スピーチ&筆記録

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現に向けた協調的取り組み

2015年12月16日


ジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁 国際会議「新たな開発目標の時代とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ: 強靭で持続可能な保健システムの構築を目指して」 東京, 日本

スピーチ原稿

おはようございます。安倍総理、武見先生、そして日本政府の皆様。本日、このような光栄な機会を賜り、深く感謝申し上げます。

我々の共通のコミットメントであるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現に向けた安倍総理と日本政府の強いリーダーシップは、全ての人々、特に貧困層・脆弱層の自由と幸福、そして能力向上を目指す取組みに極めて重要な役割を果たしてきました。

本日、この重要な国際会議に、多くの皆様がご出席されている事をうれしく思います。また、この問題への日本の熱意に溢れた取り組みに、心より感謝申し上げます。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成に向けたこれまでの道のりは険しいものでした。1978年にアルマ・アタ宣言が採択された時、世界の保健分野の指導者たちは、最貧国のニーズに重点的に取り組みながら2000年までに全ての人々に保健医療サービスを提供するという目標を掲げました。しかし、今日の我々が、当時の目標に遠く及ばずにいる事は皆さんもよくお解りだと思います。

世界銀行を含む多くの機関は、アルマ・アタ宣言の後、この包括的アプローチでは費用がかかり過ぎる上、目標が定めにくい事に気づきました。そこで国際社会は、子供向け予防接種の規模拡大や、世界で最も致死率の高い感染症の治療など、的を絞り込んだキャンペーンやイニシアティブに焦点を移すようになったのです。その結果、世界エイズ・結核・マラリア対策基金などが、感染症の治療でしばしば大きな成果を上げてきました。途上国の中には、より強固な保健システムの構築に成功した国もありましたが、その一方で、取り残された他の多くの国では、人々の健康に欠かせないこうした基礎的保健医療サービスすら提供できずにいます。

今日、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに対する支援とコミットメントは、これまでにない盛り上がりを見せています。世界銀行グループを含むいくつかの機関は、各国と共に、保健医療システムの強化を進めています。健康への投資が様々な恩恵をもたらす事は、研究の結果から明らかです。例えばランセット誌の「健康への投資に関する委員会」は、途上国では、1ドルの投資につき最高10ドルの投資利益が期待できると分析しています。

日本のリーダーシップなくして我々は、今日、ここまで到達する事はできなかったでしょう。日本は、1961年に、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成しました。戦後の混乱期を経た国としては、まさに驚異的な偉業です。それ以降、日本は、平和で健康な社会を築くためにユニバーサル・ヘルス・カバレッジがいかに重要であるかを世界に示してきました。UHCが持続可能な開発目標(SDGs)の一つに盛り込まれた背景には、日本による積極的な訴えがありました。

日本はまた、UHCの2つの基本的課題への取組みにおいても、重要な役割を果たしました。それは、医療費を経済的に負担可能なものとする事、そして、基礎的サービスにアクセスできるようにする事です。私は2年前、ここ東京において、世界銀行グループと世界保健機関(WHO)が互いに協力して、次の2つの野心的な目標の達成に向けて力を注いでいくと発表しました。

  •  一つ目は、2030年までに医療費の自己負担が原因で貧困に陥る人をなくす事、
  •  二つ目は、同じく2030年までに、途上国の人口の80%が基礎的保健医療サービスにアクセスできるようにする事です。

これらの目標を達成するのは容易ではないでしょう。それでも私は、必ずやり遂げる事ができるものと確信しています。世界銀行と開発パートナーは既に、UHC達成に向けた重要な取組みに着手しています。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団が支援する「プライマリ・ヘルスケア・パフォーマンス・イニシアティブ(PHCPI)」は、各国がプライマリ・ヘルスケアの主要パフォーマンス指標(KPI)の追跡ができるよう支援し、保健医療システムのうち、成功している部分とうまくいっていない部分を特定しようというものです。

また、「女性、子供及び青少年の健康のための世界戦略(Every Woman Every Child)」を支援する「グローバル・ファイナンシング・ファシリティ」は、2030年までに、予防可能な母子の死亡をなくす取り組みを加速させています。国主導型の同パートナーシップは、貧困国向けのグラントや低利の融資をより多く確保することで、保健医療サービスの現場や予防態勢づくりへの投資拡大を促進します。また、このファシリティを通じて、各国は、より多くの民間資金や、世界銀行の譲許的融資にアクセスできます。

グローバル・ファイナンシング・ファシリティは、世界銀行グループの最貧国向け基金である国際開発協会(IDA)と密接に結びついており、保健医療システム強化のための資金の更なる確保にも役立ちます。IDAは、途上国の保健医療支援に向けた世界銀行グループ最大の資金源であり、過去3年間だけで保健分野への新規融資は49億ドルに上ります。途上国首脳には、IDAによる支援はドナー援助の中で最も効果的な資金の一つだと言って頂いております。日本政府をはじめとする各国からの拠出金は、世界で最も貧しい人々に質の高い基礎的保健医療サービスをもたらし、こうした人々の危機に対する強靭性を高めてきました。

国際社会はまた、公衆衛生上の危機が発生した際に、より迅速かつ効果的な対応ができるよう世界の保健医療構造を再建する事で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成に向けた歩みを大きく加速させることができます。しかし、H1N1新型インフルエンザの大流行の後、我々は、過去の大流行の時と同様に、緊急時にパニックに陥り、その後問題が沈静化すると忘れ去ってしまうという、お決まりのパターンを繰り返しただけでした。

パニックに陥り、一度終息すると忘れ去ってしまうというこの繰り返しは致命的です。ギニア、リベリア、シエラレオネでは、しっかりとした保健医療システムが構築されていなかったために、エボラ出血熱が史上最悪の規模で大流行しました。その結果、1万1,000人以上の人が命を落とし、急成長を遂げていたこれら西アフリカ諸国の経済に、数十億ドル規模の打撃がもたらされました。

これらの国が、程なくエボラ出血熱感染の終息宣言を出せる事を願っています。しかしだからと言って、この出来事を忘れてはなりません。将来の感染症発生への備えは、今から始めるべきです。専門家は、今後30年以内に、1918年のスペインかぜのような深刻な感染症が大流行する可能性が極めて高いと指摘しています。そうなれば、250日間で実に3,000万人が死に至り、世界のGDPが約5%、額にして4兆ドル近く下落する事態が引き起こされるかもしれません。

パンデミック発生時の対応と予防態勢の改善には、国連ハイレベル・パネルなど専門家によるエボラ出血熱に関する報告書が役立つでしょう。G7とG20の要請を受け、世界銀行グループ、WHO、その他のパートナーは、包括的な対策の策定を進めています。

現在策定中の対策の根幹となるのが、「パンデミック緊急ファシリティ」です。

このファシリティの目的は、保険や資本市場など事前に取り決めておいた官民資金の動員により、感染症発生時に、資金不足に陥ることなく迅速かつ効果的な対応を行えるようにする事です。このファシリティが本格的に動き出せば、人命が救われ、経済が守られるものと期待しています。

このファシリティは、パンデミック・リスク管理のための、より広範な枠組みに不可欠な役割を果たします。国際社会は今、データ報告、疾病監視、そして感染症の大流行に備えた準備活動への投資を拡大しなければなりません。そのためには、WHOが潤沢な資金を備えた強靭な組織となることが必要です。WHOの緊急対応能力を強化するために進められている改革は、素晴らしいスタートを切っています。パンデミック緊急ファシリティを補完するWHOの緊急対応基金には、十分な資金を注ぎ込む必要があります。また、国際保健規則を見直した上で、それまでの自発的かつ主観的な自己評価プロセスから、義務的かつ客観的で、検証可能な評価プロセスへと恒久的にシフトするべきです。

更に、パンデミック・リスク管理に携わる関係者全員が説明責任を担う新たな国際的メカニズムが求められています。政治色を帯びず、技術面に主眼を置き、国や機関、資金提供者から独立した新たなメカニズムを作らなければなりません。それには、各国政府、国際機関、民間セクター、シビルソサエティ、コミュニティによる準備態勢や対策を評価できる役割、資金、そして権限が備わっている必要があります。信頼のおける専門家で構成されるこのグループは、グローバルシステムの最高レベルにまで、事実をありのままに伝え、パンデミック対策に携わる関係者全員に行動を求める権限を持たなければなりません。透明性と説明責任を追及することには、心地悪さを感じるかもしれません。ですが、この心地悪さこそが、我々を正しい道に導いてくれるのです。

私は若い頃、母の影響で、アメリカの公民権運動と貧困根絶活動に力を尽くしたマーチン・ルーサー・キング牧師の演説をよく読みました。私が気に入っている節の一つで、キング牧師はこのように述べています。

我々には、今すぐに取り組まなければならない課題がある。しかし、人生や歴史の難局においては、「対応が遅すぎた」というケースが確かに存在する。今は無関心でいたり自己満足に浸る時ではない。積極的かつ前向きな行動を起こすべき時なのだ。

日本がG7の議長国を務める来年5月の伊勢志摩サミットは、我々が積極的かつ前向きな行動をとる好機となります。アルマ・アタ宣言で達成できなかった分野への取り組みを始める機会です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向けた歩みを加速し、更には、次なる感染症が大流行する前に準備を整えるのです。この2つの目標を達成できれば、人々の健康と経済的安定を飛躍的に改善できるでしょう。

私たちには、無駄にできる時間はありません。キング牧師の言葉を借りれば、私たちにあるのは「今すぐに取り組まなければならない課題」だけなのです。一緒にこの機会を掴もうではありませんか。ご清聴ありがとうございました。


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