廃棄物管理は、気候変動、都市の持続可能性、そして公衆衛生に深く関わる地球規模の課題です。都市ごみの問題は、現在最も喫緊の国際開発課題の一つとして取り上げられています。2020年に世界で発生した都市ごみは約22億4000万トンにのぼり、2050年には約38億8000万トンへと73%の増加が予測されています。経済成長と都市化が進む中、特に中所得国ではごみの発生量が急増し、既存の処理体制や財政的・制度的な制約のもとで早急な対応が求められています。廃棄物の適切な管理は、都市の強靭性の向上、雇用創出、経済成長にもつながる重要な分野です。包括的な改革が行われなければ、循環型経済への移行は困難です。
中所得国における廃棄物管理の課題をより深く理解し、その取り組みを支援するために、TDLCは、2025年5月12日から16日にかけて、ブルガリアの首都ソフィアにて、中所得国を対象とした「都市廃棄物管理(SWM)」に関する都市開発実務者向け対話型研修(テクニカルディープダイブ:TDD)を開催しました。本研修は、2024年にコートジボワールで実施されたアフリカ諸国向けTDDに続く、第2回目の日本国外で実施するTDDです。本TDDには、アルメニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コロンビア、インド、インドネシア、モロッコ、タジキスタン、チュニジア、ウズベキスタンの9か国から、計53名の参加者が集まりました。廃棄物管理の課題が高い優先順位を持つことから、TDLCは廃棄物および循環型社会に関するTDDをこれまでに合計6回実施しています。
本研修では、各国共通の課題として、インフラの未整備や資金不足、制度の未成熟、市民の意識不足、実施能力の限界などが挙げられました。こうした課題を克服するため、参加者たちは、政策設計、技術、財政メカニズム、官民連携のモデルなどについて、専門家によるセッションや実務者間の意見交換を通じて理解を深めました。
日本とブルガリアの廃棄物管理
日本の事例として、加古川市が発表した4自治体の広域連携による廃棄物発電(WtE)施設の官民連携(PPP)プロジェクトや、環境省、地球環境戦略研究機関(IGES)による日本の廃棄物・循環型制度および政策の変遷が紹介されました。加古川市の発表では、自治体間のコスト分担、環境への配慮、そして安定的な運営体制が実施され、効果を生んだことの報告がありました。これらは、廃棄物管理インフラ管理へのPPPの導入を模索する各国にとって有益な教訓となりました。日本からの教訓に加え、ブルガリアにおける廃棄物管理(SWM)手法についての学びも得られました。 参加者はソフィア市内の廃棄物管理施設を視察し、機械的・生物的処理施設、コンポスト施設、埋立地、リサイクル施設を見学しました。ソフィアの廃棄物情報管理システムに関する説明を受け、データ活用による効率的な運用管理の重要性を学びました。
TDDからの学び
本研修を通じて、参加者は中所得国における持続可能な廃棄物管理の実現には、多面的かつ段階的なアプローチが不可欠であることを再認識しました。まず、適切なインフラ整備と制度改革、安定した財源確保が基本である一方、市民参加や行動変容を促す広報・教育の重要性も指摘されました。さらに、非公式セクターの統合や、Extended Producer Responsibility(拡大生産者責任)などの政策的手段、PPPによる事業推進、そして近隣の地方自治体による広域連携など、各国の制度的・技術的成熟度に応じた柔軟な対応の必要性が議論されました。
本研修では、最後に、各国が今後の行動計画を策定しました。たとえば、アルメニアは2026年からの地域型埋立地建設、モロッコはバリューチェーン強化のための制度改革、インドは有機性廃棄物を再資源化するBio-CNG(バイオ圧縮天然ガス)施設や、可燃ごみを固形燃料として再利用するRDF(固形燃料化)施設の整備といった具体的な施策を掲げました。共通の優先課題として、インフラ整備、財源確保、能力強化、市民参画、EPR(拡大生産者責任)制度の整備が挙げられました。また、都市廃棄物管理は、技術導入だけでなく、制度、財政、市民意識といった多面的な対応が必要であることも確認されました。
参加者の声
「日本の成果や成功事例、そしてブルガリアのソフィア市の取り組みも見てきました。まず、自治体の重要な役割に基づいた組織的な制度的枠組みがあることです。また、自治体が単独で取り組むのではなく、「コミュニティ間連携」という仕組みの中で進められている点も重要です。」
サミラ・アビディ チュニジア 地方分権戦略計画・支援高等評議会 議長
「私たちは、廃棄物を資源として捉え始める必要があるということを日本とブルガリアから学びました。すべての資源には何らかの価値があるということを認識しなければなりません。」
ミア・ポイスキッチ ボスニア・ヘルツェゴビナ モシュチャニツァ広域埋立地 最高経営責任者(CEO)
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