背景
質が高く、安全で手ごろな価格の住宅を提供するという課題は、実現困難ではあるものの、世界で広く求められています。10億人近くの人々がスラムに暮らすような状況を抱える貧困国や貧困社会だけでなく、先進国の経済の中心地でも、中所得世帯を含む多くの「非貧困層」が適切な住居を見つけるのに苦心しています。
正規の住宅セクターは、需要に応じた規模と価格で新しい住宅を建設することができず、その結果、低所得世帯と中所得世帯の双方にとって住宅の選択肢は著しく制限され、人口の大部分は代わりとなる住宅を探すことを余儀なくされています。
本TDDは、太平洋戦争後の深刻な住宅不足に直面した広島の経験を学ぶため、広島で開催されました。参加者は、広島の土地区画整理政策の変遷や、戦後の開発から経済成長および人口増加期にかけて、広島市が採用したさまざまな住宅プロジェクトについて学びました。
クライアントの課題
参加者は、利用可能な土地の不足、インフラや基本サービスの不足、脆弱なガバナンス、不十分な制度的枠組み、適切な資金調達メカニズムや住宅提供への民間部門の関与の欠如、公共住宅の不十分な維持管理、需要に追い付かない住宅供給など、それぞれの国の主要な問題点を検討しました。
主な調査結果
本TDDでは、参加者と専門家の双方で急速な都市化や、貧困層が適切で強靭な住宅を取得する力が限られているといった緊急の課題に関して、洞察を深めました。TDDから得られた主な成果は以下のとおりです。
現地視察
本TDDでは、以下の施設を視察しました。
独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)が運営する「まちとくらしのミュージアム」は、東京の郊外に位置する赤羽台にあります。この地域は、URの再生プロジェクト地域のひとつで、築40年以上の住戸に加え、改築された集合住宅も多く見られます。ミュージアムは、この集合住宅街の真ん中にあり、館内には実物大の住宅レプリカが展示され、日本の住宅モデルの変遷を紹介しています。
広島市中心部から路面電車で30分ほどの場所にある高陽団地は、広島市の経済成長とともに人口が増加していた1960年代に建設されました。この地区には、広島県とURの双方が管理する住戸があります。TDD参加者は、建設コストを抑えるために同じようなデザインで建てられた集合住宅を視察しました。これらの集合住宅は、建物の外観が古くなっているにもかかわらず、高い入居率で適切に維持されています。
基町団地は、広島で原爆が投下された後に建設された最初の団地です。かつては軍事基地であった基町は、その後、広島の深刻な住宅不足に鑑み、手ごろな価格の住宅を提供する地域に指定されました。戦後に建てられた5階建てのビルや、広島の人口増加期に建てられた高層団地が点在しています。時がたち、建物とともに住民も高齢化してきましたが、多くの高齢者が基町を故郷と思い続けており、今も集団体操など住民のためのコミュニティ活動が数多く行われています。
今年2回目となる世界銀行の視察が基町で行われました(基町プロジェクト もとまちタイムズ 2024年1月14日)。