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プレスリリース 2021年6月29日

南アジア地域は次なる金融危機の回避に向け、債務が増え続ける国有の銀行・企業の改革を

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ワシントン、2021年6月29日—南アジアは国有の商業銀行、国有企業、官民パートナーシップなど国や自治体の公共団体に大きく依存しているため、持続が不可能なレベルまで積み上がった債務という見えない脆弱性を抱えている、と世界銀行は本日発表の新報告書「隠れ債務:南アジアの次なる金融危機を回避するためのソリューション」の中で指摘している。

南アジアにおいて、国有の商業銀行(SOCB)、国有企業(SOE)、官民パートナーシップ(PPP)の「隠れ債務」のリスクが特に大きいのは、他の地域と比べその依存度が高いからだ。だが、同報告書は、域内各国の政府が経済発展促進に向け、こうした機関を通じて公的資本をより責任ある形で動員できるよう政策措置と具体的な改革を進めるべき主要分野を提示している。

「新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、南アジア地域の公的債務水準の上昇を浮き彫りにした。同地域は、経済発展に向けた政府による市場参加に大きく依存しているため、隠れ債務のリスクが特に大きい。」と、ハートウィグ・シェイファー世界銀行南アジア地域総局副総裁は述べた。「だが、今回の危機は、よりよく、より持続可能かつより公平に回復するには、債務で資金を調達した公的コミットメントの慎重な使い方と債務の透明性が極めて重要であることを示している。」

同報告書は、国による市場参加を通じた開発課題への直接的取組みと、簿外取引の経済効率性が悪いために多額の債務が膨れ上がるリスクの間で妥協点を探る必要があるとし、SOBC、SOE、PPPと、その偶発債務として、オフバランスで発生し政府が支払いを迫られる可能性を取り上げている。債務の一部はいずれ、中央政府の予算や債務ストックに影響を与えることで明らかになるが、大部分は既存の資産公開基準では隠れたままとなっている。

「南アジア地域の国有銀行や国有企業の効率性は、国際的なベンチマークをはるかに下回る。」と、ハンス・ティマー世界銀行南アジア地域担当チーフエコノミストは述べる。「各国政府が新型コロナウイルス感染症危機のショックから立ち直り、将来的な金融危機を回避しようとするに当たり、こうした企業の社会的目標と商業的目標を明確に区別することで非効率性を抑えつつ、社会的恩恵をもたらす投資を継続する必要がある。」

政府はSOEに対し、十分なサービスを受けていない人々や小規模事業への電力アクセス促進のようなプログラムへの補助金を約束することが多い。SOCBは、金融包摂の促進または十分なサービスを受けていない、またはリスクの高い中小企業に融資を行う政府プログラムの運営を依頼されるが、民間市場が回避できる損失に対し報酬が払われることはまずない。SOCBはまた、景気低迷時に経済を刺激し、集中的なリスクに直面する大規模なPPPを資金面で支援することも依頼される。こうした目に見えない任務は、往々にして、単発の要請に基づいて実施され、リスクやコストは考慮されない。

「世界規模の金融危機や新型コロナウイルス感染症危機など、系統的なショックの場合、多くの銀行が同時に苦境に陥るため、民間銀行はレバレッジを解消し融資を控える一方、国有の商用銀行は、融資の継続や拡大のために国から資本や債務支援を受ける。」と、同報告書を執筆したマーティン・メレキー世界銀行リード・エコノミストは述べた。「だが、こうした短期的な安定化は、公的資金が銀行の資本増強に費やされ、大口の信用供与が中小企業を中心に業績の良い企業を後回しにして不適切に配分されるなど、ほかの社会支出を犠牲にし、回復が不平等になる。」

同報告書は、システミックなマクロ金融危機がPPPの機能不全を引き起こすと南アジア諸国に収益の4%以上の損失をもたらし、SOE行き詰まりがもたらし得るコストはさらに深刻だと予測する。パキスタンでは近年、慢性的に損失を計上するSOEの抱える負債総額は対GDP比で8から12%を占め、2019~20年度の同国の教育分野での公的支出の数倍に上る。スリランカでは、赤字のSOEによる債務はGDPの約4~5%を占める。調査の対象となったいずれの国においても、赤字の多いSOE上位10社がSOEセクターの損失全体の80%以上を占めている。

苦境にある自治体も実体経済と現地の事業に多大なコストをもたらしている。地方政府が偶発債務ショックに見舞われると、一帯への投資が数年間にわたり低迷する。例えばインドでは、いくつかの州で偶発債務ショックが発生した年、一帯への投資が大幅に落ち込み、翌年も低下が続くなど、発生後3年間は通常の投資水準を大きく下回った。

改革に向けて以下の4点を強化すれば、公的資本動員におけるこうした下振れリスクを緩和し、利点を享受することが可能である。

  • 目的:社会的責務と商業的責務を規定することにより、SOCB、SOE、PPPの目的を明確に定義する。
  • インセンティブ:定義された目的に沿った形で業務に当たるための適切なインセンティブを生むように制度、規則、契約を構築する。SOCB、SOE、PPPの業務コストは市場コストを上回ることが多いため、その内容と範囲を決め、政府の予算・債務の管理枠組みと直接リンクさせることで、中央政府が、厳しい予算制約を通じて財政規律を堅持できるようにすることが重要である。
  • 透明性:SOCB、SOE、PPPがいかにして財政余地をつくり、直接的な負担や明確または暗黙の補償などで公的債務全般に貢献しているかを中央政府と地方政府が共に理解できるよう、債務の透明性とデータ収集を進める。SOCB、SOE、PPPの目的や業務の背景にある変更の理論の一般への開示、開発効果を示すための断固たるモニタリング・評価など、経済的な透明性もまた必要である。
  • 説明責任:公的資本が政治的な自己利益や裏取引に使われないよう、簿外取引のための公的資本の責任ある動員について、金融市場、業界団体、メディア、市民社会を巻き込んで政府に説明責任を求める。

お問い合せ

ワシントン:
Diana Chung
dchung1@worldbank.org
東京:
開 裕香子
(+81-3) 3597-6650
yhiraki@worldbankgroup.org
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