特集

水と開発

2010年12月20日

世界銀行による支援の評価 1997-2007年
 

概要
 

過去数世紀にわたり、水はある一定量が確保され続けてきたが、その間に地球の人口は増え続け、現在は60億を上回っている。水は人間の生活や企業活動に不可欠であり、水資源の減少は、経済発展への貢献を目指す組織にとっても脅威となっている。最終的な目標は、利用可能な水資源と、水に対する社会の要請の間で持続可能なバランスを取ることにある。

独立評価グループ(IEG)が実施した今回の評価は、世界銀行が1997年度から2007暦年末までに支援した水関連のプロジェクトすべてを対象としている。水分野における世銀の活動は、大規模かつ総合的で拡大を続けており、水資源管理や水と衛生のほか、農業用水、工業用水、水力発電、また環境問題下での水など、様々な活動が含まれる。

この10年間、世銀の水関連プロジェクトは、概ね望ましい方向へと変貌を遂げてきた。1997年にはわずか47か国だった水関連の融資を受けていた国は2007年には79か国に増え、水関連の融資は50%以上増大した。水関連プロジェクトの目標達成率は高いが、この傾向は特に評価対象期間の後半に顕著で、中でもアフリカは23%ポイントと目覚しく向上した。世銀内部では、一連の組織改革の中でも水関連の活動が重視されており、他セクター業務への統合が進んでいる。

その一方で、新たに浮上する課題や障害への対応は今も追いついていない。水資源管理は複雑な分野であり、汚染対策や環境復元といった非常に困難な問題には、機器購入やインフラ整備といった分野に比べ、これまであまり焦点が当てられてこなかった。水サービスのコスト全額回収の成功例が少なかったため、世銀はコスト回収基準を緩和した。しかし、未回収コストを誰が負担するのかという問題は、まだ解決していない。

借入国は水管理分野でますます困難な課題に直面しており、これまでのやり方はもはや通用しない。今回の評価報告は、世銀とそのパートナーが体系的に水不足の深刻な国々を支援できる方法を探るべきだと指摘する。地下水保全、汚染緩和、沿岸管理といった懸念により留意し、クライアントと協力して衛生に今以上に配慮すべきであると提言している。世銀が水資源不足に効果的に対応するためには、需要管理を中心に据えた支援を進めるべきであり、世銀と借入国はコスト回収について明確な態度を示さなければならない。最後に、様々な分野においてデータの収集とその活用を強化する必要がある。いずれの活動においても、強力なパートナーシップと知識の創造・共有が引き続き不可欠となる。

世界で供給される水のうち、淡水はわずか3%で、しかもその3分の2は氷河の中に封印されているか地中の帯水層の奥深くにあるため、人類がすぐに使える水はわずか1%に過ぎない。水資源は限りがあるだけでなく、分布にばらつきがある。乾燥地帯では水不足が常に脅威となっている。さらに、気候変動により今後、水関連のこうした課題がより一層困難になるという見方が専門家の間で支配的だ。すでに、降雨パターンが乱れ、かつてない暴風雨が発生し、前代未聞の深刻な干ばつが頻繁に起こっている。また、水不足は、43か国の約7億人に影響を及ぼしている。

世界各地で見られる経済発展のパターンの変化、増え続ける人口、そして人々のより快適な暮らしへの追求が、世界的な水危機を着実に深刻化させている。開発は、水の流れを変え、消費し、汚染をもたらす。また、直接的には、帯水層を消失させることで、また間接的には、氷河や極氷冠を融解させることにより、天然の貯水池の状態に変化をもたらす。水と開発の間に持続可能な関係を維持するためには、現在と将来の世代のニーズ間でバランスをとることが求められる。

1980年代以降、開発コミュニティによる水へのアプローチは変化を遂げ、その対象も拡大してきた。水質劣化と水不足の問題深刻化を受け、ドナーによるアプローチは、水の問題を他のセクターの開発に統合する、より総合的な形へと転換し始めた。 融資とグラントを通じ、世銀(国際開発協会と国際復興開発銀行)は、数多くの水関連セクターにおける各国の取組みを支援している。本報告は、1997年度から2007暦年末の期間に実施された支援を評価しており、本評価のために準備された30以上の背景調査を踏まえ、世銀の融資を分野別、業務別に分析している。

評価は原則的に過去に遡って行われているが、国レベルの制度強化や金融の持続可能性向上に関するものなど、将来必要となるであろう改革も取り上げている。

水と世界銀行
 

世銀は「1993年水資源管理に関するポリシーペーパー」をもって、水セクターにおけるそれまでのインフラ整備重視の姿勢と決別した。また、世銀の計画立案プロセスも、それまでは水セクター内で個別の投資ごとに行われていたが、総合水資源管理(IWRM)の概念を掲げるセクター横断的アプローチへと転換した。IWRMは、貴重な生態系の持続可能性を犠牲にすることなく、バランスのとれた形で経済・社会を最大限繁栄させるために水、土地、その関連資源の組織的開発・管理を目指す。IWRMは、各プロジェクトやプログラムにおける水関連の要素が適した使われ方をしているか、さらにそれに伴う経済・環境面の影響に照らして検討される。

2003年、世銀は、水管理ならびに、資源の利用とサービス提供の結びつきをより重視した新しい水資源戦略(世界銀行2003b)を採択した。また、水セクターに対する世銀支援の重要な側面として、この分野におけるインフラ投資を再開した。互いに補完しあう1993年と2003年の戦略ペーパーは、貧困削減という世銀の使命と共に、水供給の問題に関する情報共有を促し、水道事業者と消費者団体の関係改善に寄与した。2003年の戦略で世銀は、1993年設定の目標の達成を制限している喫緊の課題に向き合う決意を表明した。

 

水関連融資業務
 

世銀の融資業務のうち多くは、水と関連する何らかの要素を含んでおり、1997年以降に承認された世銀プロジェクト全体のうち31%は水関連であった。1997年度から2007年末の間に、世銀は水関連の要素を少なくともひとつは含む1,864件のプロジェクトを承認・完了した。これらのプロジェクトの融資総額は約1185億ドルに上り、このうち543億ドルは直接水分野に関連するものであった。融資平均額は6700万ドルだった(グラントと非融資業務を除く)。

世銀の水関連業務の多くは、都市サービス・プロジェクトにおける給水の整備や、より大きな環境政策枠組みの中での水政策策定など、他の分野のプロジェクトに統合されている。プロジェクト件数で見ると、最大の活動分野は、廃水処理と灌漑のプロジェクトである。金額で見ると、灌漑と水力発電のプロジェクトやダム関連の案件に最も多くの資金が充てられた。

世銀は、評価期間中に142か国に水分野の融資を提供したが、上位10か国が579件(31%)のプロジェクトを占めた。また、世銀の融資承認額に水関連の要素を含むプロジェクトが占める割合は56%にのぼった(これは、上位10か国が世銀融資全体に占める割合より5%ポイント近く多い)。水プロジェクトにおいて単独では最大の借入国である中国は、水関連融資の16%を占めたが、世銀融資全体では7%に過ぎなかった。

 

主な評価結果
 

融資拡大とプロジェクト・パフォーマンスの改善
 

評価期間中に世銀は、水分野に対する融資と支援対象国の数を拡大。水プロジェクトの借入国数は年によって異なるが、1997年の47か国から2007年には79か国に増え、水分野への融資は50%以上増えた。

世銀の各セクターにおける水関連業務の統合は順調。世銀内の水関連業務の統合は、2003年の水戦略における重要な目標であった。また、評価期間中、水関連プロジェクトの大半は、水と衛生セクターボード以外のセクターボードにより管理された。

水プロジェクトは、全般的に目標達成率が高い。IEGのパフォーマンス・レーティングによると、水セクターのプロジェクト目標達成率は着実に向上しており、過去5年間に、主要セクターの中で最も大きな改善を見せ、特にアフリカ地域で実施されたプロジェクトは満足とされた案件の割合が23%ポイントと大幅に改善した。水関連ポートフォリオの中で、857件の完了プロジェクトのうち、総合レーティングでやや満足以上とされた案件の割合は77%で、世銀全体の平均である75%をわずかながら上回った。この傾向は2008年も続き、この年、水セクター・プロジェクトの実に90%が満足と評価された。

水セクター業務における世銀の焦点は時と共に推移。世銀は灌漑と給水に多額の融資を提供してきており、過去数年間はダムと水力発電も重視されている。だが、水ストレスの深刻化に伴い重要性が増しているにもかかわらず、世銀のポートフォリオで目立たなくなってきているプロジェクトもある。その傾向が特に顕著なのは沿岸管理と汚染抑制であるが、地下水保全もやや落ち込み気味だ。プロジェクト目標達成は順調に進んでいるものの、世銀と借入国には、困難だが極めて重要な問題への対応がまだ多く残っている。特に衛生施設へのアクセスの拡大、汚染対策、劣化した水域環境の復元、データの収集とモニタリング、コスト回収などがこれに当たる。水文学的・気象学的モニタリングに融資を行う場合、世銀はデータ収集の技術提供を重視する一方で、需要が確認されているにもかかわらず、情報収集と分析にはそれほど注目してこなかった。そのため、収集結果は、必ずしもその地域や国の個々の事情やニーズを正しく反映していない。例えば、東アジア・大洋州地域とアフリカ地域は、衛生の問題に他の地域よりも積極的に取り組んできた。こうした問題については、以下で詳述する。

 

水資源管理
 

水不足が深刻化する中、効果的な需要管理は、世界的な重要課題のひとつ。水需要は、価格付け、配分、水利用効率化の大きく3つの施策によって左右される。

水利用の効率化と、水消費量が一番多い農業セクターの需要抑制に向けた取り組みは、限定的な成果しか上げていない。効率化の技術だけでは、必ずしも農業における水使用を削減できず、農業セクターに料金を課することによる需要抑制も、そうした需要の価格弾力性がそもそも低いこともあり、十分な成果が上がっていない。水利用割り当ての設定と実行は比較的最近のアプローチであり、このアプローチを用いた多数のプロジェクトが完了した後に、慎重に評価を実施する価値がある。世銀が支援する水プロジェクトのコスト回収はあまり成功しておらず、コスト回収を試みたプロジェクトのうち目標を達成できたのはわずか15%にとどまっている。成功したケースの多くは、水道事業者による料金回収の効率化を行っていた。このように、成功例が限られていたため、世銀はアプローチを緩和したものの、未回収コストを賄う代替資金源がまだ明確に特定されていないため、投資の持続可能性が脅かされている。

給水の分野では、使途不明の水(UfW)の削減が水使用の効率化に向けた中心的取り組みになっている。UfW削減に取り組むプロジェクトの約半数が1%以上の削減に成功した。

水利用の効率化と水需要管理のための効果的な方法を見極めることが、世銀がこの分野で指導的役割を維持するために不可欠となる。

過去2回発表された水戦略で焦点となった水資源管理は、世銀内では重要視されているものの、大半の借入国では進捗状況は限定的。世銀内部では、他のセクター業務との水分野の統合や、水関連事業実行のための組織構造強化はかなり進んでいるが、世銀外では、IWRMは、法的枠組みにしっかりと統合された国においてさえ、水セクター以外ではあまり知られていない。意思決定に必要な情報が入手困難な上、さらに、より重要な点として、水不足が経済に与える影響は広く認識されていない。一方、支援対象国が未知のパラメータへの対応にあまり積極的でない場合、IWRMの成功に不可欠なデータ収集の実施が必ずしも十分でなかった事例があった。 IWRMの成功の多くは、特定の場所で、必要に迫られた状況下。例えば、自然災害の後に水資源管理に成功した国がある。ただし、そうした突発的な出来事は、通常、国全体には影響を及ぼさないし、本来IWRMが目指すべき道筋でもない。災難を待つことなくチャンスへの扉を開く方法は、モニタリングの結果、官民のしかるべきステークホルダーに情報が伝達されるよう支援することである。ブラジルの例は、水関連データのインターネット上での公表がステークホルダーの不安を高める一方で、慢性的な水の問題への対応に必要な政治的意思の動員に役立ったことを示している。

地下水の問題を扱うプロジェクトが減少傾向にあるが、採取一辺倒からのシフトという好ましい傾向もポートフォリオに見られる。これは、借入国における帯水層の水位低下傾向を考えると、重要なシフトである。

地下水関連ポートフォリオのうち、水の供給拡大を目指すプロジェクトは概ね成功をおさめているが、地下水への負担軽減や保全に関するプロジェクトは困難に直面している。しかしそうしたプロジェクトも、水不足に直面する国々が地下水枯渇に対処するのを支援するためには、増やしていくべきであろう。例えば、イエメン共和国では、掘り抜き井戸の技術が進歩し、ディーゼル燃料に潤沢な補助金が用意されたことで、灌漑のための水消費が急増し、その結果、現在灌漑によって国内の再生可能な水資源の150%以上に当たる量の水が採取されている。

生計重視のアプローチを採用した流域管理プロジェクトは、そうでないプロジェクトに比べ高い成果。生計面の支援(すなわち、収入を生みだす機会の創出)と環境復元を組み合わせたプロジェクトの成功率は高いものの、下流域コミュニティへの影響(洪水の減少や水の利用可能性改善など)や、上流域・下流域両方のコミュニティへの社会的恩恵は測定されないことが多かった。水文学的モニタリング(遠隔測定を行う場合も行わない場合も)や、流域のモデリングは、影響評価の正確性向上に役立ち、ひいてはそうした支援の費用便益比率の試算を容易にする可能性がある。

 

環境と水
 

環境復元は、直接的、長期的な経済的価値が明らかでないことから、世銀の水関連ポートフォリオではあまり重要視されてこなかった。世銀とそのクライアントは、費用便益分析を一層注視することにより代償の査定が可能となり、より良い結果につながるだろう。

世銀の水プロジェクトはその大半がインフラを重視しているが、時には環境復元が戦略的により重要な場合もある。社会・経済・環境面で重要な恩恵を確保し、脆弱性を削減するために、水環境を元の状態に完全に戻すことは必ずしもいつも必要ではない。ただ、悪化した環境のうち優先的なものについてたとえ小さなことでも、改善すれば、大きな影響がもたらされる。例えば、ベトナムの沿岸湿地帯保護プロジェクトは、森林再生と生計確保のニーズとのバランスをとることに成功した例だ。同プロジェクトは重点地域の森林再生に成功し、その結果、沿岸部浸食が大幅に削減された。

借入国とドナーは、沿岸管理にさらなる注意を払う必要がある。なぜなら近い将来、世界の人口の約75%が沿岸部に住み、気候変動の影響により高まるリスクにさらされることになるからだ。この分野での世銀プロジェクト承認数は時と共に減少している。その理由は、実施進捗に関する中間報告書で検証されるべきである。

多くのプロジェクトに水質管理の予算が盛り込まれているが、水質検査測定を行っている国はほとんどない。実際、水質検査が実施されているプロジェクトの数は減少傾向にある。水質改善の実例は数少なく、プロジェクト受益者の健康改善を示す指標についても同様の傾向が見られる。こうしたデータの質向上も今後の課題である。借入国上位5か国における水質は悪化しつつあり、水質モニタリングを実施するプロジェクトのうち、何らかの改善を示すことができたものは半数を下回った。

 

水の利用とサービスの提供
 

世銀は、水サービスの提供をこれまで以上に重視しているが、経済的利益、水質、住民の健康状態のモニタリングについては以前ほどではない。廃水処理と衛生プロジェクトで経済的利益が算出されたものは3分の1程度であった。

衛生の問題をより一層重視することが必要。途上国の人口増加は都市化と共に急激に進んでいる。水道サービスの拡大と市民による水利用の増大が進むのを受け、十分な衛生施設への需要が高まるだろう。本評価報告は、清潔な水の供給に関するミレニアム開発目標(MDGS)が仮に達成されても、2015年になお8億人が安全な飲料水へのアクセスを持てないでいるが、それよりはるかに多い18億人が基本的な衛生施設へのアクセスを持たないままだとしている。衛生プロジェクトの中でも、家庭用衛生設備の整備をさらに重視する必要がある。各プロジェクトにおける家庭用衛生設備整備の目標は概して達成されておらず、IEGは、住宅がシステムに接続されていないため、数多くの処理施設が設計段階の能力をフルには発揮していないと指摘している。さらに、その原因として、支払い意欲が過剰に見積もられ、設備の設計段階において必要以上の機能が盛り込まれていたことを挙げている。本評価報告は、衛生施設の特定の弱点を指摘しているが、こうした施設の能力が改善されない限り、今後も進捗に支障を与えるだろう。

水力発電プロジェクトは大きな成果を上げている。今後は、潜在性が高いアフリカを中心に、適切な開発の余地がまだ十分ある。途上国におけるダム建設は、1990年代半ばをピークに減少した。世銀は最近、ダム建設向け融資を増やしているが、その多くは、水力発電だけでなく、灌漑、治水、工業利用などの多目的ダムである。ダム・水力発電関連の世銀プロジェクトで、今回の評価の対象となった211件のうち3分の1近い66件は、ダムの修復が目的であった。これは、保守を受けなかったために次第に劣化したダムが多く、塩分や沈殿などの問題のために閉鎖されたダムも多かったためである。2009年に完成した、新しい水力発電開発のビジネス・プラン「水力発電の方向性」(世界銀行、2009年) は、プロジェクトが技術的・経済的・環境的に適切なものとなるよう、フィージビリティ・スタディを支援するものだ。実際、規模、そして社会経済と環境への影響など、水力発電プロジェクトに携わった経験を結集することが極めて重要となる。

 

水にまつわる制度の問題
 

ほとんどの国では水のサービスは公的機関が提供しているが、一部の国では民間セクターの参入も進んでいる。民間企業が都市部での水供給に成功している国では、インフラに多額の投資が行われており、中には、水道公社の運営効率化が功を奏した都市の例もある。その一方で、農村部における世銀プロジェクトの中には、現地の民間セクターが水システムの運営を管理しているものの、投資があまり行なわれず、財政面のリスクも少ししか負っていない場合がある。政府が民間の関与を望む場合には、公共事業運営に持続可能な形で参加するための、しっかりと管理されて、きちんと機能する規制システムが求められる。多くの場合、そうしたシステムはなおも定義しづらく、そのため民間セクターの関与は限定的となっている。

組織の分権化を目指す環境では、水プロジェクトはなかなか成果があがらなかったが、政府の下の方のレベルに予算と権限が認められ、与えられた責任を果たすことができた場合、プロジェクトは結果を出している。具体的には、現地の能力強化プロジェクトの半数と、制度改革プロジェクトの5分の2が成功した。その他、分権化がもたらすことが多い望ましい成果として、説明責任、オーナーシップ、エンパワーメント、社会の団結などが強化されたケースも、少数ながら見られた。

水セクターにおける制度改革と能力構築支援では、成功例は限定的であった。制度改革、制度強化、能力構築は、世銀の水関連融資で最も頻繁に対象となってきた分野である。ところが、こうした支援は多くの場合あまり効果が上がらず、制度の脆弱さがプロジェクトの成功を妨げる原因になる場合が往々にしてある。

世銀はこれまで、国境を越えた水の問題への対応に積極的に関わってきた。多くの国々を横断する水路に関わるプロジェクトが、優先的に進められている。この分野で世銀は、国境をまたいだ制度の強化以上に、紛争の解決で成功している。複数国にまたがる帯水層に関する借入国との協力は、現在はまだ創成期にある。

 

戦略的な課題
 

水セクターにおける世銀の相補的戦略は概ね適切である。しかし、これまでの戦略の実施では、2003年の戦略が掲げる困難な課題に十分焦点が当たっておらず、一部のニーズは満たされないままとなっている。水に対する世銀アプローチは今後数十年間に、気候変動、沿岸部への移住、主要都市や産業が使用する水の質悪化などにより、さらに困難な課題に直面することになるだろう。そのため、優先順位を一部入れ替える必要がある。

水不足には体系的に取り組む必要がある。現在、世銀の水関連融資と、融資先の国々における水不足の度合いの関係を示す統計値はない。世銀にとっての課題は、いかにしてエントリー・ポイントを見出し、水不足の最も深刻な国々において水需要を開発戦略の中心に据えることができるかである。だからと言って、世銀が水の豊富な国々への支援を中止すべきであるとか、水不足の国々への融資こそが唯一または必然的な最善のソリューションだという意味ではない。水と衛生をめぐる人間のニーズを満たすことが出来ない背景には、政治、経済、環境面の問題がある。こうした問題はますます相互に絡み合うようになっており、広範な関係者の関与なしに解決は望めない。

水不足が最も深刻なグループには、45か国(うち35か国はアフリカ諸国)が含まれるが、いずれも水が乏しいだけでなく、経済的にも貧しい国々だ。国別水資源援助戦略により、水資源をめぐる議論が経済発展という文脈で行われるようになった。対話に計画立案・財務担当省庁を含めることは、もうひとつの重要なステップとして、水の経済的重要性への理解を深めるため、経済的利益の計算促進に役立っている。

他のパートナーとの協力は特に重要であり、世銀が深刻な水不足への各国の対応を支援する中、その重要性はさらに高まるだろう。これは、水と衛生だけでなく、各国や国境を越えた流域における水資源管理にも該当する。本評価報告が言及する問題の多くは、世銀が単独で取り組むにははるかに大きすぎる。

世銀が水資源セクター戦略を実施して成果を上げるには、水資源に関する膨大なデータが必要になるため、データ収集をこれまで以上に優先的に進めなければならない。水のすべての側面に関するデータと、関連する社会経済的状況に関するデータは、一段と系統立てた収集・モニタリングの必要がある。また、そうしたデータはプロジェクトの中で一層効果的に活用する必要がある。例えば、これまでの地下水関連データの収集と分析が今、かつてなく重要であり、今以上に広く活用する必要がある。

 

提言
 

  • クライアントやパートナーと協力して、重要な水の問題に十分な対応がなされるようにする。
    • 水不足が最も深刻な国を支援する方法の模索。世銀や他のドナーがこうした国々と協力して最も緊急性の高いニーズに対応することは、乾燥地帯での水の供給がますます逼迫する中、今後はさらに困難となるだろう。実施中間報告書では、そうした対応について、個々の状況に合わせた施策をいかにしてまとめるかを提案すべきである。
    • 各プロジェクトにおいて、地下水の保全と採取量を持続可能なレベルに保つことに十分な注意を払う。
    • 各国の沿岸管理問題への対応を支援するための効果的な方法を見極める。
    • 各国が衛生設備の問題に、より着目するよう支援する。
  • 水、経済発展、プロジェクト達成の結びつきへの理解を深めるため、データの供給と活用を強化する。
    • プロジェクト審査文書で、廃水処理、健康改善、環境復元の便益を定期的に数値化する。
    • 借入国、特に最も脆弱な国々において、水のモニタリングすべてを頻繁に、かつこれまで以上に徹底して支援し、各国がモニタリング・データを公共財として広く提供できるようにする。
    • 水文学的・気象学的モニタリング・システムのための水資源管理プロジェクトの設計において、ステークホルダーの参加、モニタリング機器・施設の保守や適切な選択に細心の注意を払う。
    • 水分野の目標を特定の状況で達成するために環境の復元が不可欠になるかどうかを体系的に分析する。
  • 需要管理アプローチのモニタリングを行い、どの部分が有効でどの部分が有効でないかを見極め、その経験を教訓とする。
    • 水サービス提供のコストを全額回収できない場合に、いかにして賄うかを明確にする。借入国が水サービスのコストを一般歳入にて賄う場合は、コストを最も効果的に配分することが出来るよう、国際的な経験から得た教訓を借入国と共有する。
    • 料金や税をより有効に利用して水消費を削減するための方法を見極める。
    • 割り当て面の経験を、農業用水使用量削減のための方法として、慎重に追跡し評価する。



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