特集

フェーズII:低炭素型開発の課題

2010年12月21日

気候変動と世界銀行グループ
 

概要
 

過去数世紀にわたり、水はある一定量が確保され続けてきたが、その間に地球の人口は増え続け、現在は60億を上回っている。水は人間の生活や企業活動に不可欠であり、水資源の減少は、経済発展への貢献を目指す組織にとっても脅威となっている。最終的な目標は、利用可能な水資源と、水に対する社会の要請の間で持続可能なバランスを取ることにある。

気候変動にこのまま歯止めがかからなければ、4分の1の確率で、今世紀末までに気温が摂氏6度上昇するといわれており、開発の歩みが妨げられる恐れがある。熱を閉じ込める温室効果ガス(GHG)をこれまで蓄積させた責任は先進国にあるものの、大気中の温室効果ガス濃度安定化に向けた国連目標を達成するには、世界中の国々が一丸となってこの問題に早急に取り組む必要がある。建物や発電所、輸送システムや森林利用の面で、今後20年間にどのような選択と投資を行うかが、地球の気候の将来を形作る上で決定的となるだろう。

本評価は、エネルギー、林業、輸送に関する世界銀行グループ(WBG)の広範なポートフォリオから、開発と気候変動緩和についての教訓を引き出そうという試みである。全てを網羅した評価ではないが、温室効果ガス対策におけるコベネフィットの潜在性がある、世銀グループの評価可能な活動の大部分を占めるサブセクターを対象としている。世銀グループは2003-08年の間に、再生可能エネルギーやエネルギー効率化に対する年間投資額を2億ドルから20億ドルに拡大し、温室効果ガス削減に向けた譲許的資金として50億ドル超を動員した。2008年には、「開発と気候変動に関する戦略的枠組み(SFDCC)」を承認し、それが誘因となって一連の投資や分析活動が行われた(これらは新しすぎるため評価対象となっていない)。しかし、低炭素型成長に必要とされる数兆ドル規模の投資と比べれば、世銀グループの資金は十分ではない。開発と温室効果ガス削減に向けて、いかに対応すれば世銀が最大限の影響力を発揮できるかが問われている。

世銀グループがレバレッジ効果をもたらすことのできる重要な方法のひとつが、政策についての助言と優先課題への支援、すなわち再生可能エネルギーおよびエネルギー効率化に反するエネルギー補助金など不公平な施策の撤廃である。この問題については、本評価シリーズのフェーズI(IEG 2009)で取り上げている。

第二の方法は、公的な領域においても民間投資についても、既存の技術、政策、金融慣行の移転や適合を現地の状況に応じて支援するなど、ベンチャー・キャピタリストのような役割を果たすことである。世銀グループは、パイロット・プロジェクトである程度のリスクをとることによって、気候変動資金拡大の際に、ハイリターンの一連の開発ソリューションのどれを大規模に展開すれば良いかを見極めることができる。世銀グループはこの種の技術移転で成功を収めてきたが、それは実証と普及のメカニズムが入念に考え抜かれている場合に限られる。借入国の不安や懸念の緩和に地球環境ファシリティ(GEF)の支援が極めて重要となっているが、より大規模な実証のためには、さらなる譲許的資金が必要となるだろう。先進的な技術の支援の成功例はあまり多くはないが、土地利用など、世銀グループが何らかの役割を持つニッチな活躍の場が存在する可能性がある。

第三に、世銀グループは影響の大きいセクターや手法に今一度焦点を絞るとよいだろう。支援分野として際立っているのがエネルギー効率化である。たとえば、暫定的な評価結果によると、電球型蛍光灯の配布は、ほとんどの世銀グループ投資と比べて突出した経済的リターンを提供すると同時に、二酸化炭素(CO2)削減における重大なコベネフィットをもたらすなど、SFDCCが求める「後悔しない」投資そのものである。電力需要を満たすために、世銀グループの希少な人的資源や財源は、エネルギー効率化などを通じて、石炭火力発電に代わる、国内的に望ましい選択肢を借入国が見出せるよう支援するために投じるのが最善であろう。石炭火力発電に対する支援は、最後の手段として、より低コストで譲許的な融資という選択肢が尽くされた後に、世銀グループの支援によって貧困や排出量が削減されるという説得力ある主張が存在する場合に限って使用されるべきである。

森林対策の中では、持続可能な利用を可能にする原生林区や保護区を設けたことで、熱帯林伐採が(非保護区域と比べて)年間最大2%ポイント減少し、社会、環境、気候の各分野における目標達成を促進している。金融手段については、プロジェクト収益への影響が限られている水力発電から、レバレッジ効果の期待できる用途へとカーボン・ファイナンスを振り向ける先を変更する必要がある。再生可能エネルギーの支援には長期融資が不可欠である。保証は、エネルギー効率化融資の市場に転換をもたらすまでには至っていないが、投資家は望ましい政策が長期的に維持されるという安心を求めていることから、再生可能エネルギーにとっての重要性が増す可能性がある。

このアジェンダを追求するため、世銀グループは、成果主義を強め、パフォーマンスを細かくモニターする必要がある。このように急速に変化しつつある分野においては、何が効果的で、何がそうでないか、そしてその理由が何であるかを理解できることが、世銀、借入国、そして世界にとっての価値を生み出すことになる。

 

評価の枠組み
 

今回の評価では、排出量削減のための技術や慣行の採用と普及における世銀グループの広範な業務を、主に以下の3つの点から検証している。

  • 温室効果ガス排出量緩和と地域開発の双方への影響が最も高いプロジェクトは?
  • 世銀グループが、どの部分で、どのようにそうしたプロジェクトを進めると最大のレバレッジ効果が得られるか?
  • パフォーマンス向上のために世銀グループは、現行プロジェクトから得た経験をどのように活用すべきか?

広範にわたる業務の大半は、まだ最終評価の対象ではない、またはその影響に関する整備されたアクセス可能なデータがないため、評価は選択的であるが、世銀グループのこれまでの業務のうち評価可能なものの大部分が対象となっている。温室効果ガスを排出する主なセクター(エネルギー、運輸、森林)については、世銀グループの関連ポートフォリオの大部分を占め(金融仲介機関を介したエネルギー効率化支援など)、セクター全般の問題を明確にし(送電網接続の再生可能エネルギーに対する融資の役割など)、新たなアプローチを開拓する(生態系サービスに対する支払いなど)具体的な問題を取り上げる。また、技術移転、世銀グループの炭素基金、そして石炭火力発電における世銀グループの役割という3つの特別な問題についても論じる。さらに、技術採択の際の障壁、所定の介入策の有効性、経済や緩和への考えられる影響を世銀グループがどう判断しているかを検証する。

気候変動に関する本評価報告のフェーズI(IEG 2009)では、政策改革の主要分野に対する世銀グループの支援を取り上げた。今回のフェーズIIでは、その他の2つの支援分野、すなわち(i)技術革新や金融革新の開発、移転、実証、(ii)資金調達と実施を取り上げる。

 

評価結果
 

世銀グループの支援は、その特質も効果も多岐にわたる。本評価報告では、まずセクター別の評価結果を検証した上で、セクター横断的な教訓や提言を考える。

 

緩和と開発の調和
 

地域開発の目標を促進すると同時に温室効果ガスの緩和を目指すプロジェクトについては、まだ大きな余地が残っている(様々なエネルギー・プロジェクトの経済的リターンと二酸化炭素削減実績を示した図6.1を参照)。エネルギー効率化は、他の投資以上に、大きな経済的リターンと温室効果ガス削減の両方をもたらす。他のプロジェクトでも、例えば林業なら二酸化炭素削減、また住宅用太陽光発電システムなら経済的リターンといった具合に、どちらか一方で大きな恩恵をもたらすものがある。温室効果ガス削減と経済的利益を最大化するためには、単一の手段で複数の目標を追求するのではなく、複数のプロジェクトを並行して進めることが必要になる場合も多いだろう。

 

再生可能エネルギー
 

送電網接続の再生可能エネルギーは、二酸化炭素排出量の削減に加え、現地の大気汚染緩和やエネルギー安全保障など、国内で追加的恩恵をもたらし、産業の発展を促進する可能性もある。だが、投資家が国家あるいは地球レベルでの利益まで考慮するとは限らない。貸し手側が、未知数の技術に対する資本集約的投資を渋る可能性もある。さらに電気事業者が、断続的にしか使えないエネルギー源に対し躊躇する場合もあるだろう。

こうした障壁の克服には技術協力が役立つ。世銀はスリランカで、送電網へのアクセスを促進する小口電力購入標準契約の制度設置を支援した。メキシコと中国では分析、能力構築、実証により、再生可能エネルギーの望ましい支払い制度の採用に寄与し、その結果、中国では20ギガワットを超える風力発電設備が整い、メキシコでは数百メガワットの発電所が建設中である。

長期融資の提供(国際金融公社[IFC]による投融資や世銀の転貸プロジェクトなど)は、現在の炭素価格で炭素クレジットを購入するよりもプロジェクトの収益性にはるかに大きな影響を及ぼす。各国が再生可能エネルギーに対する価格プレミアムの支払いに依存を強めつつあるため、契約不履行や政治的リスクなどに対する世銀と多数国間投資保証機関(MIGA)の保証が触媒として機能する可能性がある。

再生可能エネルギーに対する世銀グループの直接貸出は、水力発電が中心であり、世銀グループで評価可能な相当量の記録が存在するグリッド技術は水力発電のみである。評価対象となった水力発電所のうち76%がやや満足もしくはそれ以上の評価を得ており、最近になって開始されたプロジェクトの方がより高い評価を得ている。うまくいかなかったプロジェクトは、再定住計画の準備や実施があまり効果的に進んでいない場合が多い。現在、水力発電への投資額のうち約3分の2は、流れ込み式水力発電(大きな貯水池を伴わない方式)に対するものだが、この方式では、現地で社会・環境面に損害が生じる潜在性は少ないものの、気候変動への耐性に弱い。

風力発電に対する世銀グループの直接投資はそれほど多くない。風力発電は資本コストが高く、設備稼働率が低いことが多いため、平均すると水力発電と比べて経済的リターンも二酸化炭素排出削減もはるかに少ない。風力発電をはじめとする新たな再生可能エネルギー技術の競争力を高めるためには、グローバルなレベルでの製造コスト削減、さらには立地の絞込みと維持管理の強化が不可欠である。

オフグリッドの再生可能エネルギーへの投資額が単独で最も多い分野は太陽光発電であり、その大半は住宅用である。1992年以降、世銀グループは34か国で住宅用太陽光発電システム(SHS)に7億9000万ドルを拠出しているが、ほぼすべてがGEFを財源とする補助金である。品質の確かな業者への補助金と消費者向けマイクロファイナンスを活用した世銀の支援は、IFCの活動よりも成果を収めている。これらのプロジェクトは経済的に30~90%の利益率達成が可能だが、オフグリッド世帯のエネルギー使用量はごく少ないため温室効果ガス削減にはほとんど影響しない。現在の価格では、SHSは、農村部の標準では比較的裕福、または優れたマイクロファイナンスのサービスを利用できるオフグリッド世帯という狭いニッチ市場の中で成功を収めている。

 

エネルギー効率化
 

本評価のフェーズI(IEG 2009)では、エネルギー価格改革、そして建物や電気器具の規格などによるエネルギー効率化政策の促進という最も重要な障壁撤廃政策を評価した。その中で、世銀はエネルギー価格改革を進めてきたものの、エネルギー効率化プロジェクトは比較的少なく、その資金もあまり多くないと指摘された。その後、ロシア連邦で先般採択された省エネルギー法に対する世銀・IFCの支援、G20によるエネルギー補助金調査への支援、このほど承認されたベトナムの電力セクター開発政策の運営など、政策とエネルギー効率化のつながりに対する関心が高まっている。

一見したところ高収益をもたらしそうなエネルギー効率化機会があっても、工場や建物の所有者はそのための借入をしないことが多い。これは、世銀グループの分析によれば、エネルギー効率化プロジェクトの融資に関して、借り手には情報がなく、貸し手には経験や安心感がないためである。世銀グループは主に、金融仲介機関(銀行、特定目的基金、エネルギー・サービス企業)に対して保証や技術協力による支援を行ってきた。こうしたプログラムは、エネルギー効率が極めて低い中国および東欧を対象としているが、これは適切といえる。

世銀とIFCは、いずれもGEFの支援を受けて類似のプログラムを実施しているが、両者のコミュニケーションは必ずしも十分とは言えない。しかし意外にも、融資保証は、銀行が一旦エネルギー効率化融資に精通してしまえば中止されかねない一時的な市場変革策ではないことがわかった。エネルギー効率化融資は十分とは言えないが、それは、煩雑な担保要件など、より広い意味での金融市場の不備に起因していることが多い。

保証は、融資を受けることが困難な中小企業へのエネルギー効率化融資を促進している。借り手が高い利益率を達成すれば、保証プログラムは信用がより低い企業への保証が提供でき、一段とその影響が高まる。

世銀支援を受けたプロジェクトを通じて中国へのESCO(エネルギー・サービス会社)の展開が順調に進み、高い利益、温室効果ガスへの多大な影響、そして自発的なESCOの展開をもたらしている。しかし、さらなる展開と規模拡大のためには、ESCO事業者自らの信用力の問題を解消し、多くの途上国でESCO事業にとって標準的な様式となっているエネルギー性能契約の大幅な修正が必要となる可能性を認識する必要がある。

IFCもエネルギー効率化のために、産業界に直接投融資を行っている。エネルギー効率化のために投融資を受けるクライアントの選別を行うIFCのプログラムは、主に小規模で、温室効果ガスへの影響はそれほど大きくない。

既存の活動の中で、影響が大きく規模拡大の潜在性も高い3つの分野が際立っている。第一は、融資または情報に関し障害に直面している大規模な炭素集約型工場という、特殊だが重要な事例におけるIFCの積極的なエネルギー効率化支援である。第二は、送配電損失削減のための支援の拡大である。これに伴う経済的利益は16%から60%強に及び、プロジェクト・サイクル全体の二酸化炭素排出量削減は7~15kg/ドルである。第三は、白熱灯の電球型蛍光灯(CFL)への置換であり、これによる直接的な経済的利益は50~700%(省エネルギーによる)と推定される上、発電所の建設が延期され、二酸化炭素排出量も27~134kg/ドルが削減される。初期のプロジェクトが触媒となってCFLが自発的に普及すれば、こうした利益はさらに拡大されることになる。ただし、CFLについての厳密な評価は行われていない。

 

技術移転
 

技術移転は、バリ行動計画(気候変動に関する国際連合枠組条約の下での合意)およびSFDCCの柱の1つである。世銀グループは、技術面や金融面でのイノベーションの試行、修正、実証、普及を目指すプロジェクトを通じて既存のクリーン技術の移転に貢献してきた。これは、実証と普及の論理が入念に考え抜かれている場合に成功している。

たとえば、中国での再生可能エネルギー開発プロジェクトは、競争力のある太陽光発電産業の成長を促進するために、品質を条件とする補助金、研究開発グラント、技術協力を組み合わせて進められた。エネルギー保全プロジェクトは、中国の初期のESCOを支援し、知識共有と普及に重点が置かれた。ラテンアメリカ地域の林間放牧プロジェクトでは、森林と牧草地を統合するための様々なアプローチを試行し、一部の手法については炭素排出量削減や生物多様性の面での利益を考慮に入れなくても高い利益をもたらすことを明確に示し、コロンビア政府を説得してプロジェクトの規模拡大に結びつけた。いずれのプロジェクトでも、重大なリスクを緩和し、創出される知識が世界にもたらす利益に対価を支払うために、GEFの支援が不可欠であった。

逆に、特に先進技術がかかわるケースで、支援策を技術の普及と結びつける確たる論理的枠組みがない場合には、技術移転はままならなかった。たとえば、集光型太陽熱発電を支援する初期の取組みでは、少数の散発的プロジェクトが世界的なレベルでコスト削減を促進するであろうという妥当でない仮定がなされた(クリーン・テクノロジー基金による新たな集光型太陽熱発電計画では、より適切に見積もられている)。技術の恩恵を受ける民間組織(中国の効率的ボイラー・プロジェクトでの技術ライセンス取得団体など)が専有技術を競合企業と共有するであろうという正しくない仮定がされたプロジェクトもある。IFCによるいくつかの投資では、複数の相反する目的が追求され、経験の乏しい企業家が未知の技術を使って、関心が薄い市場をターゲットにするなど、克服しがたい状況もみられた。最後に、集光型太陽熱発電プロジェクトでも効率的ボイラー・プロジェクトでも、技術供給者が少なくコストが明確でない場合(新技術につきものの特徴)の調達の困難さについて評価が十分とは言えなかった。

 

学習とインセンティブ
 

技術を新たな場所になじませ、どの技術の規模を拡大するかを決定し、計画通りに機能していることを確認するためには、迅速なフィードバックと学習が必要不可欠である。技術実証プロジェクトは、何を、どのように、誰に対して実証するかが明確な場合に最も有効となる。最近の実証プロジェクトでは、直接的な結果を監視するための計画は十分に練られているが、そうした結果が意図した相手にどれだけ効果的に届いているかについての追跡は今後の課題となっている。

他のIEG報告でも言及されているとおり、費用便益分析はもはや過去のものとなり、世銀グループがハイリターンな投資を識別することが難しくなっている。本書で示す見積もりは確認が取れているわけではなく、指針としてやや楽観的に過ぎる可能性もある。たとえば、森林プロジェクトについての十分な影響評価が行われていないため、REDDのアジェンダには、森林保護を経済開発とどのように組み合わせるのが最善であるかという喫緊の課題が盛り込まれていない。

炭素プロジェクトについて情報開示されたモニタリング結果は、フィードバックのもたらす利点を示している。炭素市場の誕生に伴い埋立地ガス・プロジェクトが急増したが、そうしたプロジェクトは制度面の問題から、設計時に期待されたほどのパフォーマンスを達成していないことがモニタリング・レポートによってまもなく指摘された。このフィードバックから、評価モデルは米国の経験に基づいていて、途上国の廃棄物の流れには適用できないことが明らかになった。世銀グループはこのモニタリング結果の公表を推進した。

比較的最近のプロジェクトには、設計上や運用面での教訓が取り入れられている。大半のプロジェクトにはこの種の系統的なフィードバック機能が含まれない中、IFCのモニタリング・システムがその役割を果たし始めている。再生可能エネルギー・プロジェクトの中でも、経済や炭素排出量への影響が設備稼働率と比例する場合には、フィードバックが特に必要となる。多くの水力発電プロジェクトや風力発電プロジェクトはパフォーマンスが低いが、その理由は明らかでない。

世銀グループは組織レベルで、SFDCCの目標を成果や影響ではなく支援のコミットメント額で定めているが、これではなかなかインセンティブが高まりにくい。例えば、エネルギー効率化プロジェクトは要するスタッフの時間が多いため人件費が高くなり、プロジェクト規模が比較的小さくなりがちだが、実は、安価に準備できる大規模発電プロジェクトと比べ、クライアントにより多くの利益をもたらすことができる。

 

提言
 

世銀グループは、低炭素開発促進において、最大限のレバレッジ効果を発揮することができる。そのためには、ポートフォリオの選択、適用する手段、そして技術政策に対する戦略的なアプローチが求められる。これは、クライアントやひいては世界にとっての価値をこれまでの経験を通じて見出し、成功例を拡大し非成功例を再設計することを意味する。その際、以下がポイントとなる。
 

ベンチャーキャピタリストのような働き
 

世銀グループは、官民両セクターにおいて、革新的な技術、政策、金融実務の移転、適応、試行、実証を支援することができる。ESCO、バス高速輸送、住宅用太陽光発電システム、アグロフォレストリーなどがその例である。こうした実証はリスクを伴うが、大きな利益をもたらし得る。しかし、借入国、世銀グループ、そして世界にとって重要な点は、開発、貧困削減、温室効果ガス排出緩和のすべてのポートフォリオで成果を上げることである。

第一の課題はリスク軽減である。すなわち、GEFなどの譲許的資金(贈与または低金利融資)を活用して初期段階の最もリスクが高い事業を支援することで、失敗した場合の借り手の負担軽減を図る。潜在的に大きな利益が見込めるため、わずかな利益しか望めない再生可能エネルギー・プロジェクトからのカーボン・オフセット購入よりもはるかにレバレッジ効果の高い気候変動資金の使い方となる可能性がある。試験用地から州、そして国へと試行や実証の規模を次々と拡大していくことで、リスクはさらに緩和される。経験を積んで安心感が高まれば、規模は拡大し、リスクは低下する。世銀グループ内部でもインセンティブを変革し、有益なパイロット事例の実施や、プロジェクト・レベルではなくポートフォリオ・レベルでの成果達成に関わった職員や管理職に報いるようにする必要がある。

第二の課題は、学習や普及で成果が上がるようなプロジェクトの計画である。パイロット・プロジェクトや実証プロジェクトは、経験を通じて得られた知識をいかに普及していくかを示す明確な論理的枠組みを備えていなければならない。パイロット・プロジェクト、実証プロジェクト、技術移転プロジェクトでは、資金調達や要請に応じた専門知識提供の準備や監督のために追加的な支援が求められる。

国家レベルでの技術移転への世銀グループの関与については明確な論拠があり、余地も大きいが、世界レベルでの新技術開発への世銀グループの関与については、それほど明確な論拠があるとは言いがたい。世銀グループによる支援が世界市場にかなりの変化をもたらし、コスト引き下げに役立つ技術が候補になる。特に興味深い技術としては、例えば農業や土地利用など、貧困層に恩恵をもたらし、真似ることが困難な(したがって民間の研究開発がほとんど惹きつけられない)ものがある。提案されている世銀グループによる集光型太陽熱発電支援の新たな取り組みは、適切な資源の大部分が借入国の中にあり、技術も借入国での製造に適しており、提案された取り組みが業界の費用曲線を世界的に押し下げるに十分な規模であることから、妥当な支援分野であると言える。

世銀とIFCは、以下を実行すると良いだろう。

  • 実証と普及についての明確な論理を備えた効果的なパイロット・プロジェクト、実証プロジェクト、技術移転プロジェクトを支援するためのインセンティブを創出し、資源を動員する。これには、GEFなどの譲許的資金を動員して世銀の借入国リスクの低減を図ること、職員や管理職にとってのインセンティブを再形成すること、複雑なプロジェクトの設計や監視のために十分な資源を提供すること、現実もしくは仮想の技術ユニットを通じて技術移転および調達についての専門知識を提供することが含まれる。
     

影響の大きな投資の規模拡大
 

エネルギー効率化は、経済的にも炭素削減においても大きなリターンをもたらす。世銀グループは、以下を実行すると良いだろう。

  • 省エネルギーおよび新たな発電所のニーズ低下をもって判断される大規模なエネルギー効率化の規模拡大を一段と重視する。これには、効率的な照明や、世界的な白熱電球の段階的廃止を促進する余地についての検討に対する支援が含まれる。また、送配電損失削減のための支援の継続と拡大、さらに、エネルギー効率化に対する大規模な触媒的投資のためのIFCによる先行的な調査も含まれる。需要サイドのエネルギー効率化政策に対する世銀支援は、製造業の効率化やエネルギー効率化につながる製品に向けたIFC支援との連携の余地がある。


世銀グループは、可能な限り、借入国が石炭火力発電に代わるクリーンで国内的に望ましい選択肢を見出すための手助けをするべきであろう。さらに、世銀グループは、人員配置や計画策定において、幅広い応用性があり民間セクターの競争が限られている「新興」セクター(エネルギー効率化、人間の活動と二酸化炭素吸収のための土地利用と管理、エネルギー・システム計画立案)の専門知識を高めるか、石炭火力発電のような「斜陽」セクターの専門知識を高めるかの戦略的選択に直面している。世銀グループは、以下を実行すると良いだろう。

  • 各国が石炭火力発電に代わる方法を見出すための手助けをする。その一方で、余り使われることはないが、火力発電という選択肢を残すことも支援する。ただし、既存のガイドライン(エネルギー効率化機会の最適利用など)に厳密に従い、石炭火力発電に対する世銀グループの支援がなければ貧困もしくは排出量削減の進捗に影響が及ぶという明らかな説得力ある主張が存在する場合に限定する。

世銀グループ単独では、この問題に取り組むことはできない。世銀グループの借入国にとってより良い方法を提供するためには、途上国からも再生可能エネルギーのための相補的な融資と技術研究開発への投資が必要である。


保護区、とりわけ持続可能な利用が可能な保護区は、熱帯林伐採を減少させ、地域的な環境便益をもたらし、炭素排出量を削減させる。世銀グループは、以下を実行すると良いだろう。

  • REDDの枠組みの下、原生林区に対する支援や既存保護区の維持など、森林の保全と持続可能な使用のための融資と促進の方法を引き続き探る。


その手段に関して、

  • MIGAの2012-15年度戦略において、MIGAの専門知識ならびに既存の気候に配慮した保証プロジェクトを踏まえ、再生可能エネルギー・プロジェクトへの長期融資の触媒となるべくMIGAが政治リスク保険を提供する役割と範囲の概略を示すことが望ましい。
  • 世銀は、政策や手続きの改善、阻害要因排除、柔軟性向上、商品配備能力強化に向けた措置により、提供する保証商品を拡充するとよい。再生可能エネルギー・プロジェクトへの長期融資を動員するために部分的リスク保証の利用拡大の潜在性について、特に再生可能エネルギーへの投資を支援する固定価格買取制度などの奨励金との関連で評価すべきであろう。
  • カーボン・パートナーシップ・ファシリティをはじめとするポスト京都のカーボン・ファイナンスにおいては、低炭素投資を促進するための有効な技術・財務アプローチの実証に重点を置くべきである。基金やファシリティには明確な出口戦略が必要である。


学習と影響へのインセンティブの方向づけ


多岐にわたる測定可能な支援策がもたらす経済、社会、温室効果ガスへの影響を理解することが緊急に求められている。REDDプログラムに、保護区、環境サービスへの支払い、コミュニティフォレストリーの教訓をどう取り入れるか。建設セクターでエネルギー効率化を奨励するには何が最善の方法であるか。

気候変動ファイナンスに年間数百億ドルが流入し、高炭素成長が固定化するおそれのある状況では、従来型の評価サイクルのスピードでは追いつくことが困難である。他方で、情報コストは急激に低下し、リモート・センシング技術により収集したデータが増加、携帯電話の利用はほぼ一般化している。プロジェクトを回線でつなぎ、影響に関する情報を早い段階から得ることにより、世界的にイノベーションが加速され、世銀グループはプロジェクトの監督や新プロジェクトの計画を最大限推進することができる。

世銀グループは、広範なプロジェクト・ポートフォリオを擁し、借入国の様々な戦略を支援していることから、環境という地球公共財を守る取組みの中心的立場にある。世銀グループは、以下を実行すると良いだろう。

  • プロジェクトの実施中および終了後の経済・環境面での影響を測定し、そうした情報を集計して分析する。例えば、再生可能エネルギー・プロジェクトでは設備稼働率を監視し、エネルギー効率化プロジェクトでは省エネルギーをモニターすることが必要となる。そのためには、職員、借入国、プロジェクト関係者によるモニタリングの追加費用を負担するために譲許的資金を使用する場合がありえる。
  • こうした施策を成果枠組みとリンクさせ、SFDCCの重点を、投入額ではなく発電量、電力へのアクセス、森林被覆、都市部での移動に公共交通機関が使われる割合などの結果へと移行させる。

 




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