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イベント実施報告: 「都市と気候変動」に関するテクニカルディープダイブ(TDD)

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四条堀川交差点の雨庭を見学する参加者たち。


2024年3月11日-15日、東京・京都(日本)

背景

都市の温室効果ガス排出量は、世界全体の約70%を占めているため、気候変動への対応において極めて重要な役割を担っています。緩和策を講じなければ、都市の排出量は2050年までに倍増するとも言われていますが、積極的かつ早急な緩和策を講じることで、排出量を実質ゼロにすることも可能だといわれています。一方で、都市は、気候変動が引き起こす様々な影響を抑える適応策を講じる必要もあります。都市はすでに沿岸の洪水や猛暑、気候変動によって悪化するその他の災害の影響を受けており、特に南アジアやアフリカのような脆弱な地域では、都市人口の増加が続くと予想されるため、都市はこうした変化に適応するために強靭性を高めなければならないのです。

今回の都市開発実務者向け対話型研修(テクニカルディープダイブ:TDD)は、世界銀行のクライアント国代表団に、都市の気候変動への適応と緩和のグッドプラクティスについて理解を深める機会を提供することを目的に実施されました。本TDDでは、気候変動への緩和と適応のための計画と分析、街区や建造物レベルにおけるグレー及びグリーン解決策の組み合わせなどに焦点をあてました。また、参加者のニーズに基づき、洪水被害対策の事例も紹介されました。TDD期間中のプレゼンテーションや視察では、気候変動に対応していくためのセクター横断的な行動や、社会的包摂と市民参加の重要性が語られました。8カ国から訪れた参加者が東京と京都に集まり、都市、街区、建物レベルでの気候変動の緩和策と適応策について学びました。

 

クライアントの課題

参加者からは、気候変動に対応できる都市を作る上で次のような課題が多く寄せられました。すなわち、(1)限られた予算内で気候変動に適応したインフラに投資すること、(2)気候変動政策を実施するための民間セクターや市民の意識改革、(3)効果的なガバナンスや気候適応計画を阻害する権限の重複や規範・基準の欠如などです。また、包括的な解決策を達成するためには、多部門が協力することが重要であるとの指摘がありました。

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クライアントの課題と取り組みについて、シフト・アンド・シェア・ディスカッションのグラフィックレコーディング。

 

研修で取り上げられた主要な論点

本TDDでは、参加者及び気候変動に対応する専門家の双方から貴重な見識を得ました。具体的な論点は以下のとおりです。

  • 気候変動行動計画は、戦略、空間的アプローチ、 資金調達のニーズを考慮し、エビデンスに基づいた包摂的で多部門にまたがるものでことが望ましい。アーバン・パフォーマンス(Urban Performance)、スーツ・アビリティ(SuitAbility)、APEXなどの分析ツールは、都市とその関係者が行動と投資の優先分野を特定するのに役立ちます。ただし、重要なのは、データ分析だけに注力するのではなく、データを利用して各ステークホルダーの視点を理解し、異なる関係者間の対話を促すことです。
  • 屋上緑化や雨庭などの自然を活用した解決策(NbS)は、暑さや洪水を軽減するのに役立つ。この解決策は、さまざまな規模で実施することができ、多くの場合、グレーインフラと組み合わせることで費用対効果が高くなります。NbSを効果的に活用するためには、地域社会や周辺環境のニーズを十分に考慮することが重要です。また、それぞれのタイプのNbSが地域にもたらす具体的な利益を事前に予測することも重要です。
  • 低炭素化目標を達成するためには、すべての市民が自発的かつ積極的に関与することが必要。そのためには、新たな制度を確立し、イノベーションを促進し、実行に移すことができる情報を普及する必要があります。小規模でも社会実験を行い、民間企業や市民を巻き込むことで気候変動に対する意識を高め、市民の行動を促すことができます。
  • 新しい建物は、建設前や建設中に強靭性と持続可能性を高めることができる。既存の建物も、効果的な運用と維持管理、改修のためのコスト評価を通じて、強靭性と持続可能性を高めることができます。建築基準法は、低炭素の原則を盛り込み、環境に優しく強靭な住宅の指標を組み込む必要があります。

 

視察

二子玉川

二子玉川地域は、都心から鉄道で10分ほどの距離で、閑静な住宅街として知られています。住宅密集地が中心ですが、二子玉川駅周辺には商業ビルやオフィス、公園などが点在しています。参加者は、公共交通指向型開発(TOD)、民間企業や自治体による都市緑化や水辺空間の創出、都市の治水への取り組みについて学びました。

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二子玉川の屋上緑化施設を視察する参加者たち。

京都市内

参加者は、公共交通機関や徒歩で京都市内を散策し、京都御苑や四条堀川の交差点などを訪れ、雨庭や屋上緑化など自然を活用した解決策(NbS)の実例を見学しました。また、自然採光雨や水、自然の風を生活空間に取り入れた持続可能な京町家「杉本家住宅」や、大規模建築物に緑化を施したJR京都駅の取り組みについて理解を深めました。

嵐山 

参加者は京都・嵐山地域も訪れ、桂川沿いの可動式止水壁や、二酸化炭素の吸収と景観保全で知られる「竹林の小径」などを見学しました。見学中の参加者からは、桂川の上流ダムなどの洪水対策や早期警報システムの調整、国・京都府・京都市の連携やそれにかかる費用および効果などについての質問がなされました。

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可動式止水壁の説明を受ける参加者たち。

 

次の段階にむけて

参加者は、5日間のTDDを通して、気候変動への取り組みと都市開発は相互に関連しており、効果的な気候変動対策には、統合的な計画や規制、インセンティブが不可欠であることを再認識しました。また、省庁間の垣根を越え、官民パートナーシップ(PPP)や市民参加を促進する必要性を確認しました。

今後の行動については、多くの参加者が、自国でも雨庭などの自然を活用した解決策(NbS)を積極的に実施したい、また、より持続可能で包括的な都市開発を推進するために、政治家やその他の利害関係者を巻き込んだ気候変動政策、規制、試験的プログラムを計画・実施したいと表明しました。

 

参加者からのフィードバック

本TDDの開催直後に、参加者の満足度を測るアンケートを実施したところ、参加者のうち25人(回答率74%)、回答者の100%が本TDDプログラムに満足し、うち92%が「非常に満足」、8%が「満足」と回答しました。さらに、参加者全員が、TDDが各自のプログラムまたはプロジェクトに関連する解決策を理解するのに役立ったと評価し、うち64%が「大いに評価する」、36%が「評価する」と回答しました。

全体として、多くの参加者は、雨庭のような自然を活用した解決策(NbS)や、乗降客数と効率性を高める公共交通指向型開発(TOD)の概念を実際に取り入れた事例を高く評価しました。また、技術チームのプレゼンテーションや、イベントの進行役によるファシリテーションにも満足の声が聞かれました。京都でのセッションや視察も参加者の印象に残り、多くの参加者が京都市の気候変動戦略や「伝統性と現代性」の調和に感嘆していました。

一方で、今後のTDDに向けた貴重な意見も寄せられました。改善案としては、プレゼンテーションをスリム化し、重要な論点と主な収穫に焦点を絞ること、プログラム時間を延長し、より深い参加と学習を可能にすることなどが挙げられました。また、海外や日本のまちづくりの事例を実務者の視点から紹介するセッションを増やしてほしいという要望もありました。

 

参加者の声

この4、5日間の議論を経て私たちは非常に意欲的になり、学んだ概念を私たちの現実の中でどのように試行するか、知識や技能に関してこの概念をいかに適応させるかを考えています。

(ヘリオ・バンゼ氏 モザンビーク公共事業・住宅・水資源省事務次官)

ケーススタディや現地視察は、徹底した知識、包括的な情報、精緻なデータに裏打ちされたもので、非常に参考になりました。ケーススタディとプレゼンテーションをリンクさせ、さらに視察で現状を示すという研修の進め方は、私たちの理解を形成する上で非常に効果的でした。

(ハサン・アクチャイ氏 トルコ・イスタンブール・プロジェクト・コーディネーション・ユニット、シニア・メカニカル・エンジニア)