世界銀行東京防災ハブは、日本の防災に関する知見をグローバルに共有するためのプログラム「知見共有プログラム」を推進しています。その一環として、地震・津波リスクに関する住民の理解を深め、事前の避難措置準備を促すことを目的とする「ハザードマップ (防災マップ)」整備の手法をテクニカル・ハンドブックとしてまとめました。今回のセミナーは本ハンドブックの完成を記念して開催されました。
セミナーでは、リスクの理解と伝達に関する途上国における課題、日本のハザードマップ整備の経験から得られる教訓について議論が行われました。
開発途上国が直面する課題と世界銀行の取り組み
塚越保祐 世界銀行グループ 駐日特別代表は、開会挨拶の中で、途上国においてリスクに必要なハザード情報や地理的情報の不足、また住民に対する周知に関する制約といった課題があることにふれ、こうした現状を改善したいという途上国の要望を踏まえ、このたび作成されたハンドブックが実践的なガイドラインとして活用されることを期待していると述べました。
齊藤恵子 世界銀行 防災グローバル・ファシリティ (GFDRR) 防災専門官は、今回テクニカル・ハンドブックにまとめた日本におけるハザードマップ整備の取り組みと教訓について発表しました。日本では、科学的手法で特定されたリスクを住民にわかりやすい形で周知し、災害時に住民一人ひとりが行動を起こせるような環境づくりが国全体として行われており、世界でも数少ない先進的な取り組みであると述べました。途上国では、リスクを特定するために必要な地理情報や過去の災害情報などのデータの不備、リスクに関する情報が集約・管理されていないため、有効活用されていない状況を踏まえ、途上国のニーズにこたえる形で、今回、東京防災ハブのイニシアチブにより防災マップ作成に関するテクニカル・ハンドブックが作成されたと説明しました。すでに、このハンドブックを活用したワークショップが地震リスクを抱えるウズベキスタン、アルメニア、キルギス、タジキスタンで行われ、今後、地震・津波リスクのあるインドネシアやトンガでも行われる予定であると述べました。
日本の経験から学ぶ
蓮見純一 さいたま市 都市局 都市計画部 都市総務課 課長補佐から、首都直下地震への備えとして、地震および二次災害リスクがもたらす状況を科学的に評価し、その結果を災害前・発生後の対策に活用している事例を紹介いただきました。この中で (1) 災害に強い都市づくり政策、(2) 市民の防災対応能力強化の2つの活動が紹介されました。(1) については、「さいたま市防災"も"都市づくり計画」に触れ、防災だけではなく、社会課題である高齢者対策なども考慮した、住みやすい街づくりの推進が報告され、(2) については、出前講座やインターネットを活用した、市民の日常の一部としてリスク情報を提供する工夫が紹介されました。この中で、市主導による情報普及に比べ、住民のリクエストにこたえる形の普及の方が圧倒的に普及率があがるため、住民の主体性を助長するような取り組みが重要であるとの報告がありました。
また、多くの市町村が防災マップ作成のためのリスク評価手法としてシナリオ型リスク評価を採用する中、さいたま市は都市の性能を考慮した手法を採用していることが紹介されました。シナリオ型で評価した場合との具体的な違いにふれ、発生確率に関係なく、起こりうる地震に備えるため、こうした手法が採用されたとうい経緯についてご説明いただきました。
インドネシアにおけるリスク評価と活用
インドネシア 国家防災庁 (BPNP) が整備し、世界銀行も支援を行った、リスク特定および活用のためのプラットフォーム、InaSAFEについて、ヤンティサ・アカディ InaSAFEプロジェクト・マネージャーからご報告いただきました。アカディ氏は、InaSAFEの特徴として、リスク評価に必要な地理的情報や建物のデータを住民らが参画して収集している手法を紹介しました。また整備されたプラットフォームの活用として、災害後の被害状況の迅速な把握・共有を紹介しました。また、現在では災害前の防災計画策定に際したシミュレーション目的や、住民への情報普及のための活用が進み始めている状況にも言及しました。ジャカルタ特別市から始まったこの取り組みは、第二の都市スラバヤでも現在展開しつつあり、今後、順次、リスク情報の入手が困難である地方へ普及されていくであろうと述べました。
当日は、政府、民間セクター、学術・研究機関、NGO等から多くの参加をいただきました。会場参加者とのディスカッションでは、途上国の防災担当組織が比較的新しい組織であることが多いことなどが理由で発生するコーディネーション上の課題や、目的を明確にしたリスク評価の重要性が指摘されました。