沿岸域は世界人口の約40%が暮らす経済の要衝です。漁業、観光業、港湾関連産業、製造業など幅広い分野で何百万人もの雇用を支える一方、海面上昇や激甚化する暴風雨、海岸の急速な侵食などにより、コミュニティと産業が直面するリスクは年々高まっています。かつて人々の生活や経済を守り、様々な恩恵をもたらしてきた沿岸生態系の劣化も、こうした脅威をさらに深刻なものにしています。沿岸域のレジリエンスの強化は、災害による被害を減らすだけでなく、健全な沿岸環境を基盤とする経済システムや人々の生計を持続的に支えることにもつながります。
世界銀行グループは、気候レジリエンスを高めるための自然を活用した解決策(NBS)に対して、効果的かつ費用対効果の高い投資支援を拡大しています。沿岸域における具体的な取り組みとしては、マングローブや塩沼の再生、サンゴ礁の再生、砂浜の安定化、NBSシステムと従来のグレーインフラの統合などが挙げられます。こうした修復および維持管理作業は、短期的には雇用を生み出し、長期的には漁業やエコツーリズムなど経済活動を支える生態系の強化にもつながります。例えばインドネシアにおける「沿岸レジリエンスのためのマングローブプロジェクト」では、就労支援としてマングローブの再生活動を行うキャッシュ・フォー・ワーク方式を採用しつつ、漁業、水産養殖業、観光業への資金調達および技術導入の促進にも取り組んでいます。
NBSへの関心は高まっているものの、沿岸域での普及は依然として限定的です。2012年度から2025年度にかけて世界銀行が融資した投資プロジェクトのうち、NBSやグリーン・グレー複合型の手法を含むものは約290件にのぼりますが、その中で沿岸域を対象とするものはおよそ4分の1にとどまっています。背景には、沿岸域におけるNBSが比較的新しいアプローチであることに加え、工学、沿岸管理、環境など複数の専門分野にまたがる知識が求められるため、設計・実施が複雑であることが挙げられます。