Asami Okahashi
Asami Okahashi
10歳の頃、家族旅行で訪れたインドネシアの地方都市で、同じ年頃の子どもが路上で品物を差し出してきました。その姿を見て、「生まれた場所が違うだけで、人生はこんなにも違うのか」と、子どもながらに強く感じたことを今でも鮮明に覚えています。この体験がきっかけとなり、国際協力の道を志すようになりました。
大学では教育学を専攻しましたが、現地の事例を調べる中で、「教育は基盤が整ってこそ機能する」という現実を理解しました。水・道路・電力・行政サービスなど、生活の土台がなければ、子どもたちは学校に通うことすら難しいため、まずは暮らしを支える都市やインフラの側からアプローチしようと考え、民間企業へ就職しました。
新卒で入社した日系企業では、東南アジアでICTインフラの新規事業開拓を担当しました。その後、メキシコに駐在し、スマートシティのマスタープラン策定や、全社横断的な提案書の作成に携わりました。現地の行政や事業者と議論を重ねる中で、街づくりの面白さや、テクノロジーが人々の暮らしの質を高める可能性の大きさを実感する一方で、構想や計画を様々な関係者を巻き込みながら現場で実際に機能する形に落とし込む難しさにも直面しました。
修了後はJPO派遣制度を通じてUNDPに入職。本部でプログラムのポートフォリオ管理を担当した後、より現場に近い場所で働きたいという思いから、希望してバンコクのアジア太平洋地域事務所へ異動しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)のスマートシティ行動計画支援や、南アジアでの市民参加型都市計画やテクノロジーを活用した公共サービス向上等、約10カ国で案件形成・政策助言・実装支援に携わりました。
しかし、街づくりに不可欠な大規模インフラは、私の役割の範囲では直接関与できず、資金調達にも時間がかかることで、現場の熱量をタイムリーに実装へつなげる難しさを痛感しました。「政策と資金を結びつけ、迅速に実行できる体制が必要」という思いが、次の挑戦への原動力となりました。
世界銀行は、政策対話から融資・実装、能力強化等を一気通貫で担える開発金融機関だと思います。さらに、信託基金など、比較的柔軟に使える資金メカニズムが整っており、クライアント国の要請に対してスピード感をもって応えられる点に大きな魅力を感じました。こうした仕組みなら、現場で感じたもどかしさを解消できると思い、2021年ミッドキャリアで世銀への入行につながりました。
入行後は、ガバナンス部門で、行政手続きのデジタル化、テクノロジーを活用した市民参画の促進に従事しました。2024年には新設のデジタル総局に異動し、公共サービスのデジタル化に関連する政策提言や融資案件形成・実装への技術支援、各国間の知見共有を担当しています。「出生証明書を取るために、役所まで片道3時間かかる」等、途上国では、このような声を耳にすることが少なくありません。私たちの仕事は、オンライン申請やモバイル認証の仕組みを整備し、女性や高齢者など、これまでアクセスが難しかった人々にも行政サービスを届けることを目指しています。
2024年12月、東京で東京デジタル・アカデミーを実施し、リードを務めました。このプログラムでは、デジタル技術を活用して災害・公衆衛生・経済ショックなどへの強靭性を高める方法や事例を共有しました。組織内外の各関連分野の専門家によるレクチャー、現場視察、ケーススタディなどを通じて、15カ国から集まった45名の途上国政府関係者が互いの知見を交換し、各国の文脈に応じたデジタル・レジリエンス強化のアクションプラン策定に取り組みました。このプログラムのゴールは「学んで終わり」ではありません。東京での議論を起点に、実際の政策改善や融資案件形成につなげること、終了後も各国とフォローアップを続け、学びを具体的な行動に変える支援を進めています。
国際開発の現場では、理想と現実のギャップとの向き合い方が常に問われます。チームで必死に準備を重ね、理事会の承認を得て「さあ、これから」というプロジェクトが、先方政府の国会承認の遅れや選挙の影響で1年以上遅延したこともありました。外的要因を理由に「待つ」だけでは、関係省庁の意欲が下がり、整えた体制も緩んでしまいます。そこで信託基金等を活用し、要件定義の精緻化、プロトタイプ検討、体制強化などを先行。キーパーソンとの対話を粘り強く重ね、「待ち」の期間を価値に変えることを心掛け、動き続けました。
必要なのは専門性だけではありません。組織の動きを理解し、意思決定や調整がどこで滞っているかを見極める力、そして、相手の事情に寄り添いながらも、目標に向けて周囲を巻き込む実行力です。こうした地道な働きかけの積み重ねが、停滞局面を乗り越える鍵になると痛感しています。
世界銀行の魅力のひとつは、年齢を問わず、知的好奇心が高く、学び続けることを大切にしている人が多いことです。入行後、リーダーシップの立場にある様々な先輩方とお話しましたが、皆さんに共通しているのは、「勉強して自分の価値を高める」という考え方でした。組織は様々な理由で変化し、方向性が変わり、時に迷子になりそうになることもあります。そんな時だからこそ、噂に振り回されず、学びの時間をしっかり確保するというマインドセットが多くの人に根付いていることは、この組織の大きな魅力だと思います。
また、会議における発言力は評価の土台でもあります。私自身、日本で教育を受け、社会人をスタートした背景もあり、はじめはこの文化に馴染むのに時間がかかりました。そこで、発言の「回数」と「質」を高めるため、日々練習を続けています。具体的には、「会議ごとに必ず一つ質問する」「簡潔な一言で自分の考えを返す練習を、「普段の同僚や上司との会話でも、自分の考えを簡潔に伝えることを心がける」などです。
これらすべてのことは、学生のうちからでも取り組めることですし、始めるのに早すぎることも遅すぎることありません。
日本で学び働いた経験から感じる強みは、最後までやり遂げる力、丁寧な事前調整、細部まで配慮された着実な業務運営などです。これらは、多様な文化圏出身の人々が集まる国際機関では必ずしも当たり前ではなく、日本人ならではの価値だと感じます。
また、無用な対立を避け、成果に集中する協働姿勢も大きな強みです。短期的に「押しが弱い」と見られることがあっても、長期的な信頼と成果につながる場面は多くあります。
今後は特定国の融資案件をプロジェクト・リードとして深く担い、現場に近い距離でクライアント政府と走り抜く経験を重ねたい。そのために、学び直しの時間を確保して専門性を磨きつつ、案件形成・実装の経験を積むことを意識しています。
学生の方へのメッセージ—「自分に限界を作らない」
自分で自分の限界を作らないでください。若い頃は、今いる世界が全てに見え、「自分はこの程度」と思い込みがちかもしれません。でも、今見えている世界だけが全てではありません。小さな一歩でも踏み出せば、新しい出会いと経験が視界を広げてくれます。
「専門性が大事」とよく言われます。確かに重要ですが、学びや出会いを通じて見える世界が変われば、アプローチが変わるのも自然です。私自身、教育からインフラ、そしてデジタル化へと切り口は変わってきましたが、10歳の頃にインドネシアで出会った子どもたちの生活の向上に貢献したい、という思いは変わりません。
大切なのは「自分は何をしたいのか」を問い続けることです。人生をかけて成し遂げたい夢があり、それを達成する切り口としてA、B、Cを選んできた、と語れるストーリーは、日々の問い直しの積み重ねから自然に形作られていくはずです。
日本の就職活動では、ポジション採用ではない企業や組織が多いことが影響しているのかもしれませんが、国際機関で働くこと自体が目的になってしまい、自分が何をしたいかが後回しになっている方とお話することがあります。「世界銀行で働くこと」をゴールにするのではなく、まずは、人生の大半の時間を使うことになる仕事を通じて、自分が何を成し遂げたいのかを考えてみてはどうかな、と思います。その結果、世界銀行がその目的を実現する最適な場であれば良いですし、他のアプローチが近道なら、その選択で良いのだと思います。どこで働くかよりも、何をするか、そして今の仕事を楽しめているかが、長い人生をより豊かにする鍵だと考えています。