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特集 2022年1月12日

人事が語る~グローバルキャリア構築のための処方箋~ ブログシリーズ 第13回 ハイブリッドモデル環境下で成功するための、コーチング活用法(貝塚由美子 国際金融公社(IFC)上級人事担当官)

皆さんは、今までに一対一のコーチングを受けたことはありますか?あるいは、誰かのコーチになったことはありますか?憶測ですが、双方の質問に「はい」と回答する方は少ないかもしれません。昨年このブログシリーズで、世界銀行グループのメンタープログラムについて紹介させていただきましたが(第11回 キャリア構築とメンターの重要性参照)、キャリアディベロップメントの観点からは、メンターに加えてキャリアコーチも有益なリソースとなります。

世界銀行グループの本部で、コロナウィルスの影響による在宅勤務の試みや海外ミッションの原則停止という様々な制限が始まってから、もう2年近くになります。2021年の一年間を振り返ると、ワクチンの普及もあり、段階ごとに、週に数回オフィスで働くという働き方の選択肢も出てきました。しかし、オミクロン株の流行など不透明な部分もあり、大方の職員は勤務地毎の状況に従い、引き続き在宅勤務、または在宅とオフィスでバーチャルと対面式が混在するハイブリッドモデルという形式で働いています。

今回のブログでは、こうした世界銀行のハイブリッドモデル環境下における、コーチングの活用法について、お伝えしたいと思います。
 

ハイブリッドモデル環境

今回のブログの執筆を始めてから、日ごとにコロナウィルスの状況が変化しています。つい先日までは、年明けから多くの世界銀行グループ本部の職員が、最低週数日オフィスで勤務することを前提に準備を重ねてきました。2022年1月現在、そのタイミングも延長されると発表され、今後もハイブリッド環境での働き方が主流となります。こうした中、世界銀行グループでは、ハイブリッドモデルにおける「マネージャー用ガイドブック」が作成されました。このガイドブックの中にも、コーチングの活用法が記載されています。マネージャー職のみならず、現在バーチャルやハイブリッドモデル環境で働く、チームのリーダーや、メンバーにも当てはまる内容なので、ご紹介していきます。
 

コーチングとは

まずは、このブログで取り上げるコーチングの定義から始めます。ここで言うコーチングを受けるのは、組織のマネジメント、チームリーダー、職員など、組織内の幅広い対象者となります。そして、通常コーチングを提供するコーチ役は、いわゆるプロのコーチをはじめ、マネージャー、チームリーダー、人事関連の職歴のある人となります。さらに、コーチングの内容は、組織の戦略や運営から、リーダーシップ、キャリア、タイムマネジメント、職場の人間関係に至るまで、多岐にわたる課題を網羅します。

コーチの役割は、コーチングの受け手自身が、課題解決策を見つけるための、ナビゲーター兼パートナー役です。基本的に、実際の解決のための直接的なアドバイスは行いません。メンタリング、専門家の行うカウンセリング、あるいは指導者が行うティーチングと似ている部分もありますが、課題解決策にたどり着く手法が異なります。コーチは、対話を通じて相手の持っている可能性や創造性を引き出しながら、受け手自らが課題の解決策を生み出し、目標を達成し成長することを支援します。

世界銀行グループを始め、グローバルな組織では、マネージャーや上級職の職員にとって、コーチがつくことは珍しいことではなく、むしろ好意的に考えられています。現在、グローバルに認識されている組織として、国際コーチング連盟(ICF)があります。プロのコーチの13,000名以上が、ICFの国際資格を取得していると言われています。世界銀行グループでも、マネジャーや上級職の特にチームリーダーとなる職員の多くに、外部のICF資格を保持するプロのコーチをつけることが多く、期間は必要に応じて変わります。新しいマネージャーの多くは、コーチをつけて定期的にコーチングを受けています。また、世界銀行グループのマネージャーを対象とした360度フィードバックなどを行った際には、レポート結果が出た段階で、個々のマネージャーにコーチングを提供することもあります。
 

ハイブリッド環境におけるコーチング活用法

バーチャルと対面式が混在するハイブリッド環境における世界銀行グループの「マネージャー用ガイドブック」にはコーチングの活用法を載せていますが、その中から、コーチング基本事項、コーチングモデル、チームに対するコーチング、自らに対するコーチングの4点を紹介します。

1.  コーチング基本事項

効果的なコーチングを行う際、コーチが心掛ける基本事項は以下のとおりです。

  • 相手の立場にたち、積極的な傾聴をする。
  • 自身の気づきにつながるような質問をする。
  • 相手の伝えている内容を要約し、協調し、認識が正しいかを確認する。
  • 成功体験を引き出し、具体的な事象に着目する。
  •  効果的なタイミングを見逃さない。
  • 建設的なフィードバックを行う。
  •  次ステップを明確にし、具体的なアクションの合意をする。

お気づきのとおり、コーチングは、目標達成や課題解決のために本人の主体性を尊重し、持っている最大限の要素を引き出すことです。そのため、信頼関係構築と高いコミュニュケーション能力が必要になってきます。

2.  コーチングモデル

「GROWモデル」は、具体的にコーチングを実施する際に効果的なモデルとして知られています。4つのキーワード(Goal, Reality, Options, Will) の頭文字をとっているので、実際のコーチングの際にも、各ポイントを網羅できているかを簡単に確認できる利点があります。

  • Goal:コーチングの課題における、目標を明確にする。
  • Reality:課題に関する、現状を客観的に把握する。
  • Options:課題解決、達成のための、選択肢を考える。
  • Will:課題に関する、自身の決断およびアクションを明確にする。

コーチは「GROWモデル」に沿って、質問形式でコーチングを行うことで、相手が自らの課題解決策や決断を導くことができます。

3.  チームに対するコーチング

個人だけでなく、チームにおいてもコーチングは活用できます。特に世界銀行グループのハイブリッド環境においては、職員一人ひとりの多様なバックグラウンドに加え、複数拠点を有することや、働き方および私的環境の違い等が伴い、効果的なチーム作りが、より不可欠となってきます。

チームコーチングにおいて、特に以下の点に着目しています。

  • チームや組織の構成や背景を把握する。
  • メンバーの行動に関しての期待値を合意する。
  • 目標達成に対する、報酬や発表方法を検討する。
  • 個人の成長をサポートする。

チームコーチングを行う際も、上記のGROWモデルを用いると効果的です。

4.  自らに対するコーチング

コーチングのユニークな活用法として、自らに対しても行うことがあげられます。例えば、課題に解決に行き詰った際や、既存の枠をこえた新しい発想をする際など、自問自答しながら解決策に至る手法です。

質問例:

  • 今どのような環境に置かれていますか?理想の環境は?
  • この状況で、一番恐れていることは何ですか?
  • 他に、どのようなリソースを利用できますか?
  • この状況の中で、一点だけ変えられるとしたら、それは何ですか?
  • 課題について、チームのメンバーと話を避けていることはないですか?

こちらも、GROWモデルに沿って自問していくことで、客観的に課題と向き合い、自由な発想や、思わぬ気づきが生まれることがあります。

コーチングスキルのメリット

個人的な話になりますが、昨年、在宅勤務が始まって半年過ぎたころ、知人の紹介で、脳科学をもとにポジティブマインドの要素を取り入れた、コーチングの集中講座を受講する機会がありました。ちょうどその頃、多忙なわりに変化が乏しい在宅勤務が続く中で、何か新しいことをしたいという思いがありました。そして、集中講座終了後の2021年の初頭からは、コーチングに関してさらに深く学ぶことにしました。また世界銀行グループやグローバルな組織で働く若手やベテランのグループに対して、仕事以外でもチームコーチングを行うボランティアも始めてみました。

人事という職種上、以前からキャリアに関するコーチングなどをする機会はあり、コーチングの手法はある程度分かっていたつもりでいました。しかし実際に学びながら、ボランティアとして実践し始めると、コーチングというスキルは、どんなポジションにいる人にもメリットがあると強く認識するようになりました。例えば、相手にアドバイスをしたり教えたりするのではなく、相手の持っている要素を引き出すためのトレーニングは、バーチャルやハイブリッド環境で必要とされる感情知能やコミュニュケーション能力を高めるためにも、とても効果的だと感じています。現在も、前述のICF資格取得に向け、さらに学びながらの実践を継続しているところです。

冒頭の質問に戻ります。あなたにコーチはいますか?今までに一対一のコーチングを受けたことはありますか?誰かのコーチになったことはありますか?ここまでブログを読んで下さった方々にとって、コーチングがさらに身近に活用できるツールとなれば幸いです。

まとめ

コーチングというスキルは、必ずしも、ハイブリッド環境だから必要というわけではないでしょう。ただ、この2年余りコロナウィルスの影響で、世界的にも多様な働き方に順応せざるを得なくなった結果、チームを率いるリーダーにとって、感情知能やコミュニュケーション力を高めることは、より成果を出すチーム造りに不可欠となりました。世界銀行グループでは、様々な職員が、組織における職位とは別に、チームリーダーとなって、プロジェクトをリードする機会が与えられています。そのような際に、GROWモデルをはじめとする、コーチングの知識やスキルを高め、実践していくことが有効だと思います。
 

筆者略歴

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貝塚由美子 国際金融公社(IFC)上級人事担当官
Yumiko Kaizuka, Senior HR Officer, Talent and Incentives, Human Resources, IFC

2012年より国際金融公社(IFC)ワシントン本部にて現職。IFCのオペレーション、管理部門の部門人事ビジネスパートナー担当を経て、現在、人材戦略・育成の人事プログラム部門にて、マネージメントローテンション及びキャリア開発を担当。2018年よりIFCの日本人採用ミッション人事統括。大学卒業後メリルリンチ証券会社にてトレーディング業務従事。MBA留学後は同社にて採用、研修、人材育成を担当。その後ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社、HOYA株式会社にて勤務。東京、米国、シンガポールを拠点にグローバル人事及びグローバルプロジェクト担当。ペンシルベニア大学ウォートンスクール経営学修士。2016年ジョージタウン大学で組織開発コンサルティングのプロフェッショナル資格取得。

 



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