観光は、都市や地域に雇用と経済活動をもたらす重要な成長分野であり、ホスピタリティや交通、文化・クリエイティブ産業など幅広い分野と結びついています。特に都市は、体験、サービス、インフラが集積する拠点として、周辺地域を含む観光成長の基盤となっています。
一方で、多くの都市では、観光インフラの不足、制度やガバナンスの分断、混雑や住宅価格の上昇、環境負荷といった課題が顕在化しており、観光の恩恵が地域コミュニティ全体に十分に行き渡らないケースも少なくありません。観光を持続可能な形で雇用創出と都市の発展につなげるためには、都市を起点とした包括的な政策、質の高いインフラ整備、そして官民・地域の連携を通じた戦略的なアプローチが求められています。
こうした背景のもと、世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)は、2025年12月1日から5日にかけて、京都、札幌、東京において「観光と雇用のための都市」をテーマとした都市開発実務者向け対話型研修(テクニカル・ディープダイブ:TDD)を開催しました。本研修は、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連世界観光機関 (UN Tourism)、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)、世界経済フォーラム(WEF)、ブルックフィールド・アセット・マネジメント、Airbnb、レス・ロッシュ・グローバル・ホスピタリティ教育との連携のもと実施されました。アルバニア、アルゼンチン、ドミニカ共和国、インドネシア、ケニア、モザンビーク、ネパール、パキスタン、スリランカの9カ国から、政策決定者や実務者など計約40名が参加し、日本および世界の専門家とともに、観光を通じた都市の成長と雇用創出について議論と学びを深めました。
本TDDでは、観光を単独の産業としてではなく、都市の成長と雇用創出を支える包括的な仕組みとして捉えました。都市を観光の目的地であると同時に、周辺地域への玄関口、投資や人材を引き寄せる拠点と位置づけ、政策、インフラ、制度、民間セクター、地域コミュニティの連携がどのように観光の価値を高めるかを議論しました。また、都市内の地区を含む文化・自然資源の市場可能性を見極める視点や、高い潜在力を持ちながらも成長を阻害するボトルネックを特定する重要性についても共有されました。 特に、都市・近隣地区・観光拠点・宿泊施設といった異なるスケールでの介入を組み合わせることで、観光の成長を雇用創出や地域経済の強化につなげる実践的な視点が共有されました。
日本の都市からの学び
本TDDでは、日本の都市における実践例を通じて、豊かな文化・自然資源を活かしながら、観光の成長を都市の価値向上と雇用創出につなげる具体的な事例が共有されました。京都では、文化遺産や景観の保全を軸に、観光インフラやサービスの整備を進めつつ、規制やルールを活用しながら観光と市民生活の調和を図るとともに、文化・クリエイティブ産業の振興に取り組む事例が紹介されました。札幌は北海道の玄関口都市として、多くの観光客を受け入れるためのインフラやサービス、宿泊施設の整備を通じて、分散した地域観光地へ来訪者をつなぐ役割を果たしていることが議論されました。さらに北海道全体では、官民協働や観光商品の多様化を通じて、観光地を通年型の拠点へと発展させ、広域にわたり観光の効果を波及させる取り組みが紹介されました。小樽の事例では、かつての工業都市が歴史的中心市街地の再生や創造産業の振興を進め、市民主導の共創を通じて観光を軸とした都市再生を実現してきたプロセスが共有されました。

世界の都市における知見の共有
日本の事例に加え、世界各地の都市における観光と都市開発の取り組みも紹介されました。歴史都市の再生や文化資産の保全、官民連携による観光拠点開発、観光による外部不経済への対応など、都市の規模や文脈に応じた多様な実践例を通じて、観光の成長を都市の価値向上と雇用創出につなげるための共通原則と応用の可能性が議論されました。

本TDDの成果として、参加国は研修で得た知見を踏まえ、自国の状況に即した具体的な行動計画を策定しました。これらの計画では、都市観光を起点に、インフラ整備、官民連携の強化、文化資産の保全、地域コミュニティの参画促進などを組み合わせ、雇用創出と地域経済の活性化につなげる方針が示されました。例えば、観光拠点の再生や歴史地区の活用、目的地マネジメントの強化、民間投資を呼び込む制度設計など、研修での学びを政策やプロジェクトとして実装するための具体的な次の一歩が共有されました。こうした動きは、TDDが知見共有にとどまらず、実際の都市開発や観光戦略の推進につながっていることを示しています。
本TDDは、観光を通じて都市がどのように雇用と地域の価値を生み出せるのかを、都市政策、インフラ、制度、民間連携の視点から総合的に考える機会となりました。日本の都市における実践例と国際的な知見の共有を通じて、参加国は自国の文脈に応じた次の一歩を具体的に検討しました。都市間の対話と学び合いを重ねることで、観光は単なる成長分野にとどまらず、持続可能で包摂的な都市発展を支える重要な原動力となり得ることが明らかになりました。
参加者の声
「この学びを通じて、官民連携が非常に重要であること、そして自然資源が新たな観光地づくりにおいて大きな可能性を持っていることを改めて認識しました。」
レティシア・エステベス
アルゼンチン ネウケン州 観光大臣
「ここで行った一連の演習を通じて、私たちはプロジェクトの計画をさらに改善できるようになったと感じています。同時に、この研修がカボ・ロホ・プロジェクトとの関係強化につながることに、大きな期待を寄せています。」
シモン・スアレス・ペーニャ
ドミニカ共和国 グルーポ・プンタカナ 対外関係・特別プロジェクト担当副総裁
「人々に私たちの国を訪れてもらうにはどうすればよいのかを、真剣に考える必要があります。世界のどの国にも観光の可能性があるのです。」
ドリタン・アゴリ
アルバニア開発基金 エグゼクティブディレクター

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