特集 2017年12月19日

世界銀行が災害に強い文化遺産と持続可能な観光に関する実務者研修会合を東京と京都で開催

2017年4月10~14日、世界銀行東京防災ハブと東京開発ラーニングセンター(TDLC)は、災害に強い文化遺産と持続可能な観光に関する5日間の分野別実務者研修会合(TDD)を開催しました。双方向的な講義、現場視察、討論を行うTDDはユネスコ、立命館大学、国連世界観光機関アジア太平洋センター(UNWTO-RSOAP)、文化庁(ACA)、日本政府との協力により、東京と京都で開催されました。

世界銀行のクライアントおよびスタッフのうち、アルバニア、ブータン、中国、ミャンマー、ネパール、フィリピン、サウジアラビア、タンザニア、ウズベキスタンで世界銀行が支援するプロジェクトに携わる(7億米ドルに相当)9つのチームが、自然災害からの文化遺産の保護に関する画期的な技術と対処法に詳しい日本と世界の専門家の講義を受けました。

都市・国土開発、災害リスク管理、強靭性担当ディレクター(Director for Urban and Territorial Development, Disaster Risk Management, and Resilience at the World Bank)のサメ・ワーバ(Sameh Wahba)氏は、次のように述べています。「強靭性と文化遺産、および文化遺産への強靭性の組み込みについて話し合う場として、日本以上にふさわしい国はないでしょう。」ワーバ氏は途上国において日本の専門家がプロジェクト・レベルで関与することが重要だとし、ユネスコは文化遺産と持続可能な開発の重要なパートナーであると指摘しました。

リスク、課題、取り組み

国によって、抱えている課題は異なります。たとえば、フィリピンとミャンマーは洪水と地震により恒常的に被害を受けていますが、中国での脅威は急速な都市化です。一方で、参加国すべてに共通する課題も少なくありません。災害に関するより総合的な防災計画の必要性、所管機関間の連携課題、資金調達、問題と対策に対する住民の関心の低さ、より持続性のある保守・保全の必要性などがその例です。

参加者は日本が、地震、台風、洪水などさまざまな自然災害から文化遺産を守るために、どのように災害リスクを管理しているのかについて学び、実践的な例を見るために、過去に幾たびも火災に襲われてきた清水寺を訪れました。清水寺の僧侶である責任者が境内に設置されているセンサー、カメラ、消火栓などの設備、広範囲に及ぶ斜面の適切な安定化プログラム、耐震靭性を持つ適度な建物の耐震補強などの対策について紹介しました。こうした革新的な技術に加え、文化遺産の保全と防災で最も重要なのは「人」という要素です。清水寺周辺の住民はリスクを理解し、災害への備えと緊急対応に関わる活動に関わってきました。

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 「政府の資源が限られている場合、災害時の対応も不十分になりかねません。それゆえに、文化遺産を迅速かつ効果的に救済するには、地域社会が独自の仕組みを作り、緊急対応に当たるチームを組織しておくべきです。」
大窪健之教授:立命館大学 歴史都市防災研究所(R-DMUCH)所長

 

文化遺産の管理者および政策立案者が、危険な要素とそれがどのように災害リスクになり得るかを明確に認識する必要があり、その上で総合的にリスクへ取り組むべきだという考えが、共通する重要な意見として提示されました。ユネスコ文化セクター緊急災害対策ユニット長のジョバニ・ボカルディ氏は「課題は、リスク管理を文化遺産の管理と仕組みにいかに組み込むかという点にあります。個別に防災計画を立てるのではなく、防災計画の中に文化遺産という要素をどのように取り込むかが大切です」と指摘しました。

持続可能な観光

持続可能な観光は文化遺産と深く結びついています。観光は重要な産業ですが、観光にまつわる活動は時に、観光業が依存している文化遺産そのものに悪影響を及ぼす恐れがあります。ユネスコ世界遺産センター遺産担当副局長のラザーレ・エロウンド・アッソーモ氏は、「文化遺産と観光業に災害対策を取り入れる必要があり、また防災計画の中にも文化遺産と観光業を重要な要素として取り込まなくてはなりません」と述べています。

影響を与える行動計画

参加者は5日間の集中研修の終わりに、行動計画の作成と発表を行いました。研修を通じて参加者は、(i) 災害リスクに対する意識向上の新たなアイデアの創造、(ii) 文化遺産の現地と周辺地域における文化遺産の保全活動、(iii) 効果的な連携と責任分担に向けた計画立案と規制枠組みの再構築などの課題を持ち帰りました。

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 「文化遺産は文化的アイデンティティーの拠り所であるとともに、知識と学びを得る場でもあります。世界的に見て多くの文化遺産が脆弱な状態にあり、中程度から高度のリスクにさらされています。こうした遺産に対する主なリスクは、遺産が持つさまざまな特質に関わる価値の喪失の可能性です。同時に、こうした特質や価値を持つことで、私たちは遺産を保護する独創的な方法を考え出す必要があります。各国政府はこの点において、自国に所在する文化遺産の状況を調べ、価値評価を行うべきです。」
ロヒト・ジグヤス教授:立命館大学ユネスコ・チェア教授、歴史都市防災研究所(R-DMUCH)

この行動計画はTDDの終了とともに終わるものではありません。チームは行動計画に基づき、東京防災ハブからのさらなる支援を仰ぎました。東京防災ハブは現在ブータン、ミャンマー、ウズベキスタンで防災手法を通じて、災害対策、災害後の復旧体制、持続可能な観光に関するそれぞれの国のニーズを満たすために活動しています。

途上国が課題を組織的に判断する機会を持ち、地元と世界から必要とされる技術的な知識や、対象となる開発の資金援助を得られれば、文化遺産に対する災害リスクの管理と軽減に必要な政治と制度面での力を発揮することができるでしょう。


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