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実施報告:都市と気候変動に関する都市開発実務者向け対話型研修(Technical Deep Dive: TDD)


過去50年間で、世界の都市人口は4倍に増え、地球の表面温度は産業革命前の水準より1.2度上昇しています。この温暖化の主な原因は温室効果ガスであり、その排出量の70%は都市からのものです。2015年の統計によると、アジア諸国と太平洋地域の発展途上国の排出量は急増し、2000年比で72%、ラテンアメリカとカリブ海諸国、東欧、西中央アジアにおいては、この増加率は約40%となっています。

気候変動の結果、世界の都市は猛暑、洪水、干ばつ、地滑り、暴風雨などの甚大な影響に見舞われています。こうした影響は、中低所得国において特に深刻です。都市は気候変動の影響に直面する最前線にあり、所得水準に関係なく、すべての国や都市が気候変動に適応し、その影響を緩和するために早急に行動を起こすことが極めて重要です。

こうした背景から、12月2日から6日にかけて、世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)は続可能な都市インフラ・サービス・グローバル・ソリューション・グループ(GSG)、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)、災害リスク管理と強靭性GSG とともに「都市と気候変動に関するテクニカル・ディープ・ダイブ(TDD)」を開催しました。この TDD には、インドネシア、ネパール、フィリピン、ルーマニア、タイ、トルコ、ウガンダの7カ国からの代表団政府・自治体関係者ならびに世界銀行現地職員が参加し、都市の気候変動に対する強靭性を高めるための革新的なアプローチについて議論し、都市、近隣地域、建物という3つの相互に関連するスケールでの強靭性の構築に焦点が当てられました。

TDDの構成と目標

このTDDでは、気候変動 分野において都市が抱えている課題、持続可能な都市づくりに向けた目標、そしてその目標を達成するための実践的な取組み事例について学びました。具体的には、気候変動対策のための都市全体の現状分析と計画づくり、近隣地域レベルや建物レベルにおける緩和・適応策ついて議論しました。研修を通じて、参加者は都市の強靭化に向けた戦略課題だけでなく、技術的な解決策についても学ぶことができました。

主な活動とハイライト

TDDは都市全体の強靭化についての議論から始まりました。参加者は、気候変動に取り組む上での課題として、脆弱な枠組み、不十分な資金調達、統合的なアプローチの欠如、限られた技術、不十分なステークホルダーとの協力体制、民間セクターとの連携不足などを挙げました。

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ワークショップで浮き彫りとなった課題

東京都は、民間セクターや住民との協力を通じて、ゼロエミッション(排出物ゼロ)ビルへの移行や太陽光エネルギーの導入を促進する[ゼロエミッション東京」という政策を紹介しました。プレゼンテーションでは、目標を達成するためには、国・都の両レベルでガバナンス、資金調達、データ管理を連携させることの重要性が強調されました。また、参加者は、大手町、丸の内、有楽町の各エリアにおけるグリーンインフラ(自然のはたらきを活用したインフラ)を視察し、官民パートナーシップと効果的な政策によって実現された、オフィスビルや店舗ビルでの持続可能な気候変動対策について学びました。

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丸の内地区のグリーンインフラを学ぶ参加者

一方、福岡市では、近隣レベルでの強靭化の革新的な施策に焦点があてられました。その一例として紹介された航空法による建築物の高さ規制の緩和施策は、建築物の周囲に公共スペースを設けることで、民間事業者が通常より高い建築物をつくることを可能にするというものです。土地利用を最適化することができるとともに、都市密度の向上と地域社会の便益の増進に寄与しています。また山王雨水調整池も視察し、グレーインフラ(コンクリート構造物などの従来型インフラ)とグリーンインフラを統合した取組についても学びました。

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近隣レベルでの強靭化の事例として、山王雨水調整池を視察

キャナルシティ博多は、民間セクターとの協力による持続可能なシステムの好事例です。民間資金によるこのプロジェクトでは、洪水時の浸水バリア、水のリサイクルシステム、建物緑化などが一体的に整備されています。ここでは民間セクターが福岡市の節水推進条例にしたがい、水の消費量を削減し、洪水リスクを軽減するとともに、より緑豊かな都市空間を創出し、持続可能な開発に革新的な影響を与えています。

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キャナルシティ博多では官民連携によりサステナブルなシステムを実現

建物レベルの取り組みとしては、レジリエントで低炭素な建築が紹介されました。ここでは、エネルギー効率を高め、災害リスクを軽減し、建築設計における包摂性を高めることの重要性について触れられました。インドネシア・南スマトラ州の国際的な事例では、低所得者層におけるエネルギーの効率性と熱的快適性に対処するグリーンな住宅計画が紹介されました。参加者はセッションを通じてグローバルな都市課題解決に向けた建物レベルの取組の重要性について認識を新たにしました。

主要テーマと学び

今回のTDDでは、いくつかのコミュニティ参画、資金調達、官民連携などのポイントについて繰り返し触れられました。例えば、コミュニティの参加は、効果的な都市強靭化の礎石となる一方、気候変動への適応の取り組みにおける合意形成と公平性の確保にも寄与します。資金調達に関しては、気候変動政策と財政を一体的に考える必要性について議論されました。さらに、インパクトのある変化を起こすためには、民間セクターと政府間協力の双方からの参画が重要であることも示されました。参加者はインタラクティブな学習とピアツーピアのセッションを通じてこれらのテーマについて学び、実用的な知見とツールを得ました。

成果と次のステップ

この研修では、気候変動問題への取り組みにおいて都市が果たす重要な役割と、多様なスケールでの実行可能な解決策が強調されました。主なハイライトは以下です:

  • 都市全体の戦略と地域的な介入を結びつける統合的なアプローチの必要性
  • 強固な資金調達メカニズムやガバナンスの枠組みと気候変動目標を整合させることの重要性
  • 都市の強靭化を推進する上での、協力、相互学習、技術的能力構築の重要性

参加者は、自国の都市でこれらの学びを実践するための知識、ツール、インスピレーションを得てTDDを終えました。

参加者の声

「生態系、貯水池、洪水を緩和するための水路の改善、都市の気候対策への自然の統合など、自然をベースとした解決策は興味深く、フィリピンの都市に適用できる可能性があります」

 マリロウ・フローレンス、フィリピン地方自治体カラパン市市長

 「非常にシンプルな解決策が、近隣地域に非常に大きな影響を与えることを発見しました。」

リリアナ・アンドレイ、ルーマニア・ブカレスト・イルフォフ地域開発庁、地域計画専門家、計画策定モニタリング・MAプロジェクト・ポートフォリオ

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ピアツーピアのセッションを通じて実践的なインサイトを得た参加者たち

研修の写真はこちらをご覧ください。