スピーチ&筆記録

「第三世界」の終焉?

2010年4月14日


ロバート・B・ゼーリック世界銀行グループ総裁 ウッドロー・ウィルソン国際学術センター

スピーチ原稿

ロバート・B・ゼーリック世界銀行グループ総裁
ウッドロー・ウィルソン国際学術センター
2010年4月14日
[ 仮訳 ] 


はじめに: 「第三世界」の終焉?


過去数十年間、安全保障および国際政治学の分野では、世界の多極化について論議が交わされてきました。そして今、経済の分野でも新しい体系が必要であることを認識しなければなりません。
1989年の共産主義崩壊をもって「第二世界」という概念が消えたとするならば、2009年は「第三世界」の概念が終焉した年と言えます。その結果、多極化し、かつ急速に進化を遂げている新たな形の世界経済を迎えています。そうした中、途上国の中には新興経済大国として既に台頭したり、また今後の成長の極のひとつになると期待されたりするものもあれば、この新たな枠組みの中で自国の潜在力を発揮しようともがいている国もあります。多極化した新たな世界経済では、南北とか東西という言葉は経済ではなく地理上の行き先を示すに過ぎません。
貧困は続いており、放置するわけにはいきません。破綻国家の問題も解決されておらず、対応が必要です。地球規模の課題は深刻さを増しており、取り組まなければなりません。ただし、こうした問題にいかに取り組むべきかについては変化が生じています。「第一世界」と「第三世界」、「支援国」と「被支援国」、「指導者」と「支持者」といった分類はもはや過去のものです。
その意味するところは重大です。国際協調の枠組み、世界規模の協力活動、勢力関係、開発、そして国際機関にとって大きな意味合いがあります。

国際協調主義の重要性

今回の世界的経済危機は、国際協調主義の重要性を浮き彫りにしました。危機の深刻さを認識した結果、各国は世界経済を破綻の淵から救うため一致団結しました。その結果、新たなG20が誕生しました。G20は信認回復に向けて素早く行動することで、その潜在力を示しました。問われるのは、それが例外的、一時的だったのかということです。
後世の歴史学者が2009年を振り返ったとき、それは単発的な国際協力だったと見るのでしょうか、それとも何か新しいものの始まりだったと見るのでしょうか。第一次世界大戦の後、ウッドロー・ウィルソンが新たな国際体制を構築しようと試みたもののチャンスを生かすことができず、結局世界は危機を乗り越えられなかったという見方があります。今回もそれと重ね合わされることになるのでしょうか。
今、危険なのは、危機感が薄らぐと共に、協力への意欲も薄れてしまうことです。すでに、国民国家で構成される世界を狭い国益追求に引き戻そうとする引力が働いているのが感じられます。
それは間違いです。経済的、政治的な地殻変動は地球規模で起こっています。我々もそれと共に変化していくことが可能です。そうしなければ、いつまでも古い世界のプリズムを通して新しい世界を見ることになってしまいます。新たな現実を認識しなければなりません。そして、それを踏まえて行動するのです。
今回、何が違うのか。新たな需要をもたらすもの
それでは、これまでと何が違うのでしょうか。
途上国は今回の危機の原因ではありませんでしたが、解決のために重要な役割を果たすことが可能です。今から10年後、世界は大きく変容しており、米国だけでなく世界各地で需要が発生するでしょう。
この変化はすでに始まっています。購買力平価で見た場合、世界経済に占めるアジアの割合は、1980年の7%から2008年には21%へと着実に拡大してきました。今やアジアの株式市場は世界の時価総額の32%を占め、米国の30%、ヨーロッパの25%を凌いでいます。中国は昨年、ドイツを抜いて世界最大の輸出国となりました。また、米国を追い越し、世界最大の自動車市場にもなりました。
輸入統計から興味深い真実が見えてきます。途上国が世界経済の牽引力となりつつあるのです。世界貿易の回復は、概ね途上国の力強い輸入需要によるものでした。途上国の輸入はすでに、危機以前の最高値である2008年4月を2%上回っています。逆に、高所得国の輸入は過去の最高値を今も19%下回っています。途上国の輸入は高所得国の輸入のおよそ半分に過ぎないとは言え、はるかに速いペースで伸びているのです。その結果、2000年以降の世界の輸入需要の伸びの半分以上は途上国が寄与しています。

成長の新たな極

世界経済のバランスは構造変化を起こしています。その一部は新しいバランスであり、一部は過去の復興です。アンガス・マディソン教授によると、アジアは過去2000年のうち1800年の間、世界の生産高の半分以上を占めていたのです。途上国で中産階級が増え、何十億もの人々が世界経済に参加し、新しいパターンの経済統合により地域的協力の促進が「開かれた世界」と結び付く中、成長の多極化が始まっています。
こうした変化は単に中国やインドだけのものではありません。購買力平価で見た場合、途上世界が世界GDPに占める割合は、1980年の33.7%から2010年には43.4%へと拡大しました。途上国は今後5年間、そしてその後も、力強い成長が見込まれています。サブサハラ・アフリカは2015年までに年平均6%以上で、また世界の貧困層の半数が住む南アジアでは、同期間中、実に7%で、それぞれ拡大する可能性があります。
東南アジアは日本や韓国、オーストラリアと一層深い結びつきを持ちつつ、インドや中国との結びつきを強め、さらにグローバル・ソーシングを通じて北米やヨーロッパとのつながりを維持して、今や6億人近い人口の中所得国地域となりました。
中東地域は、世界の他の地域にとって重要な資本供給源であり、東・南アジア、ヨーロッパ、アフリカを結ぶビジネス・サービスのハブとしても発展しつつあります。湾岸協力会議諸国(GCC)の2008年末の外貨準備額は5000億ドル超、政府系ファンドの資産総額は実に推定1兆ドルでした。マグレブ諸国が歴史的な断層を超えて活動できるならば、中東とアフリカの両方に結びついた欧州/地中海統合の一翼を担う可能性があります。
ラテンアメリカ・カリブ海地域では、2002~2008年の間に6000万人が貧困から脱却し、中産階級の増大により、年間15%の割合で輸入量が拡大しました。

成長の潜在的極としてのアフリカ

地殻変動はさらに進むでしょう。アフリカは、東アジア各国を貧困から脱却させ繁栄へと導いた製造業革命に乗るチャンスを逸しましたが、もはや取り残される必要はありません。

今日、多くのアフリカ諸国は、石鹸や履物のような安価な小物や、基本的な道具や消費財ですら輸入に頼っています。アフリカ諸国が、こうした製品の国内生産や地元の起業家育成を阻む障害を解消する一方で、外部の投資家が生産拠点をアフリカに移せるよう環境を整えれば、アフリカの開発は、これまでと様相が大きく異なってくるはずです。このアプローチの下では、過去に失敗した保護主義の輸入代替化政策とは異なり、世界市場の枠内で域内統合の恩恵を享受することが可能となります。
そのためには何が必要なのでしょうか。そのための第一歩として、アフリカの人口の80%を占める1日2ドル未満で暮らす貧困層が基本的な消費財を購入できるだけの収入を得られるようにすべきです。農業は、雇用の一番の源であり、生産性と所得の向上を図る初期の機会を提供してくれます。それには、財産権、種子、灌漑、肥料、金融、基本的技術、貯蔵、市場への輸送など、農業のバリューチェーン全体に投資を行う必要があります。アフリカでは農民の約3分の2は女性であるため、法的権利や財産権の確保、サービスへのアクセス面で支援していく必要があります。
アフリカの人々の収入と生活水準がわずかに向上するだけで、地元の生産者は当該地域の市場に的を絞ったり、地元のニーズに合った製品をつくることが可能となり、いずれは輸出への転換が可能になります。
アフリカが今後さらに成長するためには、第二次大戦後のヨーロッパや日本が必要としたものが必要となります。すなわち、インフラ、エネルギー、世界経済と結びついた統合化された市場、そして民間セクター発展のための土壌などです。こうした公共財は、現地の製造促進をはるかに越える役割を果たすでしょう。
今日我々が目にしている変動は、新たな機会を切り開きます。世界危機に見舞われたとき、中国人の中に、もはや玩具と履物に頼る時代は終わったとの認識が出ました。中国でも、バリューチェーンのより付加価値の高い場所へ移動し、賃金と消費を伸ばし、「調和のとれた社会」を拡大できるはずです。その一方で、中国企業は、資源開発企業や建設会社のように、付加価値の低い生産をアフリカなどの海外に移転させられるはずです。
中国企業には、国内向け商品と輸出商品の生産を海外に移転するよう奨励できましょう。これらの製造企業は、ノウハウと設備をもたらし、販売・流通網へのアクセスを可能にします。世界銀行は工業団地整備のためアフリカ諸国や中国と協力しています。
先見の明のある投資家はアフリカの将来性を察知し、リスクがあるからと言って撤退していません。リーマン・ブラザーズやギリシャを見た投資家たちは、先進国市場であってもリスクを伴うことを知っています。
政府による政策変更は、民間セクター発展の機会を創出し、ひいては他の起業家向けのサービス提供を可能にすることができます。民間セクターは、2008年までの10年間に、アフリカの情報通信技術に600億ドル以上を投資してきました。今や、アフリカの人口の65%にとって携帯電話サービスが利用可能であり、4億台の携帯電話が使われています。
世銀のグループ機関で民間セクターを支援する国際金融公社(IFC)は、このビジネス革命の促進に一役買っています。IFCの新たなエクイティー・ファンドは、アフリカとラテンアメリカ・カリブ海両地域の企業への投資を目的に、政府系ファンドや年金基金から8億ドルを動員しました。


経済力のシフトが国際政治力学のシフトをもたらす

途上国における所得の増加と成長の拡大は、発言力の増大を意味します。G7首脳たちが暖炉を囲んで談笑する時代は終わりました。今日の話し合いは、主要参加国を迎えるだけの大きなテーブルを必要としており、途上国のための席も不可欠です。
ピッツバーグで開催された昨年のG20サミットは、こうした変化を認識する機会となりました。しかし、言葉だけではいけません。ウッドロー・ウィルソン大統領の言葉は、崇高な理想を実現できませんでした。国際システムの中で、ステークホルダーが互いに新たな責任分担を取り決めることは容易ではありません。しかし、それは断行すべきです。1919年の失敗は、1929年に各国が互いに協力できないという状況をつくり、さらに1939年に欧州で大戦を勃発させました。
今日、すでに緊張関係は存在します。世界貿易機関(WTO)のドーハラウンドやコペンハーゲン気候変動会議では、先進国と途上国の間で相互の利益と責任を分担することがいかに難しいかが明らかになりました。さらにこれらの会議では、途上国の中でもそれぞれに直面する問題が異なることが明らかになりました。
もはや重要な国際問題を途上国や新興国の関与ぬきに解決することができないということは、ブラジル、ロシア、インド、中国といった、いわゆるBRICsと呼ばれる一部の大きな途上国が途上国全体を代表する訳でもないということです。
水、疾病、移民、人口動態、脆弱国など多数の問題についても同様です。
G20の下で新たな話し合いの場を模索する際、柔軟性に欠けた新たな国際的階層を押しつけることがないよう留意すべきです。G20はむしろ、国家や国際機関のネットワーク全体の「運営幹事」として機能すべきです。この運営幹事は、問題の相互の結びつきを認識し、相互利益を促進すべきです。このシステムに序列があってはならず、官僚的であってもなりません。さらに、実際に問題を処理することにより、運営幹事としての有効性を立証しなければなりません。


従来の勢力図に基づく手法の危険性

各国を狭い国益追求に引き戻そうとする政治的引力の危険性は、従来のG7のプリズムを通して変化を続ける世界に対応しようとすることです。G7という先進国の利益代表は、たとえ善意であっても、新興国の見解を代表できません。過去の勢力図に基づく手法に囚われている余裕はないのです。
また、19世紀にメッテルニヒが主催したウィーン会議のように、変化に抵抗する「旧式の国際協調」には逆戻りできません。「多極化された経済における新たな地政学」では、相互利益を確保するために、異なる見解や状況を認識した上で責任を分担しなければなりません。

金融改革

例として、金融改革を取り上げます。世界金融システムの混乱により、世界は失業や生活破綻など大きな犠牲を払いました。
資本、流動性、監督基準の強化など、金融規制の改善はもちろん必要です。監督のための新たな枠組みには、システミック・リスクへの配慮、景気循環の乱高下を助長する規制の撤廃、抜け穴を防ぐ総合的な監督体制づくり、財・サービスの価格だけでなく資産インフレへの留意が盛り込まれるべきです。
ただしその際、意図しない結果が生じないよう注意が必要です。金融保護主義を奨励したり、貧困層に対する金融サービスを不当に制限することで、かえってコストの増大を招いてはいけません。ブリュッセル、ロンドン、パリ、ワシントンで合意された規制は、先進国の大銀行には有効であっても、先進国か途上国かを問わず、小規模な銀行にも有効と言えるでしょうか。
これらの規制は、途上国の金融セクター、イノベーション、リスク管理を圧殺してしまうでしょう。また、クロスボーダーの投資を一層困難にします。
「国内融資」の義務化は、「国産調達」と同様の悪影響をもたらします。「国内拠点設立」の義務化は、貿易を窒息させると同時に、サービスも圧殺します。「国内流動性」の義務化は、流動性のグローバルな管理を寸断する上、安全性を高めずに追加コストを増加させます。
デリバティブは今や悪名高い存在です。AIGを思い出せば無理もありません。しかしデリバティブは、穀物価格の乱高下への備えとして米国中西部の農家で利用されています。またメキシコは、主要な歳入源である原油の価格を固定するためにエネルギー・オプション取引を利用しています。
世界銀行は他に先駆けて通貨スワップを導入し、為替リスクや金利リスクから守るためにスワップを活用しています。世銀の融資は、為替リスクや金利リスク、さらには干ばつや災害などから借入国を守るために、ヘッジ取引の機会を提供しています。さらに、世界市場と結びついた現地通貨建て債券市場を支援することで、今回の金融危機の津波から途上国を守りました。
金融イノベーションは、健全に利用され、監督されていれば、効率性を高め、リスクを低下させます。世銀は他に先駆けて、モンゴルの遊牧民族を対象とした家畜保険、干ばつに備えるためのマラウィの天候デリバティブ、カリブ海災害保険プールなどを開発しました。1月のハイチ地震では、この災害保険プールから800万ドルがどの外部資金よりも早く提供されました。
セディージョ元メキシコ大統領が注意喚起したとおり、貧しい人々が抱える問題は、市場が多過ぎるのではなく、少な過ぎることです。マイクロファイナンス機関や特に女性が経営する中小企業のための市場、すなわち、商品の輸送、保管、販売のための市場、そして貯蓄・保険・投資のための市場が必要です。
金融イノベーションの危険性はウォール街で露呈しました。我々は、それを真剣に受け止め、行動を起こす必要があります。しかし、開発は利益をもたらしています。G7の大衆向けプリズムを通した見方では、数十億ドルの機会が失なわれてしまいます。

気候変動

例として、気候変動を見てみましょう。ここでの危険性は、先進国のルールを唯一のモデルとして途上国に押し付けようとすることです。途上国は、ノーと言うでしょう。
気候変動政策は、開発と結びつけ、途上国から低炭素型成長に対する支持を取り付けることが可能です。ただし、それが相手を拘束する押し付けでなければです。
環境に配慮した将来に対し、途上国のコミットメントが不足しているわけではありません。途上国の人々もまた、きれいな環境を望んでいるのです。
途上国が環境に配慮した成長軌道に投資するには、支援と資金が必要です。16億人もの人が電気のない生活を送っているのです。課題は何億もの人々を貧困から脱却させられる電力へのアクセス、生産性、成長を犠牲にすることなく、よりクリーンなエネルギーへの移行を支援することです。
従来と同じ地政学的見方を回避するには、問題を異なる角度から見つめることです。電気か環境かという二者択一から脱皮する必要があります。炭素価格を反映させ、しかも、省エネ促進、貧困国で応用できるクリーン・エネルギー技術の開発、送電網に依存しないオフ・グリッド太陽光発電の奨励、地熱発電のイノベーション促進、森林/土地利用政策における関係者全員のメリット確保が可能となる一連の政策が求められています。そして、その過程で雇用創出とエネルギーの安全保障強化を実現できるのです。
先進国世界はダムによる水力発電で繁栄しました。ところが、途上国が先進国と同様の発電を利用すべきではないとの主張があります。そういう人たちは、誰もいない部屋で灯りをつけっぱなしにしておくことと同じ程度の簡単な問題と考えているのでしょう。
環境に配慮しなければならないとは言え、アフリカの子供たちにローソクの明かりで宿題をさせ、アフリカの労働者に製造業への従事を否定することはできません。先進国の古いプリズムを通した考え方では、地球環境の保護という目標に対し途上国の支持を得ることは到底できません。

危機対応の管理

危機対応を例に取りましょう。世界が変容を続ける中、危険なのは、先進国が金融システムや、ギリシャなどのように、先進国における不適切な管理だけに目を向けることです。途上国には貧困について議論する場が必要です。今回の危機から得られたひとつの教訓は、1990年代のアジア危機のときとは異なり、効果的なセーフティネットにより、数十年の遅れを再現しないですませたことです。
途上国の声に耳を傾けることは、もはやチャリティや連帯の問題ではありません。それは自身の利益となるのです。今や途上国は成長の源であり、先進国の資本財やサービスを輸入しています。
途上国は、先進国の深刻な赤字体質についてだけ討議したいとは望んでいません。彼らは、インフラや幼児期ケアといった生産的な投資に力を注ぐことを望んでいます。市場を自由化して雇用創出、生産性向上、成長促進を望んでもいます。その多くは、公共セクターのインフラやサービスの提供・維持のために民間市場のイノベーションや効率をいかに活用すべきか模索しています。

台頭する勢力の新たな役割

しかし新たな国際協調主義の実現とは、先進国が新興勢力のニーズにいかに適合するかということだけではありません。権力には責任が伴います。
途上国は、今や自らが世界の構造の一部であることを認識する必要があります。金融、貿易、アイデアや人の移動、環境、そして高い機能を備えた国際機関を構築するために必要な、健全でダイナミックかつ柔軟な国際システムは彼らの利害にかなうのです。
我々は、どうすれば相互の利益となるかを見極め、相互に恩恵にあずかることができるようにしなければなりません。同時に、国内の政治的制約と現地の懸念を認識する必要もあります。どの指導者も自国で説明できるような合意が必要です。


世界の変容が開発に与える影響

この変容する世界は開発にどのような影響をもたらすのでしょうか。
開発はもはや先進国と途上国の関係とは限りません。途上国同士でも、さらには途上国から先進国に対するものであり、心の開かれた人々が教訓を学ぶ機会です。例えば、メキシコの条件付現金給付プログラムは、世界中で研究対象となっています。また、インドは、ミルクの生産を飛躍的に伸ばした、いわゆる「白い革命」についてアフリカに説明することができます。さらに、途上国が援助と知識を受け取るだけでなく、提供する側にも立つという新しい世界が到来しています。ただしそれは、イデオロギーの万能薬でもなければ、青写真でも、何にでも適用できるものでもありません。多極化された経済において、開発とは、プラグマティズムであり、体験から学び、市場やビジネスがいかに変化するかを認識し、アイデアを分かち合い、ちょうど市場がつながるように、イノベーション溢れるネットワーク全体で知識をつないで行くことです。
また開発の将来は、旧来からの援助の概念だけにとどまるものではありません。世銀グループと共にアフリカへの投資を望む政府系ファンドや年金基金は、金融仲介の新たな形態を代表しています。これはチャリティではなく、十分なリターンを期待する投資です。IFCは、情報の障害を低減し、取引コストの削減を支援しています。我々の目的は、まさに途上国への金融フローを根本的に変えることに他なりません。

国際機関の改革

経済の多極化に伴い、「少人数のクラブ」よりも「多人数の協会」の方が全体を代表するようになります。こうした中、「多極化された経済のための新しい地政学」はいかに運営されればよいのでしょうか。
地殻変動が起きているならば、国際機関も変化しなければなりません。今回の危機は国際的な協力の可能性を示唆しましたが、同時に、新たな世界にふさわしい国際機関の改革と強化の必要性も浮き彫りにしました。
新たな世界では、相互利益を見出し、交渉を通じて共通の行動を探り、かつてない多様な国々の相違点に対処する必要があります。
そうした世界では、迅速で柔軟性に富み、説明責任を備え、さらに、ボイスなき者にボイスを与え、資源を即座に提供できる機関が必要です。
また、謙虚さと尊敬の念を持ち、他者から学ぼうとする姿勢でパートナーに働きかけ、途上国同士、また先進国が途上国から学び交流するという新しい世界を開き、結びつける機関が必要です。
さらに、実際に結果を出し、つまづいても説明責任をとる機関が求められています。
世界銀行グループはこの役割を果たすため、改革を進めなければなりません。しかも、より迅速にかつ継続的に進める必要があります。政府や公共機関は、競争にさらされている民間組織に比べて変革が遅れがちです。我々はこの危険性を認識しています。この問題に対応するため、我々は、世銀史上最大規模の改革に着手しました。

より多くの国々を代表し、組織の正統性を高めるための改革

改革後の世銀グループは、増え続けるステークホルダーの役割と責任のみならず、その多様性と独特のニーズを認識しながら、21世紀の国際経済の現実を代表し、アフリカにより多くのボイスを与えなければなりません。
こうしたニーズを踏まえ、今月、全加盟国に対し、途上国の投票権の割合を47%以上へと引き上げるという公約を守るよう強く要請しています。

しかし、それで終わりではありません。国際金融機関としては異例ですが、長期的に衡平を実現するため、加盟国の経済成長と状況の変化に基づいて、出資シェアを5年ごとに見直すことにしました。加盟国の出資フェアが初めて世銀グループのニーズと任務を踏まえて特別に開発された方式に基づいて決定されます。この方式では、単に加盟国の経済力だけでなく、世界の最貧国を対象とした我々の基金に対する拠出も勘案されます。
世銀幹部職員には現在、これまでで一番多く途上国出身者や女性がいます。この流れは今後も推進して行く必要があります。
途上国を教科書にある開発モデルの対象として扱うのではなく、クライアントとして力を合わせて行く必要があります。彼らの問題を解決する支援が必要であり、理論を試すのではありません。
しかし問題解決には資金が必要です。

増資を通じた改革

危機が最も深刻だった2008年半ば以降今日までに、世銀グループが途上国支援にコミットした額は1,000億ドルを上回りました。
これは過去の記録をすべて打ち破る水準です。この課題に果敢に取り組んでくれた世銀グループの職員に対し、深い感謝の意を表したいと思います。
我々は、ニーズのあるところに資金を素早く提供してきました。世銀グループは伝統的に長期的プロジェクトに対して貸出を行ってきましたが、我々が開発のためディスバースした融資額は、国際通貨基金(IMF)の危機対応額を超えています。
世銀グループは、危機に対する対応を強化するため、手持ちの資金を有効かつ効率的に利用すべく努めてきました。
我々は、回復後の成長を支援するためにも、またこの多極化された世界経済において新たな国際協調主義を実現するためにも、さらなる資金を必要としています。さもなければ、万一回復が停滞するようなことがあっても、我々は傍観するしかないでしょう。
そのため、世銀は20数年ぶりに増資を求めています。加盟国は、世銀グループを強化するか、それとも影響力の低下を許すかの決断を求められています。後者の場合には、効果的な国際機関としての世銀グループは姿を消し、有事に対して十分な資金対応ができない組織になってしまうでしょう。
世銀は、途上国に資金的支援を提供するのみならず、新たな国際協調主義がいかに機能し得るかを実証してきました。世銀は、加盟186か国間の協力関係を築いているのです。
世銀の資本基盤強化のため調達する資金の半分以上は、金利、手数料の引き上げと投資収益の伸びという形で途上国から得ることになるでしょう。このパッケージで加盟国全体の合意ができれば、気候変動会議や貿易交渉における最近のつまずきとは対照的に、多国間交渉の成功事例となるでしょう。

有効性を高め、一層革新的で、説明責任の高い組織となるための改革

しかし、そうした議決権改革や増資だけでは不十分です。世銀は、さらに有効性を高め、一層迅速かつ柔軟で、革新的で、説明責任の高い組織となる必要があります。
我々が改革を進める目的は、世銀が最高の価値を付加できる分野に戦略的焦点を絞り込むことです。サブサハラ・アフリカなどの貧困層や脆弱層、成長のための機会創出、気候変動・農業・水・保健などの分野でのグローバルな共同行動の促進、ガバナンス強化、そして危機に対する準備などです。
また、我々の改革は、世銀の商品とサービスを革新して、イノベーションの機会を促進し、クライアントのより近くで最新技術を応用できるよう分権型意思決定モデルの導入を図り、世界的な知識と経験を収集し、目的に応じて修正し、共有するためでもあります。我々は、世界中で活動しますが、それぞれの現場を重視しています。
さらに、結果を重視し、ガバナンスと、腐敗防止・撲滅の取り組みを強化し、他の国際機関をより透明で説明責任のある機関へ導くための改革でもあるのです。我々は、インドと米国の情報の自由法に基づき、この種のものとしては国際機関で初めての、ただしこれが最後とならないように望みますが、「新情報アクセス」政策を打ち出しました。世銀のデータに自由にアクセスできる政策も新たに立ち上がりつつあります。またつい先週、不正に関わる個人や法人を相互に締め出すための覚書を、他の国際開発金融機関と締結しました。
そして、組織として説明責任を高めるため、組織スコアカードを導入しようとしています。
我々も誤りを犯すことは承知しています。貧困の克服がた易いのであれば、ずっと昔に撲滅していたでしょう。我々の事業内容、実施方法、そしてその結果を外部の人々に明らかにすることにより、我々は従来以上に素早く間違いを発見し、速やかに改善することができます。
こうした改革を平行して行うことで、世銀は抜本的に変革されます。もはや二世代前どころか一世代前の世銀でもないのです。

終わりに

改革は一度限りであってはならず、絶え間ない改革が必要です。変化する現実に応えていくには、継続的なフィードバックにより適応、再適応を重ねていくことです。
将来を確実に予想することはできません。しかし、その方向を予測することは可能です。世界経済の多極化の時代が到来しつつあるという予測もそのひとつです。
これは例外的でも、一時的でもありません。私たちは今も国民国家の世界に生きています。しかし現在、より多くの国々が、世界共通の運命に影響を及ぼすようになっています。そうした国々には、世界中の先進国と途上国の両方が含まれています。このような動向は喜ばしいことです。ただし、世界経済の多極化はまだ始まったばかりであり、はっきりと形を作っていく必要があります。
今日の国際協調システムは、こうした変化に適合するものでなければなりません。
今日の国際協調主義は、実際的であるべきです。統治に関するほとんどの権限は、今も国民国家に属しています。しかし多くの政策決定や影響力は、政府の周辺を飛び回っていたり、政府を通じて、あるいは政府の領域を越えて実行されています。
今日の国際協調主義では、新しいプレイヤーを招き入れ、新旧の関係者の間で協力体制を築き、個々の国家の能力を超えた脅威への対応や機会の確保を支援するために国際機関や地域機関を利用することになります。
今日の国際協調主義とは、中にいる少数の会員だけがくつろぎ、多数が閉め出されたままという排他的なクラブではありません。むしろ、世界中に広がるインターネットに似て、より多くの国々、企業、個人、そして非政府組織(NGO)を柔軟なネットワークを介して相互に結びつけるものです。正統性があり、効果的な仕事のできる国際機関は、資金の裏打ちと、結果を出す能力を備え、ダイナミックなこの多極型システムの骨格の隅々にまで到達できる接合組織であります。
ウッドロー・ウィルソン大統領は、国々の連盟――国際連盟を目指しました。我々には、「ネットワークの連盟」が必要です。
「第一世界」と「第三世界」、「指導者」と「支持者」、「支援国」と「被支援国」という旧来の概念と決別すべき時が来ています。
万人に恩恵をもたらすことのできる多極的な成長――私たちはその流れを支援していかなければなりません。

 

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