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publication2025年5月20日

危機における強さ:強靭な保健医療システム構築に関する日本の教訓

The World Bank

火災発生に備える救命救急訓練(神奈川県)

写真提供者:Aduldej

概説

  • 防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)が公表した新たな報告書「ショックに備えた保健医療システムの強化:保健医療システムのレジリエンス向上における日本の経験」では、日本が危機への備え、対応、復興というそれぞれの段階に対し、保健医療システムのレジリエンスをどのように高めてきたかを紹介しています。
  • 保健医療システムは、パンデミック、自然災害、その他の重大な危機に際して、人々の命を守る要です。
  • 日本は世界で最も長い健康寿命と、強靭な保健医療体制を有する国として広く知られています。本報告書は、日本が長年にわたり進めてきた保健医療システムのレジリエンス強化に向けた取り組みに焦点を当て、各国にとって有益な教訓と知見を共有するものです。

保健医療システムのレジリエンス強化は、パンデミックや自然災害、その他の重大なショック発生時に、命を救う医療サービスを提供する上で不可欠です。

COVID-19パンデミックにおいては、ほぼ全ての国がかつてない規模の課題への対応に苦慮しました。しかし、平時から高品質な医療へのアクセスが確保されている国々は、感染者数の急増にも柔軟に対応でき、罹患者と非罹患者の双方に必要不可欠な医療サービスを提供することができました。

同様に、日本のように総合的な危機への備えを持つ国では、地震、台風、洪水などの自然災害発生後においても、インフラの損傷やサプライチェーンの混乱といった困難に直面しながらも、緊急医療や公衆衛生支援を含む重要な医療サービスを継続的に提供する能力を発揮しています。

世界銀行は、気候変動および災害リスクに対する保健医療システムのレジリエンスを強化することを重要な課題と位置づけ、堅牢な知識基盤の構築とグローバルな知見の共有促進に取り組んでいます。こうした取り組みの一環として、世界銀行が支援する防災グローバル・ファシリティ(GFDRR) は、日本政府のご支援のもと、日本−世界銀行グローバル・レジリエンスのための防災共同プログラムを通じて新たな報告書「ショックに備えた保健医療システムの強化:保健医療システムのレジリエンス向上における日本の経験」を公表しました。本報告書は、保健医療システムのレジリエンスに特化した知見の蓄積に新たな一石を投じるものであり、これまでに公表された報告書「フロントライン:災害からパンデミックに至るあらゆるショックに備えた保健医療システム」および「フロントラインスコアカード: 保健医療システムにおける気候変動と災害リスク管理のための評価ツール」とあわせて、各国が自国の保健医療システムの強靭性を初期段階で評価するための重要なツールを提供しています。

今回発表された報告書では、日本がこれまで危機への備え、対応、そして復興を着実に強化してきた過程に注目しています。大規模な地震、洪水、感染症の流行など数々の危機から得た教訓をもとに、保健医療システム、災害リスク管理、質の高いインフラを連携させる日本独自のアプローチを紹介しています。さらに本報告書では、さまざまなショックに耐えうる保健医療システムを構築すべく、規制改革、ガバナンス向上、能力構築を通じた上記セクター(保健医療システム、災害リスク管理、質の高いインフラ)の統合の重要性も強調されています。例えば本報告書では「災害医療」——すなわち、疫病および自然災害時における疾病者への緊急保健医療サービスの提供——という概念が定義され、日本におけるその実践の在り方が紹介されています(下図参照)。

The World Bank

出典:『災害医療について』(厚生労働省、2020年)

注記:厚生労働省の『災害医療について』をもとに作成した本図は、日本の災害医療活動の概要を示し、主要な関係機関(厚生労働省(MHLW)、災害派遣医療チーム(DMAT)、都道府県、市町村、および災害拠点病院)の連携関係を示しています。図内キーワードの日本語訳は以下の通り。

DMAT designated hospitals: DMAT指定医療機関、DMAT dispatch: DMAT派遣 、Designated disaster-based hospital: 災害拠点病院、Disaster-affected hospital: 被災病院、First Aid centers, Evacuation Centers: 救護所・避難所、Disaster Response Headquarters: 災害対策本部(国、都道府県等で構成。医療チームの確保、被災患者等への医療提供、中長期における医療提供体制を維持。)、Wide-area medical transportation unit: 広域医療搬送拠点

日本の経験から得られる重要な教訓として、以下の3点が挙げられます:

1. 強固な基盤としての保健医療システムの構築は、過去および現在の経験から継続的に学ぶ文化に支えられており、保健医療サービスの効率性と強靭性を高める上で不可欠です。質の高い医療を誰もが利用できる体制を強化することは、平常時の医療需要に応えるのみならず、さまざまなショックに効果的に対応し、サービス提供を中断することなく継続するために極めて重要です。

2. 事前の備え、緊急時の対応、早期復興のための堅牢なメカニズムに、レジリエンス強化に向けた物理的および非物理的な支援を組み合わせることは、サービスの中断を最小限に抑え、将来の災害被害を緩和する鍵となります。強固な保健医療基盤と堅牢な事前の備えを併せ持つことで、冗長性ではなく柔軟性を備えたシステムを可能にし、効率的かつショック耐性の強い保健医療システムの構築を可能にします。

3. 国家レベルおよび地方自治体レベルで、保健医療セクターの多様な領域において積極的な支援を展開し、社会のニーズや変化に総合的に対応していくことが、非常事態や危機への事前の備えを強化する上での鍵となります。また、セクター横断的な強い連携とパートナーシップのメカニズム現場の医療従事者が能力を発揮しやすい環境づくりにも寄与します。

本報告書は、2025年3月にインド・ニューデリーで開催された「保健医療システムのレジリエンスに関するグローバル・ラーニング・コラボレーション(GLC4HSR)」年次総会において初めて発表されました。同総会には、保健医療分野および災害リスク分野の政策立案者や専門家が参加し、強靭な保健医療システムの構築に向けた国際的な取り組みを推進するため、活発な議論が交わされました。

The World Bank

GFDRRは、ニューデリーで開催された「保健医療システムのレジリエンスに関するグローバル・ラーニング・コラボレーション(GLC4HSR)」年次総会において報告書を共有

写真提供者:GLC4HSR

日本の歴史的な経験およびCOVID-19パンデミック初期の教訓を踏まえた報告書「ショックに備えた保健医療システムの強化」は、臨機応変な危機対応、強靭なインフラ、制度的な学びと振り返りに関する実践的な知見を提示し、関係者の間で活発な議論を促しました。これらの議論では、ハザードおよびリスクプロファイルの更新、適応型対応システムの設計、保健医療システム全体のレジリエンス強化に焦点が当てられました。またセッションにおいては、2015年の地震以降、医療施設の再建が依然として喫緊の課題となっているネパールやインドなどでのピアラーニングも推奨されました。同様の課題に直面するステークホルダーにとって、本報告書はショックに強い政策改革や投資を実現するための、時宜を得た実践的なリソースとして有用です。

パンデミックから自然災害に至るまで、各国が直面するショックはますます頻発化・複雑化しており、強靭で適応力があり、包摂的な保健医療システムの構築はこれまで以上に喫緊の課題となっています。世界銀行とそのパートナーは、具体的な教訓や実証されたアプローチを共有することで、各国が過去の課題を将来への備えとし、保健医療システムが常に強靭・迅速で、人命を守る準備が整った状態を維持できるよう支援しています。

本報告書は、日本政府ご支援のもと、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)の日本−世界銀行 防災共同プログラムの支援によって実現しました。本報告書は、COVID-19の発生を受けて創設されたGFDRRの保健医療システムのための気候変動・災害リスク管理というテーマ別分野のもとで策定されました。