不確実性の中の都市の再建:日本と世界の知見から学ぶウクライナの都市復興


ウクライナでは現在も続く紛争の影響により、都市はこれまでにない課題に直面しています。住宅、インフラ、公共サービスに深刻な被害が生じる中、復興とサービス提供の中核を担う地方自治体(ウクライナ語でフロマーダ)には大きな負担がかかっています。

一方で、復興はすでに始まっています。ウクライナの国および地方政府は、緊急対応と並行しながら、今後の復旧・復興に向けた計画策定や優先順位付け、事業実施に取り組んでいます。

こうした状況を背景に、世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)は、2026年4月6日から10日にかけて広島および東京において、「統合的都市復興と変革に向けた都市開発実務者向け対話型研修(テクニカル・ディープ・ダイブ:TDD)」を開催しました。このプログラムには、ウクライナ政府関係者、世界銀行専門家、日本および国際的な実務者が参加し、都市が単に復旧するだけでなく、将来に向けてどのように変革していくかについて知見を共有しました。

 

広島から学ぶ:ビジョンが主導する復興

広島の経験は、復興が単なるインフラの再建ではなく、長期的なビジョンとそれを支える制度・法的枠組みによって支えられるものであることを示しています。テクニカルセッションに加え、平和記念公園や基町住宅地区の現地視察を通じて、参加者は、広島がどのように戦後復興を進めてきたかを具体的に学びました。

平和記念都市建設法に基づく復興は、国からの支援や土地の活用を可能にし、都市再開発を体系的に推進しました。また、基町地区の視察では、戦後直後の公営住宅の供給やコミュニティ施設、各種サービスが脆弱な立場にある住民をどのように支えてきたのか、また公営住宅が時代とともに住民のニーズに応じてどのように発展・統合されてきたのかを具体的に学びました。一方で、平和記念公園での体験は、都市の変革において記憶や共有された価値が果たす重要な役割を改めて示すものでした。これらの経験を通じて、持続可能な都市復興には、政策的枠組み、実践的な実施手法、そして住民参加を組み合わせることが不可欠であることが示されました。

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基町地区の視察では、公共住宅やコミュニティ支援について学んだ。

 

世界の実践からウクライナへの適用へ

このTDDでは、日本の経験に加え、ドイツやボスニア・ヘルツェゴビナなど、紛争後の復興に取り組んできた国々の事例も紹介されました。これらの事例は、効果的な都市復興を支えるうえで制度的基盤がいかに重要であるかを示しています。

特に、土地行政の改革においては、地籍情報と都市計画データの調和、デジタル化の推進、データの相互運用性の向上が、透明性の確保や政策実施の迅速化、意思決定の質の向上に大きく寄与していることが共有されました。こうした取り組みはウクライナにおいて行われている、財産権の確立や手続きの効率化に寄与し、復興プロセス全体への信頼性を高めることにもつながります。ウクライナの制度改革と照らし合わせながら議論を深めることで、資金調達だけでなく、計画、土地管理、制度能力を連携させた包括的なアプローチの重要性が改めて確認されました。

 

地方自治体の能力強化に向けて

ウクライナの復興において中心的な役割を担うフロマーダの能力強化は、このTDDの重要なテーマの一つでした。短期的な対応からの脱却、より戦略的かつ体系的に復興を進める必要性が議論の中心となりました。

異なる空間的・時間的な枠組みで投資を優先付けし、計画と財政を結びつけること、また国と地方の協業を強化することが重要な課題として共有されました。さらに、データやデジタルツールを活用した意思決定の強化、透明性と説明責任の向上により政府に対する信頼醸成などが、持続的な復興を支える鍵として認識されました。

 

住宅とサービスを軸としたコミュニティ再建

このTDDを通じて繰り返し強調されたのは、人々の生活に直結する住宅を起点とした復興の重要性です。住宅再建は、水道、暖房、電力といったライフラインや公共空間の整備と一体的に進める必要があり、こうした「人を中心に据えたアプローチ」が地域の安定化につながります。

参加者は、単発の支援ではなく、地域単位での統合的な再建を通じて、住民の帰還を促し、地域経済の回復を支える方法について議論しました。また、住宅管理や維持のための制度設計についても取り上げられ、限られた資源の中で持続的に住宅ストックを運営するためのガバナンスの重要性が確認されました。

 

知見を実践的なビジョンへとつなげる

このプログラムでは、学びを実際の行動につなげるためのワークショップも実施されました。参加者は、自らの都市や組織の課題を踏まえながら、将来のビジョンや優先すべき施策について議論しました。

このプロセスでは、危機対応に追われる日常から一歩離れ、長期的な視点で都市のあり方を考える機会が提供されました。このTDDで得られた知見は、優先投資の特定や制度上の課題の整理、具体的な次のステップの検討につながり、今後の復興に向けた実践的な基盤となることが期待されます。

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参加者は実践的な知見交換を行った。

 

パートナーシップによる都市復興の推進

TDDでの技術的な議論を踏まえ、最終日には東京のTDLCスタジオにおいて公開フォーラムが開催され、より幅広い関係者との対話が行われました。このフォーラムには、ウクライナの国および地方政府、世界銀行、日本の関係機関が参加し、都市復興における優先課題や進行中の復興事業について意見が共有されました。議論では、政府、開発パートナー、民間セクターによる継続的な対話の重要性が強調されるとともに、復興を加速するための実践的なアプローチについて検討が行われました。多様な関係者が集う本フォーラムは、復興戦略を具体的かつ拡張可能な形で実行につなげていく上で、パートナーシップが重要な役割を果たすことを改めて示しました。

 

今後に向けて

ウクライナの都市が直面する課題は依然として大きいものの、このTDDを通じて、復興はすでに進行していること、そして制度や枠組みも同時に進化していることが確認されました。

日本および世界の経験とウクライナの現状を結びつけることで、都市復興とは単なるインフラ再建ではなく、レジリエントで包摂的、そして将来を見据えた都市を創り出すプロセスであるという共通認識が深まりました。

 

参加者の声

日本の経験は、復興計画、住宅政策、土地制度、空間計画の面で非常に重要な示唆を与えてくれます。」 
— ナタリア・コズロフスカ(ウクライナ地域・国土開発副大臣)

私たちにとって重要なのは、退役軍人を含む住民の住宅確保です。そのため、日本の経験から社会住宅や住宅供給の仕組みを学びたいと考えています。」 
— ドミトロ・チェイチュク(ブチャ市副市長)

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TDDの参加者と松井一実広島市長