貿易の開放性とテクノロジーの導入が成長と雇用の鍵
ワシントン、2025年10月7日 —南アジア地域は今年、6.6%の力強い成長が見込まれているが、大幅な減速がおぼろげに見え始めている。貿易の開放とテクノロジーの導入を促進するための改革を進めれば、域内の雇用創出と成長の促進に役立つ可能性があると、世界銀行は半期に一度発表する南アジア地域開発報告書で指摘している。
本日発表された同報告書の最新版「雇用・AI・貿易」は、2026年の域内成長率を4月の予測から0.6%ポイント下方修正して5.8%の減速になると予測している。下振れリスクとしては、世界経済の減速や貿易政策をめぐる不確実性、域内の社会政治不安、人工知能(AI)などの新たなテクノロジーがもたらす労働市場の混乱からの波及効果が挙げられる。
「南アジア地域はとてつもなく大きな経済的可能性を秘めており、依然として世界で最も急成長中の地域である。しかし、各国は成長に対するリスクに先を見越して対応する必要がある」と、ヨハンネス・ズット世界銀行南アジア地域総局副総裁は述べた。「各国は、AIの恩恵を最大限に生かし、特に中間財の貿易障壁を下げることで、生産性を高め、民間投資を促進し、急増する域内労働力の雇用を創出することが可能になる」
S南アジア諸国は、国際貿易や金融に対する開放性が最も低い国の一つに数えられている。地域の高い関税は、雇用機会が減少中のセクターを保護しているが、高い関税は、製造業にとって深刻な妨げにもなっている。製造部門は、中間財(製造に必要な部品や原材料)に対し他の新興国・途上国の2倍以上の関税に直面しているからである。
一方、サービス業など、関税が低いセクターは、過去10年間の雇用増加のうち4分の3を占めてきた。特に広範な自由貿易協定の文脈において、慎重に順序立てられた関税の引下げは、民間投資の促進、競争力の強化、多くの雇用機会の創出に役立つ可能性がある。
報告書はまた、生産性と所得の向上に向けたAI の可能性の活用を推奨している。AI の急速な発展は世界経済を変容させ、労働市場の形を変えつつある。南アジア地域の労働力の大半は、低スキルで農業や肉体労働に従事しているため、AI と競合するような機会は限られている。しかし、ビジネスサービスや情報技術などの分野を中心に、中程度の教育を受けた若い労働者の立場は危うい。ChatGPT のリリース以来、AIと最も競合し、AI にとって代わられる可能性の最も高い仕事の求人情報は、他の職業と比較して約 20%減少した。
しかし、AI はまた、AI が人間を補完する可能性が高い分野を中心に、生産性を大幅に向上させる可能性がある。域内の求人情報データによると、AI スキルに対する需要が急速に高まっており、そうした仕事には他の専門職と比較して 30%近く高い賃金が支払われている。
報告書は勧告として、企業の成長を阻害する規模別の規制の合理化、交通機関とデジタル接続の改善、住宅検索の透明性の向上、スキルアップと雇用マッチング、影響を受ける労働者へのセーフティネットの提供など、雇用創出を加速するための措置を挙げている。
「貿易開放の進展とAIの採用拡大は、南アジア地域の状況を一変させかねない」と、フランジスカ・オーネゾルゲ世界銀行南アジア地域総局チーフエコノミストは述べた。「企業、活動、場所を超えた労働者の移動を促進する政策措置は、高生産部門に資源を回すのに役立ち、域内での投資と雇用創出の促進に不可欠である」