公共交通指向型開発(TOD)は、コンパクトで歩きやすく、エネルギー効率に優れ、多様な用途に使用される空間やコミュニティを併せ持つ地域をつくるという概念をもとに、都市再生、地域経済の発展、社会的包摂、住みやすさを促進します。TODはまた、自動車への依存を大幅に減らし、徒歩、自転車、公共交通機関など、よりエネルギー効率の高い交通システムを促進するため、気候変動や世界的なエネルギー安全保障といった課題への解決策でもあります。世界中の多くの都市がこの開発モデルを実行し、都市化の課題に取り組んでいます。そのため、TODの計画や政策、制度的枠組みや実施、財政的側面についてより深く学ぶことに大きな関心が集まっています。
今回2024年1月29日から2月2日にかけて行われたTODに関する都市開発実務者向け対話型研修(テクニカルディープダイブ:TDD)の目的は、都市計画や政策に関する枠組みの一部としてのTODについて、参加者の理解を深めることでした。本TDDでは、日本のケーススタディを通じて、TODによる都市再生、革新的な資金調達と開発メカニズム、バリュー・フォー・マネー(VfM)、持続可能性、強靭性、社会的包摂、健全なガバナンスの概念に基づく環境に配慮したTOD原則の適用について学びました。参加者はまた、ケーススタディや知識交換を通じて、土地を活用した開発の空間的、社会的、経済的影響について理解を深めました。
TODに関する課題
脆弱な制度的枠組みと調整能力
TODは多部門にまたがり、多くの関係者が関わります。本TDDの参加者は、すべてのステークホルダーがまとまって協力することの重要性を挙げました。例えば、都市局と交通局は必ずしも効果的に連携していない点が挙げられます。どの行政主体が主導するかという意思決定が不透明なことが多く、さらに、地方分権が進んでいる状況では、地方政府の能力が低く、中央以外の資本へのアクセスが限られており、中央政府との報告関係が一貫していないことも珍しくありません。最後に、市民とのコミュニケーションや市民参加は、コンセンサスを促進するどころか、対立に終わりがちであるという報告もありました。
金融手法の欠如と民間セクターの関与
多くの代表団が、TODプロジェクトにおける民間セクターの関与と官民パートナーシップ(PPP)の体制構築という課題に直面していると報告しました。プログラムに民間資金を呼び込むために重要な要素にはどのようなものがあるでしょうか?見込まれた収益は、民間企業の参加を促すのに十分でしょうか?参加者の中には、土地開発利益還元の概念や規制に精通し、プログラムの実施に必要なノウハウを有する人もいますが、このようなノウハウは現場での能力不足、信頼や透明性の欠如のため、TODプロジェクトの設計に活かされていません。
TODの強靭性および環境面における利点に関する注目度の低さ
TODは気候変動への適応と緩和に対し潜在的に大きな利益をもたらします。参加者は、体制的な能力不足のため、この点での進展は限定的であると考えています。統合的な土地利用、グリーンモビリティ、気候変動に強いインフラ原則を適用する計画能力は限られているため、強靭で環境にやさしい都市交通開発のための制度的能力を高めることが重要です。
日本のTOD成功事例
本TDDでは以下の事例見学を行いました。
梅田駅と大阪駅周辺は西日本最大の交通結節点を形成しています。何度も大規模な再開発が行われ、今後もその傾向が続くと予想されています。うめきたエリア周辺の交通機関9駅の1日の乗降客数は約240万人で、他の地域の交通結節点(トランジット・ノード)を結び、イノベーションやナレッジハブを生み出しています。うめきたは梅田・大阪駅前の新たな再生プロジェクトで、駅前に大規模な緑地などを取り入れることで持続可能性を促し、活気があり、住みやすく、また歩きやすい空間を作り出しています。
難波地区は、大阪のメインストリートである御堂筋の突き当たりに位置し、商店街や百貨店、各路線のターミナル駅を中心とした一大商業地域として発展してきました。難波地区における2つの公共空間再生プロジェクト(なんば広場と御堂筋)は、密集した交通結節点を、社会的統合性や歩きやすさを促進する人中心の空間に再生し、歩行者中心の交通インフラを整備するという地元経済界によるボトムアップのイニシアチブを示しています。これらは、市役所や他のステークホールダーがそのビジョンを共有することで、いかに事業の実行が可能になるかを表しています。
北大阪地域の中心に位置する千里中央駅は、新大阪、梅田、難波へそれぞれ15分、20分、30分という利便性を誇っています。千里中央に位置する千里ニュータウンは、1960年代、当時の大阪大都市圏の爆発的な人口増加に対応するため、都市とモビリティを一体的に開発した最初の大規模開発地区でした。その建設・運営・また再生にあたっては、国の機関である都市再生機構(UR都市機構)や、大阪府と地方自治体、交通事業者が強力に連携しています。現在、駅周辺では、地域経済の活性化と社会的包摂の向上を目的とした再生開発プロジェクトが計画されています。
主な教訓
多くの参加者は、本研修によりTODの原則や都市開発の戦略的アプローチとしてのTODについて、より理解を深めることができたと述べました。TODの目的は、歩行者にとってコンパクトで複合的な都市開発を促進し、雇用をもたらし、住宅開発を進め、都市サービスの提供を促すことです。 TDDから得られた主な成果は以下のとおりです。
参加者のコメント
「この研修で、TOD手法をドゥアラ都市モビリティ・プロジェクトに適用することを視野に入れることで理解を深めることができました。TODとは、BRTのような公共交通機関と密接に結びついた、歩行者や一般利用者のためのコンパクトな複合都市開発を促進することを目的とした、計画・設計の戦略的アプローチです。仕事や住宅、都市サービス、住みやすさを交通機関の駅周辺に集めることです。日本の事例をもとに、私たちは都市再生、革新的な資金調達メカニズムや環境に配慮したTOD原則の適用に関する重要事項を特定することができました。そこには費用対効果や持続可能性、回復力、社会的包摂、効果的なガバナンスが含まれます。特に印象的だったのは、都市開発への民間セクターの関与で、このためには行政当局、住民、民間セクターを問わず、すべてのステークホルダーによる真の地域マーケティングとオーナーシップが必要だということです。」
― カメルーン代表団 プリスカ・ラブロンド氏
謝辞
TDLCは、TDD開催を受け入れてくださった大阪市に感謝するとともに、TDDの数回にわたるセッションで貴重な事例を共有してくださったUR都市機構に謝意を表します。 UR都市機構は、交通結節点における大規模な都市再生プロジェクトの土地管理に関する豊富な経験や知識、沿線開発における手頃な価格の住宅の確保や住宅ニーズに応えるための大規模な都市計画に関する知識を共有してくださいました。