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特集 2020年9月18日

人事が語る~グローバルキャリア構築のための処方箋~ ブログシリーズ 第4回 ネットワーキングの妙〜ポストコロナ時代に通用するスキルとは(戸崎智支 HRビジネスパートナー)

社内外でのキャリア構築や転職活動にネットワーキングが大切だという話はみなさんも聞いたことがあると思います。求人(ジョブオープニング)のうち80%は何らかのネットワーキングによって充足されているというデータもあります。世界銀行をはじめとした国際機関を目指す各種専門家の方々も積極的に関係者とネットワーキングを実践されているのではないでしょうか。

国際機関では異動も昇進も基本的には、空席に応募して、選ばれて初めて実現することがほとんどで、多くの職員はキャリアステップのために組織内での人的ネットワーキング構築に励んでいます。そういったニーズから、世銀人事部は様々なネットワーキングスキルに関する研修を職員に提供しています。そういう私も最近、ネットワーキングに関する研修を受講し、ネットワーキングスキルの棚卸をしました。ワシントン DC本部ではコロナ禍による在宅勤務が継続しており(2020年9月現在)、オンライン形式での受講でしたが、得るものが多く、国際機関を目指す皆さんにも有効かと思われるいくつかの点についての学びを紹介したいと思います。

目的に応じたネットワーキングを~得たいものは、アドバイス、情報、紹介、それとも、サポート?

研修では、まずキャリアマネジメントにおけるネットワーキングは、自分とネットワーキングを依頼する相手との間のギブアンドテイクの上に成り立つという大前提を理解しました。そして、ネットワーキングをアドバイス、情報、紹介、サポートという4つのカテゴリーにわけて、なぜネットワーキングをするのかを明確にして戦略的にアプローチすることが大切ということを学びました。

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(出典:Smarter Networking: The World Bank Group, Career Management)

 

自ら国際機関の人事部に勤務しながら、この点は非常に目から鱗が落ちる思いをしました。なぜなら、これまで私はネットワーキングをお願いする方へのアプローチにエネルギーの大半を費やし、アポ取り自体が目的となってしまっている傾向がありました。よって目的を整理したり、その先の戦略を考える余裕がありませんでした。このトレーニングで学んだ4つのネットワーキングの目的について、私なりにこの研修から学んだことをまとめてみました。

  1. アドバイス:相手の経験やバックグランドを通した自分へのアドバイスを求める。自分のキャリア目標と現実のギャップをどうやって埋めていくかという気づき、相手をロールモデルとして設定し、ベンチマークし、目標を設定する助けにもなる。
  2. 情報:相手の属する組織やプロフェッショナル経験について、インターネットなどで公開されている内容では得られない情報を得る。転職や興味のある部門への異動などの実現に向けて活動を始めた段階で実施することが多い。
  3. 紹介:相手を介して、さらにキーパーソンへの紹介(例えばマネージャーや、より関連する分野の専門家等へのアクセス)の機会を得る、現段階で自分の経験スキルが活かせそうな機会の提案や、思いもよらなかったキャリア機会の発見。
  4. サポート:コーチング、メンタリング等個人的な精神的サポート、または、応募しているポストや将来応募したい部署やポストへの働きかけの依頼。

こうしてみると、ネットワーキングは、自分自身のキャリアの現在地、相手の属する組織への志望度合い、そして、その相手との関係等を勘案しながら実施していくことが大切だと言ええます。3、4の段階ではネットワーキングをする相手とのより深い信頼関係が必要であり、準備の度合いも違ってきます。よって、ただ会うことが目標にならないよう、自分が何を得たいのか明確にして戦略的にアプローチをしましょう。どの段階でも、話を聞く相手や、相手の所属する組織の基本情報を予め調べておくことは基本ですし、もし面会相手が書いているブログ、執筆したレポートなどがあれば予め目を通しておくことは必須でしょう。

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(写真:キャリアネットワーキングイベント会場にて:2019年)

 

ネットワーキングにおける日本人の傾向

さてここからは、ネットワーキングにおける日本人の傾向を考察していきたいと思います。日常的に面会の依頼をうける人事部にいる自らの立場と、他の現職職員からの経験談などを総合すると、日本人は比較的キャリアが浅くても、国際機関職員に突然連絡をして、マネージャー等の紹介や、自分にあったポジション探し、CV添削や面接コーチング、さらにはショートリストへのサポート依頼を期待する傾向が強いように思います。これは3,4の段階のネットワーキングにあたり、職員の側からすると、あまり知らない方からこうした依頼が来ると当然対応に当惑します。また、日本のビジネス慣行の影響なのか「ワシントンDCを訪問しますので、ご挨拶させてください。」という、まずは顔を合わせてご挨拶というアプローチが特徴的です。新型コロナウイルス感染症の流行以前から国際機関の採用面接では、対面ではなく電話やTV会議などの方式で実施され候補者が決定するケースがほとんどです。それに加えて、現在はほぼ全世界の事務所で在宅勤務が継続しており、新規採用者もリモートで入行し、上司や同僚に一切会わずに勤務開始することが普通になっています。ということで、実際に顔をあわせたことの有無は採用判断にあまり関係ありません。よって、とりあえず会って、という行動は非常に非効率的に映ります。むしろ対面ではなく電話などでのほうがネットワーキングの目的が明確にできる傾向があります。ポストコロナ時代はますますネットワーク構築の機会もオンラインに移行していくと思われます。実際に、世界銀行でも以前はワシントンDCにいなければ参加できなかったような各種セミナーが、オンラインで実施され、インターネットさえあれば世界のどこにいようとも平等にアクセスできるようになっています。これは逆にいうと国際機関に勤務する職員と面会し話を聞く機会がないと悩んでおられる日本在住の方々にとって、物理的な距離は不利ではないということですし、逆にチャンスと捉える時代がやってきたということになります。

一方、すでに開発援助機関等勤務で日常的に世界銀行職員と接している方の場合は、プロフェッショナルとして、3の段階のネットワーキングを積極的にされてもいいのではと思います。日本人の一般的な傾向として、仕事の相手に個人的なキャリアの相談をしてもいいものかと遠慮してしまうことがあるように思いますが、様々な外部候補者を面接している私の経験から、外部からショートリストに残り面接を突破する候補者は、例えばプロジェクトで世界銀行のカウンターパートだったというような方が多く、3の段階のネットワーキングを通じて空席情報にたどり着いています。仕事で周囲に国際機関の職員がいるような場合は、あまり遠慮せずにアプローチしてもいいのではないでしょうか。

4の段階については、相談する相手との信頼関係や自分のプロフェッショナルスキルに自信がない限り、相手が受け入れて当たり前との仮定で依頼することは簡単ではありません。これはたとえ国際機関内部の職員へのネットワーキング依頼でも同様で、例えば私は個人的にキャリアアドバイスを得たいと思ったある副総裁級の世銀幹部に面会を申し込むまで1年以上かけて準備をしました。幸いその幹部は私の依頼を快諾してくださいました。そういう意味で、ネットワーキングは双方の利益の上の成り立つものという大前提を改めて認識することが大切です。利益というと世知辛いかもしれませんが、「この人の持っている知識、経験は自分の仕事、ひいては国際開発にとっても有益」という純粋に専門家としての知識が認められている場合から始まり、「将来が楽しみ、とか、この人と一緒に仕事がしたい、同僚になりたい」というプロフェッショナルとしての人間的な魅力も、ネットワークを依頼する相手にとって広い意味での利益になっていると言えるでしょう。

まとめ〜ポストコロナ時代で通用するネットワーキングスキル

今回は、ネットワーキングというテーマで、私が研修で学んだ内容ついてまとめ、ネットワーキングにおける日本人の傾向についても考察してみました。キャリア実現のためのネットワーキングにおいては、情報、アドバイス、紹介、サポートなど何を得たいかを明確にして戦略的にアプローチすることが重要です。そして自分自身のキャリアの現状や相手との関係等を勘案しながら実施していくことが大切と言えます。ポストコロナ時代はますます人的ネットワーク構築の機会もオンラインに移行していくと思われます。以前は国際機関の所在地にいなければ参加できなかったような各種セミナーが、オンラインで実施され、インターネットを通じて世界のどこにいようとも簡単にアクセスできるようになっていますし、それに伴い世界中の様々な人的リソースとの接点が飛躍的に増えています。ぜひこれを機会と捉え、キャリア実現のためのネットワーキング戦略を構築されてみてはいかがでしょうか。

 

筆者略歴

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戸崎智支 人事総局 HRビジネスパートナー
Satoshi Tozaki, HR Business Partner

早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄道会社、外資系会社勤務。その後アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)を経て、コーネル大学にて産業労働関係学修士号を取得。多国籍企業の人事マネージャーとして北アメリカ、東南アジア、日本法人等で勤務後、2014年に国連に移り、国連人口基金(UNFPA)ニューヨーク本部人事戦略および分析担当官を歴任。2016年に採用担当官として世銀に移籍。金融、保健、環境、およびインフラ関連の専門家、エコノミストの採用を担当。2018年よりHRビジネスパートナーとしてクライアントサービスチームに異動。日本人リクルートミッション事務局運営担当も歴任。世界銀行グループにおける様々なグローバル人事・ダイバーシティイニチアチブに携わる。



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