特集 2017年10月3日

新報告書「イノベーション・パラドックス」が成長促進の主たる要因を分析:管理スキルとイノベーション力が生産性向上に不可欠

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要点

  • 途上国では、製品やテクノロジー、業務手順を改善するために先進国の経験を活用しようという取組みが意外にもほとんど見られない。
  • 政策立案者や民間セクターによるイノベーション政策の立案方法、そして各国のイノベーションの進捗状況の測定方法を見直すことが、競争が熾烈なグローバル経済において成長を促進するために欠かせない。
  • 管理スキルや組織の管理手法はイノベーションに不可欠であり、成長や雇用創出を促進する新製品やテクノロジーの開発の基盤でもある。

"既存のテクノロジーを途上国に移転することで得られるであろう利点は計り知れないほど大きい。ところが、途上国の企業や政府は、この利点を実現するために比較的少ない資金しか投じていない。これこそが、われわれが「イノベーション・パラドックス」と呼ぶ現象のそもそもの原因だ。"
William F. Maloney
ウィリアム・F・マロニー
世界銀行グループチーフ・エコノミスト(公正な成長・金融・組織プラクティス・グループ)

イノベーション推進を通じて経済成長が促進される可能性は極めて大きい。ところが途上国では、製品やテクノロジー、業務手順を改善するために先進国の技法を活用しようという取組みが意外にもほとんど見られない。途上国の民間企業や公的政策部門が新テクノロジーや技法のより機敏な採用を優先しない限り、物的資本・人的資本の構築の遅れ、進まない管理能力の育成、脆弱な政府機能など、長期にわたり経済を制約してきた要因を克服することは難しいだろう。

世界銀行グループのエコノミストであるザビエル・シレラとウィリアム・F・マロニー新報告書の中でこう指摘し、途上国の官民両セクターのリーダーに対し、イノベーション政策にもっと的を絞ったアプローチをとるよう強く促している。

新報告書「The Innovation Paradox: Developing-Country Capabilities and the Unrealized Promise of Technological Catch-Up(仮題:イノベーション・パラドックス:途上国の能力、遅れを取る技術活用)」は、イノベーションがもたらすはずの発展を実現するに当たり政策担当者や起業家が直面する課題を明確に示している。

「今や世界には膨大なノウハウや専門知識があふれているが、後れを取った国々が既に発明されているそうした知識等を導入できれば、富める者から貧困に苦しむ人々へと富の移転が実現することになる。ところが、先進国に追いつき再び後れをとらないようにするためにこうした知識ストックを活用できた途上国は比較的少ない。」と同報告書は指摘する。

「既存のテクノロジーを途上国に移転することで得られるであろう利点は計り知れないほど大きい」と、世界銀行グループの公正な成長・金融・組織プラクティスグループのチーフ・エコノミストであるマロニーは言う。「ところが、途上国の企業や政府は、この可能性を実現するために比較的少ない資金しか投じていない。これこそが、われわれが『イノベーション・パラドックス』と呼ぶ現象のそもそもの原因だ。」

この問題は企業レベルで特に顕著だとマロニーは言う。「途上国では多くの企業が最新のテクノロジーを特定し導入するには至っていない。しかも公共セクターの機能が依然として弱いことが追い打ちをかけている。革新的な考え方をあまり受け入れない風土を生んでいる上、管理手法や企業の業務プロセスの改善を通じてイノベーションを促進するような政策の立案・実行能力が大きく不足しているのだ。」

「途上国の企業は、イノベーションを成功に導くための基盤構築に集中的に取り組むべきだ。」と、世界銀行グループの貿易・競争力グローバルプラクティスのシニア・エコノミストであるシレラは言う。「途上国のイノベーション政策は、研究開発のみに集中するのではなく、管理や組織のあり方を強化するところから始めなければならない。」

管理体制を強化し、組織としてあるべき活動をより機敏に取り入れれば、経済成長の可能性を一層後押ししうるが、そのためには各国が「最新のテクノロジー」を駆使できるよう導いていく必要がある。

企業レベルでより高度な管理や組織運営の手法を取り入れることは、製品やプロセスのイノベーションと製品の品質向上に不可欠であり成功を導く要因であるが、途上国の民間セクターではこれまで見過ごされてきた、と同報告書は指摘する。管理・運営手法の導入はまた、新商品や新テクノロジーの考案など、より洗練されたイノベーション・プロジェクト開発の基盤でもある。

イノベーション政策の設計・実行がより複雑なものとなる中、途上国の省庁には人的資本や効果的な組織構造が欠けていることが多いと同報告書は指摘する。イノベーション政策が功を奏するためには、政府の機能が限られていることを考慮して、政策ツールの適切な組み合わせを選択する必要がある。同報告書は、「ケイパビリティ・エスカレーター」という概念的枠組みを提案している。この概念では、民間セクターや政策担当者の能力や組織の機能のレベルによって企業整備の政策に段階をつけ、能力レベルが上がるにつれ徐々に次の政策に進んでいくことを想定している。

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同報告書の最後にマロニーとシレラは、19世紀フランスの生物学者・化学者ルイ・パスツールの著名な格言「幸運は用意された心のみに宿る」を引用し、楽観的な結論を導いている。「企業が、不確実性を管理し未来に進んでいく能力を高めることだけが、イノベーション・パラドックスを解消し、各国が将来の機会のために準備を整える鍵となる。ただし、その際、イノベーション・システムが必要なインプットを補いつつ知識を提供し、なおも拡大し続ける大きな課題への政府の対応力を強化することが求められる。」

イノベーション・パラドックスは、マロニーのチームが執筆する新シリーズ「世界銀行生産性プロジェクト」の第1巻である。同シリーズは、生産性の指標と決定要因についての「最先端の考え方」を、政策担当者に提示することを目的としている。

報告書をダウンロードする (英語)



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