始した。ここにぜひ日本も積極的に参加していただければと考えている。各国のCCDR は世界銀行が作成しているが、ドナー国や援助機関にもアドバイスをもらっている。日本にも、その知見や技術を存分に発揮していただきながら、新しい時代の経済開発の支援方針策定に参加してもらえたら嬉しい。

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