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気候変動にスマートに対応する開発は、暮らし、雇用、GDPにも貢献すると 新報告書が確認

2014年6月23日


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バス高速交通システムは通勤時間帯の自動車の数を減らすだけでなく、雇用を創出し、健康を害する大気汚染を減らし、気候変動対策に貢献します。

Sam Zimmerman/World Bank

要点
  • 十分な配慮に基づいて設計された開発プロジェクトは、コミュニティの改善に役立ち、人々の命を救い、GDPを高めるだけでなく、気候変動対策にも効果をもたらす。
  • 新報告書は、5か国及び欧州連合における、運輸、建造物、産業界のエネルギー効率に関する一連の政策シナリオがもたらす複合的恩恵を検証。
  • 気候変動にスマートに対応する開発投資がもたらす広範な可能性について、政策担当者の理解を深めるため具体的なデータを提供。

古い埋立地や開放型埋立地の閉鎖は、周辺コミュニティにとって明らかにプラスになりますが、恩恵はそれだけではありません。国家予算的に見ても、想定以上の大きな価値をもたらします。

ブラジルのように、廃棄物発電の技術が試験的に使われている国では、温室効果ガスを回収できる近代的な埋立地の建設により、人々の健康状態の改善、雇用創出、エネルギー供給の増加、気候変動への影響を緩和などを通じ、国のGDPを上昇させることが可能です。

新報告書は、ブラジルの埋立地など気候変動にスマートに対応する開発プロジェクトについて一連のシナリオを検証すると共に、政府の対策がいかに経済活動を促進し、暮らし、雇用、農作物、エネルギー、GDPに貢献するか、そしてどのように温室効果ガスの排出を削減して気候変動と戦うことができるかを、これまでになかった大きな視点からまとめています。  

また、気候変動に対応する開発投資がもたらす広範な可能性について、政策担当者の理解を深めるため具体的なデータを提供しています。

 「気候変動は、世界の経済的安定に対する深刻なリスクとなっていますが、こうした事態は必ずしも避けられないわけではありません」と、世界銀行グループのジム・ヨン・キム総裁は述べています。「世界銀行グループは、排出を減らし、雇用や経済的機会を提供しつつ、医療費やエネルギー・コストを下げることは可能だと考えています。本報告書は、この見方を強力に裏づけるものです」と同総裁は続けています。

「気候変動にスマートに対応する開発:繁栄の実現、貧困の撲滅、気候変動への対応を促進する行動とその恩恵」と題された本報告書は、ブラジル、中国、インド、メキシコ、米国の5大国と欧州連合を取り上げ、6者すべてが、クリーンな輸送、産業界のエネルギー効率、建造物におけるエネルギー効率の3種の政策を実施した場合の恩恵を検証しています。

例えば、クリーンな輸送では、5か国と欧州連合が、移動にもっと公共交通機関を活用し、貨物輸送にトラックばかりではなく鉄道や船舶も使用して燃費が改善されれば、世界全体で約2万人の命が救われ、数億ドル相当の作物損失が回避され、3000億ドル近いエネルギーの節約、気候変動の原因となる温室効果ガスの4ギガトン以上の削減ができるというシナリオが描かれています。

また、ブラジルの埋立地を含めた4件の国別プロジェクトを国家レベルまで拡大した場合の効果についても検証しています。

短期寿命気候汚染物質

短期寿命気候汚染物質(SLCP)と呼ばれる物質の排出削減も、効果的です。

ディーゼル車輌や調理の火から排出される黒炭、採掘作業や廃棄物埋立処分により発生するメタンガス、発電所や車輌から排出された物質が日光を受けたときに生成されるオゾン、さらには一部のハイドロフルオロカーボン(HFC)はいずれもSLCPです。SLCPは、農作物に被害を与え、数百万人の犠牲が出るような病気の原因になる可能性があります。こうした物質の排出を削減することにより、推定で240万人の早期死亡を未然に防ぎ、年間約3200万トンの作物損失を回避できる可能性があります。

二酸化炭素と違い、SLCPは大気中に何百年間も残留するわけではなく、数週間から数年間までしか存在しません。こうした空気汚染物質の大気中への進入を防ぐことはそれ自体が、地球温暖化のペースを遅らせ、二酸化炭素への効果的な対策の開発・実施に時間的猶予を与えます。



" 今回の報告書は、命を救い、雇用を創出し、経済を発展させると同時に、気候変動のスピードを遅らせるための行動が必要であることを裏付けています。この機会を無駄にすれば、我々だけでなく将来の世代まで危険にさらすことになります "
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レイチェル カイト

世界銀行グループ副総裁(気候変動特使)


確認された恩恵

これまで、社会経済的な恩恵と環境外部性、そして産業・商業活動の成果のうちコストとして反映されない部分は、測定が困難であるため、往々にして経済分析には考慮されませんでした。

世界銀行グループとClimateWorks財団による本報告書は、こうした点にも考慮したマクロ経済学的モデリングの新枠組みを導入し、開発投資におけるコベネフィットについて、包括的な分析を行いました。新たなモデル・ツールの特徴は以下の通りです。 

  • 複数の汚染物質の排出削減がもたらす複合的な便益を測定

  • 政策やプロジェクトをより効果的に設計・分析するために使用可能

  • 気候変動対策を持続可能な開発と結びつける根拠の提供

本報告書では、同枠組みを用いて7件のシミュレーション(うち3件はセクター政策について、4件はプロジェクト・レベルの支援について)をケース・スタディとして行い、大気汚染物質の排出削減がもたらす数多くの恩恵を割り出しています。

セクター政策には、クリーンな輸送、産業界のエネルギー効率向上、エネルギー効率の高い建造物や家電への移行を促進する規制、税制、インセンティブが含まれます。 

これら3種のセクター政策の便益としては、2030年までに年間9万4000人の早期死亡の回避とGDPの年間1.8-2.6兆ドルの伸びも見込まれています。こうした政策により、8.5ギガトン(二酸化炭素換算)の排出が回避され、ほぼ160億キロワット時のエネルギー(道路を走行する車輌20億台分にほぼ相当)が節約されることになります。すべて合わせると、こうした政策を実施することで、2030年に地球温暖化の幅を摂氏2度にとどめるために必要な総削減量のうち約30%の削減が可能になります。

ケース・スタディとしての4件のシミュレーション・プロジェクトを通じ、ある国の地域レベルの開発支援を国レベルまで拡大した場合について分析が行われています。

例えば、ブラジルの埋立地については、同国で種々の総合的な固形廃棄物処理を実施している既存の世銀プロジェクトの成果(バイオダイジェスター、コンポスト、埋立地からのメタンガス回収・発電技術など)を踏まえています。本報告書は、同じ技術が全国に拡大された場合の変化として、20年間に新たに4万4000人分の雇用が生まれ、GDPが130億ドル以上増え、二酸化炭素に換算すると1億5800万トンの排出が削減されると推定しています。埋立地を利用した発電だけでも、この国のエネルギー・ニーズの1%を満たす可能性があります。

他の3件のケース・スタディは、インドのバス高速輸送システムの拡大、中国農村部のクリーンな調理用燃料の導入、メキシコの太陽光発電パネル及び農業廃棄物を利用したバイオダイジェスター発電の活用でした。

これら4件のプロジェクトが国レベルに拡大された場合、20年間で生み出す恩恵として、全体で100万人以上の命が救われ、100万-150万トンの作物損失が回避されると推定されます。こうしたプロジェクトは、二酸化炭素に換算すると、石炭火力発電所100-150か所分にほぼ匹敵する排出を削減できる可能性があります。これらのプロジェクトのうち、インド、ブラジル、メキシコの3件のプロジェクトだけで、さらに約1000億-1340億ドル相当の恩恵が見込まれます。

無策でいることで高まるコスト

これらのケース・スタディは、コベネフィットを強調する一方で、モデリングの枠組み開発の必要性を示しています。他方、この枠組みは、環境外部性を認識することで大気汚染の制御に向けたプロジェクトや、政策の論理的根拠を強化できるとしています。

「気候変動に関する政府間パネル」による最新のアセスメントが訴えている通り、コベネフィットが把握され数量化されれば、気候対策ははるかに実施しやすくなます。

「気候変動に対して無策でいれば、コストを日に日に高めることになります。今回の報告書は、命を救い、雇用を創出し、経済を発展させると同時に、気候変動のスピードを遅らせるための行動が必要であることを裏付けています。この機会を無駄にすれば、我々だけでなく将来の世代まで危険にさらすことになります」と、世界銀行グループのレイチェル・カイト副総裁(気候変動特使)は述べています。



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