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特集2018年5月1日

金澤大介 教育のためのグローバルパートナーシップ(Global Partnership for Education (GPE))事務局 上級教育専門官~第51回 世銀スタッフの横顔インタビュー

淡々とした口調とは対照的に、自分に足りないものを補おうとする向上心と行動力が伝わってくる。就職活動で「専門知識がない」と言われれば大学院を探し、仕事の中で「この分野の知識が自分にはない」と思えばオンラインで学べるプログラムを探して学ぶ。忙しい仕事の中にも、大切にしている言葉がありそれを自らに問い続けるなど、彼の実直さと、直接人々に向き合おうとする考え方などは、開発に携わる人にとって参考になるだろう。

Daisuke Kanazawa

The World Bank

2015年9月入行。GPE事務局で、教育セクター計画の策定・実施やGPE資金供与にかかる国別支援を担当。現在、バングラデシュ、シエラレオネ、東カリブ諸国、ガイアナ、モンゴル、モルドバを担当。入行前は、JICA専門家として、カンボジア、ガーナ、ルワンダの教育省等に派遣され、教育セクター計画の策定・実施にかかる能力強化支援に従事。そのほか、ユニセフ・アフガニスタン事務所、在パキスタン日本大使館に勤務。東京都出身。早稲田大学法学部卒業後、住友林業株式会社に就職。その後国際基督教大学(ICU)で教育学修士、バーミンガム大学で行政学修士を取得。

ペルーの村長の言葉にカルチャーショック

自然が好きで、高校時代に山岳部に所属していた経験から、「将来は環境保護に関する仕事につけたらいいな」と思ったので大学の法学部に進みました。法律的な観点から環境問題にアプローチできたらと。ただ、大学の勉強に刺激を受けたということはあまりなくて、大学の探検部での経験が自分にとっては大きなカルチャーショックでした。

あるときアマゾンにインカの遺跡があるという情報を入手して、それを見つけたら学説を覆す大発見になるとのことだったので、同期部員と3人で勇んでペルーに遺跡探査に乗り込んだんです。トラックの荷台に座って移動しガイドを雇い、いよいよジャングルに入るとなったときに、ガイドと同じ村の人が「あいつは銃を持ってるけど、ジャングルに入ったら君たちを身ぐるみはがそうと言ってるから、行くのはやめたほうがいいよ」とこっそり教えてくれたんです。それでもう怖気づいてしまって、探検は中止にして帰りました(笑)。でもその旅で村長さんが、「君たちは日本から来たんだろう。我々はこんな厳しい状況で日々大変だから、毛布などを援助してくれよ」と言うので、村長のような偉い人が貧乏学生をつかまえて、そんなことを言うなんてと驚きました。こんな世界があるんだなと、大きなショックを受けましたね。

企業に就職、その後専門知識を求めて大学院へ

The World Bank

大学を卒業し、環境庁(当時)を受けましたが最終的に落ち、高校の先輩の縁で拾ってもらえたのは住友林業。林業に関しては当時から熱帯林伐採などが問題になっていましたが、木材利用が持続可能となるような仕組みづくりに内部から関わることができたら、という思いがありました。最初は総務課、次に法務課、その後広報に移り合計7年ほど会社員として鍛えていただきましたが、次は住宅部門かなという方向が見えてきて、自分のやりたかったこととは少し違うので、それまで育てていただいて申し訳ないと思いつつも、転職を決心しました。

そこで早速JICAの中途採用を受けてみましたが、「熱意は買うけど専門知識がない」と言われたんです。それじゃ、勉強しようと大学院を探しながら、知人や先輩に「これからはどういう分野で人が求められているのか?」と聞いて回ったら、「教育と保健医療だ」という意見が多かったんです。自分としては、保健医療は高度な知識が要求される上に、人の生死といった悲しいことを経験するというイメージが強かったので、自分に向いているのは教育かなと考えました。いくつか打診してみて、ICUの千葉先生から受け入れてくださるというお言葉をいただいて、会社を辞め、ICUの大学院に進みました。それ以来千葉先生には常に心の指針になっていただいています。

キャリアの積み重ねは人とのつながりから

その後の就職は千葉先生のご縁で、ゼミの卒業生でアフガニスタンの専門調査員をしている方がいて、「次の人を募集しているのでどうですか」と声をかけていただいたのがきっかけでした。在パキスタン日本大使館で、アフガニスタン支援を担当するというポストでした。

そのポストでは国連の方々と話す機会が多々あり、ある時「今度ユニセフで日本人を対象に2つぐらいポストを作るんだけど、応募したらどうですか」と声をかけていただき、縁あってユニセフ・アフガニスタン事務所に勤務しました。先も見えないし何の保証もないんですが、いつもどなたかに手を差し伸べていただくことでキャリアがつながっているという実感はありますね。

パキスタンには2年いて、アフガニスタンにおける国連と日本の支援、草の根支援などを担当しました。ユニセフでは教育を担当。ユニセフにいる間にJICA本部の基礎教育課長にお会いする機会があり、任期終了後にはカンボジアでのJICA専門家ポストを紹介していただきました。

JICA専門家、そして2つ目の修士を取得

The World Bank
JICA専門家としてカンボジアに4年、ガーナに3年、ルワンダに1年。仕事としては、各国の教育省の能力強化のため、組織をどう強化するか、援助のリソースをどう効果的に流れるようにするか、スタッフのキャパシティをどうあげるか、ということを中心に行っていました。これはしかし教育活動ではなくどちらかといえば行政学の分野ですよね。これまで行政学を勉強してきた経験がないので、アカデミックな裏づけがあった方が自分にもプラスだし、相手にも説得力があるはずだと思い、オンラインでプログラムを探しました。ガーナにいる間に、仕事は継続しながらバーミンガム大学で2つ目の修士となる行政学修士を取りました。

英語に関しては、会社にいる間にアメリカの大学に1カ月短期留学をさせていただいたり、英語学校に通ったり、TOEFLの勉強もしましたけれど、どれも実感としては大きな効果はありませんでした。ユニセフで毎日英語で話しているうちに、ようやく億劫な感じがなくなりました。やはり環境は大事ですね。うちの子どもは中学3年と1年なんですがずっと海外暮らしで、すでに私よりうまく英語で話しています。

公募でGPE事務局へ

JICA専門家としてはルワンダが最後です。その後日本に戻り、GPE事務局の空席募集が出ていたので応募しました。GPEは、世界で唯一の教育に関するグローバルなパートナーシップで、メンバーは途上国が65カ国、ドナーが約20機関、市民団体や民間セクターも含まれます。2002年に世銀が主導するEFA-FTIとして始まりましたが、2011年にGPEに改名し、独自の理事会とガバナンス体制で運営されています。現在世銀はGPE事務局をホストすると同時に、理事会メンバー、GPE資金の受託者(trustee)、そして多くの国で資金運用機関(Grant Agent:GA)としてGPEに関わっています。GPEの資金は定期的に直接ドナーから調達します。今年2月にはセネガルで資金調達会合があり、今後3年で、ドナーからは23億ドルのプレッジ(前回より10億ドル増)と、開発途上国からは合計1,100億ドルの教育予算に対するコミットメントが表明されました。GPEの存在意義がより大きく認識されたと同時に、責任も大きくなったと感じています。

具体的な役割としては、まずそれぞれの国に対して、5年ないしはそれ以上の「教育セクター計画(ESP)」を作りませんかと促すことから始まります。政府だけではなく、開発援助機関、市民団体などからなる現地教育グループ(local education group: LEG)が中心となって、セクターの状況分析をし、計画作成に取り組んでもらいます。同時に、「国の教育予算を全体の20%以上にする」、初等教育が完全普及していない場合に「教育予算の45%以上を初等教育に振り分ける」、「教育セクター運営のためのデータを整備する」といった要件を満たしてもらいます。これらが確認できたら資金供与のための前提条件がクリアされます。

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供与される資金には数種類あって、一番大きなものが教育セクタープログラム実施資金(ESPIG)です。1億ドルを上限とし、国ごとの貧困状況や教育の脆弱性などのニーズに応じて供与限度額が理事会で決められます。資金使途はESPの実施を支援することが条件で、供与資金のうち3割は結果ベースの拠出となります。すなわち、公正性(equity)、効率性(efficiency)、学習成果の向上(learning)の3つの分野でESPを参照しつつ目標を設定してもらい、達成できた場合にこの3割部分が拠出されるというものです。ESPIGのほか、メンバー国はESPの策定そのものを支援する教育セクター計画策定資金(ESPDG)、プログラム策定資金(PDG)を利用することができます。これらの資金は途上国政府に直接供与されるのではなく、LEGが世銀や国連機関などをGAとして選定し、彼らを通じて供与されます。途上国からの資金申請は、GPE理事会の委員会が審査し、理事会が承認をします。

このような、ESP策定から資金申請、その運用を途上国政府、LEG、GAが着実にすすめることができるよう支援するのが私の仕事です。例えばシエラレオネは現在資金申請のプロセスに入っていますが、申請プロセスや資金モデルの理解促進のために現地に何度か行って説明をしました。バングラデシュでは資金運用をめぐり、ロヒンギャ避難民のために教育支援ができないか交渉し、GPE事務局長や理事会議長からも強くプッシュしていただき、合意を得ました。またESPの年次レビューがあれば参加したり、実行中のプロジェクトの視察をしたりもしますので、出張も2カ月に一度ぐらいあります。

仕事の醍醐味やチャレンジ

GPE事務局の仕事では各国大臣や指導層と直接話をして、政策決定プロセスに直接関わることができるので、その点は挑戦でもあり醍醐味でもあります。また、私の場合は担当地域が様々で、いろんな地域を見て回れるのは経験にもなりますし、違いや相似点を興味深く感じています。また、GPE事務局は多くの場面で中立的立場をとることが求められるので、発言には気をつけていますし、ときに非常に神経を使うところです。

これまで平均すると約2年の間隔で国を移動してきたので、家族にとってはいろんな国で生活をするということは大きなチャレンジだったと思います。常に仕事を選ぶときに苦労をかけたなという思いはありますね。子どもたちも学年が上がってくると「友達と離れるのが嫌だ、なんでそんなに引っ越すんだ」と言われるようになりましたが、それでもついてきて支えてくれる家族にはとても感謝しています。

今後のキャリアビジョン、趣味

今の仕事に役立っていることといえば、これまでの経験や勉強したこと、そしてサポートくださった方々の存在に尽きます。GPEの中でもいろんなツールを作り、数値化して良くなった悪くなったと言っていますが、スコアの上下だけに囚われても、国の実態というのはわかりにくいものです。数値に振り回されすぎないためには、これまでの経験で培ってきた、実際に何が起きているかを冷静に見る目が生きてくると思います。

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自分の中で大事にしている2つの言葉があって、ひとつは大学院時代の恩師に教えていただいた、ユネスコ憲章の「戦争は人の心から始まるものだから、人の心の中に平和の砦を築かなければいけない」という言葉。基礎教育の機会はこの30年ほどの間に目覚ましく拡大しましたが、現在も紛争が続いている国や地域が絶えません。「基礎教育だけでは、心の中に平和の砦が築けないのではないか?」という問いが自分の中でずっとあるので、このテーマは今後もっと突き詰めていきたいですね。もうひとつは高校の先輩の言葉なんですが、次のポスト探しの時にアドバイスを求めた際、「社会にとって自分の価値とは何なのか?単に組織に属するのでなく、社会の役に立つようなモデルを新たにつくってこそ、価値があるのではないか」と問われました。GPEや世銀もそうしたモデルの例だと思いますが、これまでの経験、知識、人脈を踏まえ、何がつくりだせるのか。これら2つの言葉を心の中にとめて、これからのキャリアや人生を考えていきたいと思ってます。

趣味は、ロッククライミング、スキューバダイビング、スキー、自転車など。アウトドアが好きなので、ひと通りやっていますが、最近は専ら犬との散歩と週末の生ビールのみ・・・。

若い人たちへのメッセージ

とにかくいろんな国の人と話して、彼らが何に困っていて、どうしたら寄り添えるかを必死に考えるのが大切なのかな、と思います。まず実際に現場へ行き、人と会って試行錯誤するべきなのではと思います。そういった意味では、現地で生活して、同じものを食べ、現地の人の苦労を体感することをお勧めします。現場にあれ!

 

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