オピニオン

投稿記事:西アフリカのエボラ出血熱対策に必要なものは何か

2014年8月31日


ジム・ヨン・キム (世界銀行グループ総裁)、ポール・ファーマー (感染症学者、ハーバード大学 国際保健社会医学部教授) ワシントンポスト

現在ギニア、リベリア、シエラレオネで猛威を振るっているエボラ出血熱が、例えばワシントンDCやニューヨーク、あるいはボストンで発生したとしたらどうだろう。恐らく、既存の保健医療システムで封じ込め、根絶できたに違いない。

まず病院は、感染が疑われる患者を隔離し、医療従事者は、自らを護るための適切な医療服や機具を身につけるだろう。医師や看護師は、脱水症、腎機能や肝機能の低下、出血障害、電解質失調などを総合的に見た効果的な治療を行い、研究室では、有害物質の処分が適切に行われるに違いない。さらに公衆衛生の予防管理センターは、対処についての情報のみならず、集団感染に関する正しい理解を市民に伝えるであろう。

エボラ出血熱は、感染者の体液と直に接触することにより感染する。そのため、結核のような空気感染の疾患と比べると伝染性は低い。機能的な保健医療システムさえ存在すれば、エボラ出血熱の伝染は食い止めることができ、大半の患者の生命を救う事ができる。

ではなぜ、西アフリカではそうした状況が作れず、すでに1,500人以上が命を落としているのだろうか。

国際機関はこの3カ国から職員を避難させ、航空会社は商業便の運航を停止し、近隣諸国は国境を封鎖している。公衆衛生制度が脆弱で、有効な治療を提供するコストがあまりにも高く、医療従事者が極端に不足している状況下で、大流行を防ぐのはもはや不可能という見方もある。

しかし、これまでのエボラ出血熱の流行はいずれも食い止められており、西アフリカでも食い止めることは可能なはずである。我々の目の前で起きている危機の拡大は、ウイルスそのものに由来しているというよりも、誤った情報に基づいた先入観によって、流行への対策が不適切な形で行われている事に起因しているからだ。

さらに悲惨なことに、この先入観への反証は何度も確固たる形で示されているにもかかわらず、根強く存在しているのである。

わずか15年前、西側諸国の専門家たちは、アフリカを初め世界中で数百万人もの犠牲者を出していたエイズの危機を食い止める手立てはないと、はっきりと語っていた。

しかし今日、ジョージ・W・ブッシュ大統領のリーダーシップと主張、米国議会の超党派連合、宗教団体の勇気ある行動、そしてトニー・ファウチおよびマーク・ダイブルをはじめとする米国政府の研究者らのおかげで、1000万人以上のアフリカ人が救命治療を受けている。

治療を行わない疾病が存在するという議論は、薬剤耐性結核やマラリアなど、主に貧困層がかかる病気の抑制に手をつくさないことの理由として長年使われてきた。

しかし、今日起きているエボラ出血熱危機は、基礎的医療へのアクセスに見られる格差が、長年にわたりさらに拡大しつつあることの表れである。ギニア、リベリア、シエラレオネには、集団感染を食い止めるために必要な人材も、物資も、システムもない。リベリアの保健省によれば、今回の集団感染が起きるまでは、同国では、人口430万人に対して公共医療機関で働く医師はわずか50人しかいなかったという。

エボラ出血熱の流行を食い止めるためには、それに適した緊急対応が不可欠である。必要とされる資源や知識を備えている国際機関や先進諸国が進み出て、西アフリカ諸国の政府と連携しながら、世界保健機関(WHO)によるエボラ出血熱対策のロードマップに沿った、本格的かつ協調的な取り組みを開始すべきである。

多くの患者がいたずらに命を落としている。歴史を振り返ると、有効な治療が施されない急性感染症では死亡率が上昇するという特徴がある。現在のアフリカでのエボラ出血熱の状況も同じである。

1967年にドイツとユーゴスラビアで起きたマールブルグ出血熱(エボラ出血熱と似た病気)の大流行の際の死亡率は23%であった。ところが、それ以降にサブサハラ・アフリカで起きたマールブルグ出血熱の死亡率は86%であった。その違いはどこにあるのだろうか。ドイツとユーゴスラビアには、機能的な保健医療システムと患者の治療を効果的に行うための資源があった。残念ながら現在エボラと闘っている西アフリカ諸国は、そのどちらも持ち合わせていない。

国連、WHO、そして米国、イギリス、フランスといった国々による支援の下でしっかりとした公衆衛生対策が実施されれば、エボラウイルスを封じ込めることができるだろう。そうすれば、控えめに見積もっても、今回の流行で50%を超えている死亡率が、20%を下回るレベルまで劇的に低下するはずである。

西アフリカの3カ国は、危機的な瞬間を迎えようとしている。これらの国はいずれも脆弱国であり、数十年間にわたる紛争と政府の脆弱なガバナンスを乗り越えて、近年ようやく堅調な経済成長を遂げるようになったばかりである。エボラ出血熱の流行を食い止めるための知識、手段、資源を持っていながら、これ以上の危機の高まりを見過ごすのは、許されないことである。数万人の生命、西アフリカ地域の将来、そして多くの困難の後に数百万人の人々がようやく手に入れた経済面・健康面の恩恵の行く手が脅かされている。

本投稿記事は、ワシントン・ポスト紙で発表済。



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