BRIEF 2019年2月8日

重要なのは、高い専門性とコミュニケーション力 多国籍チームで世界の問題に果敢に挑む

Education DIAMOND 2020 春号《地球の学び方》より転載

国際公務員をめざす

重要なのは、高い専門性とコミュニケーション力 多国籍チームで世界の問題に果敢に挑む

世界銀行東京事務所 防災専門官 竹本祥子 (たけもと しょうこ)

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<PROFILE> 米国マカレスター大学(国際学・環境学専攻、地理情報システム副専攻)卒業後、世界資源研究所(WRI)でのインターンを経て、東京の環境コンサルティング会社で日本・アジアにおけるバイオマス資源を活用したビジネスや気候変動緩和策のプロジェ クトに従事。マサチューセッツ工科大学大学院にて都市計画(環境政策・プラニング)修士を取得した後、国連開発計画(UNDP)ガーナ、アジア太平洋地域事務所(フィジー)でアフリカ、島嶼国の気候変動適応策に取り組む。2017年より現職。

憧れの職業に「国際公務員」をあげる生徒が増えている。しかし国際機関で働く日本人職員数は、分担金に比して少ないのが現状だ。国際機関を受ける日本人にとって特にハードルとなるのが、高い専門性を伴ったキャリアだという。今回お話を伺った竹本さんは学部生時代から環境問題一筋のエキスパート。彼女の一貫したキャリア形成は、今後国際公務員をめざす学生にとって重要なロールモデルとなるに違いない。聞き手・小出弓弥

留学先で芽生えた国際公務員への道

もともと日本と米国を行ったり来たりの生活でした。父の仕事の関係です。その後日本の高校を卒業し、大学へ進学したのですが、〝もっとディスカッションベースで考える力を育みたい″との思いから米国の大学へ入学し直すことに。ミネソタ州にあるマカレスター大学でリベラルアーツに触れる中、3年次の一学期間、スペインへ短期留学しました。そこで世界自然保護基金(WWF)という環境NGOのインターンに参加したことが、その後の私の人生を大きく変えることになったのです。WWFで取り組んでいたのは地中海の環境保全活動でした。地中海は小さな海ですが、ヨーロッパ・中東・アフリカに面し、種々様々な言語や文化が混在しています。そこはまるで小さな世界のよう。たった一つの国が抜けてしまうだけで、どうしても共有する地中海の生態系や資源を守れない状況が生まれてしまうという特殊な環境に、難しさと面白さを感じました。「国際的な立場で環境問題に取り組みたい」という意識が芽生えたのはこの時です。そこで大学に戻ってからは、国際学と環境学を専攻し、地理学を副専攻しました。

卒業後はワシントンD.C.にある世界資源研究所というシンクタンクにインターンとして参加。希望が叶い嬉しかったのですが、自分の専門性不足を痛感する日々でもありました。「数少ない日本人として、自分にしかできない得意分野をつくりたい」。そこで、日本での経験や知識を積むために、日本の環境コンサルティング会社に就職したのです。いずれ国際公務員になるという目標を抱いていたので、JPO派遣(※)への応募に必要な「修士号と2年の職務経験」を念頭に置いていました。ここではCO2削減のためのバイオマス利用に取り組みました。実際に森林や養豚場へ赴きバイオマス資源を集めたり、東南アジアにおけるバイオ燃料の環境負荷について調べたり。折しも日本では京都議定書の採択に伴い、チーム・マイナス6%に向けた取り組みの真っ最中。「マイナス6%」という科学的な数字を、実際の暮らしの中にどう具現化するかという課題にも大変興味がありました。そこで2年の職務を経て、マサチューセッツ工科大学(MIT)に移り、都市計画の修士号を取得し、環境政策を学ぶことにしたのです。MITの学びはしばしば「消火栓ホースから水を飲む」ことにに例えられます。本人のやる気と努力次第で、それこそ放水を浴びるかのように研究できるからです。履修単位や専門範囲の制限はなく、やりたければ何をやっても、どれだけやっても構わない。だからこそ〝自分が何をしたいか″が常に問われる環境でした。自分が面白いと思うことを探究し、それを楽しむ。そのようなMITのメンタリティは今も私の中に息づいています。

気候変動のエキスパートとして世界をまたにかけて活躍

MITでは気候変動における適応策(アダプテーション)について研究しました。既に災害や異常気象が起きている現在、途上国では適応策の実行が急務です。日本では何ということもない小さな自然災害が、途上国では大災害に発展するリスクがある。その分野での仕事をめざし、卒業後はJPO派遣を通して国連開発計画(UNDP)に入職しました。ちょうどその頃〈アフリカ・アダプテーション・プログラム〉という、まさに自分の専門分野に関わるプロジェクトが行われていたからです。気候変動の専門家として、アフリカと太平洋島嶼国の適応策支援に取り組みました。十分な知識を持って臨んだのですが、やはりそこで暮らし、日々影響を体感されている住民の方々から学ぶことは多かったですね。ハード面における短期的な支援だけでなく、技術支援や意識改革など長期間にわたるパートナーシップが必要だということも、改めて感じました。この間正規職員へと採用されましたが、「さらなるスキルアップを図りたい」、そして「より良い支援を行うためにもっと日本の知見を生かしたい」と考えるように。そこで世界銀行の東京防災ハブに転職したのです。

東京防災ハブは日本と世銀による〈日本―世界銀行防災共同プログラム〉を通して日本と世界各国の専門知識を結ぶ拠点。道路やダムの修復・造設、都市開発などのインフラ関連、また、各国の開発計画レベルでの防災の取り組み、リスクファイナンス、ソーシャルセーフティーネットなどの分野で世銀が行っているすべての開発支援に防災対策の知見と技術を生かす役割を担っています。日本はこれまで多くの自然災害に見舞われながらも立ち直り、豊かな社会を築いてきました。その知見とノウハウを世界規模で標準化するための取り組みです。私は今ここで、防災専門官として働いています。

専門性を磨くために中高時代からできること

仕事は本当に面白いですね。世銀は「開発の総合デパート」と例えられる通り、あらゆる分野のノウハウがあります。各分野のエキスパートと協働することで学ぶことは多く、一緒に新しい分野を作っていくこともできる。自分の能力と頑張り次第で、可能性は無限に広がるのです。だからこそ自分の「専門性」が何より大切です。自分は何が得意で、何に興味があるのか。チームにどう貢献することができるのか。それを具体的に示し続ける必要があります。国際機関は完全能力主義で、終身雇用ではありません。自分の成果と目標を軸に、常に次のポジションへ向けてステップを踏み続けなければならない。入行後もさらなる知識のブラッシュアップが必要です。そして、様々な国の人々と働ける環境も魅力的です。異なる考えや価値観に触れ、日々視野を広げていけることは、国際機関で働く醍醐味ではないでしょうか。

それゆえの苦労ももちろんあります。多様な文化や価値観が存在することで、合意形成の難しさが表面化しやすいのです。そんな時はあらかじめお互い譲れないポイントを確認し合い、差別化するようにしています。その上で、一つのことだけで議論するのではなく、二つ以上の議題をテーブルに乗せる。そうすることで一つは譲り、一つは優先させてもらうという交渉ができる。パイを広げることで、合意形成を築き易くすることができるのです。

世銀にもJPO制度があるので、是非多くの若い人にチャレンジしてほしいですね。大まかな枠組みの中で配属先が決まる国連のJPO とは違い、世銀のJPOは個別ポストによる募集です。即戦力として貢献できる、高い専門知識と職務経験が必要とされます。また、職員は欧米の大学院出身者が多いですね。欧米の大学では、自己PRやプレゼン、ディスカッション力が鍛えられる。それらの力は国際機関でそのまま役に立ちます。英語力の習得は当然として、もう一歩踏み込んだコミュニケーション力の体得が不可欠だと感じます。

これから国際機関をめざす中高生の皆さんには〝自分の興味に自覚的″であってほしいですね。自分の興味や特性を見極めるのは非常に難しく、私自身、専攻を決めたのは留学から帰国した大学3年時です。しかし「何が面白いと自分は思うか」については、常に問い続けていました。そして留学やボランティアなど、自分の生活圏から思い切って飛び出してみることも〝自分の分野″を引きつける原動力になるのではないでしょうか。そして一度出会ったらその後は、学歴から職歴に至るまで一貫したキャリア形成を心がけてください。国際公務員としての道は、きっとあなたのそばにあります。

(※)JPO 派遣制度…国際機関を志す若者を支援するプログラム。日本政府が経費を負担して当該機関に一定期間派遣し、正規採用へとつなげることを目的とする。修士号と2年以上の専門分野での職務経験が条件。

 

世界銀行東京事務所

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