プレスリリース

強制移動:開発途上世界が直面する危機

2016年9月15日


10件の紛争が生み出した難民の受入れ先は15カ国に集中―世界銀行新報告書

ワシントン、2016年9月15日―難民の89%及び国内避難民の99%の受入れ先は途上国であり、強制移動により、こうした国々を中心に危機的状況が発生している、と世界銀行が新たに発表した報告書はこう指摘する。こうした強制移動の原因となっているのは10件の紛争であり、1991年以降に移動を強いられた人々の大半が、これらの紛争により生み出されている。また、こうした人々の受入れ先は、一貫して約15カ国に集中しているが、その圧倒的多数が途上国である。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と共同で作成された報告書「強制移動 – 難民、国内避難民、受入れ国支援のための開発アプローチに向けて」は、強制移動の問題解決において開発が果たす役割を探る画期的な研究をまとめたものである。強制移動による危機を重要な開発課題と捉える同報告書は、貧困削減と持続可能な開発目標の達成に向けた総合的取組みの一環として、より積極的に危機に対処していく必要性の高まりを背景に作成された。開発支援の役割は、人道支援組織やその他のパートナーと相互に補完しながら密接に協力し、この問題に対し、社会的、経済的側面から長期的な視野で対処していく事にある。

現在、移動を強いられている人の数は6,500万人にも上ると報じられるなど、状況は、極めて深刻である。更に、過去25年間に起きたUNHCRのマンデート(委任権限)に基づいた統計では、難民・国内避難民の大半は、アフガニスタン、イラク、シリア、ブルンジ、コンゴ民主共和国、ソマリア、スーダン、コロンビア、コーカサス、旧ユーゴスラビアで起きたごく少数の紛争に起因している事も、本報告書は明らかにしている。

通常、こうした人々は隣国へ逃れることが多いため、受入れ側の負担が等しく分担される事は難しい。難民の大多数は、従来から約15の国々で受け入れられてきた。2015年末時点での世界の難民の受入れ先の内訳は、シリアの隣国であるトルコ、レバノン及びヨルダンが27%、アフガンスタンの隣国であるパキスタンとイランが16%、ソマリアと南スーダンの隣国であるエチオピアとケニアが7%となっている。

世界銀行グループのジム・ヨン・キム総裁は、「強制移動は、何百万人もの人々から成長の機会を奪い、2030年までに極度の貧困を撲滅するという我々の目標の大きな障壁となっている。こうした人々が苦難を乗り越え、経済的機会を掴む事ができるよう支援すると共に、受入れ側の社会にも確実に恩恵がもたらされ、社会の発展が継続されるよう、パートナーと協力して取り組んでいく。」と述べている。

フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は、「難民、国内避難民、無国籍者のための恒久的な解決策を探求することは、我々の任務の中核を成すものだ。重要なのは、開発資金を投じて人々の生活に尊厳と生産性を与えることである。人道援助機関と開発機関が互いに協力し、補完しながら取り組むことによって、世界で最も貧しく取り残された人々の生活に大きな変化をもたらすことができる。」と述べている。

仕事を求めて移住する経済移民と異なり、移動を強いられた人々は、紛争や暴力から逃れてきており、その多くは財産を失い、十分な法的権利や仕事の機会もなく、短期的な生活の見通ししか立てられずにいる。彼らが、こうした脆弱な状況を克服し、自らの将来への自信を取り戻して、仕事に就き、子供を学校に通わせ、各種サービスを受けられるようになるには、全面的な支援が求められる。支援が無ければ、彼らは困難に直面する中、疎外にも苦しみ、一方の受入れ国側においても同様に、人々に悪影響が及び、ひいては開発の取組みを阻害する恐れがある。

本報告書は、強制移動を3つの段階に分け、危機による損失を緩和するために開発機関が講じ得る支援策を提示している。

1. 予防と備え:

  • 大量の人々が流入する前に、不測の事態に備え、資源の迅速な移転を実施し、サービス需要の急増に対応できる能力を増強するなどの準備に向けて、受入れの可能性がある地域を支援する。強制移動は始まってから平均4.1年でピークを迎えるため、受入れ国には準備をする時間的余裕がある。
  • 不安定な国の中でも安定した部分に資金を投入し、自国に残った人々が生活を維持できるよう強靭性を高める。大多数の人々は、残留と脱出のリスクを比較した上で残留を選択し、手段が尽きるまで踏みとどまろうとする。

2. 危機的状況下の対策:

  • 強制移動による影響を受ける恐れのある長期的開発課題に対応できるよう、ビジネス環境の改善や不平等の緩和など、受入れ社会を支援する。
  • 人口増加に対応するため、教育、保健、都市、環境に関するサービスの提供を強化・拡大する。
  • 強制移動した人々の移動の自由と労働の権利を強化する政策を推進する。そのことが、受入れ社会にとっても利益になる。
  • 移動した人々が機会を求めて移動したり、受入れ社会で雇用を創出したり、労働市場で求められる技能の習得と教育に投資できるよう支援する。

3. 生活の再建:

  • 帰還民を受け入れる社会で雇用や機会を創出することにより、帰還に成功できるよう支援すると共に、生活再建の取組みを援助する。
  • 難民に適切な法的地位を与える意思のある国に開発援助を行い、移動してきた人々が地域に溶け込めるよう支援する。

世界規模の対策を講じるためには、膨大な資金が必要となるが、開発機関は資金調達のアプローチを拡大することができる。具体的には、準備を整えるための特別資金、政策や結果重視型の融資、民間セクターからの投資を促進するための保証の提供などである。更に、受入れ国が中所得国であれば譲許的融資が、低所得国であれば追加の資金援助が必要となるであろう。

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参考資料


プレスリリース番号:
2016/036/FCV

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