特集

世銀グループの危機対応

2009年11月1日

2009年11月

概要
 

独立評価グループ(IEG)は、経済危機への世界銀行グループ(WBG)の対応について、特に2008年半ば以降の進展に焦点を当てた評価を行った。この評価の目的は、WBGの取組みの効果を向上することにある。IEGは、評価方針ペーパーの中で、開発効果委員会(CODE)に2本の主要報告書をそれぞれ2010年度および2011年度末までに提出する他、世銀幹部およびCODEに対して中間報告を提出するとしている。この最初の中間報告は、WBGの危機対応1年目の進捗状況を報告する。結果の概要は2009年10月1日、IEG局長からCODE委員長、WBG総裁、および幹部に報告された。

同経過報告は、IEGがまとめた2008年評価概要「過去の金融危機におけるWBGの対応から得られた教訓」を踏まえたものであり、スピードだけでなく質、協調性、準備態勢に加え、新たに浮上しつつある問題の見極めの重要性にも改めて着目を促し、進行中の業務への提案としている。

 

スピードと規模~迅速かつ大規模な対応
 

初期対応
 

危機の規模や広がりは、WBGや国際通貨基金(IMF)をはじめとする国際開発金融機関の想定をはるかに上回っていた。WBGは当初、原油・食糧価格上昇の影響に着目し、過去の危機に比べ迅速に対応した。WBGが提供した追加資金は相当額にのぼったが、それでも新興国や途上国への民間資金フローの減少やIMF、EUなど他の機関による支援に比べると小規模だった。

世銀が実施した金融支援は過去最高水準となったが、これは主に国際復興開発銀行(IBRD)による貸出が3倍近く(2008年度の135億ドルから2009年度は328億ドル)に拡大したことによる。国際開発協会(IDA)のコミットメントも小幅ではあるが、2008年度の112億ドルから2009年度は136億ドルに増加した。

国際金融公社(IFC)もまた迅速に対応したが、2009年度の新規事業額は105億ドルと8%減少した(計画を約15億ドル下回る)。それでも、フロンティア諸国・地域に引き続き焦点を当てた戦略を反映し、対サハラ以南アフリカ投資額は過去最高水準となった。世界貿易に対するIFCの支援は2009年度、15億ドルから24億ドルに拡大した。

多数国間投資保証機関(MIGA)からのコミットメントは21億ドルから14億ドルに縮小したものの、ヨーロッパ・中央アジアでは引き続き安定している。

融資実行額
 

IBRDの貸出実行額は2008年度の105億ドルから2009年度には185億ドルに増加した。IDAの融資実行額は約90億ドルで横ばいだが、歴史的にみれば高い水準となっている(2008年度のIDA 融資実行額には、アフリカ3か国を対象とした開発政策融資プロジェクトの延滞債務解消分8億1700万ドルが含まれている)。一方、投入された79億ドルのうち、2009年10月末時点でIFCの新規イニシアティブから提供された額は5億8000万ドルのみだった。

WBGの危機対応にはこうした金額以上のシグナル効果があったが、IDAとIFCが資金提供の新たなコミットメントの先を見越して実施ペースを加速させること、およびMIGAがヨーロッパ・中央アジア地域外への事業範囲拡大を検討することが重要であると指摘されている。MIGAは当初のヨーロッパにおける成功を足がかりに、事業開発機能を強化し、協定改訂を進める必要があるだろう。

 

質と成果-注視が必要
 

成果を重視
 

IEGの2008年評価概要報告では、スピードと質のバランスの重要性が強調された。本評価では、結果を重視するWBGの姿勢を検証する。融資額が過去最高の規模(うち多くは開発政策融資)となっているため、結果を追跡するための厳正な枠組みが不可欠となっている。その一方で、融資条件の設定にあたっては少数の前例措置を踏襲するケースが大半である。

現在、成果重視の傾向が高まっているが、それを示す初期の兆候として、世銀がいかなる金融支援の際にも、裏付けとなる成果枠組みを要求するようになってきたことが挙げられる。IFCの場合、最近の取り組みに盛り込まれた成果枠組みには、実施目標や期待される開発利益が挙げられている。しかし、IFCと世銀の両方で、提供できる資金が極めて限られているため、スピードと質の間で緊張が生まれている。WBGの危機対応においては、質と効果について確実に監視し注視していくことが必要になるだろう。

貧困を重視
 

最近の世銀の分析によると、世界経済危機の影響により2009年だけで7300万人以上が新たに貧困に陥ると推定されている。失業や貧困が増加する中、現在の対応に見られる建設的な特徴は、社会的保護プログラムの普及拡大である。世銀の資金援助増加分の大半は、危機の初期における影響や連鎖的波及の恐れが大きく、かつ相当規模の貧困地域が点在する中所得国向けであった。しかし、こうした傾向に対し、より貧しい国々に十分な資金の流れを確保できるかどうかが疑問視されている。危機が拡大する中、世銀は低所得国や貧困削減に十分な配慮がなされるよう慎重を期さねばならない。

危機と気候変動
 

原油価格高騰の沈静化や財政出動余地の縮小、金融危機の切迫により、大半の国において環境と気候変動問題への関心が薄れている。WBGは近年、再生可能エネルギーとエネルギー効率化を促進し、気候変動に対応するための資金動員に貢献しているが、気候変動対策を危機対応に不可欠な要素とするために、より大きな役割を果たすことができる。
 

持続可能性~新たな懸念
 

財政の持続可能性
 

過去の危機の際には、各国が財政赤字と債務水準の引き下げのために努力したが、今回の危機では、経済協力開発機構(OECD)加盟国と多くの途上国の双方が、民間資金引き揚げを受け景気刺激を行うための財政拡大が必要となった。一部の国では広く市民を糾合した持続的な成長を推進するために財政刺激策がなおも必要だが、それには歳出の質に対するモニタリング強化が伴わなければならない。これこそWBGの専門分野である。

官民セクター
 

経済的な非常事態を受け、政府による介入が拡大した。また世論も、規制やインフラ整備、社会的セーフティネットに政府が役割を果たすよう求めるようになった。これにより、政府の能力、透明性、効果的な規制政策に対するWBGの継続的支援が重要となっていった。

同時に、民間セクターは今後も雇用創出と成長の原動力であり続けるだろう。官民による相補的行動が求められており、こうした分野でもWBGは貢献できる。

WBGの財務力
 

WBGの持続可能性をめぐっては、IBRDおよびIFCの財務面の余力の問題があり、これは早急に解決する必要がある。IFCは、トリプルAの格付け維持のために、慎重な取り組みを取らざるをえなかった。その結果、危機後の資金調達需要に対し供給が大幅に不足する状況や、投資によって得られたはずの開発利益も考慮すると、投資機会の逸失もあったかもしれない。

こうした問題はイスタンブールでの年次総会でも活発に議論されたが、決定はまだなされていない。そのため、危機が長期化または深刻化すれば、WBGの対応も財務力を理由に制約を受けることとなるかもしれない。

 

開発の構造–変わりゆく状況
 

途上国の役割
 

今回の危機により、世界経済の問題は、途上国が果たす役割の重要性を反映して、G20(主要20か国・地域)が主な調整の場となった。しかし年次総会では、地球規模課題の解決に途上国を結び付ける役割は、G20の枠組みを超えたWBGが担うことが強調された。WBGは、開発金融の構造が変わりゆく状況の中、こうした役割を果たす必要がある。

協調
 

WBGは、資金面やキャパシティの制約により、外部パートナーとの協働や、比較優位を持つ分野への集中が不可欠となっている。WBGの対応の大部分は、IMFや地域開発銀行、その他のパートナーとの連携・協調合意に基づいて行われているが、さらにパートナーとの協調の維持や拡大、向上が課題として残されている。

 

準備態勢~かつてなく高まる重要性
 

不確実性は依然高い
 

今回の危機が一度限りの出来事なのか、一連の危機の端緒に過ぎないのか、それとも今後の開発における長期的な変化の兆しを示す節目であるのか、誰にも分からない。いずれにせよ、予知・早期警戒システムや、措置・対応における柔軟性の持つ重要性はかつてないほど高まっている。WBGの分析業務の強化や知識基盤の拡充を通じて、官民両セクターにおける懸念や予期せぬ新たな需要に対処するための緊急時対応の計画立案が、対応の次の局面において極めて重要になるとみられる。




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