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publication2024年4月3日

フロントライン・スコアカード(Frontline Scorecard):保健医療システムの災害に対する強靭性診断のためのツール

The World Bank

要点

  • 防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)の新しい報告書は、各国の保健医療システムの災害や気候変動に対する強靭性について、広範な評価を行う第一歩となるツールを紹介しています。
  • 保健医療システムの災害に対する強靭性は、保健医療システムのみの堅牢性だけでなく、国家の危機管理システムや保健医療施設を支えるインフラとの一体となった仕組みが重要です。
  • ベリーズの実例では特に、本スコアカードを適用することにより、より掘り下げた技術支援の方向性が示され、その結果、強靭性を構築するための具体的な対策の特定や優先順位付けに役立つことが実証されています。

自然災害による頻繁なショックは気候変動によってさらに悪化し、保健医療システムそのもの、そして信頼性の高いケアを提供する保健医療システムに深刻な難題を投げかけています。このリスクのフロントライン(最前線)にあるのが、中米の沿岸小国、ベリーズです。2022年、カテゴリー2のハリケーン・リサによって、ベリーズシティでは多くの民間医療機関が閉鎖を余儀なくされ、公共セクターや官民共同で提供するサービスへの需要が増大しました。患者の大半は国内唯一の第3次保健医療施設であるベリーズシティのカール・ヒュースナー記念病院(KHMH)に搬送され、元から乏しいリソースにさらなる負担を強いることになりました。このようなリスクは今後数年間で一層高まる恐れがあります。KHMH自体がカテゴリー2よりも大きいハリケーンに耐えられるように設計されていないからです。ベリーズシティは全域が海抜より低いことから洪水のリスクが非常に高く、中でもKHMHは洪水に脆弱な地域に立地しています。

世界銀行は、気候変動や災害に対する保健医療システムの強靭性を高めるため、各国と協力しています。GFDRRのテーマ別プログラム「保健医療システムのための気候・災害リスク管理(Climate and Disaster Risk Management for Health Systems)」では、報告書「フロントライン(Frontline)」において保健医療システムの災害への備えに不可欠な次の5つの優先領域を定め、技術面の支援の取り組みを行っています。

  1. 保健医療サービスの基盤: 日常的な需要に対応するため保健医療システムの能力を強化することは、ショックに対する強靭性を高める前提条件です。
  2. 保健医療施設:緊急時の需要急増に対応できる施設の体制を備えると同時に、施設自体が地震や洪水などのショックに耐えられるようにすることが不可欠です。
  3. 保健医療システム:地域やシステムレベルで調整された対応と、解決策の柔軟な実施が緊急時の鍵となります。
  4. 国家の緊急事態管理:保健医療セクターの危機対応は、市民の保護やリスク時の財政支出を含めた緊急事態管理システムと同調していなければなりません。
  5. 質の高いインフラ:保健医療サービスを効果的に提供するには、災害に強い水、電気、交通機関、デジタルインフラが不可欠です。

今回発表した災害に強い保健医療システムについての報告書「フロントライン・スコアカード(Frontline Scorecard)」では、報告書の指針に沿ってデータに基づく国別ギャップ分析を行い、主要なリスクや優先的対策事項を特定しています。このスコアカードを用いた診断は、低・中所得国を対象として、保健医療システムの強靭化にかかる投資や改革、さらに検討すべきテーマの特定や優先順位付けに向けた最初の一歩となります。これを達成するため、フロントライン・スコアカードではさまざまな優先領域で80超の異なる指標に基づく評価を行い、差し迫った課題と改善策を特定します。これらの指標は、世界銀行や世界保健機関(WHO)、経済協力開発機構(OECD)などの多国籍機関や各国の公的報告書、その他保健医療、災害リスク軽減、危機対応、インフラに関する信頼性の高い情報源のデータを用いて評価します。

新たに発表されたフロントライン・スコアカード報告書では、その方法論の概要を紹介しており、ベリーズでの適用事例を掲載しています。また、保健医療システムの計画担当者や災害リスクの管理機関がこの報告書から得られる知見に基づき、強靭性と災害リスク管理の強化が必要な領域をいかに特定できるか、その方法を示しています。スコアカードを適用する利点(スピード、信頼性、柔軟性、幅広い適用性など)はこうした知見を迅速に提供できることですが、これは信頼できる情報源を基にしていること、そしてカスタマイズ可能であることに由来しています。

このスコアカードによるアプローチは、ペルーやコロンビア、ベリーズなど数カ国ですでに実践されており、保健医療システムの強靭性構築における優先的対策事項を特定しています。新しいフロントライン・スコアカード報告書に詳細が記載されているベリーズのケーススタディでは、このスコアカード評価法によって、中心となる技術支援がどのように掘り下げられ導かれるか、またその結果、医療保険システムの災害に備える戦略に不可欠な要素へのリソース配分に関して、意思決定の裏付けとなる情報提供がどのように可能になるかを示しています。この分析では、データと政策文書の体系的なレビューが行われ、それが現地視察と専門家からの助言によって補完されています。その結果、医療施設の日常的なメンテナンスやサプライチェーンと備蓄システムの強化、緊急時プロトコルの全国的な標準化とその実施、および医療スタッフにとって統一的な基準と手順の確立が急務であることが浮き彫りになりました。

GFDRRはこのような取り組みを通じて、世界銀行のチームとパートナー政府が強靭性を構築する機会を見出せるよう支援しており、それによって、ショックに強い保健医療システムへの政策適応と投資に向けた非常に重要な第一歩を踏み出しています。

本報告書は防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)の「日本―世界銀行防災共同プログラム(Japan-World Bank Program for Mainstreaming Disaster Risk Management in Developing Countries)」による資金援助を受けて作成されました。