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特集 2021年3月16日

デジタル技術を駆使した食料と農業の未来に向けて

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Photo by Somchai Stock


要点

  • 農業従事者のための公正な収益の確保に、情報の公正な配信が貢献
  • デジタル農業を通じて、収穫量の拡大と食品廃棄物の削減を実現
  • デジタル農業で、消費者はより健康的で環境により配慮した食料の選択が可能

デジタル革命が世界のあらゆる場所、社会と商取引のあらゆる側面にまで及んでいる今、農業・食料システムもまた、変革のときを迎えています。

世界銀行は、このほど発表した報告書「農業・食料システムのデジタル変革の現状」の中で、デジタル技術がいかに食料システムを向上させているかを掘り下げ、各国による独自のデジタル農業の規模拡大への行程表として、農業・食料システムにいかにデジタル技術を導入していくかを示しています。同報告書はまた、食料システムの効率性、公平性、環境面の持続可能性を高めることのできる評価政策プロポーザルの枠組みを提示しています。

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デジタル農業は、収穫量の拡大や食品廃棄物の削減、農業従事者が生産した農作物に見合った収入を確保するために役立ちます。農業従事者は、必要な情報を遅滞なく受け取れば、適切な市場に出荷して間違いなく正当な価格で販売できるからです。そうした情報は、デジタル技術と、その技術で可能となるほぼ瞬時の知識共有によりもたらされます。情報格差の是正と取引コストの引き下げが実現するのです。

「デジタル革命は、農業・食料システムをかつてない形で変革できる膨大な可能性を秘めています。具体的には、同システムの発展を妨げている情報格差と取引コストを飛躍的に是正し、その結果、農業従事者や食料を農業に頼る80億人近くの生活を改善します。」と、世界銀行のカテリナ・シュローダー農業エコノミスト兼タスクチーム・リードは説明します。

今回の新型コロナウイルス感染症危機では、一部で店頭から食品が消えるなど食料システムの脆弱性が露呈しました。他方で、余剰農作物の廃棄を強いられる農家もみられました。デジタル技術は、食料システムにおけるこのような非効率性を最小限に抑える機会をもたらします。

2014年、農家当たり1日平均19万データ・ポイントが取得されましたが、専門家は、2050年までに約410万データ・ポイントに増えると予測しています。農業従事者がこの大量の情報を分析できれば、市場に出して利益を確保できる量のみ栽培するため植付けを調整することが可能になります。



種子や肥料についても、デジタル技術により農業従事者は、どういったものが入手可能で、いつ、どこで、どのように使うと効果的なのかについての情報にアクセスしやすくなるので、改良型の種子や肥料の導入促進につながります。また、農家から消費者まで農作物の流通を追跡しやすくなるので、食品の安全性を高めると共に、買い手にとっても、購入する食品の環境負荷や栄養価を把握しやすくなります。

デジタル変革は環境にもプラスに働くかもしれません。精密農業などのツールを通じて資源効率の向上に結び付く可能性があるからです。農家の栽培する作物を市場が決めるようにすることで、食品廃棄物を削減することが可能です。さらに、農作物に適切な表示を付ければ、消費者は、環境面で責任ある形で栽培された食料を選択することができるようになります。

ただし、デジタル革命にも障害はある、と同報告書は指摘しています。

強力な技術インフラが平等に普及していないと、ここで取り上げた変化が、持つ者と持たざる者の間の格差の悪化につながりかねません。新技術に投資する手段を持つ農業従事者の方が、重要な情報や市場にアクセスしやすくなるからです。

各種のデータ・ソース間に互換性がないために、市場や環境の状況について全体像をつかむことが難しくなる可能性もあります。さらに、データの機密性や専有システムをめぐる懸念も、状況を一層困難にしています。

デジタル・ソリューションの開発や保有、運用を手がける人々が知識や権力、収益を独占しようとすることもあるかもしれません。

「農業・食料システムを前進させるためには、データの機密性や標準化といった問題に対処する必要があります。」とシュローダーは指摘します。「そして、生成・収集した情報に誰もが公正にアクセスできるようにしなければなりません。」

世界銀行のジュリアン・ランピエッティ プラクティス・マネージャーも同意見です。

「状況は既に変化していて、効率性、公平性、環境面の持続可能性を踏まえつつデジタル変革をさらに推進するため力を尽くす必要があります。本報告書は、食料システムにプラスの影響をもたらすためにデジタル農業拡大の枠組みを整備する重要な一歩です。」

シュローダーとランピエッティは共に、プライバシー、互換性、データとプラットフォームへの公平なアクセスを確保しつつデジタル情報を生成・共有するための基準とガイドラインを設定するに当たり、政府と民間セクターには果たすべき役割があるとしています。そうした基準がないと、農業従事者は競争相手になるかもしれない人に自らの情報を共有することを躊躇するかもしれず、事業利益追求のために構築された専有システムのために、市場の全体像を把握することができなくなるかもしれません。

政府もまた、政策・規制環境を改善し、必要なインフラやデータ・システムの構築にインセンティブを設けるなどして、民間セクター参入の余地を拡大することができます。

「現在取得されている情報の多くをもっと効率的かつ公正に活用する必要があります。」とランピエッティは言います。「そして、その実現に大きな役割を担うのが公共セクターです。」


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