BRIEF 2025年6月20日

【イベント実施報告】空間を創る:日本とアジアの国々における経済と人口動態の変化に対応する土地利用と都市管理計画

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土地は貴重な資源です。日本の国土は約37.8万平方キロメートルで、その約7割が森林や山岳地帯に覆われているため、土地利用と都市管理における革新的かつ優れた実践は、人々の暮らしと生計のために不可欠です。日本では、強靭でコンパクト、かつスマートな都市の構想が、こうした課題に対応するための対応策となっています。

この重要なテーマの可視化を高め、土地の制度を強化するための優良事例を共有するため、世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)は、2025年5月5日-8日にかけて、米国ワシントンD.C.にある世界銀行本部で開催された「土地会議 2025」に参加しました。会議には、70カ国以上から1,000名を超える参加者が一堂に会し、電子行政、基準、都市化、土地管理、女性の権利、エネルギーなど、57のセッションで議論が交わされました。土地へのアクセスが雇用創出や経済変革を後押しする可能性について、新たな視点も提示されました。

5月5日(月)、TDLCは「空間を創る:経済と人口動態の変化に対応する土地利用と都市管理計画」と題したセッションを主催し、日本、タイ、ブータンの政府関係者が、それぞれの国家および自治体の戦略を紹介し、比較しました。100人以上の参加者が、日本の土地利用、都市再生、持続可能な開発に関する対応策から貴重な知見を得ました。また、日本、タイ、ブータンの事例を比較することで、アジア諸国が直面する共通の課題への理解が得られました。

 

日本の「強靭性が高く、コンパクトでスマートな都市づくり」

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(左から)今村英章世界銀行日本代表理事、ジョン・カー・カウ世界銀行上級都市開発専門官、志摩憲寿東洋大学地域活性化学部准教授、久元喜造神戸市長、藤井裕久富山市長、ラウィワン・ブーリデートタイ国家土地政策委員会事務局長、ツェリン・ギャルツェン・ペンジョルブータン国家土地委員会事務局長

世界の人口がピークを迎えるのは今から約60年後と見込まれていますが、日本、タイ、ブータンを含むアジア諸国では、すでに出生率の低下、高齢化、人口流出という課題に直面しています。こうした複雑な課題に光を当てるため、日本から4名の登壇者が、国および自治体の土地管理政策における長年の経験を共有しました。

冒頭では、今村英章世界銀行日本代表理事と、東洋大学地域活性化学部 志摩憲寿准教授が登壇し、第二次世界大戦後から現在に至る政策の流れを踏まえて背景を解説しました。

今村世界銀行日本代表理事は、「日本の都市は、生産性や経済成長だけでなく、サービス提供や社会的つながりの面でも課題に直面しています。」と述べ、日本が世界に先駆けて高齢化と人口減少を経験しており、それが都市計画や土地管理と密接に関係していると強調しました。かつては急速な工業化と土地区画整理によって「経済の奇跡」と呼ばれる成長を遂げた日本ですが、現在は人口動態の変化に対応する新たな道を模索しています。

志摩准教授は、日本が経験してきた経済・人口の変遷と、それに伴って整備されてきた都市制度の枠組みを概説しました。1950~1970年代の経済成長と中間層の拡大、1968年の都市計画法に始まる都市の土地管理制度、さらに1980年の地区計画、1992年の市町村マスタープラン、2000年以降の「区域区分制度」といった制度改革についても紹介しました。

准教授はまた、1970年から2010年にかけて増加した日本の人口が、2040年には再び1970年の水準まで減少するという予測をビジュアルで示しました。また、都市の広がりによる非効率性にも触れ、都市拡大の抑制から都市再生へと政策が転換し、公共交通を軸に都市構造と人口配置を再編していることを紹介。これにより、都市中心部の再生、都市の無秩序な拡大の抑制、放置された空間の再活用が進んでいると述べました。

神戸市の久元喜造市長と富山市の藤井裕久市長が、実際の自治体での取り組み事例を紹介しました。

「神戸市は、持続可能で自然と共生し、暮らしやすい都市を目指しています。」と神戸市の久元市長は述べました。1995年の阪神淡路大震災後、神戸市は災害に強い都市づくりに注力し、大容量の水道幹線の敷設などが行われました。2012年(2008年)以降、人口が減少する中で、既存インフラの再活用、都市・郊外・農村のバランスの取れた発展を目指した都市活性化策が進められています。

富山市もまた、人口減少と高齢化、都市のスプロール化、気候変動、行政コストの上昇といった課題に直面しています。その解決策として、コンパクトシティとスマートシティの2つのアプローチを組み合わせています。公共交通を中心に据えたコンパクトシティ政策により、交通網と中心市街地の再活性化を図り、沿線への居住を促進して自動車交通を減らすことを狙っています。さらに、スマートシティの視点でデジタル技術を活用し、公共・民間のサービス強化や市民からのアクセスの向上も目指しています。藤井市長は、このような都市政策により税収の好循環が生まれ、それが再投資されることで生活の質や利便性が高まり、すべての人にとって活気のあるコミュニティが実現できると期待を示しました。

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神戸市の久元喜造市長(左)と富山市の藤井裕久市長(右)が自治体での取り組みを紹介。

アジア:発展と幸福のバランス

土地と都市の課題は日本だけに限りません。アジア各国でも、高齢化、出生率の低下、環境問題を背景に、新たな土地管理政策の波が広がっています。

タイでは、高齢化と農村から都市への人口移動により都市化が急速に進み、インフラへの圧力、不平等の拡大、環境の持続可能性への脅威が課題となっています。国家土地政策委員会事務局のラウィワン・ブーリデート事務局長は、土地利用図の作成、土地権利の検証、新たな政策枠組み、国土・土壌データベースの整備などの施策を紹介しました。また、「アジアは世界の台所」であるとして、タイは食料安全保障と森林破壊防止・森林回復の両立を図らなければならないと指摘しました。

ブータンの国家土地委員会のツェリン・ギャルツェン・ペンジョル事務局長は、60年間の社会・経済の進展を経た現在、出生率の低下と労働力不足が経済の安定性に影響を与えていると述べました。人材の国内定着と人口増加を目指す国家的な空間戦略を推進するとともに、ブータン独自の「国民総幸福(GNH)」の理念が、南アジア・東南アジア回廊に近接する新たな経済拠点「Gelephu Mindful City(ゲレフ・マインドフルシティ)」の構想を形作っていることを紹介しました。

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タイの国家土地政策委員会事務局のラウィワン・ブーリデート事務局長とブータンの国家土地委員会のツェリン・ギャルツェン・ペンジョル事務局長が各国の課題と対策について説明。

終わりに、ミン・ジャン世界銀行都市・強靭性・土地グローバル・ディレクターは、土地、人口動態の変化、都市化、持続可能な開発のつながりを強調し、経験や教訓の共有の重要性を訴えました。また、「土地は、環境、自然、人々のために、適切に管理されなければならない」と述べました。