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特集 2021年3月19日

都市周辺の公共交通を再考する

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要点

  • 都市化が急速に進む中、公共交通指向型開発(TOD)は、市民が安全かつ持続可能な方法で移動するために重要な都市開発の手法です。
  • 新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけに、交通結節点としての都市のあり方を見直し、公共空間を再構築する機会が訪れています。
  • 日本のTODモデルが示すように、TODと都市計画が一体となっている場合、その強みは最大限に発揮されます。

公共交通と公共空間は、都市に欠かせない要素です。これらは、人々がどこに住み、どこで働くかに影響を与えるとともに、様々なサービス、文化・芸術施設や緑地へのアクセスを促し、都市の暮らしの質を大きく左右します。

現在、世界人口の半数以上が都市で生活しており、その数は増加の一途をたどると予測されています。また、新型コロナウイルス感染症の影響により、人々の都市での暮らしや都市に対する考え方が変化しています。新型コロナウイルス感染症の世界的流行からの持続可能な復興に向けて、これまで以上に人を中心とした環境意識の高い都市のコミュニティづくりを実現するために、公共交通と公共空間に対するアプローチを見直す機会となっているのです。

その実現に向けて、世界銀行は都市における移動手段と持続可能な交通手段を開発プロジェクトの重点課題としました。その戦略や解決策を探るため、東京開発ラーニングセンター(TDLC)は2021年3月15日から19日まで、「公共交通指向型開発(TOD)を通じた都市部の近隣地域・土地の活性化(Vitalizing Urban Neighborhoods and Space through Transit-Oriented Development)」と題した都市開発実務者向け対話型研修(TDD)をオンラインで開催しました。

 

新型コロナウイルス感染症の経験を都市部の公共交通と公共空間にどう活かす

都市は新型コロナウイルス感染症の世界的流行により大打撃を受けています。コロナによる負の影響が目立つものの、良い変化も生まれています。例えば、自転車や徒歩で移動する住民が大幅に増え、歩行者に優しい都市への道筋が開かれつつあります。温室効果ガスや炭素排出量は減少し、大気汚染も改善しました。公園などの公共空間は、社会的距離を保ちながら人と交流できる場として関心が高まっています。

多くの都市では自家用車が主要な交通手段となっており、その習慣を変えることは容易ではありません。しかし、移動手段として自転車や徒歩などを利用するように促す包括的な感染症対策は、人々の健康増進だけでなく、温室効果ガスの排出削減にもつながるため、大きな可能性を秘めています。

実際、コロンビアのボゴタ市のように、新型コロナウイルス感染症が流行する中、自転車レーンや歩道の拡張を行った都市もあります。カリフォルニア州オークランド市では、歩行者の安全性や市民の娯楽のために、市内の道路の一部を通行止めにしました。このような事例は、都市が新型コロナウイルス感染症をきっかけに健康、コミュニティ、強靭性、持続可能性、包摂性を重視した取組みに着手できることを示しています。

 

日本におけるTOD:公共交通と都市開発を実現する相乗的アプローチ

長い間、日本におけるTODは民間セクターが主導してきました。民間企業は都市に通勤・通学客を運ぶ鉄道路線を整備し、駅周辺に集合住宅、オフィス、商業施設が立ち並ぶエリアを開発します。鉄道事業にかかる大規模投資を住宅建設や他の事業から得られる収益によって、迅速に回収しているのです。

日本のモデルでは、集客力のある鉄道拠点の開発が重視されるため、駅開発事業における魅力あるブランドづくりが要となっています。その一例が福岡市の天神地区にあるソラリアプラザです。ここでは店舗や飲食店、娯楽施設を完備し、地下鉄と近郊鉄道路線にも直結しています。また、バスターミナルも併設されており、施設自体の魅力や利便性によって、天神地区や駅に通じる沿線地域の交通結節点としての価値を高めています。

交通結節点の周辺地域が活性化すると、公共交通機関はより安全で誰もが利用できるようになります。その結果地価が上がり、市民の地元に対する誇りや思い入れも強まります。

世界では今、徒歩を重視した15分で移動できるまちづくりが支持されており、日本でもこうしたまちづくりの取組みが進められています。こうした都市では、市民が徒歩や自転車で無理なく安全に移動できる距離に公共交通機関、職場、商店、医療機関、学校、緑地が配置されます。公共空間を設計する際には、女性や高齢者のようなより脆弱な人たちに配慮し、最終目的地までの移動のしやすさにまで注意を払う必要があります。そのためには、十分な街灯を設置し安全性を向上させるとともに、歩道を整備し利便性を高めることが不可欠です。

より良いTODと都市計画づくりを実現するためには、自治体や住民、民間セクターなどの実務者が分野を越えて協力し合い、まちづくりにできるだけ多くの関係者を巻き込むことが鍵となります。


"公共交通周辺に優れた歩行者コミュニティを形成することで公共交通機関の利用客は増えます。アクセスが容易になり、一層まとまりのある住みやすいコミュニティが形成されます。このような地域では公共交通機関を利用することが人々の生活の一部となるのです。"
トム・ ベネット
ZGFアーキテクツ社


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