特集

異常気象と極度の貧困の連鎖を断つ

2016年11月14日


World Bank Group

要点
  • 自然災害は世界中の地域社会の貧困をさらに深刻化させるため、災害リスクの軽減と貧困軽減は密接に連携しなければなりません。
  • 世界銀行の最新報告書によれば、異常気象が貧困に与える影響は、これまで理解されていたよりもはるかに壊滅的であり、年間消費にして5,200億ドルの損失に相当し、毎年約2,600万人が貧困に陥る状況を作り出しています。
  • 強靭性強化に目標を定めた施策は、貧困層を異常気象から守り、国と地域社会による年間1,000億ドルの節約につながります。

2013年にフィリピンでは、台風ハイヤンの影響で100万人が貧困に陥り、国家経済に129億ドル相当の打撃を与え、100万戸を超える家屋が倒壊しました。

2010年にバングラデシュでは、サイクロン・アイラが沿岸地域に壊滅的打撃を与えた直後、失業率が49%、貧困率が22%、上昇しました。

2005年のハリケーン・スタンがグアテマラに与えた経済的打撃により、被災家族の7.3%の子どもたちが、学校の代わりに仕事に通わざるをえなくなりました。 

自然災害は単に破壊の跡を残すだけではありません。地域社会で貧困がさらに深刻化します。

それにもかかわらず、自然災害について耳にするとき、いまだに見出しになるのは、それがもたらす経済的損失、すなわち建物や社会基盤や農業生産に与える被害です。しかし、最新報告書が示唆するのは、自然災害を経済的影響に限定してしまうと、全体像が見えてこないということです。それどころか、それは全体像を歪めることになります。

なぜなら、単純に値札を貼るという行為は、そもそも失うものを持つ程に富んでいた人たちの損失しか表現できないからです。富裕層と比較してはるかに苦しんでいる世界の貧困層に対して自然災害が与える壊滅的な影響は、それだけでは表現できません。

この認識を踏まえ、世界銀行と世界銀行防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)の最新報告書は、自然災害が世界の貧困撲滅に対し、これまでに理解されていたよりも大きな障害となると警告しました。今週COP22で発表されたこの報告書 「防災と貧困削減:自然災害に立ち向かう貧困層のレジリエンス構築」「防災と貧困削減」) は、世界で最も脆弱な人たちの保護を強化する気候問題対応政策の必要性という喫緊の課題を浮き彫りにしました。 


" 過酷な気候による衝撃で、貧困撲滅を目指すこれまでの進歩が数十年分、後戻りするおそれがあります。暴風雨、洪水、干ばつは人々と経済に悲惨な影響を与え、中でも貧しい人たちが最大の代償を払うことになりがちです。自然災害に対する強靭性(レジリエンス)の構築は経済的に賢明であるだけでなく、道義上の急務でもあります。 "
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ジム・ ヨン・キム

世界銀行グループ総裁

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豊かな人たちと比べ、貧しい人たちは自然災害が発生しやすい地域の壊れやすい住まいで暮らし、農業や畜産、養殖など、異常気象による影響を受ける危険性が高い産業で働いています。また、復興という点でも、政府や地域社会からはるかに少ない支援しか受けられません。その結果、暴風雨、洪水、干ばつ、地震は貧しい人たちにとり、他の人たちと比べて倍以上の重い負担になるのです。

例えば、2005年にムンバイを襲った史上最大規模の洪水で、貧困層は豊かな層よりも60%も多くのものを失いました。そして、わずかな持てるものを失ったとき、貧しい人たちの健康状態には即座に、時には回復不能な結果が生じます。エクアドルでは、1997~1998年のエルニーニョの影響による洪水に胎児の状態で被災した貧しい子どもたちに関し、出生時の体重と身長が低く、認知能力も低いことがわかりました。

「防災と貧困削減」 報告書では、自然災害の被害を評価するための新たな測定値として、貧困層の負担が偏って大きいことを勘案した値を導入し、現在、自然災害が世界経済に5,200億ドル(通常報じられているよりも60%多く)の損失を与え、約2,600万人が貧困に陥る状況を毎年作り出していることを明らかにしました。

それでも希望はあります。政府は自然災害から貧困層を保護する対策の強化を通じ、数百万人を極度の貧困化から守ることができます。

報告書では、貧困層が異常気象などの異常な自然現象の影響に対応できるよう補助する「レジリエンス(強靭性)政策」パッケージを提案しています。これには早期警告システム、個人の銀行口座の利用促進、保険契約、社会保護制度(現金給付、公共事業計画など)など、衝撃に対応し、復興する能力の強化に役立つ施策が含まれます。 「防災と貧困削減」 では政府に対し、社会基盤、堤防、その他の水位を管理する手段に対して重要な投資を行い、適切な土地利用施策と建築規制を策定することも呼びかけています。これらの対策では、高価値の資産を持つ人たちだけでなく、最貧困層と最も脆弱な市民を守ることを特に目標とする必要があります。

報告書では、117カ国でこれらの政策から期待される効果を試算しました。例えばアンゴラで、最貧困層の市民を対象とする大規模に展開可能なセーフティネットを導入した場合、国の利益は年1億6,000万ドルになります。こうした世界中の対策を総合すると、国と地域社会にとり年1,000億ドルの節約が可能になり、自然災害が人々の生活に与える全体的な影響が20%減少します。

報告書作成責任者である ステファン・ホルガット GFDRRリード・エコノミスト は、「多くの国々は気候変動の結果としてますます増え続ける予想外の衝撃に苦しんでいます」と述べました。「貧しい人たちは避けられない自然災害からの社会的・経済的保護を必要としていますが、有効性が確認されたリスク政策の導入により、数百万人の貧困化を回避できる可能性が生まれます。」

貧困層のレジリエンス構築に向けた努力はすでに広がりつつあることを報告書は示しています。先月も、革新的な保険プログラムのおかげで、ハイチ、バルバドス、セントルシア・セントビンセントおよびグレナディーン諸島が、ハリケーン・マシュー被災後の復興活動に対して2,900万ドルの援助を受けました。

「防災と貧困削減」 は、気候変動に対する各国の適応の改善を助け、最も脆弱な市民のレジリエンスと繁栄を強化するためのロードマップです。対応・再建・復興のための手段を最も脆弱な人たちに与えることにより、数百万人を極度の貧困から救い出す可能性を高めることができます。



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